44話 居住惑星を一撃で潰せる者同士の戦争って洒落にならんでしょっていう話

 ……どうしてこうなった。


 敵の襲撃のあった救出活動から数日後……おいらは今、士官の集まる会議の中に居た。


 四方を樹木に彩られた楕円形の部屋の中央に細長い楕円の机がある部屋。


 天井にも枝が生い茂り、木漏れ日のような照明がれんの艦内にしては狭い部屋の中を優しく照らしている。



 机の上座にはファナ艦長。その左後方にクー・リンテル王女が高い位置に座面のある小さな椅子に座り、横にスプイーが居る。

 後ろの台座みたいな所にれんの分体が一匹。


 右の椅子にはカーナ。後ろには副隊長のメリッグ。


 対面にジンブルム艦長。ジンブルムは、まだ子竜の聖樹竜ユグドラシルドラゴンえんの艦長だ。


えんは子竜とは言うものの、れんの十分の一の大きさだ。

おいらからしたら、十分に巨大な竜ではある。


 後ろには部下らしいのが男女二人。

 何故かこいつらはおいらを睨むように見ている。


 ……おいら嫌われること別にしてない……いや、場違いな三下がこの場に居るからか。

 押し強いファナ艦長の『出席のお願い』を断れるほどおいら気は強くないんよ。


 ケヒー研究室長はカーナの横。そのまま大きめの昆虫型の体で床の上に座っている。

 対面にダダ爺が目を瞑って座って居る。作る物の構想でも考えているのだろう。


 ケヒー研究室長の横に何故かおいらが座らされている。

 幹部連中に混じって会議とか三下にはきついっす。


 おいらの対面には小柄な目つきの悪い年齢不詳の女。内務担当らしい。

 おいらをじろじろ見てる。いやん。恥ずかしいやろ。


 皆さん渋い服装なので中世の集会のような雰囲気だ。

 何故かおいらを嫌ってる感のあるジンブルムからの圧がとてもいやんである。


 おいら三下なんよ。何で椅子に座ってるん? 三下は会議では壁際で小さくなってるのが基本だと思うんよ。


 で、会議にはプリカとテルル、ごま塩頭のバリガまで呼ばれており、下座の椅子で小さくなって座っている。


 テルルとバリガは下士官だから、まだありとしてプリカは学徒兵で明らかに場違い。


 ぷるぷる震えながら物凄く、緊張しているのがありありとわかる。


 最初はカーナの報告だ。


「敵撃退、敵は損傷し撤退しそこねた残存兵力と思われる。細かい内容は今送る」


 カーナがこめかみに指を当て集積念話を皆に送る。

 内容はおいら達の戦闘及び、戦闘記録映像の内容だな。


 士官達の状況報告は口頭及び、集積念話だ。

 おいらにも来てる。


 言語での報告は短時間で終わり、念話での内容は濃密。


 念話での報告から見るにれんの攻撃力は洒落にならん。


「敵は弱い。我々は『翡翠』の仇を取るべきだ」


 ジンブルムが主戦論を唱えてる。れんの攻撃力は圧倒的だ。

 主戦論は故郷も溶岩の海にされ、大虐殺を喰らったのだ。当たり前といえば当たり前。


「仇とはー?」


 ファナ艦長が硬い声で『仇』の作戦内容を問う。


「敵本星へのれん竜撃ドラゴンブレス。殖民惑星があればその全てに」

「種族絶滅級の大虐殺を行えとー?」


「自らの行いの報いだ。それに一部は生き残るだろう。我々のように」


 ジンブルムが凄みのある目で皆を見回す。

 カーナが何か言いたそうに動くが、ファナ艦長は片手で押さえ


「召喚された『特異点』猿殿の意見でも聞きましょうかー。部外者の意見。大切ですよー」


 いきなりおいらにブッ込んで来た。


「あ、あのーおいら三下なんで、意見なんてとてもとても……」

「猿殿の意見聞かせて下さいー」


 ……あ、これ絶対引く気ない奴だ。


 おいらが見回すと、ジンブルムとその部下達が睨んでいる以外は皆、おいらの意見を待ってる感。


 おいらも一応、敵さんや諸々について色々考えてはいる。兄貴の下で三下兼、参謀っぽいこともしてたしな。


富士山麓での東西日本不良大喧嘩。


あの時は武器と衣類の確保から始まり、飲食の手配やら、宿の設営、移動手段、医療物資と医療人員の確保を任されて死ぬかと思ったっす。


あれ以降、軍人の兵站関係のおっさんに勉強に行ったり、兵站関係の本をめっちゃ読んだ遠い記憶。


「……しがない三下の意見ですが……」


 と言ったとき、


「……部外者が」


 ジンブルムの部下の一人が怒りを抑えられないような声で呟いた。

 雑談してる人も居ない会議。妙にその言葉が部屋に響く。


 まぁそうだよな。部外者扱いは少し悲しいけど。そもそも三下のおいらが此処に居て意見求められるのがおかしいんよ。


 れんの分体が首を上げ、彼の方を向き、ファナ艦長も目を細め、横目で見る。

 ちらりと視界に入ったファナ艦長の視線においらは震える。

 マジ怖ぇぇ、何あれ、ちびるわ。


「ひっ!」


 ファナ艦長の視線を浴びたジンブルムの部下は悲鳴をあげ、下を向く。


「も、申し訳ありませんっ」

「気にしてないっすよ」


 おいらは笑顔で返しておく。男が謝ったのはファナ艦長に対してであったらしく、微妙な怒りがおいらに放たれる……おっおう。空気読めなくてすまん。


 敵を作りたくもないので、後頭部に手を当て三下のへらへら笑いで勘違いを謝罪する。


 ……ジンブルムがおいらのへらへら笑いが気に入らないらしく重々しく言い放つ。


「へらへらと……彼が勇者だとは信じがたい。このような者の意見を聞く必要あるとは思えん」

「わたしは参考にすべきだと思う。彼の視点は独特だ」


 カーナは腕を組み、ジンブルムに対し言い放つ……うほっ。格好良い。


「私は猿さんに撃墜され、殺されそうになった所を助けられました! 判断は的確です、意見を聞く価値あると思います!」

「あたいも、部下も助けられた。意見は聞くべきだと思うね」


 プリカとテルルもジンブルムに対して反論する。ていうかテルルはおいらに助けられたという意識だったのか。微塵も感じなかった。


 ごま塩頭のバリガが尚も言い募りそうになる二人を止めている。

 さすが古参兵。空気読む。


「下士官と……誰だお前は」


 ジンブルムはプリカを見て圧を掛ける。


「プリカです。猿さんの補佐を任じられており、此処に居ます」


 プリカは圧に少し涙目になりながらも、返答する。

 学徒兵やぞ彼女は。プリカに圧を掛けるジンブルムのおっさんに切れそうなおいら。


 ジンブルムの部下がプリカを見て何か気づいたらしく、ジンブルムの耳元で何か囁く。


「……プリカ ル テッリカ……お前はあの……テッリカの娘か」

「……!」


 プリカが唇を噛み下を向く。


 細い首に掛けられた首飾りに付けられた、細かい模様の付いた円盤を無意識に

 か触って悔しそうだ。


 隔離状態で言葉習ってた時にも付けていた小さな首飾り。


 家族居ないとか言っていたから、あれ、母親の形見だったのかな。

 カーナとファナ艦長以外は皆、驚いた顔。


 プリカの母親は有名なのか。反応見るに、良い方の有名ではない感じ。

 ……だからと言ってなぁ。それを咎めるのは如何なものかとおいらは思うぞ。


 彼女関係ないじゃん。戦闘も仕事も全て懸命にこなしてる。何が文句あるんだってんだよ。


 おいらは怒りで闘気が微妙に漏れ出す。


「彼女は彼女だ。誰それの娘うんぬんは全く関係ないんじゃねぇかね」


 おいらは椅子から少し腰を浮かし、ジンブルムにドスを効かせた声で優しく問いかける。


 ジンブルムはおいらの圧を軽く受け流し、全く反応せず無表情。

 部下達は身構える。


 険悪な雰囲気。


 と、ファナ艦長が皆を見回し手を叩く。


「はい、猿君もジンブルム君もそこまでですよー。今は会議中ー。関係ない話は駄目ー」


 笑顔とのんびりした声に場は一気に白ける。

 カーナも腰を浮かしおいらを抑える体勢だったが、ほっとした感じで腰を下ろしている。


 ファナ艦長さすがや。さすが室町時代(年齢的に)!


「あと猿殿の呼称は『特異点』ですよー。勇者ではありません。そう通達は出しましたよねー、ジンブルム君」


 ファナ艦長は教師でもある。ジンブルムも生徒だったのか、先生と生徒的な

 お叱りになっている。


「……申し訳なかった。場を騒がせたことを謝罪する」


 ジンブルムは軽く頭を下げた。

落ち込むプリカを気にすんなと、テルルとバリガが慰めているのが目に入る。


 おいらもプリカと目が合うがおいらが拳握って気にすんなな感じの笑顔をおくると、プリカが少し笑顔を浮かべる。泣くのを我慢しているからかちょと頬が赤らんでいる。


 カーナと軽く目が合うと、カーナは良くやったの表情。


 プリカは一生懸命頑張っている。


親がどうこう関係ないとのカーナの意思が伝わってくる……腕を組んで軽い表情の変化だけで褒めてくれるのは、まさに兄貴って感じだぜ。


「さてー、猿君考えを聞きましょうかー」


 ファナ艦長の無茶振り。止める気は無いらしい。

 まぁ考えはないこともないけど素人考えだぜ。


「ジンブルム艦長に反対っす」


 おいらは軽く集積念話を混ぜつつ話す。思考の流れを理解して貰うためだ。


『今回の攻撃は敵の一部勢力の暴発の可能性。こちらを怒らせて反撃させて国内煽って意思統一してからの星間戦争を狙っている可能性』


 学校同士の喧嘩でコレあった。ちんまい世界の話だけども。基本らしいと軍師役の仲間が言っていたのを思い出す。


『なんにしろ、双方一撃で居住惑星を損壊できる。恨みは果てしなく、下手すれば数千、数万年続く、終わりなき戦いの火蓋を開ける可能性があると思うっす』


「だから反撃を我慢しろと言うのか! 余所者が!」


『おいらの知ってる喧嘩の復讐と違いこちらはガチだ。おそらくは異種同士の戦争は古代の戦争のようにお互いを滅ぼすまで終わらない可能性が高いとおいらは思うんだ。お互いを理解するための接触も宇宙での戦いではかなり難しいと思うから』


 集積念話で送るとジンブルムは黙る。

 言葉の揚げ足取りになりにくい念話での議論はかなり楽だ。ありがてぇ。


「だが、奴らは我らの『翡翠』を初手で滅ぼしたのだぞ!」


 皆が沈黙する。


「何故初手絶滅戦を仕掛けて来たのか……もしかしたら此処が重要なのかもしれんすよ」


 とおいらが疑問を提言すると、カーナが顔を上げ声を上げる。


「面白いな、猿!」


 カーナが机を叩く。

 ファナ艦長も少し驚いたような顔だ。


「敵もー、惑星壊滅させれば終わり無き戦いになるのは想定できるはずですよねー」


 皆が考え始める。


「「「初手で殲滅を狙う理由……」」」


 ……適当に思いついたことを言っただけなのに皆が真面目に受け取り、びびるおいら。


 ……いや、意外と其処に何かしらの突破点があるのかもしれない。

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