53話 メリッグ副隊長の甲冑講座。あと暴発。


『ついでにこいつも覚えてみようか』


 メリッグ副隊長は空中で左右に機動しつつ飛び上がる。

 回避に無茶使えそうな動きだ。おいら好みやな。


『うっし、お願いするっす!』


『飛び上がったら、足元に座標固定の障壁展開して、それを足場に駆け上がる感じで』


 メリッグ副隊長の甲冑の足元に薄っすらと障壁の輝きが見える。


『座標固定の障壁とはなんぞ?』


『あー、一時的に固定座標に障壁を展開出来るんだけど……記憶水晶使えればすぐ分かるんだけど説明が難しいな。よし、また今度で』


『いやいや、教えてよ』

『んー、どう教えれば良いんだろうね』


 考え込むメリッグ副隊長。


 と、フッ君から任せろと意思が来た。おいらが軽く魔力流せば適宜使用する的な感じ。


『フッ君が補助してくれるようで。ちょいと、やってみるっす』

『フッ君?』


『あ、おいらの軍服っす』

『あー、猿くん、名前つけゃう人なのね。了解した』


 メリッグ副隊長はちょと生暖かい返事。

 軍服とか甲冑に名前つけちゃうのはちょと変人枠臭い。


 自分の車とかに名前付ける感じなのだろうか。多分そうだ。後でプリカに聞こう。


『じゃ頼むぜフッ君!』


 おいらは飛び上がると、フッ君にちょとだけ魔力を流す。気を流す感じのコレにも結構馴れたなぁ。


 右足元に淡い障壁が浮かぶ。


 座標固定……出した所から移動しない障壁かぁ。他の障壁はなんらかの物理的なものから発生しているから、空中に浮かぶこれは、地味に高度技術なのかもしれん。


『これを踏み上がれば良いんだな』


 が、障壁踏んだが良いが、体の均衡を崩すおいら。ものの見事にずっこけ、裏投げ喰らったように落下しちまうおいら。


『ぐえええ』


 甲冑は体を押さえ込むように包む内部構造のおかげで、落下の衝撃を減らしてくれる。


 別に痛くはないが、痛くはないがぁ……恥ずかしいっす。


『記憶水晶からの記憶あっても失敗する奴は多いから』


 笑いを堪えながらメリッグ副隊長が慰めの言葉。


『もう一回!』


 ……と失敗すること数回。

 フッ君の出す座標固定障壁が床に平行なのに気づけば、あとは余裕だった。


 ちょいと指示出せば色々な角度で出してくれる。


 おいらは左右に機動。正確に言えば、空中に居る体を障壁を蹴ることによって軌道変更する感じ。


 応用すると、空中を飛び跳ねるように歩けたりもする。


『どうっすか? メリッグ副隊長!』

『おおー、凄いね、慣れるの早いね』


『飛翔魔法陣も使用できそうどすなぁ』


 飛翔だと、甲冑飛べるのかよ。


『フッ君!』


 空中散歩と洒落込んで、空中で跳ね歩きしていたおいらだったが、フッ君に指示すると、フッ君は甲冑の飛翔魔陣に魔力を流し、おいらはふわりと浮かびあがる。


『おおー』


 広い訓練場の中をおいらはふらふら、ぐーるぐると飛び回る。


『気持ち良いっすー』

『飛べるけど、甲冑兵には余り推奨しないね』


『なんでっすか』

『良い的になるからね。甲冑での飛翔は遅いからね』


 ……確かに。


『飛翔掛けつつ、足元に障壁展開して、その外に爆発魔法を展開して高速移動の方法もありますえ』


『確かに速く移動は出来そうっすけど……』


 人間噴進弾じゃん。


『まぁその方法でも的になり易いのは余り変わらないんだけどね。空中は魔女隊の箒や飛竜に任せるのが基本だね。下手に飛ぶと飛竜や魔女隊の箒に簡単に墜とされる』


『甲冑は陸戦兵って呼称されるだけのことはあるって感じっすね』


『そゆこと』


 メリッグ副隊長は苦笑している。

 でも飛翔で地形に左右されず移動出来る歩兵つーのはかなりな強みじゃねぇの。


 喧嘩の時、上から石落とされた時には飛べればなぁと思ったし。

 畜生、あの時の石落としてた奴のむかつく笑い思い出したわ。


『空中散歩楽しんでいる所済まないんだが、次行って良いかな』

『あ、すんませんっす!』


 おいらは急いで降りる。飛翔魔法解除して、そのまま結構な高さから着地。

 高い所からの着地を試してみたが、やはり余裕だった。


『無茶するねぇ』


 メリッグ副隊長が笑いながらおいらを小突く。


『テルルがやってるの見たっす』

『なるほどね』


 甲冑は軍服状態より動ける! は本当だ!


 フッ君から汎用甲冑程度の機能なら魔力流せば自分も使えると来た。汎用甲冑程度なら自分の方が高機能、高性能だと。


 ……ダダ爺謹製の軍服であるフッ君は甲冑と互角だっけ。

 微妙に不満感も感じたので謝っておく。


 フッ君は満足気。

 フッ君の機能も後で要練習だ。




『さてと、次は武器だな。攻撃魔法具の方だね』


 メリッグ副隊長はそう言うと甲冑の肩に付いている円状の魔法陣が描きこまれている円状の部分が指数本分くらい筒状に立ち上がる。


 音も無く立ち上がったそれは、金属の輝きとともに妙に男心を揺さぶる。


『うひょ、格好良いっすね』

『う……うん? 猿くんはそう感じるのか』


『これは小型火炎攻撃魔法陣の魔法筒だね、右は炎、左は雷撃かな。小型だから当然威力は小さい。』


 そう言うと軽く電撃と炎弾を印のある遠くの樹の壁に打ち出す。

電撃と炎弾の着弾。

 昔映像で観た戦車砲弾が命中したような爆発と軽い爆風が起きる。

……これで威力小さいとかまじかよ。

 

『救出戦の時のテルル達の武器はもっと大型ごつい杖でしたよね。銃みたいなのは無いんすか?』


『銃?……』

『あー、筒の中で火薬……爆発魔法を使って鉄の矢を打ち出す感じのものっす』


『昔そういうのあった時代もあるって読んだ事あるね。魔法の進歩で消えたらしいけど』


 そう言いながらメリッグ副隊長は片腕を床と平行に上げ、甲冑に取り付けられた精妙な魔法陣らしきものが描かれた棒を三つ横に繋いだようなものを見せる。


『こちらは障壁魔器。近接戦での障壁を撃ち出して相手を崩すのに使う。盾のようにも使えるね。通常の盾と比べれば遥かに頑健さで劣るけどね』


 メリッグ副隊長が軽く魔力を流すと、描き込まれた魔法陣が淡く輝く小型盾くらいの大きさの楕円の障壁が発生する。


『今は甲冑表面には常時障壁展開してるし物理盾の方が遥かに硬いから、盾としては余り使われないけど、結構頑丈なんだよこれ』


 メリッグ副隊長はちょと悪戯っぽい表情を浮かべる。


『猿くんの甲冑にもこれ付いてるから撃って来てよ。本気で良いよ』


 そう言って障壁魔器を構える。小さな障壁の盾を構えてる感じ。


『え、あ、はい』


 昔の修練思い出すおいら。武術修めた仲間がこんな感じだったなぁ。似たような事言われて打ち込んだら返し技が死ぬほど痛かった……が、しかし、やらない訳にもいくまい。


 汎用甲冑くんにも、ついていた障壁魔器を右腕を上げて構える。

 此処に魔力流せばドーンって出る感じかな。


 汎用甲冑くんからもそんな感じと情報が流れて来た。


 ……全力ってたなぁ。


 おいらは気というか魔力を体内で循環させ叩き込むように右腕の障壁魔器に奔流のように流し込む。



『!、え、猿くん、やりすぎ!』


 メリッグ副隊長が叫び、ケヒー研究室長とおいらとの射線上に高速で廻り込み、自分の障壁魔器を全力で展開した感の輝きが見える。


 と、同時においらの全力魔力を吸い込んだ障壁魔器が目の眩むような明るい白い輝きを放つと炸裂、爆散した。


 手元で大型爆弾が炸裂したような衝撃。


 炸裂というか大爆発だ。瞬時に腕から障壁魔器が解除され汎用甲冑の障壁が強化され淡く輝くのを意識の端で感じる。


『ぐあっ!』


 爆風に一気にドカンと吹き飛ばされる。

 汎用甲冑くんの視界遮蔽で爆発閃光が即遮断。


 どでかい炸裂音とともに、強烈な爆風でおいらはクッソ距離のある反対側の壁側の障壁まで一気に吹っ飛ばされる。


 まさに手元での暴発、いや爆発か。放物線ではなく、直線で吹き飛ばされたからかなりの爆発のはずだ。


 壁に叩き付けられた後、おいらは頭から床へ滑り落ちるがすぐに、室内を暴れまわる爆風に体を持ち上げられ、もう一度吹き飛ばされる。


 障壁で閉じた巨大な訓練室内。

 そのクソ広い中を爆風の暴風が暴れ廻る。


 おいらは室内を暴れ廻る爆発の暴風に吹き飛ばされ、何度も転がされ、室内を転がり廻る。


 ああぁ目が廻るのはどうにもなんねぇのかなと、考えるおいら。


 すぐに汎用甲冑くんがなにかしらの回復効果を掛けてくれたらしい意思を送って来るとともに、三半規管の暴走が収まる。まじかよ……


 爆風による暴風が次第に収まる。


かなりな物凄い爆発だったが、汎用甲冑くんは障壁を瞬時に強化したらしく、甲冑もおいらの腕も体も無事、多少体が痛いが、内部のおいらへの衝撃を殆ど吸収している。


 汎用甲冑くんの腕の部分は多少焼け焦げているが無事。あの爆発で腕ごと吹き飛ばされなかったのは凄いわー。


 暴発感知後、障壁魔器を即切り離した安全装置も地味に高度。さすがは宇宙へ進出した文明だなぁ。


 メリッグ副隊長は大盾の如く大きく展開し、強く輝く障壁魔器の障壁の後ろでがっちりと立っている。


 あの爆風の中吹き飛ばされる事もなく、盾を構える体勢を維持。メリッグ副隊長凄ぇ。


 おいらは立ち上がるとメリッグ副隊長に謝る。


『すんません、なんか暴発しちゃいました』

『ああ、驚いた。気にするなよ猿くん。本気で良いと言った僕の判断の失敗さ』


 床は爆発で焼けた床とメリッグ副隊長の後ろで焼けてない所で明確に色が違う。


『カーナの時と比べたらまぁこんなもんかなと言う程度さ』


 何、カーナも似たような事したのか。さすがカーナ。略してさすカー。

 しかもおいらの時より酷かったらしい。


 おいらは飛び跳ねるようにメリッグ副隊長の近くに移動して次の言葉を促す。


『集団での訓練中だったからね。しかも此処の障壁が一部崩壊、本人以外全員医療鞘行き』


 肩を竦め、苦笑いしているような動作のメリッグ副隊長。

 地味に凄いのか基礎技能なのか。甲冑着用でも表情のあるように動いている。


 と、ケヒー研究室長が切れ気味の念話を送って来た。


『ああ、訓練場に障壁あるから副隊長はんの障壁防御は必要なかったんどすえ、猿はんの魔力による魔器暴発の資料映像が撮れなかったどす!!!撮れなかったんどす!!!』


 落ち着いた性格のケヒー研究室長がマジ切れして、撮れなかった二回連呼。

 学者の研究を邪魔しちゃなんねぇ。


メリッグ副隊長は平謝りである。

ちょと情けないと思ったのは秘密である。










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