42話 医療鞘って凄いよねって話。首玉あれば回復可能だってさ

 れんに帰艦するおいら達。相変わらずでかい。近づけば台地の如くである。

 おいら達の横を第二陣らしき飛竜や魔女隊が出撃していく。


『あれ?なんで出撃してんの?』

『難民回収まで……警戒態勢ですね。第一陣は帰還、休息。第二陣は入れ替わるようにして順次交代ですね』


 プリカはいまだちょと涙声。おいらなんかを心配して泣いてくれたんだ。優しいよな。


れんが居ればどうとでもなる気がするし、もう敵さんも来ないんじゃね』

『あたいが思うに警戒するに越したことはない。面倒だけど』


『まぁそうか。そうだな』


 昔の仲間は監視的な根詰める作業させると直ぐに隙だらけで穴だらけだったけど、軍人さんだもんなぁ。こんくらい余裕か。


 プリカも交代なのか兎竜とりゅうの横を飛んでいる。


『飛び回る子供達を捕まえるのが地味に大変でした』

『あと猿さんが怪我したと聞いて……』


 思い出したのかプリカがまた涙声。


 隔離中は距離近かった上に翻訳魔法で繋がってた時間が長かったからか、プリカのおいらの怪我に対しての動揺が激しい。おいらも逆だったらかなり動揺していたと思う。


『あたい、プリカは学者肌だからもっと冷静に反応するかと思ってた。違うんだな』

『片手ですよ、片手!冷静とか無理と思います』


『あんなもんあたいら陸戦兵にとっては良くある怪我だ』

『まじですか』


『なんなら訓練で五体バラバラもあるぞ。あたいは其処まで間抜けじゃないけど』


 軍属になれたとしても絶対陸戦隊は止めておこう。絶対だ! 脳筋すぎる。



兎竜とりゅうは、医療百五番へ着艦』


 おいらに管制官らしき人の軽深度の念話が来る。音声以外の情報入りって奴だ。

 即座に百五番の位置を把握、兎竜とりゅうも理解してるっぽくするりと移動。


 おいらが指示する間もなく、兎竜とりゅうは太い樹々とその間にある障壁を抜け、甲板内を飛行し、医療区画近くへするりと着艦する。


 満天の星空は壮麗とはいえ、宇宙の基本は闇と果てしない空虚。

 樹々の緑と明るい光、人のざわめきや獣の吼え声のあるれんの艦内に入ると無茶落ち着くぜぇ。


 プリカも横についたまま、兎竜とりゅうのそばにちょこんと着艦する。


 一度箒をかなり低くしてから跨ぐように降りると、腰辺りに位置に箒は自然に浮き、浮いたままの箒の座席に手を置き、軽く押す感じで放すと、どこかしらへ移動していく。


 収納場所へ勝手に行く臭い。便利やな。


 プリカはおいらの方へ歩いて来る。おいらへの補佐役もあるとか言ってたなぁ。けど、魔女隊の絡みはどうすんだろ。後で聞いておこう。


 着艦した場所に衛生兵らしき少年となんらかの小型貨物車両くらいの粘性生物がいる。


 兎竜とりゅうが触毛の拘束を解くとテルルが待ちきれないように飛び出す。


「おおーし、兎竜とりゅう、あいつを降ろしてくれ」


 面頬を上げたテルルが大声を上げる。

 ごろりと言う感じでバラバラにされた杖持ちの甲冑の入りの包みが置かれる。


 太い紐のようなもので包まれ、淡く輝く障壁に囲まれた中に血に塗れた甲冑の残骸が見える。正直グロイ。


 兎竜とりゅうも座席の防護障壁を消したので、おいらも降りる。


 ついでに軍服の障壁を消し口頭で会話できるようにする。

 念話は相手を指定したり云々もあり面倒だから、船内では余り念話は使わないのが基本らしい。


 実際、喋る方がおいらも楽だ。


 兎竜とりゅうが降りたおいらを触毛でどつく。が、おいらは回避。


「どした?」


 兎竜とりゅうは触毛で薄い膜で包まれたおいらの左腕を放り投げる。


「あ、忘れてた。ありがとよ」


 兎竜とりゅうは溜息をつくような動作をする。いや、痛みもないからさ。忘れるやん。そんな呆れた顔せんでも。


 兎竜とりゅうとそんなやりとりしつつテルルの腰に吊るされた首玉や置かれた残骸をおいらは見る。


「彼、本当に治るのかい?」

「あたぼうよ、首玉さえあれば確定だぜ」


 テルルが腰の黒い球体の首玉を叩く


「テ、テルルさんその扱いはちょと……」


 いつの間にか横に来ていたプリカが突っ込みを入れる。

 ……テルルさん、首の扱い雑すぎだよな。


 甲冑を包む障壁の上部が消える。と、するすると粘性生物が中に入り、血やら肉片やらを回収しているようだ。回収すると浮遊する板に乗る。


「回収終了、行きましょう」


 衛生兵らしい兄ちゃんが告げる。


「猿さんもですよ?」

「お、そうだった。繋げて貰わないと」


 と、おいら達の上を影がよぎる。

 見上げるとカーナの濃緑の飛竜が壁に当たらないように旋回している所だった。


『医療区画へは、あたしも付き合うよ!』


 5階はあるような高さからの、鞍から跳躍!

 音も立てず、片手を付き猫のように着地したカーナ。


「うおぉ、格好良いっす!」


 おいらの中でカーナは高い所から飛び降りるのが好き系女子に認定された。

 そんなおいらを軽く笑顔で流すと、片手を動かし自分の飛竜に何かしらの指示を送る。

 飛竜は自分の格納庫というか巣というか、そんな感じのものにゆったりと飛んで行く。


 便利や。兎竜とりゅうに指示だしてなかったな、そういえばと思ったが、兎竜とりゅうは勝手に巣に戻ったようだ……便利……だけどなにか違う気もする。


 兵器として考えると問題あるのかもしれないと、頭の隅で考えたが、

 まぁ自主性のあるのは良いことだよな。多分。


「指揮官が来て大丈夫なんすか?」

「指揮官にも休息は必要だ。判断鈍るからな。交替してメリッグに任せて来た」


「あれ?副隊長のメリッグさん、最初から居ませんでした?」


 プリカの素直な顔での疑問にカーナがたじろぐ。


「カーナがサボりたかっただけじゃねぇの」


 体の破片入り粘性生物を乗せた板の横で歩きながらテルルが突っ込みを入れる。

 横向いて鼻を掻くカーナを見るに図星らしい。


 先を行くテルルと衛生兵のを追うようにおいら達も医療区画へ歩き始める。


「いやぁ、理由はそれだけでもないんだけどさ」


 頭を掻くカーナ。


「いや、休息は必要ですよ、休息は!」


 おいらはカーナを援護。三下として当然の行動です。

 プリカもテルルも呆れた表情。


「猿さんはカーナさんを全肯定しがちですよね」


 何故か多少おこなプリカ。


「いやいや、そんな事ないっすよ」


 おいら兄貴に進言とか諫言とか必要な時はしていたし……兄貴は話を聞いてないようで聞いていたなぁ。そういえば……


 兄貴の思い出に沈みそうになるおいら。


「猿!莢での医療は高度だからな!大丈夫だとは思うが!」


 カーナが大声で話題を変えて来たので思考が元に戻る。


「え、腕くっつけるだけだろ、だってこれも回復するんだぜ」


 テルルが腰の横に付けた首玉をバンバン叩く。

 相変わらず雑な扱いである。


「猿さん、一応回復魔法の使用は何度かしてますよね?」

「猿は特殊だからな。体内に魔法陣が無い。神経繋げるにしても座標が判りづらい」


「万が一があってもあたしは上級士官だから回復魔法もかなり使えるから一応な」

「まじですか。カーナは医療も出来るのかよ!凄ぇ」


 きらきらした目(のつもり)でカーナを見るおいら。


「何その変な目は。やめろ」


 カーナが笑いながら嫌そうな顔。地味に悲しい。


「上級士官なら回復系は当然使える、覚えておくといい」

「最悪、片手でもカーナのお役に立ちます。大丈夫すよ!」


「猿さん、仮に繋げるの失敗しても腕はまた生やせます、機能回復訓練が大変ですけど」

「生やせるんかい!」


 おいらの驚きに皆苦笑している。あ、これ野蛮人を見る目だ。

 そういえばカーナが生やせるとか言ってたな。忘れてた。

 ……ま、あの首玉から回復余裕な世界だもんなぁ。当たり前か。


 と、会話してるうちに円形の庭園のような医療区画へついた。


 中央の巨木からぶら下がる医療莢を衛生兵の兄ちゃんが下ろし莢を開けるとテルルが腰の首玉を外すとその中に入れる。


 見学したそうなおいらにカーナが気づく。


「見てくか?猿」

「お、いいんすか、見る見る!」


 浮遊する板に乗っていた粘性生物が伸びて、莢の中にちょいグロの切断された中身を流し込むと莢が閉じ、上部の半透明の部分を通して中に液体が溜まって行くのが見えた。


 莢に描きこまれた魔法陣が淡く輝き、回復魔法が発効してるのがわかる。


「おし、これで終了だ。すぐに生き返る」


 テルルが嬉しそうに拳を握る。今にも踊り出しそう。


「え、もう終わり?」

「そうだぞ。猿も前莢に収容された人を見たろう」


 あれで終わりかよ。医療が簡単だなぁ……


「猿殿は、上の莢で。色々特殊なので」


 衛生兵の兄ちゃんがおいらを中央の樹の中にある莢へ誘導する。


「猿が暴れて、最初に入れられた莢だな」

「あの時は、猿さんの奉じる神格、『兄貴』の記憶の奔流で私も気絶したんですよね」


 兄貴の事と色々重なってブチ切れたんだよな。

 後悔はしてない、してないぞっ。黒歴史というか、ちょと恥ずかしいけど。


「お前、落ちついてるようで、結構切れ易いよなー。あたいとも喧嘩になったし」

「うぃーす、反省してます」


 テルルさんに言われたくないわーと思いつつ、適当に流す。

 テルルが甲冑の前部を開き中から出てくる。


「え、ここで脱ぐの?」


「建物の中は甲冑は駄目に決まってるだろ」


 テルルもついて来るらしい。


 テルルが甲冑をポンと叩くと勝手に動いていく。格納庫へ自動移動だろ。もう驚かないぞ。


 と、脱いだ甲冑が屈み込み花と蝶を見始めた。まさかの道草機能付きである。

 呆れて見てるおいら。


「半精霊みたいなもんだから当たり前だろ」

「ですよね」

「だな」


 ……だとするとフッ君とかもおいらが寝てる時遊んでいるのかなぁ。

 少しフッ君がびくりと動いた気がするが……まぁ朝に部屋に居れば問題ないっす。


 ……フッ君が外出して居なかったらアレなので、普通の服も貰えたら貰っとこう。

そう考えるおいらだった。

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