31話 電脳艦……かなぁ? おいらに機械の事聞くの間違ってません?

 暗い照明に目が慣れてくると、研究区画はかなり広いことに気づく。


 研究区画は工廠の三分の一くらいの広さな感じだが、それでも校舎くらいの広さはある。


 その中央に教室二つ分くらいの大きさ敵の残骸が鎮座している。


 細い支柱に薄い外板。それらが組み合わさり、蜂の巣のような感じの残骸だ。

 だが機械だ。金属を組み合わせ、中には配線らしき残骸も見えるし、何かしらの中央装置的なものも見える。


 異質な設計だけども、れんよりは、おいらにとっては異質でない。魔法ではなく、物理法則を使用した作りな気がする。


「精霊及び、妖精による危険物の察知も検出なし。でもなぁ、一切無いのが恐ろしいんぇ」

「どゆこと?」


「小動物どころか、昆虫、微細生物の痕跡さえ無かったんよ。精霊化した船か霊的な船かと思ったんやけど精霊化どころか、霊的存在も欠片も痕跡なし」


 精霊化? 霊的な船? おいらの頭を?が駆け巡る。


「機械ゆえスプイーはんなら何かわかる思てたんやけど」


「わたしは重骨装甲じゅうこつそうこうに近い存在でありやがります。

 彼らより高度でありますが、魂もありやがりますので、基本魔法で動くでありがります」


 スプイーがそう言いながら片腕を上げ、くるりと一回転する。

 人とは違い結構な魔力の流れがあるのを感じられる。ほんわかに分かる程度だけどさ。


「根元の部分で敵のコレとわたしこと『魔道人形』は違うと断言するでありやがります。つまり全く分からないでありやがります」

「スプイーは魂あるからね!体が金属なだけよ!」


「魂ってあるのか」

「あるでございますよ……」


 少し悲しげなスプイーにおいらは慌てる。


「いや、おいらのいた場所では人でさえ魂とかあるかもしんないねーなノリだっからさ」

「は?あるに決まってるだろ」


 馬鹿ちゃうみたいにテルルに言われるが、そんなこと言われてもな。


「そういえば、猿さんの言っていた、魔法を使わない機械とかと関係あるかも?」


 皆がそういえばとおいらを見る。


「おいらの居た世界ではそもそも魔法がないから魔法で機械は動かないし……魂があると言っているのは胡散臭い奴だけだったんだぜ」


 皆が文化衝撃を受けてるような顔だ。かなり違うもんなー。

テルルなんか口が菱形になってるぞ。菱形!


「翻訳魔法使えた時もっと色々聞いていれば……教えるほうに注力しすぎました……」


 床に膝をつかんばかりに落ち込むプリカ。


「これは高深度思考共有と記憶抽出の使用許可を求めなければいけまへんえ……」

「あたいあれ嫌だな。頭の中は綺麗なテルルさんだけじゃないし。命令だったらするけど」


「記憶と感情、思考の流れも水晶転写へは連動しますからね」

「その割にはプリカやカーナは結構綺麗な思考だけだった気もするけど」


「私は一応訓練水晶は受けて、実技もやってましたし、思考制御の成績は良かったんですよ。多分そのせいです。カーナさんは竜騎士だから全てにおいて高水準ですし」


 おう、綺麗なプリカやカーナは思考制御のおかげなのか。

 少し残念そうなおいらを見てプリカがちょと慌てた感じ。


「制御してたのはほんの少しですよ、ほんの少し」

「そんな事よりよ、これが魔法で動いてないって本当なのかい?」


 ごま塩頭が中央に鎮座している大きな蜂の巣のような残骸を見上げている。


「魔法陣は確かに一切ないでございますね。わたしとは金属でできている以外の共通点は無いと思うでありやがります」


 スプイーは何らかの魔法も使って残骸を見ているようだ。少し模様が輝いている。


「どうなの? 特異点! 何かわかった?」


 元気溌剌に王女が聞いてくる。おいら、機械の専門家じゃないんだけどなぁ。


「おいらには機械にしか見えないっす。配線はあるから『電気』は使ってるのか……な」


 そういえば電気の言葉教わってないや。


「『電気?』」

「雷魔法のあれ」


 おいらはジグザグに指を動かして落雷を表現する。


「!!!!!」


 皆驚いている。

 が、驚いていることにおいらが驚愕だよ。


「……雷かよ」

「雷ですかぇ?」

「『電気』はあれを高度に制御したもの……かな」


「雷でありやがりますか……」


 スプイーが指先に放電現象を起こし、更に両手であやとりのように放電を操る。 


凄ぇ。


 おいらの驚きの視線に気を良くしたのか、スプイーは体表上に浮かべた放電をくるくる器用に廻し始めた。


「こんな感じで制御でございやがりますか?」

「スプイー凄い!」


 王女は大喜びだ。暗い部屋だから雷の芸は映えるな。


「うーん、操るという意味では同じだが、いや、同じなのか……」


 おいらは悩む。


「私達の体も魔力の他に超微量の電の気で筋(肉)を動かしてるし、脳も魂力の他に電の気を使うという話も昔、記憶水晶で習いましたが機械にも応用できるのですね……」


 プリカが感慨深げだ。


「電気どすかぁ。うちら、魔力と魔法陣の方が便利だったからそればかり進んでもうたんどすなぁ」


「魔力の方が出力が少ないと言おうと思ったが、れん竜撃ドラゴンブレスも魔法の一種っすよね」


「ああ、れんはまだ無理かもだけど、竜は惑星も砕けるぜ」


 ごま塩頭がにやりと笑う。


「魔女達もあいつらと互角でしたよ」


 プリカが胸を張る。君は撃墜されてた気もするが、魔女隊だけで見れば、互角、もしくはそれ以上だった感はある。

 恒星間に進出した技術力同士だと、方向性の違いだけで発生する力はさほど差はないのかもしれんなぁ。


 おいらは中央に淡い光で照らされている敵の残骸を見上げる。支柱に外殻。配線等、船の残骸そのものだ。だが手すりや通路めいたものはない。生き物がいた気配がない。


「これは電脳を積んだ無人艦かな。指揮艦って奴があればそれに誰かが乗ってるかもだなぁ」


こんな感じのは娯楽映画で見た事あるっすね。しかし実物見る事になろうとは。


「電脳は魂のないスプイーみたいなもの……ですかね」

「そんな感じかなぁ。魂はないと思う。おいらの居た世界より千年は先の技術かも」


おいらはちょと乾いた笑い。


「つまり、おいらも何が何やらさっぱり分からんということだ」

「すまねぇ、役に立たなくて」


「いやそんなことありまへんえ、魔法が使用されてないことが確認できただけでもかなり違いますえ。他の移民団の末裔って可能性はほぼ排除できましたえ」


「おい、それってえと」

「上もスプイーはんのような魔道人形化した好戦的移民団の末裔が仕掛けて来たと思っとるようですが」


 ケヒー研究室長は一拍置いて皆を見回す。


「憧れていた異星の恒星間文明との初めての接触どすえ。確定事項として報告どす」

「おう、まじかよ」

「初接触が殲滅戦ですか……」


 皆が動揺している。

 スプイーが何故か安心した風な動きと、王女が優しく手を置くのが視界の隅に見えた。


「で、話は終わったんかい」


 俺達の背後から怒気溢れた、爺の声が聞こえた。


「あ……」


 ごま塩頭が、冷や汗をかいて後ろを向くのが見える。


「勇者様に軍服渡すから、はよ来いって言ってたろうが。皆待っとるんやぞ。寄り道するならきちんと念話でもして報告せいゆうとるやろ、この小僧!」


 ごま塩頭より二廻りはでかい禿げ頭に髭ずらの爺がごま塩頭のこめかみをぐりぐりしながら振り廻してる。


 獣が獲物を銜えて頭を振る感じに似ている。物凄く、物凄く痛そうだ。


「あ、いや、すまねぇ。爺さん。ぎぃやぁぁぁ!」


 古参兵じみた貫禄を持つごま塩頭が、小僧のごとくシバかれている。

 恐ろしい爺だ。


 プリカもテルルもびびっている。勿論おいらもびびってる。

 王女もスプイーもびびってる。

 びびってないのはケヒー研究室長だけ。工房近いし、このノリに慣れているのだろう。呆れたようにため息までついている。


 爺は工房のものか、使い込まれた頑丈そうな皮の服を着ており腕が六本ある!……ように見えたが、よーく見ると、四本は背中に背負った金属製の背嚢のようなものから伸びた補助腕……か。


 面白いもんつけてんなぁ。


 作業用なのだろうか、細かい用の繊細そうなのと、頑丈そうなのが

 それぞれ二本ある。工房の爺だろうか。雰囲気が頑固職人そのものだ。


 お仕置きがひと段落した爺がおいらを見つけると、ぎろりと睨みつけるように見てくる。


 ごま塩頭より二廻りは大きい筋肉の塊。それがこの爺だ。肉の圧力が凄い。


「お前が勇者様か」


 野太い声。


「ひゃ、ひゃい」


 勇者呼びではなく特異点呼びして欲しいがそんなことを言う雰囲気じゃない。


「軍服できてんぞ。付いて来な」


 そう言うと爺はくるりと身を翻す。どすどす歩くかと思ったら足音を一切たてねぇ。そりゃ皆気づかんはずだ。


 おいら達はケヒー研究室長にどうするか目線で聞く。


「こっちはひと段落ついたし。今はダダ爺の用事を済ましなはれ」


「またいろいろ聞かせてぇな。敵さんの残骸も気になったらいつでも見に来なはれや」


 おいら達はケヒー研究室長に別れをつげ、工房へ向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る