36話 小惑星鉱山への救出作戦へ出撃っす。集積念話は一気に頭に入るから便利っすね

 おいらはメリッグ副隊長はカーナの次に凄い奴と認定した。

 凄い男と喋るとなんかわくわくして来るのは不思議だ。


「おい、猿よ、こっち来て兎竜に挨拶しとけよ。命預けるんだからよ」


 ごま塩頭のバリガが兎竜が奥の巣から出ていた兎竜とりゅうの横に居た。

 飛竜達の横で少し所在なげな兎竜とりゅうがおいらを睨んでいる。


「え、おいら兎竜とりゅうで出るの?」


 前みたいに、突撃艦に乗るのかと思ってた。


「一応飛竜隊へ半所属みたいな感じで話はついたからよ。兎竜とりゅうは飛竜ほどじゃねぇけど、戦力としては十分だ。乗れる奴が居るなら使うって話よ」


 甲冑の点検やら何やらで忙しい陸戦兵達をすり抜け、兎竜とりゅうの横に行く。


 プリカとテルルもついて来る。


「そういえば二人も救助に参加するん?」

「もちろん。あたいもプリカも準備万端さ。ねぼ助とは違う」


 ケケケと笑うテルル。一方プリカは多少緊張気味。


「私も頑張って参加します。まだ馴れない猿さんも心配ですし、カーナさんからも要請されてますし」


「プリカは学徒兵だから無理しなくても良いんじゃないすか?」

「いえ、猿さんも行きますし、行きます。足手まといには……ならないように頑張ります!」


 両手で拳を軽く握りおいらを見るプリカ。気合は入ってるらしい。


 ある意味珍獣でもあるおいらを観察する機会でもあるから学者肌のプリカには参加は確定事項らしい。

 しかしちょと、緊張気味であるのは見てとれる。動きがぎこちない。


 撃墜されてたし、実技方向は余り得意でないだろうに、猛き学者魂ここにありだ。


「あたいは陸戦兵だから、救助とか仕事そのものだな」




 おいら達は兎竜とりゅうのもとにつく。


 少し横に居る飛竜達は大きく、ちと怖い。

 六匹も居ると吐息や唸り声もなかなかの物だ。


 ゾウくらいの大きさの兎竜とりゅうはそれと比べれば小さいが、おいらにはこれくらいが丁度良い。


 隔離されてたから、兎竜とりゅうとは六日ぶりくらい。

 兎竜とりゅうは機嫌悪そうにおいらを見ている。兎の表情はわからんけど軽く睨んでる……気がする。


 戦闘では世話になったし、こいつは結構知能はあるから、軽くお礼には行くつもりではあった。


「悪かった。挨拶には来ようと思ってたんだが隔離されててさ。」


 おいらは片手を兎竜とりゅうにつけると、撫でながら頭を下げる。

 撫でながら謝り続けている


 兎竜とりゅうはおいらと反対方向を向いて怒ってる風ではあるが、座席部分の毛を広げおいらが乗れるように変形させる。


「お、許されたがよ。良かったな。こいつは気難しいからどうなることかと思ったがよ」


「猿さん、魔力を送る感じで撫でると良いですよ」


 おいらが魔力を流す感じで撫でると兎竜とりゅうも気持ちよさそうに目を細め体から力を抜き床に潰れるように寝そべる。


「こいつはもうよ、猿君用だな。乗る奴も居なかったから本当に良かった。戦力になるのはありがたいだがよ」


 バリガがおいらを叩きながら喜んでいる。

 と、そこでカーナの声が響き渡る。


「今から作戦の概要と、大まかな地図を送る!」


 準備中の皆が反応し動きを止める……止めない奴も居るが。

 緩い軍隊である……もしかしたら用兵思想の一環なのかもだけども。


 念話がドカンと来た。


 念話というか思考というか。作戦要綱と宙域の地図が立体的に来た。

 作戦概要と部隊の移動経路、移動時間に配置計画が一気に頭に入る。

 個人名と顔も含まれている。


「うはっ」


 おいらは頭を抱えてよろめく。


 翻訳魔法の時のような感情も全て含めた情報の深みは無いが、それなりな量の情報が頭に入ってくるー。


「大丈夫ですか猿さん。そういえば作戦用の集積念話は初めてですよね」

「あたいも、初めての時は混乱したな。ま、すぐ馴れるさ」


 心配そうなプリカに、定番軍人ノリのテルル。


「集積念話でも、軽い記憶定着だからまず忘れないと思うけど、忘れたら、軍服の記憶水晶を参照しな。記録されてるから何度でも見れる」


「ういっす」


 おいらは速攻もう一度参照って奴を軍服のフッ君に念話で要求。

 脳内に流れ込む情報……むぅ。


「二度目は確かに楽だな」


「だろ」


 テルルは得意満面だ。


「猿さん、余り無茶しないで下さいね」


 プリカが心配そうにおいらを覗き込む。


「三下は無茶はしないっすよ」

「お前、無茶しかしてないじゃん」


テルルに突っ込まれる。まぁ否定はしない。兄貴の居ない世界に生きる価値を見出せないってのもあるかもなぁ。


 と、どうこうしているうちに皆一斉に動き出した。やる事は皆一瞬で理解したもんな。凄ぇ。……多分結構な悪用も出来るんだろうなぁこの技術。


「では私達も出撃準備に行きます」


 プリカとテルルはおいらに軽く敬礼すると開いた状態の甲冑と、少し浮いた箒の元へ走っていく。

 プリカは同じ編隊の二人から何かしらからかわれて、ちょと怒っている。可愛い。


 整備兵が退避し、甲冑兵は装着し、竜騎士達が竜へ素早く搭乗していく。

 なかなかの錬度だなぁ。素早い。


「よろしく頼むぜ兎竜とりゅう


 兎竜とりゅうが軽く鼻を鳴らすと体を下げ後頭部付近にある搭乗席を開く。

 おいらも急いで兎竜とりゅうに乗ると障壁が展開され安全が確保される。


 飛竜編隊の最後尾においらがつくように飛ぶ流れはおいらの頭の中に入っている。


 作戦指示時に、整列もせず、漫然としているような感じだけども

 騒いでいようが何していようがある意味強制的に作戦の内容が頭に入るから別に整列も何も必要ないってことか。



「猿くん。内容は理解したな」


 突然カーナから念話が入る。

 指揮官モードのカーナの漢前の念話に思わず背筋が伸びる。


「は、はいっす!」


 カーナの方を見ると軽く片手を片耳に当てながら自分の飛竜に乗り込むところだ。

 廻りを見ると誰も反応してないので個人通話だ。


「『くん』呼びは必要ないっす。猿でお願いしたいっす」

「え……うぇ」


「『猿』でお願いします!』


 少しの沈黙。


「わ、わかった。これから猿と呼ぶ」

 そういえばカーナに名前呼びされたの初めてだな。いつも君呼びだったから妙に嬉しいおいら。


 遠目に見るカーナが少し動揺したようにも見えたが何故だろう。気のせいか。気のせいだな。



 飛竜達が咆哮とともに離陸し、樹々の隙間の障壁を抜けていく。格好えぇな。

 兎竜とりゅうは飛竜達をギロリと睨むと、鼻を鳴らし飛竜を追う様に飛び上がる。


 軽くおいらと繋がっているので、今回は阿呆みたいな速度で船外に飛び出すこともなく、それなりに穏やかに飛竜達の後を追っていく。ちと安心。こいつは結構荒っぽいからな。


 後ろを向くと、後を追うように三隻の突撃艦が音も無く浮かび上がり、急速に加速している。


「うほっ」


 加速の心地よい重さとともに、満天の星空がおいらを迎える。

 久しぶり星空。地上では見ることも出来ない視界を覆い尽くす星の海。天の川のようなものも見え、宝石箱をブチ撒けたような感じだ。


「綺麗だなぁ」


 おいらは思わず呟く。


 視界の右上の方には木星のような巨大なガス惑星がある。

 惑星デュラーか。先ほどの集積念話で知った。


「木星の輪のようなものの中のはずだけども、さほど岩が密集している感もないので拍子抜けだなぁ」


 集積念話によると目的地は輪の中にある小惑星にある鉱山。

 十家族、六二名の救出だ。

 救出とは言っても僻地の鉱山なので攻撃されなかったらしく、彼らをれんの中まで運ぶだけ。楽な作業だぜ。


『通常空域より遥かに岩塊が多い。敵が隠れている可能性もある。各自警戒を怠るな』


『魔女隊は近場の岩塊へ索敵開始』


 カーナの広域念話が入った。


 魔女隊が即時に散開し、辺りの索敵を開始する。

 飛竜には劣るがかなりの速さだ。加速は当然上だ。


『こちら異常無し』


『こっちも何も居ないよ』


 数分ぐらいで多数の広域念話での報告が入る。指令官のカーナだけではなく参加者全員に情報を共有する形らしい。


『猿はどう思う』


 と、突然カーナから個別念話が来た。慣れると念話の感覚で、個別、広域、判るようになってる謎技術。凄い。


『は、はい!星空綺麗!』


 てんぱったおいらは阿呆な答え。


『いや、この状況についての意見が聞きたい』


 そんな事言われてもなー。おいらタダの三下やし。兄貴の参謀めいたことはちょこっとはしてたけんど。本職は三下やで。


『今まで救助や回収時には敵さん来なかったと聞きましたけど……』


『その通りだ』


『でも、此処は結構隠れることが可能な岩塊多いっす。おいらなら此処で襲います。

 敵さんの能力や戦力を把握してる訳でもないので可能な限りの索敵はするべきじゃないでしょうか』


 えげつなさが売りだった敵の高校に誘い出されてボコボコにされた記憶が蘇るおいら。多分基本は同じだよね。

 勉強させて貰ったお返しに、次はおいら達がボコったけどさ。


『索敵させ過ぎても、面倒になって手を抜くようになりかねないっすから適度にっすね』


 索敵しても敵居ない状況続いたら警戒するのも阿呆らしくなるからな。


『猿は軍にでも居た経験あるのか? 妙に詳しいな』

『いや、普通の学生でしたよ。学校同士、不良同士で良く喧嘩してましたからそのせいかな』


『闘技もそれなりに出来る。軍隊じみた喧嘩もある。どんな恐ろしい環境だったんだ……猿は』

『下層街の学校っす。地下組織同士の抗争の子供版って感じですかね』


 そんな事を兄貴の参謀役のあいつが言っていた。


『下層街か……いや、済まない。余計な事を聞いた』

『翡翠には無かったんすか?』


『治安の悪い街はあった。が、殖民されて三百年の田舎惑星だからな。平和なもんさ。記憶水晶で楽園星域の下層街の事は観たことはある』


『いや、本当に嫌なことを思い出させたな。すまない』


 楽園星域ってカーナ達の故郷か。そこまで謝罪が必要な下層街ってどんなんだよ、おいら達はまだのんびりしてたぞ。殺しなんかないしさ。ガクブルするおいら。


 翻訳魔法使ってた時なら、お互いの脳内映像で大体を把握できたのだけども、言語だけの低位念話だと、曖昧でわかりづらいのでお互いどう思ってるか把握できねぇのが面倒臭い。


『あ、そういえば、ファナ艦長が猿の記憶を水晶に転写したいって言ってたぞ』


『記憶転写……確か感情、その他も込みだったような……マジですか……』


『あ、この話は後だな。今は作戦に集中しろ』


 おいらが拒否する臭いを感じたのかカーナは話題を逸らした……気がする。

 流石カーナ。略して、さすカー。


 まぁカーナの兄貴が本気で頼むなら何でも聞くぜ。例え『死ね』といわれても。

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