52話 甲冑での基本訓練。おいらの資料映像を取るケヒー研究室長達! なんか恥ずかしいっす。


『とりあえず、多少無茶できる所へ移動しよっか』


 メリッグ副隊長は跳ねるように甲板を移動し始める。

 戦時でもないので結構ガラガラではあるが結構危険そうな速度だ。


『ちょと速すぎませんか』


 メリッグ副隊長が念話に切り替えたのでおいらも念話で返す。


『いや、こんなもんだよ。あと、甲冑は移動するときは外壁沿いね」


 おいらは慌てて追いかける。

軍服と変わらない感覚ではあるんだが、妙に軽い。

ていうか速い。同じ力でも、移動速度が段違いだ。


『やばばばばば』


 車の急加速の如くおいらは飛び出し、目の前でまどろむように気分良く、高圧の洗浄機のような魔法具で洗われて居た飛竜においらは突っ込む。


 かなりの速度で突っ込んだが、多少の衝撃を感じただけで、衝突の衝撃はかなり吸収されている。


 飛竜の方は片目を少し開けただけで気にもとめてないが、こっちの方は頑丈なだけなんだろうな。


『猿くん。少し感覚違うから気をつけてね』


 メリッグ副隊長は衝突した飛竜から転げ落ちるおいらを見て笑いながら、飛竜を洗っていた竜騎士らしい女性にごめんしている。


『すんませんでした』


 洗っていた女性の竜騎士と飛竜、双方に謝るおいら。飛竜にも謝るのは結構知能あるからだ。


 竜騎士は気にすんなの動作、飛竜も少し顔を傾けた後あくび。多分こっちも気にすんなな動作と思われる。


『猿くん飛竜に謝るのは良い判断だね。飛竜は結構頭良いんだけど、騎乗動物扱いする人も多くてね』


 去っていくおいらに女竜騎士の人も軽く手を振ってくれている。


 フッ。強そうな者には何にでも謝る三下魂がここでも役に立ったぜ。


 ……が、米利堅アメリカとかだと謝ると逆に怒りを誘う時もあるらしいから文化的においら達と近い……ところも多いので助かるっす。


 クッソ広い甲板。木漏れ日のような光り舞い落ちる中、メリッグ副隊長とおいらは、先端に移動する。


 力加減に慣れれば、軍服と変わらない感覚で甲冑は動かせるので、おいらは問題なく辿り着く。


 文字通りの先端。船で言えば船首部分かなぁ。


 障壁を越え二階分くらい降りた先に降りると、校庭よりもかなり広いが誰も居ない。


 明るく降り注ぐ柔らかな光りと樹々が作る壁な感じは同じだけど何の部屋なんだろ。


『障壁の輝きが強めっすね』


 しかも他の区画から障壁で区切られている。


 つーことはかなり暴れる前提の区画ってことだ。ちと怖いわー。


『先端区画は多少無茶しても大丈夫だからね』


 やはりそういう区画だよなぁ。びびるおいら。


『お手柔らかにお願いするっす……』


 テルルは一応通常区画で教えるつもりだったようだが……


『無茶と言うより、こっちは人が居ないのもあるけどね。一応人払いも連絡したし』


 笑いの感情を交えながらメリッグ副隊長。くるりと回転しながら壁側にある少し高い所にある出っ張りにふわりと腰掛ける。


 格好良いわぁ。あれ、多分高度な技なんだろうなぁ。

 ちょいと念話が来たらしく少し頭をかしげおいらに手を振る。


『あ、ケヒー研究室長の学術班人が覗きに来るらしいよ』


 出っ張りは多分、普段も使われる教官用の高台なのだろう。馴れた感じで立ち上がる。


『さてと、始めますか』

『待たなくても?』


『基本教えるだけだし。ちょと検証はするけどさ』


 今度は左右に空中機動しながら降りて来た。普通に動けないのかこのおっさん……と思ったのは秘密っすよ。


『甲冑の正式名称は重骨装甲じゅうこつそうこうと言うんだよね』


 メリッグおじさんの基本講座。


『加工した獣の骨格に大型甲冑着せた上で半妖精化。基本技術は我々が宇宙進出以前にあったと言われてる』


『数万年前っすか、古いのは物凄い妖精になってたりするんすか』


『まぁね。楽園本星の王族の甲冑は数万年を経て大精霊級らしいよ。もうそうなると乗る人間選び捲くるし気難しいし、兵器としては意味無い感じになるけどね。映像あるから今度、記録水晶で見せてあげるよ』


『聖剣みたいなもんすかねぇ?あるんすか聖剣?』

『あるよ。大聖樹の剣とか色々。猿くんの世界にもあるの?』


『お話の中ならあるっすよ。むぅ……いやどうだろ』


 陰陽道がうんたらかんたら聞いた事あったなぁ。庶民の知らん所であるかもしれん。


『魔法は無い世界なんだよね?』

『基本は』


『猿くんは庶民出とか聞いてるし、王族の秘蔵の品とか知るわけもない政体って感じかね』

『そうっす。そんな感じっす』


 多分無い……けど断言も出来ない。そんな感じ。


『まぁ今となっては聖剣も少し強いだけの近接武器でしかないんだけどね。こいつの方が洒落にならない性能だね』


 そう言うと甲冑に装備された剣をすらりと抜く。


『鉄くらいなら切り裂くよ』


 物凄い速度で色々な型っぽく剣を振る……が気になることが……


『腕痛くないんすか?』

『え、聞くところ其処?』


 あきれたように聞き返される。


『遠心力で血液が毛細血管破壊しそうな勢いなんすけど』



『た、体内に描きこまれた魔法陣で身体強化されてるどすえ』


 おいら達の念話に混じるように蜘蛛女……じゃなかったケヒー研究室長の念話が来た。

 ケヒー研究室長が、先端区画の高台の入り口に、なんらかの装置類の山とともに、数名の部下とともに来ていた。


 急いで来たのか息を切らしている。というか息も絶え絶えだ。


 渋い光沢の金属と木で作られ、複雑な魔法陣が模様のように描き込まれた大きな装置類は自走するっぽい多脚の台の上に綺麗に載せられている。


『魔法陣で身体強化……その魔法陣ないおいらじゃ、甲冑マジ機動はヤバイんじゃ』


おいらはケヒー研究室長に問い返す。


『医療鞘で取った猿はんの身体情報観せて貰いましたけど、大丈夫どすえ、頑丈どすなぁ』


『甲冑にある簡易回復魔法陣使いながら動く手もあるけどね。魔力尽きるまではギリ戦えるね』


 痛そうだなぁー。


『そういう訓練もあるんすか』

『あるよー。痛いよー。やる?』


『嫌っす!』


 おいらは即答。


『そういや兎竜とりゅうの回復魔法陣は凄かったっす。あっという間に重傷が治った』


 会話しつつも、メリッグ副隊長に促され、おいらも甲冑から剣を抜き振り回す。

 ちょいと笑われたが仕方ないやん。素人なんだし。


兎竜とりゅうは飛竜には劣りますけど、結構な魔法陣と魔力ありますどすえ』


『魔女隊の箒は甲冑くらいか。軽傷はいけるけど、重傷はきつい、魔法陣小さいし魔力が搭乗者だよりだからね』


 メリッグ副隊長は話ながら、後方跳躍一回転を決めると、おいらにやるように指で軽く指示。


 おいらも剣を収納し、怖いながらも、跳躍一回転。

 物凄い速度で後ろへ跳躍したおいら。後ろへ弾道飛行。


『やべっ』


 受身取るが、ものの見事に後頭部から激突。


『ぐええええ』

『大丈夫? 猿くん』


『ういっす。問題ないっす』


 甲冑の機能の御蔭か大して痛くない……が恥ずかしい。


『猿くん魔力量多いからかなぁ。結構動くね。弱め意識して』


 メリッグ副隊長の忠告の元、おいらは軽く飛び上がり、くるりと回転。


『おっし、成功!』


 伊達に猿と呼ばれてた訳じゃねぇぜ。妙に嬉しい。


『やるねー』

『元々後方回転は出来ますからね。余裕っす』


 一回成功してコツを掴んだおいら。飛び上がっては、くるくる回転して調子に乗る。


 横目でケヒー研究室長を見ると、二人の助手とともに、運んできた装置類を覗き込んだり、弄ったりして忙しそうである。レンズ状のものもおいら達に向けているので映像も撮ってる感。


『猿はん、勝手に撮らしておますけどよろしいどすか』

『大丈夫っす。こちらへ居候させて貰ってるしそれくらい』


 ちょと嫌だけど、おいらの立ち位置は超希少動物に近いのは理解してるっすよ。

 フッ君もおいらの身体情報は医療班へ送ってるよなぁ。


 フッ君がびくっと動いて、肯定の意思を伝えてくる。

 ……思春期の男としては地獄な状況も気もするが医者なら気にしないよ……な。


『猿くん、悪いね。特異点の情報分析はしたいのさ』

『前に情報取るけど閲覧は士官と研究者限定と医療士官のルベリリさんに言質とりましたし、信頼してるっすよ』


『自由に閲覧はさすがに無いよ』


 メリッグ副隊長が済まなそうに肩をすくめる。


『まぁ仕方ないっす。あれ見れば止めろというのも……』


上にある出入り口付近の広間で嬉々として色々装置類を弄っているケヒー研究室長とその仲間達。


『物凄く楽しそうだね』


メリッグ副隊長が少し呆れている。


『特異点の検証の機会どすからなぁ。当然どすえ』


特異点とやらの情報として、おいらの失敗した後方回転も資料として残るのか。

 うーむ、やっぱ断ろうか。


 研究肌のプリカも同じようにおいらを研究したいのだろうか。我慢してるんかな。まぁ、研究班が楽しんでるなら良いか。道化になるのも三下の仕事っすね。


 おいらは昔の仲間の言葉を思い出して、ちょとだけ涙出た。

兄貴が亡くなった後、皆バラバラになって会う事も出来なくなったからなぁ。

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