55話 遮蔽円盤での猛攻!あ、嘘です、手加減されてます。



『何、それ、聞いてない!』


『今考えましたー。訓練内容は臨機応変ヴァー イライガル カー ハッミルですー』 


 プリカとの翻訳魔法で、こっちの世界にもある諺等はおいらが当てはめて覚えてる。


 意外と重なる部分があって、プリカもおいらも大笑いだったなぁ。


 とまぁそれはさて置き……



 隠れた岩柱から覗き見る。


 校庭の端くらいの先にメリッグ副隊長らしき景色の揺らぎ。


 岩柱の上に空の色で立てば下からは殆ど判らんけど、幻影魔法で描写された空は実在感あり、薄い雲はゆったりと動いてはいる。


 ゆえに微妙な違和感を見て取れるって訳だ。


 おいらを探してるような動き。


 罠かなぁ。おいら視点からは横向きに見える。が、妙に前方だけ警戒してる気もする。


 勝利条件のおいらのメリッグ副隊長への接触って事は向こうも知っている。


『魔力手による接触もありなんすか』


『報告にあったあれですかー。距離は……』


『学校のプー、じゃない。突撃艦の全長くらいっす』


『うーん、ありにしようかな、メリッグくんには教えないでおきましょう。彼には認識してない武器からの攻撃を受ける訓練にもなるし。かなり勝ち目出て来ましたね、猿殿』


 そうかなー。それでも飛び道具ある相手には無理筋な気はするんだけんど……まぁ考えても無駄だな。


 おいらは気を切り替える。


『汎用甲冑くん、君の武器は何があるん』


 そういえば聞いてなかった。

 おいらの頭の中に装備情報が来た。


 あれ、魔力筒あるやん。両肩についてるやつ。

 攻撃力は低め。敵性生命体殲滅用で、甲冑には効果薄いと。


 あとこちらは魔力流しすぎても、爆発はしないで焼き切れるだけらしい。

 障壁魔器は攻撃の仕方によっては破壊判定取れる威力ありと。


 こちらは壊れてしまった。惜しい……実に惜しい。


 しかし魔力流すと動く兵器か……魔力兵装は基本人力で動かすとも言える。兵站が楽そうだ。


 でも、高威力、高機動出す時は魔力増槽使うとか言ってたな。


 ……あれ、おいらの魔力多いらしいから、魔力増槽なくても、高機動は出来るんじゃね。


 そういえば、蜘蛛型光学兵器倒してた剣持ち甲冑は、攻撃時だけ妙に速かった。


 高機動の魔法陣でも使ってたんだろうか。


 聞くと汎用甲冑くんから、あるとの返答。でもおいらの魔力量だと過負荷で多分壊れるとも。


 まじかー。良い考えと思ったのに。


 と、フッ君から自分を通せば、魔力過負荷分は吸収、もしくはおいらの体に戻せるとの情報が来た。


 さすがフッ君。ダダ爺特製は伊達じゃねぇ。高機動は出来るのは嬉しい。

 問題はどの程度の速さかだが、嫌な予感しかしねぇ。


 速すぎても脳が反応仕切れないというか、人が操れる限界ってものがあるからなぁ。



 と、グダグダ考えてると、視界の端に何か来るのを感じる。


 が、回避は間に合わない。


 横にあったの岩柱を砕物凄い音とともに爆砕、飛び散る破片。


 と同時においらの甲冑の側面へ激烈な衝撃が来た。


 吹っ飛ばされるおいら。


『ぐえええっ!』


 岩柱に叩きつけられる。側面への衝撃は爆発の時の衝撃よりかなり強く、中の人もかなり痛い。


 大分痛い、とても痛い。


 しかし甲冑に損傷はない。


 甲冑切り刻んだ敵の蜘蛛型光学兵器は洒落にならん兵器だったんだなあれと意識の端で思うおいら。


『十の一。メリッグ副隊長先取ー。猿殿、生きてますー?』


『い、生きてるっす』


『遮蔽円盤見えなかったでしょ。新兵の訓練向きじゃないんだよねこれ』


『猿殿は回避運動しようとしてましたよねー、見えてました?』


『……視界の端で何か来るような感じはした……かな』


『え、遮蔽円盤だよ、見えにくいし、探知魔法なら捕らえられない』


『前に手合わせした時、私の空刃も視覚情報として捕らえていたようですしー。猿殿なら不思議はないかとー』


『猿はん、猿はん、後で記憶、記憶記録させてや』


 興奮した感じのケヒー研究室長が割り込んできた。


『記憶は何度か取られましたけど……』


 意識的に思い出したものしか記録しないとも言われて協力はした。


 記憶の記録とか、いずれおいらの記憶を誰か閲覧する訳じゃん。


 それ考えると嫌なんだけどさ。


『情報は多いほど良いんどす! 新鮮な記憶なら得られる情報も沢山どす!』


『……わかりました』


 記憶取られた時にちょとお下品なことも思考の端に登らせてしまったけど、それをからかわれた事もなかったしな。


 慣れてるからなのか文化的に数万年の歴史って奴なのか……おいらの仲間達が記憶を覗けたら、それはそれは、からかわれたのは確定である。


『さてとー、お互いの現状の位置情報教えときますねー。少し時間あげますから、各自移動してから十の二始めますー』


 汎用甲冑くんの視界に半透明の簡単な地図とお互いの位置が出て消える。


『もっと、遠くからの攻撃かと思ったらそうでもないんすね』


『遮蔽円盤は居住区画戦用の兵器だからね。隠密性と自由度が売りなんだ。こういう所では強いよ』


『建物は余り傷付けないで敵をって奴ですか』


『そんな感じだね。実戦だと、猿くん吹き飛ばされた後、連撃喰らって細切れだね』


 うげっ、まじかー。結構えげつない武器なのね。


『遮蔽円盤は結構数あるんすね』


『はは、そうだね。結構あるよ。それくらいは教えとこう、では、そろそろ』


『了解っす』


 会話を振って良かった。情報が得られた。


 遮蔽円盤は複数展開可能で射程は短い。

 隠密性があり、自由度がある。


 ファナ艦長の空刃の軍用版みたいなもんと考えてよいかなぁ。

 個人が支援なしに空刃複数機動はかなり高度技能とか廻りが言ってた気がする。


 甲冑版はさほど技能なくても甲冑の補佐で同様の感じで使える感じか。

 おいらは、メリッグ副隊長に一矢報いる気でいる。


 喧嘩で複数校大人数に狙われたこともあるっすよ。


 逃げの一手だったけども、親分格を川に突き落とし、もう一人は締め落としてやった。


 無茶だろうけども、喧嘩ってのは常に平等な状態で起こることはない。


 戦争なら尚更だろう。


 メリッグ副隊長も言っていたが無茶も訓練って奴。それはおいらも否定しない。



 ……否定しない。否定しないが……



『ぐええっっ!!』


 少し後、おいらの脳天に遮蔽円盤が突き刺さる。


『はい、次、始めるよー』



『ぎぃやあああ』


 岩柱に登ってりゃ見えると思ったが甘かった。


 複数回避したが、足場が悪い、腹に一発喰らって、岩柱の頂上から吹き飛ばされ、落下で終了。


 それでも甲冑の簡易回復魔法で回復するくらの怪我なので、明らかに手加減されている。


『猿くん、もうかなり見えてるね』


『ははは、どうでしょう』


『見えてますえ、記録された動きは遮蔽円盤を回避する動きそのものどすえ!』


 興奮状態の容赦ないケヒー研究室長のばらし。


 調べたことを皆に教えたくなるのは研究の徒の性とは聞くけんど……まぁメリッグ副隊長も気づいてるようなので関係ないか。


『猿殿の回復待ってから、位置変更後、開始ですー』


『ういっす。大丈夫っす。行きます』


『やる気満々だねぇ。若いって良いね』


 メリッグ副隊長は余裕ぶっこいている。


 当たり前と言えば当たり前だが、ちょいと悔しい。



 お互いの場所は判らないようにしながら、また双方位置を変える。


 隠れる所が岩柱くらいしかないんだよなー。


 意外性のある隠れ場所もないから不意を付き辛い。


 何よりメリッグ副隊長はこの訓練に慣れている。お互い慣れてない環境になれば少しはおいらに一矢報いる芽もあるんすが……


『!』


『猿殿、どうしましたー?』


 おいらの気づきにファナ艦長が反応する。念話で少し感情が洩れたようだ。


『いや、何もないっすよ』


『そうですかー、では十の四始めー』


 おいらは、攻撃出来る位置を取ろうとするのを止め、逃げに徹する。


『フッ君、艦内の地図おいらにくれ。あと暴れられそうな場所は色変えて。眼前に薄く表示お願いするっす』


 フッ君への個別念話は勿論、他の人達には聞こえない。


 フッ君から、情報が来た。



 大体の距離感覚付きの船内の大雑把な情報が脳内にブチ込まれる。


 これは記憶されるが、忘れないように深く記憶されるやつじゃない。


 ……なので、更に視野を遮らない感じで、薄く透けた地図がおいらのお願いどおりに、視界に展開する。


『おお、地図表示上手いなフッ君』


 艦内の詳細な地図に頑丈な区画が色付きで表示。


『凄いな。作ったの?』


 情報量にちょとびびるおいら。


 違うらしい。誰かが作った状況図って感じらしい。


 まぁ検索して、おいらに提供できるだけで凄いんだけんど。


 おいらは逃げに徹しつつ、計画を立てる。




 それから何度も一本取られた。

 痛いのなんのって。


 まぁ腕も脚ももげてない……から大した痛みではない。

 こんな事を思うおいらはもうかなりこっち色に染まっているじゃんよ。


 ただでやられてる訳じゃない、甲冑の増速に慣れる事、魔力手の射程にメリッグ副隊長を捕らえられるかを考え、色々試行している……いるんだが。


 遮蔽円盤は認識出来始めているが、それを察知したメリッグ副隊長は牽制動作を交えて来て反応仕切れねぇ……が、慣れても来ている。


『フッ君! 頼む!』


 おいらが魔力を流すと甲冑が増速する!


『速いっ。避けたねぇ。やるじゃない』

『見えてますからね』


 岩柱に隠れるように飛翔し連続で遮蔽円盤がおいらを襲うがおいらはなんとか回避……はできなかった。


 岩場に地雷のように置いてあった遮蔽円盤で股間に一撃され宙に浮く。


『しまっ!』


 こういう使い方もあるんすね!


『ぎぃやぁぁ!!』


 殺し切れなかった衝撃が大事な部分に響いて悶絶するおいら。


『大丈夫? 猿くん』


『だ、大丈夫っす……』


 地面に兜を押し付け悶絶しながらおいらは聞く。


『剣で攻撃して来ないんすか?』


『遮蔽円盤避ける奴に近づく奴は居ないね』


 地味においらのことを認めてくれてたらしい言葉。嬉しいねぇ。



『十の九。もう終わりですねー猿殿。もう少し行けると思ったのですがー』


 ……さて、どうっすかね。


 おいら、昔、校舎内駆け巡っての喧嘩したことあるんすよね。


 こっちの人達の考え付かないような方法……やってやろうじゃねぇか!

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