32話 翡翠一番の職人からおいらへ軍服のプレゼント。王でもそうそう作って貰えないらしいっす。マジかよ

 工房は研究区画の逆側、突撃艦が整備を受けている工廠の奥にあった。


 整備を受けている突撃艦を横目に広い工廠の高い天井を見上げる。

 天井に繋がる壁の上の方は人工的な感じが薄れ、樹々の枝があちこちの壁から伸び、緑の葉を茂らせている。


 天井方向から溢れる光りを浴び綺麗である


「うっひょー。やっぱ綺麗だなぁ」

「そうですね。私達は馴れてそういうものだという感じではありますけど」


 更に正面や後方の壁にも蜂の巣か、集合住宅の如く部屋が連なり、人々が作業をし、動き回っている。


「皆忙しそうだな」

「魔道兵装の修理に整備、戦闘後はワイらは忙しい」


 先頭を歩く筋肉髭禿げ爺……ダダ爺だっけ。おいらをギロリと睨むと言った。

 ちなみにスプイーと王女も付いて来てる。暇なんだろうな……


 ダダ爺は音もなく歩きながら、テルルをちらりと見る


「小娘、お前の重骨装甲じゅうこつそうこう、魔法力場が少し歪んでたぞ。修理しといた」

「あ、そうなんだ、ありがとダダ爺」

「それから、バリガ」


 ごま塩頭がびくんっと反応する。バリガという名前だったのか。


「お前は昔、工房に居たんだ。きっちり皆の重骨装甲じゅうこつそうこう把握しとけ」

「いや、それは無理ってもんだぜダダ爺」


 ふんと鼻を鳴らしダダ爺は前を向く。納得したくはないが納得したらしい。

 ごま塩頭はおいらの方を向くと、少し苦々しげに笑う。


「一応、俺もまだ工房に籍はあるんだけどよ」


「バリガは、あたい達陸戦兵の装備のこまごまとした注文を上手く工房に伝えてくれるから助かってるよ」


 テルルが助け舟を出している。脳味噌筋肉だけじゃないらしい。


「わかっとる」


 ダダ爺はぶっきら棒に答えるが、少し嬉しげだ。ツンデレ爺とか誰得だよ。

 船首方向にある壁には中央に体育館くらいの大きさの穴があり、ダダ爺について其処へ向かう。


「これはまた、混沌としてるっすね……」


 穴の中は体育館の六倍くらいはあろう空間が中に広がっている。天井も高く十階建てくらいの高さはありそうだ。


 中央に体育館くらいの太さの樹というか建物というかみたいなものがあり、天井まで貫いている。

 おいら達は其処へ続く通路を歩いている。横には祭りの屋台の如く、沢山の作業場があり、皆なにかしらの作業をしている。


「医療区画と似た構成なんだな~」

「柱部分が中央にあると空間が大きく取れるそうですよ」


 相変わらずの大きさに呆れるおいらにプリカが誇らしげに解説してくれる。


 見上げると……三階くらい上の場所辺りから、ふざけてるくらいに枝があちこちから空中に張り出しており、それに鳥の巣のように雑多な箱型の木と鉄で作られた小屋が建てられ、枝から枝へ通路が上下左右に階段とともに繋げている。


 球状の樹から直接膨らませたような感じの樹の瘤のような小屋もある。


 中央の柱状の建物に向かう上下の通路に囲むように通路が環状道路的配置で二つあり、その脇が雑多な作業場になっている。


 魔女の箒や、なにかしらの魔道部品ってやつが整備を受けている。部品を運ぶ六脚の無人台車が地味に凄い。ひょいひょい人を避けて物を運んでいる。


 作業を指示し、受ける工房の連中の声があちこちから響き、活気が凄い。


「おやっさん、バリガの奴見つかりやしたかい」


 工房の人が作業の手を止め、声をかけて来た。この人も背から義手を生やし六本腕だ。ダダ爺の弟子っぽい。


 ダダ爺は工房長のような立ち位置のようだ。まぁ、見るからにそんな風体だから不思議もない。


「研究区画で道草食っとったわい」


 弟子っぽい人はあきれた顔でごま塩頭のバリガを見る。

 困り顔のダダに王女が助け舟。


「敵の研究は最重要課題よ!」


 王女が腰に手を当て仁王立ち。スプイーは横で畏まるように立っている。


「え、王女様? 何故ここに」

「暇だから特異点について来たの!」


 王女が顎でおいらを示す。

 巨躯のダダ爺のせいで隠れるような状態になっていたおいらに弟子が気づき、


「勇者様か」


 察するように納得したようだ。

 いや、納得してどうすんねん、おいら雑魚三下っすよ。


 勇者呼びや『特異点』とか言われても困るよなぁ。敵の研究には大して役に立たなかったしさ……研究室長は、おいらの意見が役に立ったとは言ってくれたけんど。


 工房の連中は気短そうだからなぁ。おいらが勇者などではなく、雑魚三下と理解したら、騙されたとかでボコられそうだ。ちと怖い。


「あ、どうも、特異点です~」


 大したこともしてないのに、勇者呼びされるのも、一目置かれるのも面倒臭いので、後頭部に片手を当てへらへら笑う三下の動きをするおいら。


 勇者ってあれだろ。超凄い人なんだろ。


 兄貴ならわかるが、おいらじゃ『勇者』とか荷が重いっす。

 弟子が物凄く残念な物を見た顔になるが、それで良い。


 横を見るとプリカも物凄く残念なものを見た顔になってる!

 ……ちょいへこむおいら。


 なんやかんやしてるうちに中央の大きな樹の幹というか建物に着いた。

 樹をくり抜いて使ってる感はもう定番だな。


「おおっ」


 驚くおいらに、工房長のダダ爺は誇らしげに鼻をならし、両手を広げる。


「この艦の重要なものは全て此処で作る」


 内部は工房内でも高度な工程をしてるらしく、様々な種類の機械らしきものがあり、製造途中らしい色々な物品が、沢山の工房員から精密そうな作業を受けている。


 樹の幹の中の作業場は補助椀つけた六本腕が多く、作業している姿も熟練工じみた凄みがありありと見て取れる。


「凄いなぁ」


 田舎者のように工房内を見回すおいらを、皆が見るがその目は何故か誇らしげだ。

 自分たちの文化を褒められるのはやっぱ嬉しいんだろうか。

 熱気と活気があってとても良い雰囲気だ。


「機械と言っても木と鉄、半々か。強度とかどうなん?」

「鉄ばかりだと精霊が嫌がる。あと、れんの体から削り出した樹なら下手な鉄より強度はある。が、精密な加工には向かん」


 工房長のダダ爺が、そんな常識も知らんのかな感じで言ってくる。


「妖精さんか~」


 お仕事手伝ってるらしい妖精らしい輝きも見えるけど、おいらはさほど見える人ではないとプリカに言われたんだよな。隔離部屋には結構な数がいたらしい。


「お前ぇは勇者様だからか、結構な数引き連れてんぞ。魔力が心地良いんだろう」


 えっと言う顔でおいらはプリカを見る。


「ま、前も言いましたけど、私も余り見えるほうではないです。が、結構居るのは感じます」


 急に振られて、あわあわと答えるプリカ。


「妖精は面白そうなところに集まるからな。猿は面白そうだもん。艦長との手合わせとか、あたいは、かなり面白かった」


「だな」


 ごま塩頭のバリガが大笑い。


「そんなのあったんか。わしも見たかった……」


 ダダ爺が妙に凹んでいる。


「ダダ爺はよ、勇者ものの演劇ってやつが好きだったな、そういえばよ」

「そ、そんなこと無いわい。少し、ちょと、ほんのり好きなだけじゃ」


 ダダ爺が少し顔を赤らめ横を向く。

 髭面筋肉爺のデレとかまじ勘弁。筋肉爺が微妙に可愛く見えるのはデレの魔術か。


 工房の中央にある吹き抜け階段を登り三階にあるダダ爺の部屋というか工房に通される。三階部分の半分以上を占める感じの広い専用工房だ。


 中は教室四個分くらいだろうか、とても広い。が、作りかけの重骨装甲じゅうこつそうこうやら魔女の箒、その他わけのわからん魔法陣がこれでもかと描かれた機材が、工具とともの雑然と置かれており、なんか狭く感じる。


 数名の鋭い目をした工房員がそれぞれの机で作業をしている。

 挨拶とかよりも作業優先な態度は、仕事への真摯さを感じる。


 窓側のとても広い作業机の前まで連れてこられたおいら達。


 机の前には……おいらの着ていた学ラン風ブレザーに似た代物が、展示されるように木枠に着せられた状態で置かれている。


「勇者様って奴に服を作ってやった」


 ダダ爺がドヤ顔で、おいらを見る。


 そういえば、おいらの服は兎竜とりゅうで出撃した時、あっと言う間に軍服に置き換わるように着替えさせられたなんだっけ。軍服は着心地良い上に洗浄魔法付きのなので、あれ以来着たきり雀だけど。


「ん?」


 横には展示品の如く上下別々に二つのガラス状の箱に丁寧に収納された、おいらの服がある。


「どゆこと?」

「特別仕様の服を作った。代わりにこれを頂く!」


 ダダ爺がおいらの服を指差すと睨みつけるようにおいらを見る。


「ダダ爺の特別製!」


 王女が大声を上げる。


「凄いわね、王族の注文も気分次第でしか受けない頑固者が作った服じゃない!」


 え、ダダ爺ってそんな凄い人なの? おいらはごま塩頭に視線で問う。


「惑星『翡翠』の中で一番腕の良い職人だでよ。凄い人だぜ」


 ごま塩頭が、木枠に着せられたダダ爺謹製の服を感嘆しながら見ている。顔が職人の顔になってじっくり見て出来に驚愕してる。


 考えてみれば、惑星『翡翠』の虎の子の竜の工房長。確かに半端な腕ではなれないのは予想できる。


「あたいにも作って欲しいなぁ」

「無理に決まってるじゃんよ」


「私の箒も作って……いや、なんでもないです」


 皆さん欲を丸出しである。

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