25話 ファナ艦長と手合わせ。超怖い! 歴戦の戦士の風格凄いっす



 上下区画から伸びた巨木は、物凄く天井の高い広場の半分くらいを占め、枝と葉を生い茂らせている。


 天井の光源は強く、木漏れ日が美しく、どうやってるのか、広場は澄んだ空気が緩やかに廻っている。

 遠くで訓練する兵士っぽい集団や、走り込みしてる人がいて、地味に賑やかだ。


「うおー、気持ちよいなぁ」

「そうか、気に入って何よりだ」


 床に降り、後ろを振り返って見ると円状の最上層の上下区画からの出入り口は人の高さくらいの高さがあり、階段状になっている。


「落下防止かな」

「訓練場でもあるからな。降りるときは階段登ってそのままストンと落ちる感じだな。この階には重力魔法あるから、適度な加速が得られる」


 カーナが早く来いという動作とともに説明してくれる。



 ファナ艦長とプリカは上下区画から離れた場所にいた。


「魔力込めすぎたのねー」

「普通はあんな暴走状態まで魔力注げませんよ」


 歩いて近寄るおいらとカーナを呆れたように見ている。


 おいらはファナ艦長をまじまじと見る。着替えたらしい、軍服は軍服なんだが、腕が露出し、その細腕が丸見えである。腕には細かい魔方陣が描き込まれているが、なんらかの強化措置なのだろうか。


「さてとー」


 ファナ艦長は姿勢を正しおいらの方を向く。


「三下 猿殿」

「勝手に召還してしまったことにお詫びを重ねて申し上げたい。あと戦闘への参戦、魔女や王女の救助活動への助力に感謝を」


 ファナ艦長が華麗に頭を下げる。つられたようにカーナとプリカも頭を下げる。

 おいらは慌てる。


「いやいや、兄貴が亡くなっておいらが元の世界に居る意味もなかったから謝る必要さえないっすうよ」


 兄貴という言葉に皆がぴくりと反応するが、何かを問うことはない。


「猿君、召還されたということはカーナに説明され理解していますかー」

「理解してます」


 一応大雑把な説明はプリカとカーナに受けている。細かい説明は後とも。


「細かい説明をするとね、あれは特殊な召還魔法で何万年も召還に成功してないのー」

「何万年!」

「猿さん、正確には三万と五千八百七年前です。宇宙進出以前……です」


 プリカが小声で教えてくれる。


「何度も試みはされたんだけどねー。ただ、歴史の大転換点になった召還の魔方陣だから、今回みたいに出陣式とかで儀式的に使用される流れになってるのー」


「大昔過ぎて、伝説枠なんだけどさ」


 横からカーナの突っ込みも聞こえて来る。


「あれは特異点とも勇者とも呼ぶと呼ばれている存在を呼ぶと言われている魔法陣ですー」


「ちなみに召還された者は我々の文明の戦士ならば一度は戦ってみたい相手とも言われる存在だぞ」


 カーナがおいらから離れつつ言った。プリカもファナ艦長から離れ、おいらと艦長が向かい合わせの状態になる。


「あたしも艦長の次に手合わせ頼むな」

「いや、無理です、即死します」


 カーナが額に手を当てのけぞる……結構まじで手合わせしたかったようだけども、一撃で伸される絵しかみえないっす。


「そう、我々なら、誰もがお手合わせしたい存在なのですよー。猿さん、貴方は」


 艦長はそう言うとすっと手を上げ、頭の横に手を当て、顔を振ると、髪を綺麗に剃ったように切り落とし、落ちていく金色の長髪に魔力を当て燃やし尽くす。


 この動作全てが華麗で美しい……が


「は?」


 髪をいきなり切り飛ばしたファナ艦長においらは動揺。いきなり髪切り落とすって何よ。禿げよ、禿げ!


 現れた頭髪の無い頭にはなんらかの魔方陣だろう模様があり、淡い輝きを放ち、機能を発生していることが判る。


 露になっている、手のひらまで続く腕の魔方陣も同様。

 ファナ艦長は片腕を上げ美しい姿勢を取る。


 顔にも隈取りらしき赤い筋も浮かび上がる。


「武器は使いますー?」


 武器ったってなぁ。おいらの使うの紐は喧嘩用の代物で軍人相手に使えるようなものではない。


「軽い手合わせなんですよね、素手でいきます」


 ファナ艦長は少し顔を傾けると、少し闘気を纏う。


「本気出しても良いからねー」


 ファナ艦長は一見片手を上げただけの姿勢なのだが……


「す、隙がねぇ」


 ファナ艦長の隙の無い姿勢は美しく、機能美というか体術の達人が持つ華麗さだ。

 昔の仲間で武道の達人が居たがあんな感じだった。が、ファナ艦長の方が遥かに剣呑さが上だ。


 腕に描かれた魔方陣が怪しい輝きを放ちおいらは危険を感じる。

 ちょと脚震えてきた。おいらただの三下よ。


 プリカとカーナの方を見ると驚きの表情で艦長を見ている。


「あ、あのー軽い手合わせですよね」


 目が合ったカーナに問うと、カーナはうーんと言う表情。プリカは引いている。


『ファナ艦長はちょと本気出すみたいだ。歴戦の戦士だから気をつけろよ。殺しは無いから安心しろ』


 カーナの声が襟元から聞こえて来た。念話機能あったな、そういえば。


「いや、殺しはないとか、重傷はありそうな気が……」

『回復魔法ありますから大丈夫ですよ。猿さん』

「プリカさん、それ大丈夫って言わないから!」


 思わず叫ぶおいら。

 そうだ、開幕土下座だ! 土下座して許してもらおう!


「いきますよー」


 艦長がゆらりと動く。そして一瞬姿が消える。

 のんびりした声とは裏腹に、一瞬で間合いを詰めると凄い踏み込みからの、手刀突き。


「うおっと!」


 開幕土下座をかまそうと思ったが、攻撃されたら自然に回避してしまう自分の性が悲しい。

 顔面は狙ってないけど心臓は狙ってた。ファナ艦長恐ろしい。


「あれを避けるとは、腕が立つとは陸戦隊の連中から聞いてますしたが本当ですねー」


 更に、追撃の後ろ廻し蹴り、裏拳、手刀の連撃が来るが、おいらはことごとく回避。

 おいらの知っている体術の動きとさほど差はないのはありがたい。

 人の体を動かすのだから、当然と言えば当然か。


 視界の端で陸戦隊が艦長を応援して騒いでいるのが見える。

 ファナ艦長の容赦ない突きと蹴りの連撃。


 一発でも喰らえば、洒落にならないだろうと思われる速度においらは冷や汗をかく。

 超痛いのはいやなんよ。わざと上手く喰らって終わらせるんよ。


『わざと当たったりしたら、追撃いれるよー』


 おいらの微妙な迷いを読んだ艦長が攻撃の合間に念話して来た。

 まじかよ。降参無しとか痛いの確定やん。


 ファナ艦長の動きに少し妙な感じと魔力の動きを感じる。

 召還されてから、なんか判るんだよなぁ、魔力……


 咄嗟に感覚を広げ、何かが来るのを感じた。後方より六個、円盤状の何か。


 ファナ艦長の連撃を回避しつつ、円盤状の何かを引き付け、直前で無理やり下方向へ体を沈めおいらは回避。上手くいけばファナ艦長は自分の放った何かを喰らうはず!


 ……のはずだったが、艦長は避けもせず、その何かは艦長の横を通り過ぎる。


「お見事ー。でも自分で放った空刃を自分が居る軌道を通らす訳ないかなー」


 おいらは後ろへ飛んで距離をとる。

 ファナ艦長は口元へ指を当てながら綺麗な立ち姿でおいらを見る。


「やっぱり見えてますか、いや、感じてるのかなー」

「なんか、こっち来てから感覚が鋭敏になってるんすよね」


「ふむ、桁外れの空間把握能力が、今回の特異点の特徴なのかしら」

「こっちの世界の人ならおいら程度皆もってるんじゃないのかな」


 ファナ艦長はのんびりした感じだけど、聡い。

 こちらに来てからというものの、ちょとおいらの感覚というか空間把握が変なのをちょいと戦っただけで認識したようだ。


「うーん。ある程度できるけど、ここまで出来る人は少ないかなー」


ファナ艦長は会話しながらも六個の空刃くうは……だっけ。それを操作してるっぽいが。

かなり複雑な軌道を描いているのがおいらは感覚で判る。距離もかなり正確にわかるんだ。おいらは視線をそれらの軌道に向ける。


召喚前はここまで鋭敏な感覚もってなかったよなぁとおいらは思った。

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