45話 魔法世界の竜は補給要らず。冗談のようだが本当の話っす


「敵は魔道人形化した好戦的移民団の末裔ではなく、異星人で確定なのですよねー?」


「うちは断定して良いと思いますえ」

「数万年探し求め、恐れてもいた異星恒星間文明との初の接触が殲滅戦ですかー」


「異星人……であれば初手殲滅戦を仕掛けて来たの理由はわからない。そもそもどういう思考形態なのかも判っていない」


カーナが思慮深く言い放つ。


「そういう奴らなのだろう。物語の如く、異種は滅ぼすという種族なんだろう。殲滅すべきだ」


ジンブルムは主戦論だ。


「まずは敵を知ること。ここからですねー」


「敵は機械どすけど、スプイーのような魔道人形に魂を入れた魔道人形文明とも違いますえ。撃破した船を調べても操作する人影の痕跡もありしまへん。だからと言って精霊化した船か霊的な船でもありまへん」


ケヒー研究室長は淡々と述べ皆を見回す。スプイーは王女の後ろで僅かに頷いている。


「我々には全くの異質な技の産物どす。しかしながら猿はんの元居た世界では魔法は無くとも機械は動いていたそうどす」


……あ、ケヒー研究室長ブッ込んで来た。


「……馬鹿な、あり得ん!」


ジンブルムがおいらを見て唸る。


「おいらから見たら、スプイーみたいな方があり得ないっすよ。突撃艦も何もかもあり得ない」


報告は入ってるはずだけど、この世界の連中からすると荒唐無稽な話なんだろうなぁ。


ダダ爺が睨みつけるようにおいらを見る。


「電脳……機械で出来た脳で敵の船や機械は動かしてるかもとの報告読んだが、本当にそんな事出来るのか? 勇者様よ」


「ダダ爺っ。『勇者』じゃないでしょ!」


クー・リンテル王女がダダ爺を諌める


「勇者は勇者だ。ワシはそれ以外認めんぞ」


皆が苦笑している。年寄りは頑なだもんなぁ。おいらも諦めよう。


「スプイー、ダダ爺に何か言ってやって!」


王女がスプイーに助けを求める


「王女様は黙って会議というものを勉強するでありやがります」


スプイーは突き放す。結構厳しい。


「!……はーい。わかりましたー」


頬を膨らませて不満顔の王女。皆はほっこりした顔で彼女を見る。


会議の張り詰めた雰囲気が少し和らぐ。彼女場を賑やかすのが上手い。流石王族ってことかね。


にしても勉強のために居たんだな……親が亡くなったから、じきに即位して女王だもんなぁ。


おいらは王女を見る……が、変顔して来やがった。おもわず噴出しそうになる。鼻水出た。


哀れみは要らんってことかね。強いなぁ。まぁ七十歳だもんな、当然かもしれん。


と、ダダ爺がはよう質問に答えんかいな顔でおいらを見てる、そうだった。


「脳って言うほどおいらの世界では進んでは居なかったけど、敵さんは恒星間飛行してるからなぁ。そこまで進歩している可能性は高いと思うっす」


考えてみれば洒落にならんよな。


「隣の恒星に辿りつけない原始文明出身の人間の意見なぞ参考にもならんな」


ジンブルムの言葉にカーナが軽く頭に来たか、ガンを飛ばしている。後ろの部下が青くなって数歩後ろへ下がる。


「一応、魔法使わない文明出身なんで、敵がどんなもんか想定してみただけっす」


面倒な軍人さんには兄貴の三下であるおいらは結構会っている。軽く流すんよ。


「ケヒーの報告からしても、無人の自立して動く兵器は確定のようですねー。後ろに居る異星の知性体への接触は難しいと言わざるを得ませんねー。厄介ですー」


「敵は艦隊ごと無人化している……か。確かに接触は厳しい」


カーナが厳しい顔で呟くと皆押し黙る。


「あ、ちょといいすか?」

「どうぞー。意見は大歓迎ですよー」


「敵の兵器はちぐはぐ感があるんすよ。民生のものを軍事に転用してる感じかなぁ」


ファナ艦長は興味深げに聞いている。


「大蛇みたいな掘削機械は軍用ならば、後部に蜘蛛型兵器を積載してるべきだ。あれほどの収束光兵器載の蜘蛛型の稼動時間は短いはず」


そんな感じの情報を見た記憶がある。


「稼動時間とは何だ?」


ジンブルムが質問して来た。


「えっ、そこから?」


「魔道兵装用の魔力増槽みたいなものでありやがりますか? あれも兵装展開に制限があるでありやがります」


スプイーが上手く訳してくれた。


「そ、そうそれっす」


感謝の顔をスプイーに向けつつおいらは頷く。


「あたいらの甲冑も魔力増槽ないと全開で動けるなくなるな。でも動けなくなる事自体は無いぜ」


「まじですか。俺らの世界の機械は燃料……魔力増槽が切れると動かなくなる」

「なんだと……そんな事などあり得るのか!」


ジンブルムが吼える。


こっちの兵器は魔法陣と人力ともいえる魔力で動くもんなぁ。驚くような事ではあるのか。


ジンブルムは吼えた後、思考の海に沈んでる。とりあえず放っておこう。


「それはそれとして工房で回収された残骸も見させて貰ったっすけど、結構使い古した輸送艦のようなのを改造した感じのが結構あったというのが気になった事っす」


ファナ艦長とカーナはおいらの話を聞いて考えて込む。


「今までの戦闘記録映像の解析でも、純粋に戦闘用と考えられるのは五分の一くらいと、報告もありしたねー」


ダダ爺とケヒー研究室長が頷いている。


敵艦の殆どは噴進弾や小型艦を無理矢理搭載してただけの感じが強かった。


「軍事力はそれほどない? 掻き集めて急襲したのか? それなのに文明同士の殲滅戦になる可能性の高い惑星破壊を選択した? 訳がわからないな」


カーナが頭を捻っている。


れんの力が想定外っぽかったが、翡翠を破壊して即撤退、追撃も殆ど無しというも妙と言えば妙だ」


「母星つーか補給潰されれば、おいらの世界の軍ならそれで壊滅だな。補給がなければどうにもならないと思う」


「我々も昔の戦いはそうでしたねー」

「翡翠を破壊すれば、全滅すると見てたのか。舐められたものだな」


ジンブルムが、思考の海から戻り、怒りの声を上げる。


「竜……はそれ自体で完結しているかならな。世代間恒星間移民艦でもある。食物は自給余裕、必要な資源は小惑星でも掘れば大体手に入る。敵はそれを理解してなかったのかできなかったのか……」


皆の視線がおいらに集まる。


三下の素人意見言うのも気が引けるが、求められてるのはおいらの

意見だ、言うしかねぇか。でもこんな重大そうな判断困るんよ。


「敵はこちらが補給無しで動ける軍という事を出来なかったとおいらは思う。魔法は色々、そ、想定外過ぎる」


口ごもる事で自信はない事は表現したぜ。


皆が思考の海に沈み、会議室は静まりかえる……。


「初手殲滅で来たのは翡翠潰せば、星域に居る我々全てを滅ぼせると考えたからという感じですかー。えげつないですねー」


静寂を打ち砕いたのはファナ艦長だ。


「仮にそれで我らがここで全滅すると仮定すれば、我々の他の殖民惑星に情報が届くことはないと敵は判断したのかもしれないな」


カーナが厳しい顔で判断を述べる……さすがカーナ意見言うだけでも格好良いと思いつつおいらは疑問を問いかける。


「他との交易は無いんすか?」


「距離があり過ぎてな。此処に来るまで三百年以上だぞ。利もでないし虎の子の竜を交易に出すなど軍的にもあり得ない」


「つまりこっち殖民してから他の星域との行き来は無いと」

「大体そんな所だ」


目の端でプリカがびくっとしたのが見える。なんかあるんかな。



「敵は攻撃前に偵察はしてると思うっすけど、翡翠は孤立してると思われても不思議はないっすね」


「となると他の殖民地も危険か」


「敵の作戦の意図は母星破壊による補給消滅による我々の殲滅。理屈は通りますしー。ただ、『何故』いきなり攻撃してきたのかという根本はまだ全然判らないですねー」


「そういう連中なんだろう。理屈などない。故郷、楽園星域でも魔道人形達による外道星戦があった」


ジンブルムがスプイーの方を睨む。


外道星戦かぁ。結構熾烈だったらしいな。スプイー見てると非道な行いなどしそうに無いけどさ。


「そういう悲しい戦争もありましたが、断ずるには情報が足りなさすぎますねー」


ファナ艦長が怖い顔で天井を仰ぐ。

立ち合いの時に言っていた殲滅戦の事を思い出しているのだろうか。

非情な戦闘の判断と言っていた。


かなりのトラウマになってる気がする。判断が鈍る可能性。


もし敵を丸ごと殲滅するしかない場合……おいらはそれを提言出来るのだろうか。

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