34話 魔法世界の恋愛事情……凄い進んでるっす。


「どうじゃ、気に入ったか!」

「ああ、気に入ったっすよ。ダダ爺」


 おいらは姿勢を正してダダ爺に見せる。


「おお、似合うな、想定どおりじゃわい」


 ダダ爺大喜び、その他、皆の目も好意的だ。


「おおーし、駄目と言われても救助に参加するぜい!」


 おいらは頬を叩いて気合を入れる。ダダ爺謹製の軍服を着て、やる気満々である。

 だが皆は動かない。


「早速救助へ行こう……ぜ」


 おいらはもしかして参加出来ないのかなと思い、小声でもう一度言う。


「到着は明日遅くだそうですよ」

れんは速いな。あたいらの突撃艦とかじゃ十日は掛かるって距離なのに」


 まじかー。そういえば宇宙は糞広いから移動に無茶時間掛かるんだっけ。

 ……おいらの気合を返して。



 甲板上で軽くダダ爺製軍服の簡単な説明と使用方法を習う。

 ダダ爺曰く、適当にやっとれば覚えるそうだ。優秀な道具は誰でも使えるとのこと。そんなもんかね、兎竜とりゅうも操作簡単だったし。


 次の日。寝室は隔離部屋を継続使用。というかおいら用区画になりそうな気配。


「うおっ、お、溺れ……!」


 横に倒した大型冷蔵庫な感じの大きさの透明なゼリー状の寝具の中、ゼリーの具の如く中に浮いていたおいらは水槽に落ちた芸人の如く暴れながら、睡眠から覚醒する。


 おいらの魔力が心地良いらしく、忍び込んで引っ付いて寝ていた山盛りの使い魔の小動物達が暴れたおいらに起こされ、抗議の声を上げる。

 もうちょい寝たかったらしい。すまんね。


 寝具の中は誰の使い魔なのか知らない沢山のもふもふが、ゼリーの具の如くおいらに引っ付いて寝ていたが、皆目が覚めたようであくびをしながら、文句を言うように鳴きながら出て行く。


「わ、悪いぃ悪い。ま~だ馴れねぇんだよ。溺れた感じになってさ」


おいらは使い魔達に謝りつつゆっくり体を起こす。


 このゼリー寝具は息も普通に出来るし体も良い感じに支えてくれてるので寝違える事もない超優れ物。ついでに言えば時間を指定しとけばその時間に揺れて起こしてくれる。


「不思議寝具は超快適だけど、水の中に居る感が抜けないんだよなぁ」


 おいらは頭を掻くと、膝の上に乗って、いまだ寝てる奴を見る。


「……でだ。」


 おいらの腹の上でれんの分体が寝ている。

 他の使い魔達よりも大きめなので重い。結構重い。


「多分こいつのせいで、石に括りつけられて川に沈められて溺れた感じが……」


 他校のやつらに足に石括りつけられて川へ投げ込まれた事を思い出す。あんときは死ぬかと思ったなぁ。


 分体は竜本体の意識も乗ってるらしいと聞いた。

 竜は賢いし、念話で喋るらしいが、れんの分体は喋らない。


 分体にはある程度の個体意識もあるから、れんは使い魔的に使ってるのかも。

 そちらの方が面白いんだろうとはカーナの弁。


 おいらにちょっかい掛けて来るし、面倒だけど、まぁこいつはこれで悪くない。

 いい感じに寝てるのは可愛い。本体と比べ、こいつは丸っこいし。遥かに小さいし。


 撫でようとしたら、れんがパチっと目を開けがばっと起き上がった。


 左右を見て、胸をおさえ、悲鳴らしき鳴き声上げると尻尾の連打をおいらに入れて、おいらから逃げるように、軽く飛んで離れる。


 ……何その、おいらが襲った的な対応。


 れんの分体はおいらにケツを向け尻を上げ尻尾を振り振りしておいらを馬鹿にしたように煽って来る。


「何だ、朝っぱらからやるのかオラ。喧嘩なら受けて立つぞ」


 おいらは軽く両手を挙げ、すぐにでも飛び掛る姿勢で軽く睨み合い。じゃれ合いと言うべきか。


 と、その時


「起きてるかー、救助の出立の時間だぞー」

「え、テルルさん、勝手に入るの?声くらい掛けないと」


 テルルの大声とプリカの諌める声。

 扉の開く音とともに、二人が入って来た。


「「!!!」」


 止める間もなく入って来た二人が声にならない声を上げ固まった。


 風呂兼、寝具のコレで寝るときは、全裸の場合が多く、今日も全裸だった訳で……

 いや、無茶気持ちよいんですわ……全裸。


「フッ君!」


 フッ君はダダ爺に貰った軍服に付けた名だ。軍服に名前とか奇妙なようだが、なんか付けてしまった。


 フッ君は壁に立つように佇んでいたが、敬礼の姿勢をとると、飛んできてあっと言う間においらに装着される。

 が、彼女達は慌てて部屋をでて行こうとしている。二人とも顔が真っ赤だ。


「まさか朝っぱらから盛ってるとか」


 テルルが顔を顔赤くしながらものたまい、興味ありそうにおいらを見るが、テルルの手をプリカが声にならない悲鳴とともに強引に引っ張って部屋の外へでて行こうとしている。


 おいらは二人の慌てようにしばし考える……。目の前ではれんの分体が相変わらずの姿勢で尻尾を振って、面白がるようにおいらを見ている。


 …… ……


 おいらははたとあることに気づく!


「待て待て待てーーー! 盛ってるとかないわー!」


 おいらは寝具から跳ねるように飛び出るとれんの分体を指して叫ぶ!


「そもそもコイツが勝手に寝床に入って来ただけだー!」


 おいらの魂の叫びに真っ赤になりながら転がるように部屋を出そうになっていた

 プリカとテルルは振り返り、おいらとれんの分体を交互に見る。


 れんの分体は妙な体勢を止め、腹を抱えて大笑い。

 竜の顔でも笑うって感じ出せるんだな。


「いくらモテないおいらでも竜襲うとか……そもそもどうて……」


余計な事を言う前に口をつぐむおいら。童貞まで言ったらせちと下品だもんな。


 二人は顔を合わせ、不思議な顔。


「竜は対象じゃない?」

「昨日、お前蜘蛛族形態のケヒー研究室長に会ったじゃん」


 テルルが指を立てておいらに問うてくる。


「?」

「蜘蛛族の遺伝子は私たちにも僅かながら入っているのです。だから形態変化可能なのです」


 プリカが顔を赤らめおいらとれんの分体をちらちら見る。


「ん、どゆこと……」


 おいらの問いに、プリカが考え込むと、はたと手を叩いてテルルに向かって話す。


「宇宙進出以前は種族の縛りが激烈だったと聞いた事があります。もしかして猿さんもそれなのでは」

「あ、そういう事か。進出以前だもんな」


 二人は納得したようだ。

 二人は原始人でも見るようにおいらを見ている。

 おいらはしばし考える。


 蜘蛛族の遺伝子が混じっているってことはつまり……えっ?

 ケヒー研究室長は蜘蛛女やん。もろ蜘蛛に女の上体がついたような……しかも複眼で目は六個やぞ……


 ……まじか!

 彼女達の祖先は、あの豪快な米利堅メリケンの漢達よりも更に進んだ価値観で……


「高度な知性体同士の恋は止められません」

「だよなぁ。ちょと憧れる」


 二人とも乙女な顔しているが、おいらは文化の差異に叩きのめされる。

 れんの分体は面白い物を見るみたいな笑いを浮かべ二人を見ておいらを見る。


 ……待てよ、んじゃ、おいらが、異星人との戦闘の時、れんにお下品な思考を送ったのはかなーり女性(雌か?)に対して失礼だったんでは。


 との考えに至り、れんの分体に視線を向けると、にこりと笑いこちらにケツを向け尻尾を振る。


「こんのぅ。失礼をしたと思ったおいらが馬鹿だった」


 ……と


『失礼ではない。そもそも言葉に出してないし念話にもなってない状況だった』


 可憐だが荘厳な声が脳内で響く。色々雑念も混じる念話のように思考ではなく、明確に言語。それもおいらの国の言葉だ。


「!」


 驚くおいらは反応して部屋の隅に飛びすざる。


「あん?何やってんの。猿?」


 テルルが怪訝な表情。

 プリカは頭をかしげ、何事かと思案顔。


『むしろ、遅くなったが礼を言う。わたしの感じるよりも先に星砕きの岩に気づき警告してくれた。感謝する。とても、とても感謝している』


 おいらはれんの分体を見、部屋の奥を見回す。


『分体は知能を極限まで落したわたし』

『可愛がってくれ』


 分体は竜が使う使い魔みたいなものか。

 映画とかであった、本体の意識も乗せられる感じで。


 れんの分体はおいらにケツを向け尻尾を振って小悪魔めいた笑いを浮かべている。竜顔だけどさ。


 ……分体だから、れんの本体は偉そうな喋りだけど本質はコレってことか。

ちと笑える。


 パシッという軽い電撃がおいらの顔に入る。

 この電撃の感じ。確かにれんだなぁ。


「あれ、もしかして猿さん、れんから念話でも来たのですか?」


 兎竜とりゅうの中で軽く電撃喰らってたおいらを見てたからかプリカが気づく。


「えっ!本当? 凄いじゃん。竜はこう……竜だからさ。あたい話した事も無いぞ。艦長やカーナ辺りは交流あるみたいだけども」


 竜は上位種族というかそんな感じだっけ。


「テルルはれんと話したことないのか?」

「無いなぁ。他の竜の会話記録水晶は観たことあるぜ。凄い偉そうだった」


れんの分体は喋りませんからね。可愛がられる方が好きなんじゃないでしょうか」


 プリカがれんの分体を抱き上げ頭を撫でる。れんの分体は気持ちよさそうに目を細める。


 ……


 竜版の赤ちゃんプレイみたいなものかー。

 と、ぺしぺしぺしと超小型雷撃の連打がおいらを襲う。


「があっ」


 おいらは逃げるように部屋の外に飛び出した。


「どうやら、図星だったらしいな」


 おいらの的確な突っ込みにちょいと大き目の一発が来た。


 荘厳な感じの喋りの念話だったが、あれは余所行きの喋りなんだろうなと思いつつ、おいらは電撃で軽く気絶した。

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