57話 箒の格納庫で魔女達に集中攻撃受けたっす!


 おいらは艦内の通路を駆け抜けて行く。


 出来る限り人目に付かないように、通路の側面や上を駆ける。


 樹の枝で編まれたような建造物でもあるこの辺りの艦内。当然ながら結構隙間がある。


 通路のちょい上へ上がると、枝伝いに使い魔達が使ってるのか小さな細い獣道風の枝の上の通路があった。


 おいらはそこに乗り込むと、その上をこそこそ動く。


 樹上に居る猫型や蛇型、様々な使い魔達が数匹、おいらを見て威嚇するやら、見てそのまま寝るやら色々である。


「あ、すんません、少し道を使わせて貰います」


 メリッグ副隊長はこういう獣道を使うのは考慮に入れるだろうかと考えつつ、使い魔達にぺこぺこしつつ、半腰で移動。


 艦内地図を見てみると一応これらも載っている……が、更に小さい穴や通路っぽいのもあるので鼠くらいの大きさの使い魔達が使うような獣道はさすがに載ってないようだ。


 飛竜への通路や巣が眼下に見える。

 飛竜の性格によるのだろうか、余り中の見えない樹の枝の天蓋付きの巣もあれば、完全開放型の巣もある、可愛らしいぬいぐるみ風の人形のある飛竜の巣もある……まじかよ。


 飛竜の性格も結構千差万別のようだ。


 上の通風孔か通路か微妙な、上に行く大きな穴がありおいらはそれを、障壁を足元に展開しては消しで駆け上がる。


 飛行魔法あるから通風孔ではなく、通路の可能性もあるんだよなぁ。

 余所者のおいらにゃ通風孔か通路か判定できない。


 磨り減ってるから通路かな。

 上の通路へ飛び上がるように孔から出てから猫のように音も立てずに着地。


 結構甲冑着ての動きにも慣れてきたっす。

 兜内に淡く見える地図を見る限り、魔女隊の箒格納庫だなここは。


 狭い廊下に出る。狭いと言っても校舎の廊下くらいはあるけどさ。

 きちんと密閉されたというか、樹が変化した壁面だけども普通の廊下になっている。


 装飾や模様が地味に凄いのは相変わらずだ


 廊下は緩やかな曲線を描き、結構遠くまであり、扉代わりの障壁が淡く輝いた入り口がかなりの数連なっている。


 入り口は。番号。あとは各自が付けたであろう装飾その他で、無茶個性的だ。

 乙女な感じの装飾がちと笑える。此処軍艦だよな。


 好奇心から奥を見る。


 十畳くらいの部屋の中央に魔女の箒が原付二輪の如く置かれ、そばには作業用の

道具らしきものを満載した、脚付きの道具置きがある。


 壁面にも装備らしきものが結構な数置かれている。


 奥の窓側は腰の位置から上は大きな開口部になっており、箒ですぐに飛び出せるような感じになっている。


 絵や小物、ぬいぐるみ等で飾られてるのは魔女だからだろうか。

 小さい机にコップまで置いてある。


 女の子の部屋感。


 ていうか、女の子が複数居た。床で飲み食いしながら複数でだべっていた。

 下着とまでは言わないが薄着。女子だけだとおっさん化するというあれである。


「「「きゃあああ!」」」


「悪い、覗いたのは悪気は……!」


 電撃魔法が飛んできた。ついでに物も椅子も飛んできた。

 だべってたら、甲冑が部屋を覗いてた訳でそりゃびびるよなって話。


「すみませんっすーーー!」


 脱兎の如く逃げ出すおいら。

 変態の仇名が付かない事を祈るのみである。


 ……が、甘かった。


 魔女隊の箒の格納庫はある意味、女子高的、女の聖域な訳で……

 上に伸びる孔を飛び上がって行き着いた先も、魔女隊の箒格納庫。


「甲冑着た変態がこっちにもー」

「甲冑訓練艦内でやる馬鹿居るとか広域あったけど、ここに来るとか超変態!」


「「「きゃー」」」


 ……罵詈雑言を浴び、女子高に入り込んでしまった哀れな猪の如く魔法と投擲で追いまわされるおいら。


 魔女隊の娘達は魔法使えて、戦闘力高い分攻撃的だ。


「うぎゃっ」


 強烈な雷撃魔法と衝撃がおいらの甲冑を襲う。

 甲冑の上からでもふらつく威力とか洒落にならん。


 見るとおいらに気づかれぬよう近づいた、短髪長身の魔女が至近距離で身体強化した拳で雷撃を放ったっぽい。


 雷撃後、素早く猫のように物陰に隠れる。


 物陰に隠れた彼女は指先で後続の軍服を着用して、明らかに軍用っぽいごつい杖も持った魔女に何かしら指示している。


 やべえ、完全に敵として認識されてる。

 ていうか、軍人として教わった技能をおいら相手に試したくてうずうずしてる感ある。


 大丈夫、あの杖の魔法喰らって甲冑爆散しても首だけは守ると汎用甲冑くん。

地味に男気のある甲冑である。


 ……しかし、あの杖の魔法喰らうと爆散かよ。

 さすがに撃たないと思うけど……


 ……撃たれたらやべー、メリッグ副隊長に一本取られる前に此処で屍晒すまである。


 それは間抜けすぎる。


『フッ君!』


 フッ君はおいらの意図を察し、此処を抜ける最短経路を複数表示してくれる。

 さすがダダ爺謹製。優秀だー。


 おいらは地図を見て近くの孔に飛び込み上へ上がり、上へ登る。

 と、同時に階下で爆発音と、爆風。


「ひえええ! 撃ちやがった!」


 火柱が、孔から吹き上がり爆風がおいらのいる通路を吹き抜ける。

 爆風で転がるおいら。


 この世界の出歯亀はまさに命がけで覗きをする事になるんだなぁ。

 覗きする男が居たらある意味凄い奴だ。


『何やばい場所へ逃げてるの、猿くん』


やっぱやばい場所だったらしい。


 メリッグ副隊長が念話とともに、遮蔽円盤をかなりな距離から放って来た。


 到達まで時間掛かったので、おいらは余裕で回避。


 と言いたいが六個の遮蔽円盤のが通路に来ると、もはや飽和攻撃。


 メリッグ副隊長はおいらは見えてないはずなので地図頼りに撃っているはずだが流石古参、的確な攻撃!


 近くの壁の凹みに甲冑を押し付けギリ回避。

運良く凹みが無かったらやばかった。


 下方の魔女隊の格納庫から女の子の歓声と応援の声が聞こえる。

 メリッグ副隊長とおいらの扱いの差に涙するおいら。


 イケメン許すまじ。


 横道に入り込み、暫く行くと、水耕区画というかそん感じのがあった。

地図でもそんな表示だ。


「水耕区画……だよな」


 海外にある火山近くの階段状の水を湛えた地形みたいだな。

 さらにそれを体育館くらいの高さに立体的にに重ねた中に様々な植物が植えられ


 食べられそうな実や様々な物が沢山実っている。

 ……そんな感じのが積み重なるように視界の遥か先まである……


 積み重なった部分の下面からも光りが洩れ出ているので豊かに繁茂する植物達を照らし綺麗である。


 積み重なる高さはおいらの背の半分くらいなので甲冑を着ていては入り込めない。

 まぁ入り込めても、水耕区画に入り込んで荒らす気は無いけどさ。


「管理する人間の入る道みたいなのはありそうだけんど」


 小さな道はあるし、使い魔か使役獣めいた動物は多少見かける。


 壁側は普通の道路くらいある通路になっているが、さすがに目立つ、中に入り込めれば良いんだけども……


「おい!」


 ん、女の子らしき声がした。


 魔女達が此処まで来たのか?

 おいらはびびって廻りを見回すが人影はない。


「舐めてんのか、陸戦兵、喧嘩なら買うっちゃ!」


 衝撃音とともに殴られたような感じ。


 おいらは素早く後ろに後退する。


 眼前にはなんとも可愛らしい少女……が居た。

 彼女の後ろの植物がなんかうねってるぅ。


 ファナ艦長と手合わせしたとき植物を魔法で操ってたよなぁ。

 あのときは中央の樹だけだったが、此処には沢山の植物がある訳で……


 目の前の女は茶髪でおさげ、小学生低学年くらいな感じだけど三白眼が怖いっす。

 背には小さめの背嚢、収納の沢山付いた茶色の軍服の派生みたいなのを着ている。


 両手には鞭のような触手のような何かを装備してるようだ。

 うねうね動いている。


 魔力手の派生みたいな装備だろうか。それで甲冑を殴られたようである。

 水耕区画の管理者かな。


「あ、あのー、此処通って上か、逆の甲板に行けませんかね」


 一応聞いてみる。聞いてみても損はないよな。


「広域で言ってた艦内で模擬戦する馬鹿はお前かっちゃ……少し待てっちゃ」


 ……無茶怖そうな雰囲気だったが、意外と話せる人っぽい。

 誰かと念話してるらしい。ファナ艦長かな。


「メリッグの奴は艦内熟知してるのに、お前は知らないから案内してやれとのことだ」


 結構古参っぽい雰囲気。

小柄だけど熟練兵な凄みを感じる。おいらもこんな感じになりてぇな。


「付いて来るっちゃ」


 と、つまらん事を考えてる間に、あっという間に、重なった大茸の山に草が生えてるが如くの水耕区画の中に彼女は消える。


「はよ、来いちゃ」


 遠くの方で振り返ると呆れたようにおいらを見る。

 気が短いっすね。


 おいらは気が付かなかったが、彼女の通った経路は甲冑が入れそうな幅と高さがある。


 慣れれば道が判るようになるんかなぁと思いつつ、彼女の後を追うおいら。


 迷いの森の如くの道である。

 一人なら迷うな……確実に。


 おいらにゃ、フッ君いるから大丈夫。

 ……と思ったら、フッ君からここの道は判らんとの意思が来た。


 水耕区画内の地図は無いし、道も良く変わるとの事。


「ちゃんと付いて来いちゃよ。危ないからな。此処は乗り込んで来た敵の甲冑を誘い込んで潰す区画でもあるんし」


「え……!?」

「割と細かく強力な障壁で区切られてるっちゃ」


 彼女が指をさすと淡い障壁の輝きがあちこちに見える、


「艦内戦で敵が入り込んだら、誘い込む場所のひとつっちゃねここは」


 そして彼女が両手を挙げると、廻りの植物がぞわりと蠢き、おいらの近くに触手の如くざわめく。


「精霊魔法での草木での攻撃で縛り上げて、抉るも潰すも好き放題ちゃね」


 おいらの眼前で、恐らくは魔法で強化された、鋭く尖らせた硬質の植物の蔓がつんつんと蠢く。


「ひぇぇぇぇ」

「大丈夫だよ。あーしが居るし……居ない時には入らない方が良いちゃけど」


「こ、此処、水耕区画っすよね?」

「食料用の水耕区画ちゃよ。罠も兼ねてるからちょとばかし凶暴な植物も多いちゃけど」


仁王立ちでカカッと笑う笑顔が怖いっす。

 ええ、入りませんとも、絶対に!……と誓うおいらだった。

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