41話 最・強・生・物!聖樹竜《ユグドラシルドラゴン》!小規模な艦隊では即消滅っすね

 兎竜とりゅうが大きく速度を落とし、大きめの洞窟のような港へ出ると、突撃艦が港の淡い障壁の輝きを抜け出航していく所だった。

 だが、まだ結構な人数が残って居る。あと数回は往復が必要だろう。


 無重力だからか空中で遊んでる子供に追う親が数名。

 子供は港にそんな来れなかったんかな。珍しいのだろう。大声で喜んでいる。


 魔女隊が数名残って、避難民の世話をしてるようだ。遠くにふよふよと漂って行った子供を追う魔女の箒も居る。


 子供が危ないからか大きく速度を落した兎竜とりゅう

 触毛で固定されたテルルから絶叫遊具へ乗った後の小娘のごとくな情けない声の念話が来た。


『猿、てめぇ後で覚えてろよ』


 かっ飛ばした兎竜とりゅうを止めなかったおいらが悪いな。後で素直に殴られよう。

 いや、テルルの悲鳴が可愛いやら面白いやらでさ。


 と、箒に乗る魔女が一名、結構な速度でこちらへ飛んできた。プリカだ。


 ゆるりと飛ぶ兎竜とりゅうに併走する。


 箒に乗ると言っても米利堅アメリカ製自動二輪の如くのハンドルに座席付きなので、それに乗るプリカさんは妙に格好良い。


『猿さん、怪我したんですよね? 大丈夫ですか! ……って、片腕っ!』


 涙声である。


『怪我、怪我みせて下さい!』


 兎竜とりゅうの風防状に形成された触毛を叩く。


『痛みもないし、大丈夫……』


 と、おいらは言ったが、プリカを見ると涙目で、かなり動揺している。


 兎竜とりゅうが勝手に風防の役目の障壁を下ろし、触毛でプリカを捕まえておいらの膝の上に姫抱っこのような感じで降ろす。

 指示もしてないのに併走していた箒も触毛できっちり牽引しているのは流石だ。


『ちょ、兎竜ぅぅぅ』


 女の子とこんな近い距離とか、プリカを救助した時と今回で、生れ落ちて二度目でしかない。

 プリカの柔らかい体を感じおいらも動揺して体が固まる。

 狭い操縦席内だ。当然体は密着するし、魔女の軍服はぴっちりしてるから体の線もばっちり判る。


『痛みは無いんですね?』


 プリカが涙目でおいらに聞いてくる。涙目可愛い!

 ……じゃない。真面目に心配してくれているプリカに失礼だ。


『あ、ああ』


 プリカがおいらの膝上で体を曲げて左腕の切断面を調べているようだ。

 戦時なので軍服は障壁展開している状態なので匂いは来ない。

 隔離の時、色々教わっていたとき嗅いだ、プリカの良い匂いを思い出す。


 いやいや、そんな下種な感情を持つのは許されなななないい。


『処置は大丈夫、切断された腕は……』


 顔近いよプリカさん。集中すると割りと無防備になるからなぁ、教わってた時にこの距離になると顔赤くして、即離れてたのに。


『猿さん、切断された腕は?』

『あ、ああ、座席の後ろに兎竜とりゅうが収納した』


兎竜とりゅうさん、見せて下さい』


 ごそごそと後ろを見ようとするプリカさん。

 軍服同士の障壁が接触する場合はお互い触れられる。つまりそういう事で……

 柔らかいものが頬に当たって極楽です。


『あ、これなら大丈夫ですね。元に戻すのも楽です。腕を生やすとなると感覚や筋肉を元に戻すのがちょと大変なんですよ』


 調べる為かもそもそ動いていたプリカ。頬に柔らかい物を何度も擦りつけられたおいら。


 切断された腕に問題ない事を確認し、少し冷静さを取り戻したプリカは、顔を真っ赤にしてるであろうおいらと自分の体の位置を気づき、真っ赤になって元の体勢に戻る。


 元の体勢っても、姫抱っこ的な感じな訳でお互いちょと気まずい。


『こ、こ、こ、このままもアレですし、箒に戻りますね』

『お、おう』


 微妙にぎこちない会話の後、プリカが箒に乗ろうともそもそ動く。


 立ち上がったプリカさんの小さくて綺麗な形の尻がおいらの目の前でふりふりしている。

 見るのも何なので目を逸らすが、無重力でのこういう体勢での移動に馴れないのか、操縦席を出る時に盛大においらの顔に尻をぶつけるプリカ。


『あ、あのっ、す、済みませんっ!』


 無重力の中、くるくる廻りながら謝るプリカ。

 おいらは手を振り問題無いことを伝える……地味に痛かったのは秘密だ。


 こういうのは口で言うより笑顔で手を振る方が緩い感じになるので、危ないから、早く箒へと手で伝える。三下の笑顔なので品はないけどな。


 プリカはちょと笑顔になると兎竜とりゅうが触毛で牽引している箒に乗ると、兎竜とりゅうが箒を固定していた触毛を解く。


プリカは、すいっという感じで動くと、兎竜とりゅうに併走する。


『カーナさんが援軍に行ったくらいですから、中は結構激戦になったんですか?』

『まぁな』

『私も援軍に行きたかったんですけど、止められまして……』


『カーナが来る事態だ。魔女隊の箒では厳しいから仕方ないさ』


 謝罪っぽい感じのプリカだが、プリカは気にする必要もないのでおいらは笑顔で返答する。


『でも甲冑兵が一人やられた』


 おいらは兎竜とりゅうの上に触毛で固定された甲冑兵の残骸を指差す。


『ひ……!』

『あー大丈夫だ。首玉はある』


 先ほどは遠慮したのか何なのか会話に混じって来なかったテルルが念話で混じって来た。


 プリカが少し下へ箒を移動させると


『あ、本当だ。医療鞘で元に戻せますね。良かった……』


 テルルの腰にぶら下げられた、おそらくは首入りの

 黒い球体を見たプリカが安堵の声を出す。


『ああ、本当に良かったぜ』


 テルルも優しい声だ。部下想いなんだなぁ。短気過ぎて指揮官としてどうなんとは思わなくはないけどさ……部下を数でしか見ない指揮官よりは遥かにましやね。


 港を出ると、宇宙の煌きを切り取り、眼前を覆わんばかりのれんの巨体が遊弋している。

 恒星の光を浴びる部分の明るさと、影の漆黒が、宇宙を飛翔する竜であることを強調している。


『……! 敵の残骸?』


 れんの廻りに敵のものと思われる黒銀色の残骸が多数漂っている。

 兎竜とりゅうからの感覚から敵の残骸が広範囲にあちこちにあるのを感じる。


『猿さんが中で戦ってるうちに外でも敵の奇襲があったんですよ』

『敵全滅じゃん!うひゃぁ、ざまぁみやがれ!』


 テルルが高揚している。


『カーナが片付けてから行くとか言ってたからそれかぁ』

れんの雷撃魔法で数百をあっと言う間みたいだな!』


 兎竜とりゅうからの感覚から敵の残骸が広範囲にあちこちにあるのを感じる。

 かなーり先にあるのも殲滅している。伊達に最強生物の竜じゃねぇって事か。


『短いけどお前も見ろよ、凄いぜ。れんブチ切れてんぜ』

『?』


『記録水晶へ念話繋げば戦闘記録見れますよ。やはりれんは強いです』


 兎竜とりゅうとフッ君から同時に意味が送られて来た。

 フッ君は繋ぐか?との感覚だったが、兎竜とりゅうは即、水晶の記録をおいらの視界にブチ込んで来た。


 視界といっても三分の一くらい。透過性のある映像だ。感情や説明などの情報は一切無しの単純なものだ。


 敵が隠れていた小惑星から出て来たのを、れんは即探知。急加速したれんが超絶の雷撃魔法を一気に放って殲滅、終了。


 宇宙を切り裂く雷撃の閃光に浮かび上がる飛竜達や、魔女隊の箒がその威力を物語る。


 敵はれんより先行した救助隊を潰すつもりだった感じだが、かなり無茶な攻撃を掛けた感じもある。

 れんの加速と、雷撃の射程が想定外だって感じか?


 親の敵を取るというか、親の敵だが、れんの容赦無い攻撃は洒落にならねぇ。

 小惑星も幾つか砕けている。


 ……と、おいらの感覚に遥か、遥か彼方に何か小さい物がひとつ、この星系を離れていくのを感じた。


 物凄い速度だ。


『カーナ。遠くの方に撃ちもらした奴が物凄い速度で逃げている』


 曖昧な感覚だけど、れん竜撃ドラゴンブレスで傷つけた遥か彼方の巨艦も実際にいた……報告はしとかねぇと駄目だよな。


『……! でかした猿!高深度念話のやり方はわかってるな。直ぐに送れ!』


 お褒めの言葉にやる気倍増のおいらは情報を吟味して思考を固めて、高深度の念話でカーナに送る。


 カーナは敵が残存してるかとの確認や、調査すべき残骸の識別等で忙しかったようだが一瞬でおいらの思考を受け取り吟味する。


『くそっ。遠いな。しかも速い、転移でないと追いつけない……諦めるしかないか』


 カーナと情報を共有したのかれんが首を動かし唸り声を上げ、追うような動きをする。


 が、歯を噛み鳴らし諦めたような唸り声をだす。

 うわっ。不機嫌そうやな。しかもこの唸り声、わざわざ念話で送ってるんだよな。


『そのとおり。広域で皆に送ってる。撃ち漏らし私が不機嫌であることを』


 れんの念話と、おいらの頭に軽い電撃。

 げ、思考読まれてる。


 ……れんの念話に薄っすらと惑星、翡翠で亜光速弾により粉砕されていく獄炎の映像が混じる。

 考えてみれば親の敵を討ちもらしたようなもんだな。確かに余計な突っ込み考えたおいらが悪かった。


 おいらはもう数発の電撃を耐えるべく身構える……が来ない。

 おいらの首筋をふっと風が抜け、れんは向こうを向く。


 ……泣いてるかのように……

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