39話 焼き切られた片腕と兎竜《とりゅう》の奮戦。兎竜《とりゅう》は凄い奴っすよ。

「おっとっと」


 衝撃を殺す為に鋼の大蛇の側面に着地したおいら。


 脚から伝わる衝撃の痺れに耐えながら、落ちそうな体から魔力手を伸ばし、なんとか内部の構造物を掴み体を大蛇の上側に引き上げる。

 大蛇の上体部はテルル達に掘削円盤を叩き付ける為に大きく動いているが、中央部は、振動こそあるものの、なんとかしがみつける程度の動きだ。


 軍服のフッ君の機能のひとつである魔力手はちょこっとした作業や、修理に使う時用の簡易義手みたいなものだ。

 が、こいつは物質を透過し、先の手に当たる部分だけ物質を触れるように出来る。


タンスの裏に落ちた物を拾うのに大活躍の機能だ……フッ君が伝えて来たときにはマジですかと驚いた。


 だが、コレはおいらからみたら超技術。科学技術文明っぽい敵さんにも同じだろう。


『おいコラ!早く逃げろ猿!あたい達はコレが仕事だ!素人は引っ込んでろ!』


 テルルが切れ散らかしている。が、念話が弱まっているのを感じる。

 そう長くは耐えられないんじゃねぇかとおいらは判断。


 舞う土煙と、打ち付ける時の轟音。


『まぁ見てなって!』


 ……何をしてるかは見えないだろうけどさ。


 おいらは魔力手を鋼の大蛇の内部に伸ばす。通常は大人の背丈二人分って所だが

 フッ君は高性能。その三倍はいけると伝えて来た。凄いぞフッ君。帰ったらブラシを掛けてあげよう。


『カーナ! 猿が無茶してる、あたいじゃ止められない』

『あっ、てめ、何チクリやがって!』


 念話しつつも、おいらは物質を透過する魔力手で破壊可能な内部の部品を探る。

 ケーブルらしきものを掴んだものの、頑丈過ぎて引きちぎれない。まじかよ。

 精密部品らしいケーブルの接続された部分も掴んだがコレも壊せない。

 全般的に恐ろしく頑丈な作りだ。


『猿!何か考えがあるのか。こちらも少し忙しくなった。片付けたら行くから無茶はするな!』


 カーナからの念話が来る。


『無茶なんかしてないっす。そちらに集中して下さい!』


 とおいらは返事しておく。これくらいは無茶じゃないっすよね……多分。

 横目でちらりと見る、杖持ち甲冑兵は援護なのか雷撃撃ってるけど、おいらを外して撃ってくれてるし。


誤爆は無いよ……な。喰らったらヤバイかな。


「フッ君!」


 おいらの思考を読んだフッ君から雷撃は大丈夫との感覚が伝わって来た。

障壁で受け流せるらしい。下手な甲冑よりも頑丈とのこと。凄いな。フッ君。


 受け流すか……閃いた!


『杖持ち! おいらに雷撃を撃て、電導させて内部に電流を流す!』


 軍服は魔力障壁を常時展開している。電撃は大部分は弾くが、障壁の上を流れてある程度は流れる。制御用の精密機械ならおそらくはそれで十分。駄目ならカーナが来るまで内部の壊せる部分を探して壊すだけだ。


『……判った。ダダ爺製の軍服だよな。ならば』


 杖持ち甲冑兵がおいらの視界の端に入り構える。


『馬鹿、やめろ、丸焼きになるぞ!』

『撃て、テルルが持たない!』


 テルルとおいらの言葉に挟まれ、躊躇する杖持ち。

 躊躇してる間に杖の上に輝く雷撃の光は溜まり、強まっていく。


『わたしが許可する!やれ!』


 会話を聞いていたのか、カーナの念話が叩きつけられるように入り、杖持ちは即時に雷撃を放つ。


『わ、ちょ、強すぎじゃねーか!』


 強力な雷撃がおいらに着弾。甲高い空気を切り裂く音が響く。


 ダダ爺特製の軍服は雷撃の殆どを跳ね返す。が、軍服上の魔力障壁を伝い、その電撃の一部は内部の精密部品らしき何かを掴むおいらの魔力手を流れていく。


 バチッと電気衝突の音が奥から聞こえ、鉄の大蛇が痙攣のように動く。


 そして一度大きくその鎌首を上げるが、そのまま大きな音を立て、近くの家屋を粉砕しつつゆっくりと横たわった。


 何度も掘削円盤を叩き込まれ、地面に半ば埋まっていたテルルが土をどかしながらゆっくり立ち上がる。


おう、結構大丈夫だったようだ。安心したぜ。


『降りて来い糞野郎!軍所属でもない癖に無茶し過ぎだ!ぶん殴ってやる!』


 立ち上がったテルルが鋼の大蛇の上に居るおいらを指差し叫んでいる。

 盾持ちが後ろから、こちらへ来ようとしているのを抑えている。切れ過ぎだろ。


 おいらも恩に着せる気はない。軍人さんには面子があるし、あれは面倒なのも知っている。おいらは敵を無力化した。それだけだ。


『ダダ爺謹製の軍服は下手な甲冑より頑丈なんだぜ』


 おいらはニヤリと笑い自分の軍服(フッ君)を指差す。

 ダダ爺の腕は皆が畏敬の念持ってたのはおいらは見てたからこれはテルルに覿面に効果あった。


『あ、そういえば、そうだったな……ダダ爺謹製か……』


 計算通りということが判りテルルの怒りが収まる。

 ……杖持ちの雷撃が想定より遥かに強かったのは言わないで置こう。


 ……とその時、おいらは何かヤバイものを感じる。


 おいらの軍服の肩口から煙が上がっている。

 フッ君から危険との感覚が伝わる。が、遅い。


『があっ!』


 魔力障壁を増強する前においらの左手は肩口から切断、吹き飛ばされ、撒き散るおいらの血潮とともに鋼の大蛇の上からおいらは転げ落ちた。


 素早く移動したテルルが転げ落ちるおいらを抱きとめる。


 灼熱の激痛がおいらの左腕の付け根を襲う。落下の衝撃はテルルが抱きとめてくれたのと、軍服が吸収したから問題なかったが、もげた腕はどうにもならねぇ。痛い!


『おい、猿!大丈夫か。あたいの前で死ぬんじゃないぞ!』


 テルルは叫びつつも動かなくなった鋼の大蛇へおいらを抱きかかえたまま隠れ、部下にも遮蔽物へ隠れるように指示している。


『敵の本隊かもしれん、ダダ爺謹製の軍服も切断された、甲冑では危ねぇ』


 おいらは、激痛に耐えつつテルル達に警告を発する。


 ヤバイ感覚に従い上を見上げると鋼の大蛇の穿った穴から何か棒に蜘蛛の脚をつけたような何かが数十程落ちて来ている。


 腕は焼き切られた切断面を晒している。

収束光兵器か! やばい、あれは見えないし速い。おいらの世界の軍人さんが使うのを見た事ある。


 フッ君は自身を伸縮させ切断部位を覆うと粘膜のような物で傷口を塞いでいる。

 痛みがすっと和らぐ。フッ君凄ぇ!


 兎竜とりゅうが降りて来ておいら達を守るように座り込む。


 兎竜とりゅうの体の障壁に赤熱してるらしい赤い斑点が沢山付くが、兎竜とりゅうの障壁を貫くことはない。


『ありがとうよ。兎竜とりゅう


 おいらの礼に鼻を鳴らして答える兎竜とりゅう


『今のうちに乗れ!』

『ちょ、俺だけ安全とか無しだろ!』


『うるせえ、民間人!』


 テルルが指示すると兎竜とりゅうが座席を開け、触毛を伸ばしおいらを収納する。


 敵は地上に降りると散開し、廻り込むように布陣し始めた。遮蔽物を廻りこんで射撃してくる気のようだ。


『敵の本隊らしき陸戦兵器と交戦中。援軍求む!』


 テルルが念話。

 ポツ、ポツと近くの地面に赤熱した場所が生まれる。収束光兵器が着弾した跡だ。


『ち、光魔法か、こんな強烈な奴みたことない!』


 そうこうしてる間に、廻り込まれたのか土を盛り上げたような家を遮蔽物に隠れていた杖持ちから悲鳴が聞こえ、見ると、甲冑の半分が溶解し、体勢を崩し、道端へ倒れこむ。


 そうすると赤い赤熱した斑点が倒れた杖持ち甲冑の廻りに沢山生まれ、甲冑へ収束していく。

 灼熱の斑点は甲冑を燃え上がらせ、バラバラに切断する。


『畜生!』


 テルルが悲鳴に似た怒りの声を上げる。


『盾持ちは大丈夫か!』


 見ると、盾持ちは遮蔽物を伝い集中攻撃を避けつつ、盾で敵の攻撃を防ぎ、一体を剣で貫き破壊していた。


障壁つきの盾はあの強烈な収束光兵器でも貫けないようだ。この状況下で反撃するとは何にしろ凄ぇ。


『良し、やれない訳じゃない』


 が、喜ぶ間もなく、素早く動く敵が散開、囲まれる。


 兎竜とりゅうから伝わる感覚で翼というか長い耳で切断して破壊することは可能だと来た。だが、それをすると今、兎竜とりゅうに隠れてるテルルの安全は確保できない。


『抱えて逃げるか。盾持ちも抱えられるか?兎竜とりゅう


 一瞬の間で兎竜とりゅうから可能との意思がくる。


『テルル、兎竜とりゅうに掴まれ、盾持ち回収して援軍の場所まで撤退する!』

『あたいは撤退したくねぇ。あいつらブチ壊してやる!』


 テルルはバラバラに焼き切られた杖持ちの方を見て叫ぶが、兎竜とりゅうの触毛に絡め取られわき腹へ固定される。


 おいらの意思を汲み、即動く兎竜とりゅう。流石だぜ。


『撤退じゃねぇ。援軍の所に移動するだけだ、移動』


 少し言葉を変えて言うと、テルルは少しの間暴れていたが落ち着く。ちょろい。

 おいらは盾持ちに念話する。


『盾持ちさん。兎竜とりゅうで貴方を回収する。宜しいか?』


『……魔女隊の撤退は……ほぼ完了か。了解した』


 おいらも兎竜とりゅうからの情報で、人々を乗せて、撤退中の魔女隊の箒は通路内に侵入する所なのは確認した。魔女隊はもう大丈夫だろう。


 盾持ちは数体敵を倒した後は、激しくなる敵さんの攻撃に耐えかねたか、家と土手の間に隠れている。が、赤い斑点が近くの地面に沢山浮いては消えしている。敵は盾持ちを先に片付ける算段のようだ。


「急がないと、ヤバイな」


『行け、兎竜とりゅう!』


 おいらの号令に兎竜とりゅうが鋼の大蛇の影から飛び出す。

 収束光兵器の着弾の赤い斑点があちこちに浮かぶが、問題無い。

 が、走っているので振動がきっつい。げろ吐きそう。


 テルルの微妙な悲鳴も念話を通して少し聞こえるが、兎竜とりゅうはジグザグに飛び跳ね少しでも着弾を逸らしつつ盾持ちの前へ移動、砂と土埃を巻き上げつつ停止、即、触毛で盾持ちをテルルと逆側へ回収する。


 砂と土埃を貫通する収束光兵器がそれらを溶かし赤く射線が見える。


『良し、一旦入り口まで移動。その後援軍に指示を仰ぐぜ』


 ……とテルルと盾持ちの念話が聞こえる。


『あいつの頭の回収は?』

『あとだ。あたい達があいつらぶちのめしてからだ』


『……そうだな……了解』


 戦友の遺体の回収の話か。重いなぁ。おいらが死んでも放置で良いと後で伝えておこう。おいらのせいで仲間が倒れるとか勘弁ならないしな。


兎竜とりゅう、触毛で辺りの土埃を巻き上げられるか?』


 おいらの意図を感じた兎竜とりゅうは触毛を地面にめり込ませ、土を持ち上げると、

 嵐の如くうねらせる。


 煙幕代わりの土埃は結構な範囲を覆う。


『行け、兎竜とりゅう、逃げるぞ!』


 兎竜とりゅうは、小さく唸ると、数歩飛び跳ねると一気に飛翔する。

 撤退?移動じゃないのかとのテルルの小声の念話が聞こえて来たが放置。


 下を見ると包囲はほぼ終わっていて危なかったのが判る。


 兎竜とりゅうはぐるぐると、体を回転させ、更に上下左右の回避運動を交えつつ飛行する。


 本能なのか指示する必要もない。


 が、兎竜とりゅうとの繋がりから数十体の敵から放たれる、収束光兵器が一点に集中されたのを感じる。やばい!……と思う間も無く、障壁を貫通される。


 兎竜とりゅうの苦痛を感じる。と、動きが鈍る。


 収束光兵器の着弾が増え、また貫通される。おいらに兎竜とりゅうの激痛が伝わる。

 おいらに痛みは無く、痛いという情報しか来ないが兎竜とりゅうがきついのが判る。


 失敗した。上空に居る分狙い易い……のか!


 兎竜とりゅうは走れるから走って遮蔽物を利用しながら逃げるべきだったか!


 動きが鈍る兎竜とりゅうの耳の翼に赤い斑点が集中、障壁を突破され燃え上がるのが見えた。

 兎竜とりゅうは悲鳴をあげると落ち始めた。

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