48話 翡翠様の悪戯。おいらだけには悪戯してくるっす。
「ついでだ。少し猿に状況を把握して貰っておこう。」
「え?」
だからおいら三下だってのに……
「あの、カーナさん、私達は向こうに……」
「行く必要ないぞー。考える頭は多い方が良い」
翡翠様の御座の廻りにある庭園の花壇の石にカーナは腰掛ける。
プリカも皆も適当な場所に腰掛ける。おいらはカーナの手前の床に胡坐を掻く。
テルルは難しい話になりそうなので逃げ出そうとしたが、ごま塩頭のバリガに襟首掴まれていた。笑える。
「敵艦隊は遠隔地にある我々の観測船が偶然発見した。小惑星が殆どない、観測所の
少ない公転面直上から来襲だ。大騒ぎになったから知っているだろう」
「観測船なんて飛ばしてたんだって驚いたがよ」
「観測船はジンブルム艦長の大手柄だ。我々は殖民惑星で人的資源にも余裕はない。軍の観測船を何もない場所に定期巡回しろとジンブルム艦長が強硬に主張して認められたのが実を結んだ。危機意識高すぎと結構笑いものになってたが彼は押し通した」
「へえー、あの堅物、結構役にたつんだな」
テルルさん言い方っ。皆が苦笑いしているので堅物である印象は強いんだなぁ。
まぁ、おいらもそう思う。
実はさほど間違った事言ってる訳でもないんだよな。あのおっさん……妙においらに絡んで来てむかつくけどさ。
「想定では敵艦隊が『翡翠』到着日は三日後でしたよね」
「観測圏外に出た後の、敵の移動速度が想定よりも異様に速くて、戦の儀の最中に出現したから驚いたよ」
「そういや逃げるとき、
移動していたな」
「その点は後で話しがあるぞ、猿」
カーナが笑顔でおいらの肩をがしっと掴む。あ、これちょと面倒な奴だ。
「敵の艦隊を補足できたのは不幸中の幸いだった」
「艦隊戦ならば翡翠様を
「
「神格さん結構協力的っすね」
「あたい、人が居なくなると暇でどうにもならなくなるから協力してるって聞いた」
「竜も数千、数万年の寿命ゆえに人が居ないと暇過ぎるゆえに人とともにあると聞きますね」
「暇だからかいっ!」
おいらは突っ込む。
「猿さん、数万年、数人で生活とか考えてみてください。飽きます。暇ですよ、おそらく」
「あー確かに」
カーナ以下全員頷いている。
「とすると、神格も竜も同じような存在なのかい」
昔話で神竜とか居た気がする。
「え、違うのだがよ」
ごま塩頭のバリガが
『違います。我々はあくまでも強靭な生き物でしかありません』
「「「うわっ!!!」」」
いきなり
プリカとテルル、バリガがあわあわ動揺しているが、王女やカーナは念話したことあるのか冷静だ。スプイーは固まっている。
『長耳族も神格扱いされることあるけど迷惑よね!』
『ええ、長生きしてるだけで神扱いは迷惑です』
王女と
え、数千年生きるならもう神様でええやん。
小悪魔服の
竜に小悪魔服とか笑える。
「あうっ!」
と、おいらを
皆が極小の電撃の連打にのたうつおいらに驚くがプリカだけは理解している。
「
「からかうも糞も思考を読まれるのはずるくない?」
視界の端で、そんなおいらを翡翠様が笑って……笑って!!!
「翡翠様が笑ってる!」
おいらが大声を上げると
「「「えっ、本当か!!!」」」
皆が翡翠様を一斉に見る。
が、翡翠様は別に笑ってもいなくて、何の変化もなく座っているように見える。
「何も変わった様子はない……な」
「変化はない……ですね」
「笑ってないわよ! ね、スプイー」
「そうでありやがりますね。記録映像にも変化はありやがりません」
おいらも正面から翡翠様を見るが何の変化もない、おかしいな。確かに笑ってる顔が見えたような。
「期待したあたいが馬鹿だった」
さんざんな言われようである。
「すまねぇ、おいらの勘違いだったみたいだ」
皆の方を向いておいらは謝る……が視界の端で翡翠様がまた笑ってるような……
おいらは翡翠様の方を見る。
うーむ、変化ない……
こいつも見たのかな、こいつならおいらの勘違いを大笑いしそうだし。
で、おいらは横を向く。横目で翡翠様をそっと見る……やっぱり笑ってるやん!
と正面を向くと人形の如く変化なし……何だと……
「何やってるんだ、猿?」
「あ、いや別に……」
おいらは後頭部に手を当てへらへら笑って誤魔化す。
……翡翠様が悪戯……だと。
おいらにだけ見えるのか、どうなのか、はっきりしないのはちょと苛々する。
何かあるのは間違いないっぽいけど、皆は何も感じてないようだ。
「
小声で言うも返事なし、むかついたので薄い服来た
軽い電撃がばしばし来たのでおいらの思考は読んでるようだ。
考えてみれば、何時も読まれてる気がするがこれどうなん。
『竜と人との契約……人の営みは我々を楽しませる』
おいらだけに
『翡翠様がお前に何かをしたのは感じた。神格の戯れ、稀にあるとは聞く』
「そうなんか。ありがとさん」
翡翠様の戯れかー。いつか正面で笑った顔見てやるからなー。
「さて、もう行くか、皆で飯でも食べに行くか」
翡翠様の紹介も終わったしで、カーナが立ち上がる。
「「「賛成!」」」
皆も小腹が減ったようだ。
おいら達は鍛錬場を兼ねる広場の側面を構成する樹上にある食堂に来た。
翡翠様を見下ろす位置だが、罰当たりって訳でもないらしい。
太い樹の枝の間に板を張り巡らせつくられた床にごつい脚と木目の綺麗な
救出組なのか家族連れも結構居て、餓鬼が走り回ってブン殴られているのが微笑ましい。
「猿は、これとこれだな」
「あと、これも大丈夫ですよ」
「あたいの好物も入れといたぞ」
「あ、お菓子もある! 特異点、これも食べるのよ!」
「お菓子食べるのは少しだけでありやがりますよ。夜食べられなくなって泣くでありやがります」
壁側にある大きめの調理場で作り置きの奴を盆に載せた容器に入れるわけだが、皆がおいらの皿に好みの食材を載せるからえらい量になってる。
「俺も、これ喰わせてみたいがよ、今度だな」
ごま塩頭のバリガは空気読んだ。さすが工房と甲冑兵との折衝役も兼ねる古参兵。
「おーい、こっちこっち」
テルルが手すり側、広大な広場を見下ろす位置の
「やっぱ景色の良い場所で食べないとな!」
ご機嫌である。
正面には広場の巨木が見え、上には樹々の枝からの木漏れ日が落ち、無茶綺麗である。
木漏れ日の中で手を振るテルルが可愛く見えるほどだ。恐ろしい。
おいら達は適当に席につく。
「王女様がこんな所で食っても大丈夫っすか?」
「大丈夫! むしろこういう所で食べたかった!」
ご機嫌なクー・リンテル王女の皿にはお菓子が山盛りである。
「王族向けの食事は、むしろ質素でありやがります、長耳の伝統食は草に塩、後は卵に瓜蟲とかでありやがります。そもそも此処には王族専用食材もないでありやがります」
「あ、聞いた事あります。長耳族はその……一般的な料理をゲテモノ扱いするらしいとか」
「楽園本星域の長耳は古臭いからそういうのあるらしいけど、私達には無いわよ!」
王女は菓子にかぶりつき、クリームを口の周りにつけでご機嫌である。
米のような物を炒めた料理や、パンとナンの中間みたいなものに穴を開け、肉と野菜を突っ込んだ料理や煮物料理。
「どれも旨い。驚きっす」
「猿と違う文化だ。料理はきついかもと思ったけど旨いならよかった」
「あたいらの飯が旨いのは当然じゃん」
「文化違うとかなりきついらしいですよ。文献で見ました」
そう言うプリカは軍食である。一応、作り置き料理の中にある奴で結構種類もあった。
「軍食好きなの?」
「手軽ですし、味も自由に変えられますし、何より栄養はこれ一本で全部入りですよ、全部入り」
「お、おう」
好みは人それぞれを地で行く感じか。
と、
「それかー、猿。結構厳しいと思うぞ。だが食べれたら、皆喜ぶかもな」
納豆的な奴な悪寒。皆もそれ厳しいだろーな表情。
匂いからして発酵食品か。
「旨いの?」
「あたし達は旨いけど、本星域では評判悪いらしいと記憶水晶でみたなぁ」
前食べさせられた、カーナの好物も発酵食品だったな。キモいけど食えた。ならばこれも行けるか。
「……!」
エグ味と苦味と辛味とぬめっとした食感。正直きついです。不味いです!
おいらは無理矢理噛むと飲み込む。根性や。三下魂みせてやらぁ!
「……お、おいしいっすぅぅぅ」
思わず戻しそうになる動きに皆が笑う。カーナは涙目で笑っている。
「それが好物になれば、猿がわたし達に染まった証明になるな」
「私、それ嫌い! 好きになるなんて無理!」
王女がマジ顔して言っている。
「実はあたいも、少し苦手だ」
「俺とかよ、ダダ爺も好きなんだけどよ。昔々の味だから苦手な奴も多いな」
子供が好みの食べ物を食わせてくるアレだな。
カーナ達の世界に馴染んだ証明かぁ。重要案件だな。
ぬめてら光るその発酵生肉。
「おっしゃぁぁ食う! 食いきる!」
気合とともにおいらは全部口に含み、リスの如く頬を膨らませる。
「猿さん、無理しなくても」
「猿、血眼で飯を食わなくても良いんだぞ」
だが食う、他校の奴らに掴まった時に喰わされた蛙より遥かにマシだぜ!
おいらは涙目で呑み込む。その姿に皆さん大爆笑。ひどいっす!
「あのー、士官の方ですよね」
と、その時、救助された夫婦と思われる人がカーナに話掛けて来た。
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