51話 おいらの特異性。あと汎用甲冑くんと出合った。

 広域念話から聞えるプリカ達の悲鳴とカーナの厳しい指導の声。厳しい宙戦訓練をしてるっぽい。


 見えないかなぁと、おいらは艦の外へ目を凝らす、あ、なんか見えてきた。フッ君の機能凄いぜ。

視界を遮る訳でもなくうっすら見える不思議機能。


プリカ達だけではなく、箒に搭乗した魔女隊数百と飛竜隊数十騎が激しい模擬戦をしている。


 


「飛竜は基本、一騎で暴れまわる感じですよね」

「ん、ああ、そんな感じだね。各自攻撃の方が効率がよいんだ。強いからね」


「突撃艦は竜撃ドラゴンブレスに対して耐えるほど正面障壁は硬いけどさ、後ろ弱いから、後ろからの飛竜の火炎で火達磨なんだよな」


 テルルが両腕で体を抱えるように震える。記憶水晶で結構生々しい記憶が刷り込まれている臭い。


 そういや、カーナも敵戦闘艦を一撃で屠り捲くってた。強い。


「後ろの障壁まで硬くとか魔力的に無理だからね」


 メリッグが苦笑い。


 見てる感じ、カーナの指揮で、被弾したり、ふらついた魔女を数十の飛竜が集中して魔女を確実に墜す。


 飛竜の機動も敵戦闘艦に似せて小回りが効かない感じで動いている。

 火炎も戦闘時よりかなり小さく、着弾しても炸裂はしない。


 魔女隊は奮戦しているが、かなり厳しい。


 そういや、敵さんは最初は三人一組の魔女隊と、一機で戦っていたけど、数分も戦闘すると魔女隊のように戦い始めてたよな。学習したのか……


『やられたっ! 頭部着弾だから、実戦なら死んでたかもっ』

『大丈夫? きゃぁっっっっ!』


 視野に影のような感じで投影される訓練風景。なんとなく距離感も掴めるなぁ。

 おいらが、彼女達を視線で追うのをメリッグが怪訝な顔で見ている。


「プリカまた墜されたっすね」


被弾したプリカは仲間と接触仲間と接触して酷いことになってる。


『痛っっ!』

『きやぁああ。ごめんっっっ!』


 おいらは余りの状況に思わず目を覆う。


「あの速度で頭と頭がごっつんこか。障壁あるとはいえ、かなり痛そうっすね」


 衝突した場合、障壁に頭を打ち付ける感じになるから痛いんだよなぁ。

おいらの言葉にメリッグがちょと驚いたような怪訝な表情。


「猿くん、ちょと聞きたいんだけど」

 

 特異点として何か戦術無い? とか聞かれても困るんだけどなぁ。


「なんでしょう?」


「……もしかして、もしかしてだけどね」


 何勿体ぶってるんだろ?


「見えてる?」

「え?いえ、あー、なんか見えてるっすよ。凄いっすね。ダダ爺の服」


 メリッグ副隊長は何とも言えない表情になる。


「そんな機能ないんだけどなぁ」

「……まじっすか」


「まじまじ」


 まじっすかはおいらが良く使うので彼らの中でもちょと流行ってるらしい。

 メリッグ副隊長は流行に敏感だ。


「え、仲間を視界に表示する機能ありますよね」


 テルルの丁寧語にバリガが噴出しそうになっている。


「あれは、視野からの情報を点で表示してるだけ、位置情報だけ。猿くんは映像で見えてる……よね」


「……はい」


「何それ便利じゃん。やり方あたいにも教えてくれ」

「うーん。目を凝らす?」


「猿、ふざけてんのか!」


 本気じゃない動きでテルルが掴み掛かってくる。

 回避しそうになるが、回避するとテルルは面倒なので気合でそれを受けるおいら。


「勿体ぶるのはよくない」

「いや、まんま目を凝らすだけだって、本当」


 取っ組み合いするおいら達を横目にメリッグ副隊長は念話をしている。

 個別念話のようだ。相手はカーナかな。裏山鹿。


「あー、聞いてた人、今の話は一応秘密ね」


 見物の甲冑兵達含め、皆にメリッグが呼びかける。


「なんで?」


 テルルが地味に可愛らしく聞き返す。顔は割と整ってるから稀に可愛いのがむかつく。


「特殊能力だからね。猿くん、勇者呼びして、何もかも責任おっかぶせる人出て来たら猿くん大変だろ」


 甲冑兵の皆があーと言う表情。


「そもそも其れを危惧しての特異点呼び。皆も知ってるよね」

「ダダ爺知ったらやばいかもだがよ」


「ダダ爺の勇者演劇好きは凄いもんな……確かにやばそう」

「猿くんも余計な事話さないよう気をつけてね」


 メリッグ副隊長は野獣系爽やか笑顔でおいらに警告してくれた。畜生、イケメン過ぎる。


「しかし、気をつけるような事なんすか?」


 遠くが見えるだけだし。


「遥か遠くまで見れるらしいじゃない。れんに黒銀色の巨艦を教えたらしいしさ。あれ我々の探査魔法の遥か探知外だからね」


「え、兎竜とりゅうの機能じゃ……」


「違うねぇ」


 動揺するおいらに、メリッグ隊長が少し悪っぽい笑顔。


「おお勇者様、我々に無いお力で、私達をお導き下さい」


 メリッグ副隊長が大袈裟な身振りでおいらに敬礼をする。


「!!!」


 おいらは硬直する。


 確かに不味い、そんなこと言われてもどうにもならんわ。おいら三下っす。三下だよ雑魚だよ雑魚。


「以後全力でおいらの視界範囲情報の秘匿に気をつけます!」


 頭を下げるおいら。


「そうしてくれると我々も助かる、色々面倒になりそうだしね」


 そう言うとメリッグ副隊長はテルルに向き直る。


「テルルくん悪いね。僕がちょと猿くんに甲冑操作教えるの変わっても良い?」

「え、あ、はい、どうぞ!」


「ありがと。一応先ほど、カーナにも許可取ったから安心してね」


 そう言うとメリッグ副隊長が手を叩く。


「はい、じゃあ、陸戦隊は解散」


 残念そうな顔しながら、冷やかしに来ていた陸戦隊の面々は腰を上げ去っていく。

 テルルとごま塩頭のバリガはまだ残っている。


「あたいは?」

「済まないね。ちょいと猿くんの力の検証もすることにしたから」


 メリッグ副隊長は指を口に当て、おいらの能力の検証は秘匿事項というのを知らせる。


「わかりました」


 テルルは残念そうに一礼すると、おいらの方を見る。


「おい、猿、今度色々教えろよ!」


 この場を去りながらテルルがガン押ししてくるが、秘匿事項じゃねぇのとおいらはメリッグ副隊長の方を見る。


「ある程度までは、教えても良いんじゃない。彼らが言いふらさないと君が思えばね」


「……! まじかよ」


 秘匿とは言っても、まぁ、おいらも口が滑ってそのうちバレそうだけんど……

 ゆるい、ゆる過ぎる……


 というかおいらを守る為の秘匿だから、おいらが自分からバラす場合、自分の責任って奴か。甘いようで、厳しのかもしれん。



「あたい、口は堅いから判った事を教えろよ」

「俺も口は堅いんだがよ」


 テルルが拳作って口に当てる。横に居るごま塩頭のバリガも同じ動作。


「人気者はつらいねぇ。猿くん」

「いや、どうなんでしょ、秘匿事項も糞も無くなるがしますが」


 テルル達が去ると、メリッグ副隊長は笑いながら、残された汎用甲冑を指差す。


「さて、君にこれに乗って貰う訳だけども、乗り方は二種類。自分で装着するか、甲冑に任せるか。念話で装着を念じれば自動で着れるよ」


「軍服と同じっすね」


 おいら用に用意された汎用甲冑に近づいて念じると、甲冑はおいらの後ろに素早く廻り込んで吸い込むように装着……されなかった。


「うおっ、きもっ」


 後ろから襲われる的な感覚においらは回避。

 甲冑が開いて取り込もうとするのがちょとキモい。


 が、汎用甲冑くんはまた、素早くおいらの後ろへ廻り込んで取り込もうとする。

 が、おいらは回避。


 何度か追いかけっこをし、お互い正面向いて睨み合うような体勢。


「何やってんの。装着命じられた甲冑くん困ってるだろ」


 見ると汎用甲冑くんはぷるぷる震えている。


「あ、すんません……ちょいキモくて」


 汎用甲冑くんは少し衝撃を受けたような動き。が、おいらが後ろを向いてテルルのように仁王立ちになると、近づいて来て、おいらが逃げない事を確認するようにちょんちょんとおいらをつつく。


 そして逃がすかとばかりに、がばっとおいらを甲冑内に取り込み装着する。


 剣道の防具を着た感じのようで違う。

 着用されると内部が膨らみ、緩やかに体を包み込んで来る。


 装着感は抜群だ。

 兜というか面が閉まる。


「うおっ」


 視界が封じられた状態から、視界が急に開ける。


「ああ、それ最初は驚くよね。幻影魔法の一種。甲冑の義眼からの視界」


 ちょいと甲冑を着たまま動くおいら。

 視界を遮るものが無いので甲冑を着てるけど、着てない感じ。妙な感覚だなぁ。


「その汎用甲冑は作られて日が浅いから、命令をするとそれを無理でも実行しようとするから気をつけてね。古い奴みたいに融通利かないからさ」


「融通利く、古い奴が初心者用とは違うんすか?」


「古い奴は、精霊化も進んでるから、癖も強いし、乗り手も選ぶから厳しいね。使えなくもないけど。さほど精霊化も進んでない作ってから間もない奴の方が素直に動くんだ」


 精霊化かぁ……


『甲冑くん、名前あるの?』


 と、おいらは甲冑くんへ念話。


 さざめくような、命令してとか従うよ的な薄っすらとした何かがいるような居ないような。


 返答めいた反応するフッ君とは明らかに違う。


「新造でも精霊化してるし妙な癖も無いフッ君は別格なんすかね」

「ダダ爺謹製、それだけで別格だよ」


 お、おう、やっぱ凄いんだな、翡翠一番の職人とか言われてたもんな。


「ま、俺達竜騎士の服は全て彼が作ったものだけどね」


 メリッグ副隊長は自分の軍服誇らしげに叩く。

 竜騎士は選抜兵の中の更に選抜された兵。ゆえに最高の物を支給されるってことか。


「……おいらのダダ爺製の軍服、返却したほうが良いんですかね」


 三下のおいらには過ぎたる代物。やっかみもあるかもしれんし。


「猿くん専用だから、返却されてもダダ爺泣いちゃうよ。号泣しちゃう」

「……泣くの?」


「号泣確定。最高の職人が自分の作った芸術作品つき返されるということだからね」

「……確かに。おいら自分の保身しか考慮に入れてなかった」


 思わず膝をつくおいら。


「いや、そこまで気にすることないよ。真面目だなぁ」


 メリッグ副隊長が着用した甲冑の上からおいらの肩を叩く。


「あ、あと軍服は外宇宙用の障壁にするのを習慣づけてね。用心の為」

「あ、はい。了解っす」


 メリッグ副隊長は流れを元に戻しておいらに甲冑の決まりごとを教え始める。


 と、メリッグ副隊長が後ろを振り返ると渋い甲冑が走って来ている。誰も乗って居ない。


「僕の甲冑来たね。さっき呼んだんだ」


 渋い甲冑は止まる前にダンと音を立て飛び上がり、空中で一回転すると着地。


 やだ、格好良い。


「甲冑は兵の基本だからね。竜騎士も持ってるんだ」


 と言いながらメリッグ副隊長は渋い甲冑の前に仁王立ちすると、飲み込まれるように、するりと流れるように甲冑を着用する。こちらも格好良い。素敵である。


『さてと、基本から教えようか』


メリッグ副隊長がにこやかに宣言した。

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