24話 カーナにお姫様だっこされたおいら。恥ずかしいっす


「軽く運動というか、手合わせなんでしょうか?」


 ファナ艦長が優雅に微笑む……どうやら、そういう事らしい。

ちなみにれんの分体はついて来なかった。興味ないらしい。


おいらと軽く目を合わせると頭を傾け、手を挙げ指をわしわし動かすと、料理の残りを部屋にいた使い魔達と食べながらおいら達を見送った。


まぁ、竜から見れば、人の強さなんて蟻同士の戦い見るようなもんだろうし興味も沸かないか。


 皆と隔離区画を抜け、中央付近にある巨大な吹き抜けへついた。

 吹き抜けは教室二個分くらい? の直径がある。


 そこ垂直に五メートルはあろう幹の太さの巨木が立っており、葉や枝も生い茂っている。


 通路の端に立ち、上を見ると遥か上まで樹が伸び、下見てもも落ちたら助からない高さではある。


 綺麗だけど、廊下から柵もなく、そのまま繋がっている。上下に飛ぶように移動してる人達も見えるけど危ないでしょここ。

 おいら魔法なんか使えないぜ。


 円筒状の空間には障壁の淡い輝きもあり、防災上の区画分けもきちんとあるようだが……


「なんぞここ」


「居住区は大きいからな。上下移動区画って奴だな。ここは重力も無いから落ちても平気だぞ」


 そう言うとカーナとファナ艦長は廊下からそのまま吹き抜けに脚を踏み出し、そのまま宙に浮いている。


「大丈夫ですよー、おいでなさい」


 ファナ艦長も吹き抜けの中で浮かび、面白そうにおいらを見ている。

 通路の端で上下見て固まってるおいらの横でプリカが悩む。


「こういう場合押しちゃうのが、新兵への通過儀礼でもあるんですよね」


 まじかよ。


 プリカの押す手を感じ、おいらは本能的に回避、


「きゃ!」


 だがプリカがバランスを崩し、吹き抜けの中へ。


「しまっ!」


 おいらはプリカが落ちると思い、手を取るもおいらも均衡を崩す。

 咄嗟に落下の衝撃をおいらの体で吸収すべく、プリカを抱き寄せ、落下に備える……が、斜めになったまま、ぷかぷかと浮いてるだけ。


 腕の中では真っ赤になったプリカがもぞもぞしている。


「あ、あれ? 何で」

「無重力って言ったろう」


 カーナが呆れたように言う。


「あ、そうでした」


 恥ずかしい。


「あ、あの」


 プリカが腕の中で真っ赤になって涙目である。抱きしめたままだった。


「あ、すまん」


 おいらも赤くなりながら腕を開いてプリカを開放する。


「いやー、若いって良いねー」

「いや、ファナ艦長、そういうのではないから」


 ファナ艦長はおいらをからかいながら、腰辺りに手を当て魔方陣を起動。

 すっと上へ、プリカも恥ずかしいからか、そそくさと上へ移動している。

 すまんプリカあとで謝ろう。


 横でカーナが笑いながら浮かんでいる。銀桃色の髪が無重力で広がりなんか綺麗だ。


「自分の体を下にして落下に備えたのは、仮に無重力でない場合、少なくともプリカの生存の確率は上がるからか」


「いやー、どうなんでしょ。そこまで深く考えてないなぁ。体が自然に動いただけだし」


 カーナは腕を組み思索している。いやそんな深く考えても何もないです。はい。


「召還者か……学派によっては特移点とも勇者とも呼ばれているが…」


 カーナは腕を組み複雑な顔をしている。勇者はともかく特移点は気になる。

 ていうか妙においらの評価が高い気がする。


「おいらはただの三下っす」


 三下とか子分とか同じ意味の言語がこちらにもあっておいらは歓喜したなぁ。

 三下は『雑魚』の意味に近い感もあったけど、まぁそんなもんだし。


「わたしは軍人だ。子分は要らんぞー」


 察したカーナはにこやかに拒否発言。そもそもカーナと呼び捨て要求されてるしな。


「お、おうっ、そ、そうっすか……」


 おいらはダメージ受けて、宙を漂う。

 かなーり、しょぼくれたおいらを見たであろうカーナは熟考し、しばらくすると、ため息をついておいらを見る。


「子分は無理だが、私の指揮下に入ることはできるかもなー」


「!」


「そうか、その手があったかー!」


 今後の指針は決まった!

 喜びで体を動かしたおいら。無重力でそんなことをしたら当然の如く、体がくるくる廻る羽目になる。


「うぇえ。気持ち悪い」

「何やってんだか」


 カーナは笑うと、軽く襟を掴むだけでおいらの回転を止る。


「軍服の腰の横に飛翔魔法用の簡易魔方陣がある。魔力を通せば起動する」


 なんとなく指導教官風に話しかけてきた。おお。なんか嬉しい。三下の心が疼く。


「気合入れていくぜー」


 確か気=魔力な感じだったよな。目の前に手のひらを掲げ気合を入れた後、おいらは気合をばっちり入れて腰に両手を当て、魔方陣へ魔力を流した。おいらの闘気が目に見えるが如く。


 魔力流しは隔離中も何度かプリカに説明と実技は習ってもいるからな。


「馬鹿っ、流しすぎだ!」


 ……カーナの悲鳴のような声を背に、おいらは弾丸の如く上へ弾かれるように飛び出して行った。


「いやぁぁぁ」


 おいらは悲鳴をあげながら、洒落にならん速度で巨大な吹き抜けを上昇していく。

 驚く他の通行者。

 吹き抜け中央にある柱のような巨木の幹が、直ぐそばで駆け抜けるように下へ移動する。


 ぶっとびながらも魔力の入れ具合で左右移動が出来る事に気がつき、上方で移動していた女の子を回避、さらにぶち当たりそうになった枝を回避!

 素早さ自信があるおいら。当然ながら反応速度も速いが、これはキツイ。


 弾丸のようにおいらは巨大な吹き抜けを抜け、広場のような場所へ飛び上がる。

 樹の幹が終わり、太い枝がや葉が沢山生い茂る樹幹がおいらの飛び上がる先に見える。


 あれにこの速度で当たると……走馬灯が駆け巡る。

 と、おいらの横を何かが過ぎ去っていく。

 カーナだ。


「この速度、受け止めるとか無理ですって」

「魔力を抜け! 手を腰から離すだけで良い!」


 上を見ると緑の樹冠を背後に両手を広げたカーナがおいらを受け止めるべく空中で仁王立ち……空中になびく髪と闘気で鬼神のように鬼綺麗だ。


「回避行動するな。そのまま来い!」


 回避しそうになったおいらをカーナが叱咤。慌てて回避行動を止める。

 弾丸のように打ち上がった、おいらをカーナは両手を広げおいらを受け止める。


 軍服の障壁の設定なのだろうか、そのまま人型の柔らかな壁にぶち当たったかのような感触。


 だが慣性は消しきれず、カーナの背後に生い茂る樹の枝をいくつもぶち抜き上空へ打ちあがる。

 太い樹の枝を何本もへし折る音がおいらの耳に聞こえ、しばらくするとおいらの体はカーナに抱きかかえられ止まった。


 カーナはさほど大柄でもないのに、まるで鬼神の如く軽々とおいらを受け止めたことに、今更ながら、おいらは驚愕する。


「怪我はないよな」

「あ、はい、大丈夫です。カーナこそどうなんです?」

「これくらいで怪我するようでは竜騎士は出来ないなぁ」

「そ、そうっすか」


結構な衝撃だったけどなぁ。

 生い茂る樹の枝や葉にめり込むように止まり、樹々をへし折る音に、眼下の広場には結構な下の方で人が集まっている。


 カーナの腕の中で見上げるカーナの顔は逆光で良くみえない。


「すみませんでしたっ!」


 怒っているのかと思い、即、謝るおいら。

 カーナが顔を少し斜めに傾けると表情がわかった。面白そうに笑っている。


「物凄い速度だったな。あれほどの速さで上昇できる奴はそうはいないぞ」

「おう、なんぞ褒められた、嬉しい」

「まったく、調子に乗るなよ」


 失敗を咎めることもなく、笑い飛ばす。やっぱ兄貴に似てるなぁ、カーナは。


 カーナの髪の毛が樹々の葉まみれになっているがカーナは気にする様子もない。

 ぶるぶると頭を振り、髪を震わすと魔力を流し髪のごみを落す。地味に凄い。


「よし、降りるぞ。何もしなくて良いぞ」


 そう言うとカーナは体勢を床で立つような感じに変える。

 嫌な予感がする。カーナは階段は使わない女だ。もしや……


 嫌な予感は的中し、カーナはおいらをぽいっと上へ放り投げる。それはもう乳歯を屋根上へ投げ上げるがごとく。


 そして本人はそのまま。すっと落下していく。

 おいらは気を使って、カーナに抱きつかないようにしていたのを後悔した。

 カーナは色々雑なのを思い出した。


「これは放り投げって言いますぁぁぁ」


 おいらは悲鳴をあげつつ落下する。十階分くらいの高さはある。

 死亡確定の高さである。

 恐怖に暴れるか、腰の飛行魔法陣とやらを起動したくなるが、カーナを信じて体を丸める。何もするなと言われたし……


 上方へ放り投げられたおいらの下をカーナが落下し、数秒後、物凄い音を立てて着地、広げた両手の中に背中からおいらが結構な衝撃音とともに収まる。


「こっちのが速いからな」

「速いとかそういう問題では……」


 カーナにお姫様だっこされてるおいら。恥ずかしいので猫のようにもがいてカーナの腕から離れ床に降り立つ。


「助けて頂き、ありがとうございました」


 頭を下げる。


「次からは気をつけてな。あと、そこまで畏まらなくて良いぞ」


 カーナからの返事の中に微妙な圧が……礼儀の按配は難しい。

 少し向こうにはファナ艦長とプリカ。

 そして、ちょと向こうに訓練していた陸戦隊がいる。陸戦隊は甲冑兵達の別称だ。


 広場は運動場というか訓練場も兼ねてるようで、あちこちで軽装の人が結構体を動かしている。訓練中の陸戦隊の中に居たテルルが。おいらを指差し叫ぶ。


「うおー、ああいう抱かれ方、私もされてみたい」


大笑いの陸戦隊の連中。テルルは何で皆が笑うのかわからんらしい動き。

テルルは悪意はなさそうだけども……


あの娘いつか軽く頭突きかましてやるとおいらは心に決めた。

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