37話 念話は色々設定があるって面倒っす。あと嫌な感じの影が鉱山岩塊の中に見えたっすよ。


 思考を向けるとおいらの脳内に目的地の鉱山のある岩塊が浮かび上がる。

兎竜とりゅうの電探じみた能力もおいらの脳内に流れて来る

 宇宙に浮かぶ岩塊はかなり大きい。れんの十倍くらいの大きさか。ごつごつした椰子の実みたいな感じ。


 兎竜とりゅうに搭乗しているおいらは、こいつと魔法である程度繋がっている。


 念話の技術の応用って奴だ。危険な程深くはないけど、通常の念話よりは繋がりの深度はあるらしい。繋がりが深い分、意識融合というか多少の危険性はあるらしい。

まぁ大した危険でもないらしいど。


 網膜に投射する方法もあるみたいだが反応が少し遅れるからおいらはこちらを選択している。素早く反応できないおいらなんか意味ないから。


 満天の星空と宙を切り取るように覆う巨大ガス惑星の圧迫感。


「召喚されたのかなんなのか知らんけど、本当に違う世界に来たんだなぁ」


 顔を上げ宇宙そらを観ると星の海に吸い込まれそうだ。


 と、プリカから個別念話。


『大丈夫ですか猿さん。緊張してませんか』


 テルルからも来た。


『猿は初戦で兎竜とりゅうに放り込まれて、戦闘してたんだろ、今更だろ』


『個別念話で雑談とか良いのかい』

『問題ないよ。何時もやってる』


テルルがケラケラ笑っている


『私とテルルさんは猿さんの手助けする役もありますからね。猿さんの念話は全部聞えるように設定されてます』


『そうなんか。そりゃ助かる。軍の細かいノリは判らんし』


『個別念話来た相手と全て常時繋がるのも選択できますよ。猿さん』


『マジで? じゃそうしてくれフッ君』


 いちいち面倒だしな。


『しかし私語自由かよ。自由な軍だなぁ』


『楽園とかの本格的な軍隊は禁止らしいですよ。移民艦隊が出航した三百年前の頃の話ですけども』


 ノリが昔のおいら達と大差ないのは助かる。おいら本当にこの軍隊好きだわ。


『猿、広域念話は個別念話を上書きして聞こえるのは一応頭に入れといてくれ。

 隊長、副隊長は自由に部下に繋げられる。選択云々の前に私語は聞かれてると思え』


 カーナには個別念話も丸聞こえらしい。下ネタは厳禁だな。

 と、ごま塩頭のバリガから個別念話が来た。許可するかとフッ君。勿論許可する。


兎竜とりゅうの調子はどうよ』

『ああ、大丈夫っすよ。バリガさんの方は?』


『こちらも大丈夫だ。あれ、お嬢さん達とも繋がってるんだな』


 ……ん? おいらの少しの間を読んだプリカが教えてくれる。


『個別念話が繋がってることが判る機能はありますよ』


 なんぞそれと思念を向けるとフッ君が視界の上に念話して来た人の小さな顔の映像を映す。映像の横に色々印があるからあそこで通話状況が判るんかね。


 おいらの世界の電脳通信の操作機能みたいなものがある訳か。


操作系、意外と似るもんだね。機能を突き詰めていくと同じ形になっていくっていうアレか。


『しかし、念話全部広域でよいんじゃね』

『全部広域だと煩くて駄目だろうよ』


『私語が全部念話で来ますからね』

『大軍勢だと私語の地獄だな』


『うっ。確かに』


 皆に駄目出しされるおいらだった。



 と、喋ってるうちに、鉱山のある椰子の実形状の小惑星がおいらの目でも目視出来る距離に近づいて来た。陰影が地上ではあり得ないほどはっきりしている。


 影の部分は宇宙の闇に溶け込んでるかのようだ。


『作戦通り各自行動を開始しろ!』


 カーナの指示により予定通り各自作業に取り掛かる。


皆、やる事が集積念話で判っているので動きに無駄がない。まるで特殊部隊並みの錬度に見える。魔女隊なんか殆ど学徒兵らしいけどさ。


 箒に乗った魔女隊は鉱山小惑星の廻りを囲むように広範囲に散開し警戒に当たる。


 岩塊の比較的平坦な場所に大きな穴が開いており、魔法障壁の淡い輝きが見える。


「ここが港か」


 飛竜隊と兎竜とりゅうは港近辺の防空を担う。港が潰されたら終わりだからな。


 全体念話でテルルの号令が聞こえた。


 突撃艦の一隻から武装した甲冑兵による陸戦隊が港の開口部を取り囲むように降下している。残りの二隻のうち一隻が回頭すると、ゆるりと港に侵入していく。


『テルルは割りと上級士官なんだな。信じられねぇ』

『聞こえてるぞ。あたいは分隊長だ。凄いだろ』


『了解、こんどから敬語で話すわ』

『そりゃ面白いんだがよ、やってみるか』


『敬語は止めて。虫唾が走る』




 おいらは港の上空で遊弋し、警戒に当たる。


入港した突撃艦から、テルル他、数名が降り立ち、手荷物を抱えた避難民を船内へ誘導しているのが見えた。


 渋い服装の老若男女が、泳ぐような体勢で、きょろきょろしながら乗船し、突撃艦が珍しいのか大喜びで飛び回る子供達を母親達が叱りながらひっ捕まえている。


『港は無重力状態?』

『そうですよ。居住区画だけ重力があります。鉱石とか重いですしね』


 答えてくれたプリカは三機編隊で飛竜隊の近くで警戒飛行をしている。

 おいらの手助けも任務の内なのか結構近い位置だ。


『猿、余所見してないで警戒は怠るな!』

『は、はいっ!済みませんっす。カーナ隊長』


 カーナに怒られた……

 兎竜とりゅうの任務は飛竜隊と同じ。敵への即応と警戒だ。港を観察することじゃない。

 プリカが小声で謝って来たが、悪いのはおいらと返しておいた。


 とそこへテルルの念話が飛び込んで来た。


『居住区画で脱出用意に手間取っているらしい。あと住民から、異常な振動の報せが来た。様子を見てくる』


『了解。用心の為、武装はしていけ』


 おいらは我慢できず、ちらと港を見る。


 カーナの指示で、テルルが突撃艦内部から甲冑兵用の杖や剣を取り出し、警備していた甲冑兵の数名とともに小惑星の内部に向かっていくのが見えた。



 集積念話で鉱山小惑星の内部構造はわかっている。

 妙な振動か……


『誰かまだ採掘してたりしてとか無いの?』


『採掘魔法は粘性生物で砂を吸い込んだりしないように岩を囲んでから岩を砂にする感じですから振動とかないはず……ですよ』


 マジかよ、岩を砂にしちまうのかよ。


『振動かぁ。振動、振動……』


 なんか引っかかるなぁと思うおいら。


 兎竜とりゅうの探査能力に期待して

 何か見えねぇかなぁ、見える訳ねぇよなぁと思いつつ、おいらは意識を小惑星に向た。


『!』


 何かある? 


 ……何か……何だろ。


 兎竜とりゅうが小さく震え、短い首を廻しおいらを見る。

 自分の能力では無いと兎竜とりゅうから感情がおいらに来た。


『……え、小惑星の中にある何かの、この微妙に見えてるというか感じる何かは兎竜とりゅうの探査能力では無い?』


『どうしたんですか猿さん?』

『いや、なんか小惑星内部に何か居るような感じが……』


 居住区画に近づいて……掘り進んでる感じ?

 なんかヤバそうな感じもある。


『猿、何が見える? 何を感じている?』


 カーナが厳しい声でおいらに詰問してきた。


『あ、いや、その……』


 見えるはずの無いものが微妙に見えてる感じを報告してよいものかどうか悩むおいら。


れんに敵の巨艦の位置を教えたとの報告は貰っている。確信が持てなくても

 良い。猿、感じたものを報告しろ』


『え、あれは兎竜とりゅうの……』

れんの索敵でも見えない距離を兎竜とりゅうが索敵?笑わせるな』


 ……マジかよ。一体どういう事だってばよ。

 動揺しながらも、おいらは感じた事を報告する。


『おそらく何かが居住区画へ掘り進んでる。嫌な感じが強くなってく』

『……堀り進むだと! 地竜か? あり得んな。あの敵の兵器か』


 カーナが小声で熟考し、即、決断する!


『地上の防御魔法陣設置は終わってるな。魔法陣操作以外の陸戦隊は内部突入!

 武装は内部戦闘用装備!急げ!』


 港の廻りに展開していた陸戦隊の残りが幾つかの対空用らしい重そうな装備を置き、上空に遊弋する突撃艦から放出された武器を受け取り障壁を超え港の内部に突入していく。


 港の避難民は怯えたように立ちすくんでいるが、誘導の甲冑兵により入港している突撃艦に押し込まれている。


 ……おいらの感じる、嫌な感じが強くなる。


『おいらも行きます。飛竜は大きすぎて通路を通るのは無理だけど兎竜とりゅうなら居住区画まで余裕っす。陸戦隊より速くつく』


 おいらは返事を待たず兎竜とりゅうに指示して港の内部へ。


『おい、馬鹿! やめろ猿!』


 カーナの制止の言葉が聞こえるが、おいらはもう港を超え、内部の通路だ。


 走っている陸戦隊の連中の横を風のように兎竜とりゅうはギリギリですり抜ける。

 兎竜とりゅうは半分飛び、半分走ってるような感じで恐ろしい速度で内部を疾走する。


 ……余りの速度感にちびりそうなおいら。


『……糞!魔女隊、分隊、一、二、三!猿を援助!行け!』

『『『了解』』』


 プリカの居る分隊他二つ、計9名の魔女隊の箒が、可愛い掛け声とともに港の淡い障壁の輝きの中に突入し、内部の通路を燕の如く飛んで来るのが兎竜とりゅうの知覚を通して判る。


 魔女隊は必要ないと思ったが、考え直す。

 飛竜と比較すれば弱いが、あいつら攻撃力はあるし機動力もある。そして小回りが効く。


『猿!移動は兎竜とりゅうに任せて、見ている、感じている状況を念話で送れ

 最初の戦の時のように考えを纏めて強く思考しろ!』


 カーナの念話が来た。


兎竜とりゅう、任せられるか?』


 了解の思考が兎竜とりゅうから来る。


 おいらは、何故か見えるというか、感じるというか。現状の感覚を強く思い出すと、念話で押し出す。


『でかいな……猿、もっと明確に見えないか』


 目を凝らして見るおいら。薄ぼんやりと感じるが希薄だ。うーん、無理臭い。

 と、兎竜とりゅうが通路を抜け、居住区画に飛び出した。


「うおっ。これは!」


 おいらは思わず声を出した。

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