33話 ファナ艦長は室町時代!……渋いのは装飾!カルチャーショックって奴を受けたっす


「で、どうなんだい」


 ダダ爺が凄むが、惑星一の職人謹製の軍服。


「お、おいらの元々着ていた服交換とか価値が違い過ぎるんじゃ?」


 おいらが召喚時に着ていた服の形を踏襲しつつ、首廻りにワイルドな毛皮っぽいものが巻かれた軍服。正直渋くて格好良い……が……少し気になることが……


「作ったばかりだろうに、何でこんな年季が入った感じなん?」


 目の前の学ラン風軍服は数十年は経た風格の渋みがある。

 皆さんおいらが何言ってるがいまいち分からない顔してる。


「格好良いからに決まってるだろ」


 テルルの言葉においらの頭に「?」が浮かぶ。

 テルルも、ごま塩もプリカも服は上品に年季が入った感じだが……もしや。


 プリカがおいらの疑問の視線に何かを気づいた。


「使い込んだ感じは装飾ですよ」


 ……硬直するおいら。


「部屋とかの年季の入った感じもよ、全部装飾だぜ。気づいてなかったのか?」

「まじかー! 」


 まさかの事実に驚愕するおいら。


「使い込んでない感じとか下品!」

「そこまでは言いませんが、格好悪いですよね。落ち着きませんし」

「あたい、原始文明は新品好むって昔聞いたな」


 テルルの言葉に皆がそういえばという感じで思い出したようにおいらを見る。


「受け取りなさい!」

「悩む余地もないだろうがよ」

「猿さん用の服ですし、選択肢ないのでは?」


 皆、大慌てで受け取りをおいらに薦める。いや、おいらの為に作ったらしいし、

 この最大限の好意を受け取らない選択肢は最初からないっすよ。


 が、これだけははっきりさせて貰おう。

 斜め四十五度のお辞儀をびしりと決める。


「おいらは勇者とやらじゃない! だだの雑魚の三下っす。それでも良いなら頂きます」


 ダダ爺はおいらをギロリと睨む。


「問題無い。では、こちらは貰う!」


 ダダ爺はガラスに入ったおいらの着ていた服を指差す。


「別に構わないっすけど……」

「おお、そうか、そうか。貰うぞ。もう絶対返さんからな!」


 ダダ爺は大喜びだ。躍り上がらんというか、ちょと踊ってる。

 廻りで作業していた弟子も作業の手を止め、両拳を握ってダダ爺を祝福している。


「念押ししとくけど、おいらは雑魚の三下っすよ」


 ダダ爺は勇者ものの演劇が好きとか言ってたからそういうことなんだろうが、おいら三下。

 兄貴には足元にも及ばない。先ほども艦長にぼこられたばかり。


 喜んでガラスに入ったおいらの服を持ち上げて踊っているダダ爺。駄目だ……


「聞こえてねぇ……」


「ダダ爺謹製だからよ、実質、竜騎士が着る軍服なんだよなこれ」


 ごま塩頭が、木枠に着せられた状態で置かれているダダ爺謹製のおいらの軍服を見る。


「ダダ爺の軍服は竜騎士専用だもんな」


 ダダ爺の作った軍服をみて陸戦兵の二人は溜息。


「そんな差があるのか」

「そりゃよ、並の職人と特級職人のつくるものは天と地の差がある」


「竜に乗るって時点でよ、過酷で必要というのもあるけど、竜騎士は失う訳にはいかない貴重戦力の面もあるからさ、装備も特注揃いなんだよ。羨ましいけど仕方ない」


 ダダ爺は踊るのを止め二人を睨むように見る。


「ただの竜騎士用の軍服じゃねぇぜ。素材も手間も俺の全てを掛けて作った逸品だ。並の竜騎士が着るような代物じゃねぇぜ機能も性能も段違いだ」


 おおーという溜息が二人から漏れる。

 プリカも王女もスプイーも驚いている。


 ダダ爺はガラスの箱に入った服を置き、おいらをギロリと見ると指を立てる。


「ファナ艦長と手合わせしたらしいが、これに仕込まれた魔法陣を使いこなせるようになれば長耳族の軍用魔法陣とも互角以上にいけるぜ……お前さん、魔力多いと聞いたからな」


「ん?」


 なんか微妙に引っかかる。


「長耳族の技術ってそんな独自なのかい?」


「長耳は、種族自体が独自。くそ長い寿命と極端な不妊。種族自体が排他的。

 長寿ゆえに殆どが王族で余り混血もしておらん。文化でも独自性を保持している唯一の種族。

 技術も独自かつ高度。あいつらの鼻をあかすのがわしら職人の目標でもある」


 ダダ爺は両手を広げ一気に捲くし立てる。結構根の深い部分があんかね。情熱的な言葉だ。


「血が混じっていても長耳の肉体特性を医療鞘でも浮かび上がらせるのは難しいので

 肉体だけでなく魂も独自じゃないかと言われてますよ」


「謎の種族って訳か……」

「そんな訳ないでしょ!」


 横から王女が突っ込みを入れてくる。


「猿様、それは少し失礼かと思うでありやがります」


 皆、ちょと苦笑いしている。


「変わった種族ってだけ! みんなと何も変わらないんだから!」


 仁王立ちで宣言する王女。だが皆はそうは言われてもなぁな感じである。

 おいらはスプイーを見る。長寿に独自の体。理屈で分ければ長耳達と似てるなぁ。


「スプイーも長寿なんだ……よな?」

「わたしの製造は六百年前でありやがります」

「翡翠の移民団で出発時から居るのはファナ艦長とスプイーだけよ! 凄いでしょ!」

「六百年前だ……と」


「猿さん、猿さんの『一年』と我々の『一年』は時間を同じように区分してるとは限りませんよ」


「こっちの一年は三百七十日ってプリカに教わったし、おいらの寝て起きての感覚に違和感も感じなかったから、そこまで違う訳ではないとは思うぜ」


 隔離中に言語のついでではあるけども、知識は結構詰め込まれた。


「まぁ年寄りだよな、スプイーは」


 テルルがずけずけと言う。スプイーはスルーしている。まぁ若さとかに価値見出さないだろうし当然か。


「だが艦長も出発時から居るとか……マジですか」

「艦長はわたしより年上でありやがりますよ」


 するってぇと、艦長は室町幕府の辺りから生きてる感じ……か。凄いな……見た目は綺麗なお姉さんな感じなのに。今度会ったら拝んでおこう。


「もしや!」


 おいらはぐりんと体を廻し王女を見る。


「失礼ね! 私は翡翠産まれよ! まだ七十歳なんだから!」


 ……お、おう。おいらの居た学校の学食の婆さんより年上かよ。

 おいらの硬い笑いに皆が、同意の笑い。長耳族はやはりちと違うようである。


 と、テルルとごま塩頭のバリガが耳を押さえる。念話でも来たらしい。

 プリカにも来たようだ。


「小惑星から生存者達からの念話が入った、あたい達で救助に向かうらしい」

「おお、まじか。しかし隔離時にも救助行くの見かけたし結構助かってる人居るんもんだな」


「小惑星での鉱石や宝石の採掘場は結構数あるんですよ。小さいのならもう沢山」


 プリカが手を大きく広げて体でも説明してくれる。分かり易いぜ。


「猿達が隔離されてる間、あたいもいくつか採掘場から救出したぜ」


 テルルが力瘤を作るように腕を曲げる。


「大きい鉱山は全部潰されたがよ。家族か親戚が集まってやってる小規模の潰すのが面倒だったのか結構残ってる感じではあるんだがよ」


「救出かぁ。隔離も終わったし。おいらも行きてぇけど……どうなんだろ。軍属でもないし」


 とおいらが言うとトントンとおいらの肩を叩く何か柔らかいものが居た。


「びえっっ!」


 おいらは何の気配も感じさせず肩叩かれたらおいらは悲鳴を上げ飛び下がる。


 拍子に雑然と置かれた作りかけの何かに当たり倒しそうになるが、ダダ爺がなんとか止めおいらを睨む。


「気をつけんかい。勇者様とはいえ、わしの作品壊したら許さん!」


「す、すまねぇ……」


 気配も音も無かった。何がおいらの肩叩いたんだ、と叩いた奴をおいらは見る。


 ……


「な、なんぞ……」


 おいらの前にダダ爺謹製のおいら専用の軍服が、木枠から離れ、

 独りで歩いて、おいらの肩を叩いたような姿勢で止まっている。


 そして軍服が片手を上げ、おいらに挨拶している。


「ぐ、ぐ、ぐ、軍服が勝手に動いたー!!!」

「おー、精霊つきかー、あたいの重骨装甲じゅうこつそうこう

 並じゃん。凄いな」


「おうよ、この大きさに重骨装甲じゅうこつそうこう並みの魔道力場を詰め込んだ傑作よ。おかげで精霊が宿ったわい」


 テルルがつんつんとおいらの軍服をつつくと、軍服がいやんな感じで逃げる。

 遊べる服かよ。このくらい動くんなら愛玩動物にもなるんじゃね。


 と思うものの自動で動く服においらは怯えている。プリカも少し驚いてるようなので、結構珍しいものではあるようだ。


「ダダ爺凄い!」

「超劣化版のわたしみたいなものでありやがりますね。流石に驚いたでありやがります」

「これ着るの?」


 おいらの恐々の問いにプリカも微妙に同意するらしく、思わず目があう。


「精霊なんぞどこにでも居る。服に宿ってるだけだ」


 ダダ爺の目がギロリとおいらを見る。最高の職人の最高の軍服。文句言うのか的な怖い目だ。

 テルルがダダ爺謹製の服をばしばし叩く。


「あたいら甲冑兵の重骨装甲じゅうこつそうこうは皆こんな感じだぜ。

 精霊はどこにでも居るし、いつもあたいらの全て見てるから気にすんなよ」


「奥に更衣室あるから着替えて来い」


 ダダ爺が指差した先にあった更衣室は六畳くらい。雑然とした半分物置みたいな部屋だ。一応大きな鏡もある。鏡に問いかけたら返事来そうでちと怖い。


 軍服の更衣は簡単だ。脱げと魔力を込め念じればほどけるように脱げ、軽く浮かんで近くに箱や机があれば畳んだように落ちる。いや便利やね。


 おいらは脱いだ服は自分で畳む人だったからもやっとするけどさ。


 着脱は普通の軍服と変わらんと言うので、ふよふよとおいらの後をついて来た

 ダダ爺の軍服に『着衣』と念話。この辺りはプリカに初日に習った。


 ダダ爺謹製の軍服はもじもじと恥ずかしそうにしている。


 やばい。これまじで着るの?

 と、するりとおいらに巻きつくようにダダ爺謹製の軍服がおいらに装着される。


「うおっ。なんじゃこりゃぁぁ」


 一瞬で装着されるが、着心地が今までの軍服とはまるで違う。

 装着時も衝撃のようなものは一切なく、何時の間にか着ている感じ。

 肌触りが良いのも、温度調節機能も極めて快適だ。そう、さながら春のよう。


 着衣後全身を鏡で見る。前の服よりも体の線が出る感じだが首もとのぽわぽわも決まって格好良い。

 使い込んだ感じの(新品だけど!)渋みもなかなか……ちなみに軍靴も軍服と一体型である。

 滑り込むように着脱されたダダ爺の軍服。


「これが惑星一の職人の技か……」


 おいらは思わず呟く。凄い。凄すぎる。

 仕込んであると言う魔法陣も、洒落にならんやつなんだろうなぁ。

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