40話 援・軍!……カーナ強過ぎな件

 軽い錐揉み状態で落ちつつある兎竜とりゅう

 おいらは、念話を切る。今から話すことはテルルとか騒ぎそうだし。


兎竜とりゅう。おいらを座席から放り出せ、素早いおいらなら、あいつらを引き付けて時間稼ぎできる」


 ……多分な。


 ……兎竜とりゅうは少しの間の後、断固拒否の意志を伝えて来た。

 文字通りの断固拒否。

 少し後ろを向いておいらを睨んでいる。


 兎竜とりゅうは気合で落下から飛行に移りつつあるが、回避運動が目に見えて遅くなっている。

 赤い斑点が幾つも耳の翼の上に見え灼熱の炎に包まれる。


 苦痛を押し殺すような兎竜とりゅうの悲鳴。

 がくんと体が揺れ兎竜とりゅうの高度が落ちる。

 港への通路は目の前だが持ちそうにない。


 そして通路近くに隠れられるような盛り土的遮蔽物は無い。

 兎竜とりゅうは滑空し、土埃を上げつつ、港への通路手前に滑るように落ちる。

 上手く触毛で抱えてる二人の甲冑兵は港側へ纏めている。


 己の体を盾にしておいら達を守る気らしい。


「座席の防護障壁を外せ、兎竜とりゅう!」


 おいらが出て、引き付ければ兎竜とりゅうへの攻撃は少しは減る。

 だが兎竜とりゅうはそれを感じるのか断固拒否。


 落ちた兎竜とりゅうの体表のあちこちに赤い斑点が浮かび、収束し燃え上がるのが

 座席の中から見える。繋がってるから相当きついのも判る。


「畜生!出せ、兎竜とりゅう!」


 おいらは叫ぶが、兎竜とりゅうは頑として防護障壁を下ろさない。


「畜生……」


 半泣きで兎竜とりゅうの防護障壁を叩くおいらの目に港への通路から翼を折り畳み、弾丸の如く飛び出す濃緑の飛竜が見えた。


 まさか!


 カーナだ!


 飛竜にはクソ狭い通路を翼を畳んで弾丸の如く突破したのか!


 狭い通路の途中で落ちたりしたら、翼を広げられない状態で再び飛び上がるのは至難の業。無茶過ぎる!


 通常の飛竜より二廻りも大きい巨体は翼を閉じ、弾丸の如く通路より飛び出し、空中へ駆け上がりその翼を広げる。


 そして居住区画中央にある鋼の大蛇に幹や枝を大きく抉られたものの、いまだ力強く柱のように緑の葉を神々しく茂らせる世界樹の若木を大きく旋回する。


『遅くなった。後は任せろ!』


 カーナの念話が来た。

 テルルと盾持ちの歓声が念話から聞こえる。


 赤い斑点が濃緑の飛竜に幾つも収束する。


 が、カーナの飛竜は意に介する様子もない。大きく旋回し、聖樹の若木の影に隠れおいら達の視界から少しの間消える。


 そして敵さんの殲滅が始まった。


 濃緑の飛竜は雷を纏うと数十の雷撃を一気に放つ。

 空気を切り裂く雷撃の甲高い音が複数纏まり、轟音とともに、敵の蜘蛛型の兵器群を一気に殲滅。


 撃ち漏らしたか、一機だけ、蜘蛛型が広場に残る。


 が、カーナの飛竜は小さく旋回すると、濃緑の飛竜が小さな火炎を光学兵器の如くな速度で打ち出し、それを爆散させる。


 文字通りの爆散。


 着弾の爆風が辺りの柵や荷物を吹き飛ばし、爆風が兎竜とりゅうの触毛を揺らす。

 広場にクッソでかい大穴が開いている


『カーナ、結構無茶するんだな……』


 カーナが来たから念話入れたおいらの呟きが聞こえたのか

 テルルの言葉が聞こえて来た。


『いやカーナ凄いぜ。飛竜の火球をあんな弱く撃てるとか驚きだぞ』


 え、あれ弱いの? おいらは広場に空いた大穴を見つめる。


 確か兎竜とりゅうの雷撃でさえヤバいって話だったもんなぁ。

 飛竜ならもっと凄いのは当然か。


『カーナ、もう敵は居ないよな』

『大丈夫だ。奮戦したな、陸戦隊』


 カーナの濃緑の飛竜は聖樹の若木を背に悠々と幾多の敵の残骸の煙の中を降りてくる。


『おおし、猿、放せ、あたい達はやられたあいつを回収に行く。おい、行くぞ!』

『おう!』


 兎竜とりゅうに指示すると、テルルと盾持ちの触毛を解く。

 暴れるようにテルルが触毛から離れると、バラバラに切断された甲冑兵の残骸の方へ急いで向かっていくのが見える。


 回復魔法を使っているのか兎竜とりゅうは湯気を立てつつ、じわじわと傷が塞がって行く。

 相変わらずの魔法世界の継戦能力の高さにびびるぜ。


 ……もしかしてやられた甲冑兵も魔法でなんとかなるのか……テルルの声に悲壮感も無かったし回復出来るんだろうなぁ。凄い技術だ。


初戦で複数名死者が出たとかファナ艦長が言ってた。回復魔法でどうにもならん時もあるのだろうとは思うけど。


 濃緑の飛竜は降下し、滑空しながら動かなくなった鋼の大蛇付近で触毛のようなものを出すと何かを拾ったようだ。それをカーナが受け取るのが見えた……ていうか収束光兵器で切断されたおいらの左腕だ。


 あれも元に戻せ……るんだろうな。ありがてぇ。

 フッ君の処置のお陰で痛みはないから切断されたの忘れてたわ。


 カーナの濃緑の飛竜がおいらの視界を占めるように兎竜とりゅうの近くに羽ばたき、風を撒き散らしながら舞い降りてきた。


 魔法陣と魔力で飛行するとプリカに聞いた気がするが、飛竜が羽ばたくのは体を動かしたいからなんかな。と、つまらん事を一瞬考えるおいら。


 兎竜とりゅうに指示すると、こんどは何の抵抗もなく座席の障壁を開ける。


「大丈夫か、猿!」


 舞い降りた飛竜の上からカーナが鞍の上から声を掛けて来た。


「助かったっす。カーナが来なければやばかった」

「怪我は……大丈夫のようだな」


「いや、左腕失ったんですけど」


 カーナは少し考えると


「……? あぁ、回復魔法があるから、我々の世界では膝小僧擦りむいたみたいなもんだ」

「帰ったら付けて貰え。また生やすより楽だから」


 そう言うと、おいらの腕を放って来た。


 おいらは空へ放られた左手を掴む。自分の左手を持つのは妙な気分。

 体の損傷へのノリが軽いのは多分、回復魔法と痛みも消せる医療処置があるからかなぁ。


 左手は兎竜とりゅうが触毛で座席の奥に収納してくれた。地味に気が利くよなコイツ。


 あたふたしてるおいらをカーナは笑顔で見ている。いやそんなに見られたら恥ずかしいやん。


 聖樹の若木を背にし、背筋を伸ばして鞍に跨っているカーナの姿は、格好良い。

 銀桃の長髪が風に靡いてまるで軍神だ。


 と、カーナは笑顔から厳しい顔になる。


「陸戦隊への助力感謝する。猿が居なければ、内部組は正直全滅もあり得た」


 カーナは軽く頭を下げ額に拳を当てる。


「カーナに助けられたおいらが感謝されるのはちょと勘弁、ていうか指示無視して動いたこっちが独房入りって奴ですかね」


 軍隊の命令違反って、独房で十日は反省会と反省文と聞いた事がある。恐ろしい。


 魔法世界の独房とか、構え、遊べという大量の使い魔達と同じ部屋で十日過ごせという感じなんだろうかとか阿呆な事考えるおいら。


「軍人というより協力して貰ったって立ち位置だ。懲罰は無いよ。安心していい」


 おいらを安心させようと笑顔のカーナだが……協力者の立ち位置かぁ。カーナの部下への道はまだ遠いらしい。

 落ち込むぜ。


「おいら軍属希望なの覚えてます?今回のでおいらが使えるのは証明……」


 おいらが喰い気味に言うのをカーナは片手を上げ制する。


兎竜とりゅうや甲冑兵の障壁が抜かれるのは想定外だった。

 増援も陸戦隊では足が遅すぎた。わたしの判断の失敗だ」


「知らない敵への対応に判断も糞も無いでしょ」

「おいおい、あたしを甘やかさないでくれ」


 カーナが鼻を掻いて、ちょと困った顔。

 いや、まじで判断材料も何も無いやんとおいらは思う。自分に結構厳しい人なんだなぁ。カーナは。


「そういう訳で猿には自由に動いてもらう。はぁ~。ファナ艦長の言う通りだったよ~。あたしもまだまだだな」


「???」

「違う価値観での判断。それをわたし達は求めている」


 カーナが真面目な顔になるとおいらを突き刺すような視線で見る。


 ……あ、なんかそんな事ファナ艦長が言ってたな。特異点がどーたら。違う価値観がとか。

 三下のおいらにそんな事言われても困るんだけどな。


 おいらはカーナの部下になる事を求めてる。指示を、命令を欲しいんだけんども、今、そんな事言う雰囲気では無いのは、余り空気の読めないおいらでも判る。


「せめて飛竜隊の末席に加えて……」

「却下だ」


 まじかよ。落ち込むおいら、そんなおいらを見たからかカーナは優しい言葉を掛けて来た。


「助力してくれるというなら何時でも歓迎する」


 笑うと額に拳を当て、濃緑の飛竜は大きな翼を広げ飛び立つ。


『他の場所の指示もあるから、先に戻る。戻って来たら驚くぞ』


 との悪戯っぽい感じの念話が来た。

 なんとなく予想が付くが。まじかよ。



『おー終わっとるな』


 呆れたような念話が来た。バリガだ。

 通路の方を見るとバリガが来ていた。


『援軍ってバリガだけ?』

『カーナが片づけたと言ってたからよ、他の仕事に廻した。俺は様子見に来た』


 バリガは多数の敵の残骸から上がる煙を見て呆れたように見回している。


『バリガ、後で、敵の残骸をれんに運べるかい?』

『あのでかいカラクリもか』


『そうっす』

『出来なくもないがよ……どうした、何か気になることでもあったか?』


『そうっすね。ケヒー研究室長に調べて貰いたい所があるっす』


 ……違う価値感というか視点が欲しいってカーナ言ってたもんな。

 大したことでは無いかもだけどさ。


 とテルルと盾持ちが念話してきた。


『仲間の頭は確保した。兎竜とりゅうは回復したよな。破壊された甲冑も兎竜とりゅうで運べるか?』


 おいらが兎竜とりゅうに聞くと運べるとの返事。


 魔力が枯渇気味なので、出来ればおいらの魔力も欲しいらしい。

 おいらは操縦球を通して流すが、兎竜とりゅうから慌てたように減らせとのお怒りの声。


 何故に怒られ……大量に流すのは外部腹部付近にある魔法陣で。かつ、繊細に通してくれとのこと。

 突撃艦とは運用が違うらしい。


 バラバラにされた杖持ちの残骸は纏められ紐で縛られ、卵状に展開された淡い障壁の輝きに包まれている。兎竜とりゅうはそれを触毛で掴むと首付近の固定する。


 テルルは少し頭より大きいくらいの魔力強化されてる感じの黒い革に包まれたもの

 を紐で縛って大雑把に腰にぶら下げている……あれ頭だよなぁ。

 あれから回復可能なんかな。信じられん。

 

 兎竜とりゅうがおいらにテルル達も運ぶかと聞いて来た。


兎竜とりゅうがテルル達も運べると言ってるが?』

『あたい達も運べるのか。ありがたい。んじゃ頼む』


 兎竜とりゅうはテルル達と、途中でバリガも触毛で捕らえて運んだ。


 ……地味に忘れていたのは、通路は兎竜とりゅうには狭く、兎竜とりゅうはカーナの飛竜が此処を飛んで抜けた速度を把握していたという事だ。


 結果、対抗心からか、狭い通路を物凄い速度で抜けた兎竜とりゅう


 テルルの悲鳴が物凄かった。

 いやぁ女の子みたいな悲鳴上げられるんだな。あいつ。

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