29話 敵の残骸とスプイーと王女。あと甲冑達……の日常! 日常っすよ! 兵器の!


 長方形に展開された障壁内に敵の船の残骸が鎮座しているところに近づくと、工房の連中が数名色々魔道器を取り出してなにかしらの調査をしている。


 プリカは残骸を障壁外から見て廻っており、工房の連中の魔道器を覗き込んだり、質問したりしている。表情は嬉々としているが真剣さも垣間見える。


 大型トラックほどの大きさのものが十数個、コンテナのように数個重ねて置かれておりさらに小さな小型障壁内に収容された残骸は数え切れない程だ。

 おいらが呆れたような表情をしていると


「これでもよ、結構選んで敵の残骸運び込んだんだぜ」

「大変だったな。切断するにしても結構硬いし重いし」


テルルがげんなりした顔。結構マジ大変だったらしい。


れんと比べれば小さかったけど、数キロメートルはありそうな大型艦だったもんなぁ」


 おいらは障壁内の大きな残骸を見上げる。

 工場を分解した破片って感じだ。


「障壁に入ってるのは隔離措置みたいなもんか」

「そうだな。何があるか判らんからよ」

「幽霊船みたいな感じだった。回収作業してても誰も乗ってる形跡無くて気持ちわりぃって感じだった」


 テルルが両腕を交差し、薄ら寒い感じで作業時のことを話してくれた。


「電脳艦って奴かもな」

「電脳? なんだそりゃよ」


 突然の質問においらは慌てる。確か、軍隊が持ってる……


「予測分岐を沢山詰め込んだ記憶装置……機械みたいなもんかな。専門家でもないので詳細は判らないっす。すまん」


 もっと勉強しておけば良かったと後悔。後悔先に立たずという諺が身に染みる~。


「この残骸とか見たことある感じなのですか? 」


 おいら達の会話が聞こえたか、いつの間にか横に来ていたプリカが聞いて来た。

 プリカにしては声が大きい。押しが強い。顔が近い!


「え、普通に機械だろこれ」


「それはそうなんですけど、これほど大規模に精密に組み合わされた装置は見た事もないですよ。それに魔方陣も一切ありません」


「まぁ俺達の故郷の楽園星域にもこれくらいの大きさの機械ある。記憶水晶で見た事あるがよ」


 ごま塩頭が口を尖らせる。自分達が作れない可能性を認めたくない感じ。


 楽園星域は翡翠の移民団が出発した故郷だっけか。記憶水晶って奴使わせてくれないかなぁ。見たいぜ。彼らの誇る故郷『楽園』を見て感じたいねぇ。


「機械に魔方陣が無いとなると根本的な部分が違うのかしら」


 プリカはごま塩頭の言うことを聞いてないのか思考の海に沈んでいる。


「おいらの世界では魔法なんかないから、魔法なしで機械動いてたよ」

「「「 !!! 」」」


 皆がおいらを見る。

 いやプリカさん。翻訳魔法の時、割りと記憶繋がったりしてましたよね。


 皆が騒いで、すぐに工廠の中の工房に行くことになった。


「早く、早く!」


 プリカがおいらの背を押して工廠へ。

 テルルも押したそうにしていたが、ごま塩頭に首根っこを掴まれている。


「なんでだよ!」

「お前、加減するの下手だろうよ」


 テルルへの認識はごま塩頭もおいらと同じらしい。目を合わせて感謝。

 ごま塩頭も笑いながら拳を握って少し上げおいらの感謝に応える。


 精密な解析は工廠内にある工房でしてるらしい。

 おいらの記憶に関しては、プリカは記憶の映像は曖昧かつ、限定的なのでそういものがあるらしい的な感じで流してたそうだ。魔法なしで動いていたとは考えもつなかなかったそうだ。


 作動原理についておいら考えてもないから、翻訳時の記憶共有に近い状況でも判らなかったと。

 考えなければ伝わらないよなぁ。そういえばそうだった。


 ちなみに兄貴の顔は逆光が差していてわからない

 らしい。体が大きいことは理解してるそうだ。勿体ない、良い男だぞ兄貴は。

 仁王像が生きて歩いてるような感じだったぜ。


 少し歩くと工廠についた。突撃艦の整備、発進区画らしい。

 その区画内に工房がある。


「おおっ凄いな」


 中に入ると後ろを向き、壁を見上げる。


 壁面を見上げると障壁の壁は十数階分の高さがある。

 柱のような樹と枝の合間に黒鉄の太い格子が掛かり、頑丈さを上げ、淡く輝く障壁がそれらを覆い甲板と仕切られている。


 壁のあちこちにある箱状の構築物は事務所とか作業用品置き場か。


 工廠内は広く、飛竜より二廻りは大きい感じの突撃艦が数隻、床で整備を受けており、廻りに雑然と工具のようなものが置かれ、工廠の人達が働いている。


 更に横の方を見ると、沢山の支柱のついた大きく頑丈そうな長方形の鉄枠内に突撃艦が収まっており、それらが少し角度を上方に変えつつ、三段、奥に四つ、計十二ほどあり、数隻の突撃艦が、艦外へ向けていつでも飛び出せるように配置されている。


 大きめの階段が三段の上まで付いており、甲冑兵はそこから乗り降りするようだ。


「甲冑はどこで着るんだ?」

「奥に整備兼置き場があるからそこだな」


 テルルが障壁のある壁側を指差すと、ずらりと並ぶ甲冑が見える…が動いてる?

 格納枠みたいなものに殆どは素直に収まっているんだがそうでないのも結構いる。


 甲冑は隙間が結構あるので乗っているかどうか判る代物だが、あれ、誰も乗ってないよ……な。


 直ぐ乗り込めるようにか、前部の搭乗扉を開いたまま、うろついてる甲冑に

 ぼーっと座ってるものから、体操のように動いてる甲冑もいる。


「あの……誰も乗ってないのに動いてますけど……」

「当ったり前だろ、甲冑乗ってないときは勝手に動くさ」


 そこにもいるだろと指さすと、整備を手伝ってる甲冑もいる。勿論、中の人は居ない。


 甲冑はおいらの視線に気が付くと手を振ってきた……から手を振り返す。

 なんか微妙に喜んでる……お、おう、空の甲冑が動くのはちと怖い。


「人造精霊を付与したり、古くなって精霊化した物を元に甲冑を装着したりですね。

 感情は薄いけどありますし、幼児程度の知恵もあります。精霊化が進んで結構頭良い子もいるらしいですよ。おそらく、整備手伝ってる子がそうですね。」


「お、お化け?」

「精霊だから全く違うだろ?」


 常識だろ的にテルルがおいらを馬鹿にするが、


「そんな常識おいらは知らん」


 驚く三人に驚くおいら。


「ちなみに、その高度な形態がわたしでありやがります」


 横から綺麗な女の子の声で無茶苦茶な敬語が割り込んできた。

 誰やねんと思ってみると、くすんだ金色というか真鍮色のドレス風甲冑を着た人形。仮面風真鍮製の顔を持つ魔道人形。


「スプイーか!」

「はい、わたしでありやがります」


 スプイーは妙な話かたするんだな。

 スプイーはおいらに何か微妙に気後れしてる感じだ。何でだろ。


「機能停止寸前からの魔力吸収機能発動を制御しきれなくて申し訳なかったであやがります」


 真鍮色の体を小さくして申し訳ない感全開だ。かなり罪の意識を感じてるようだ。

 そゆことね。確かにおいら死にかけたもんな。


「不可抗力だったんだろ?気にすんなよ。 二人とも生きてる。それにスプイーが運んでくれなかったらおいら死んでたし。礼を言うのはこっちの方だぜ」


 おいらの両手を広げ笑いながらの言葉にスプイーが微妙に動く。

 真鍮の顔部分が動いた訳でもないのに微笑みを浮かべた感じを受けた。


「二人……でありやがりますか……そうですね。生き延びたでありやがります」


 スプイーのわだかまりは解けたようだ。ま、おいらが気にしてないんだから気にする必要は元々無い訳だ。


 おいらとスプイーはお互いにやりと笑う感じで向かい合う。まぁスプイーの顔は動かないけどさ。


「何二人で話し込んでるのよ!私もいるわよ!」


 下を見ると長耳の王女が居た。

 おいら以外は皆、慌てて少し下がって一礼する。


「王族だからってかしこまる必要は無いのよ!」


 溜息をつくと、おいらより頭ひとつ低い背丈だが、腰に手を当て仁王立ち。

 十歳くらいの結構幼い感じなのでこの態度でも可愛いだけである。あざとい。


 色々飾りや模様がめっちゃ付いて豪華なものの、基本、おいら達と同じ軍服を着ている。

 全身を覆われた体にぴったり合った、焦げ茶色の代物だ。

 区別するためか、スカート状の部分もあるし、多少ひらひらした物もあちこちについている。


 軍服は実質、強化服で地味に便利だもんなぁ。


 着てれば宇宙に放りだされても、生存可能だし、簡易だけども攻撃、移動、回復魔方陣も付いている。

 耐久力も高く清浄機能付きだから体も清潔。着たきり雀も多いと聞く。


「で、王女さんはなんでこんな場所へ?」


 プリカやテルル、ごま塩頭は緊張で固まっていて場が凍り付いているので、、おいらが話題を振ってみる。

 おいらはは別に王族に対する云々はないので割りとざっくばらんだ。


「おまっ!」


 テルルがおいらの喋り方に文句がありそうだが、王女が軽く笑顔で顔を向けると黙る。

王女は無礼講と言いつつ、無礼講でないが定番の上の人間のノリではないようだ。


 逆にちょと敬意を感じてしまうおいら。偉そうな態度の奴とは反りが合わないおいらには王女のような人ならば助かる。超助かる。


「わたしが回収した敵の解析に使えるのではと呼ばれたのでありやがります」

「そして、私は暇だから付いて来たのよ!」


 王女は堂々と『暇』と言うと胸を張った。


堂々と胸張って『暇』と公言する王女。おいらは大物の気配をとっても感じたっす。



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