22話 隔離区画でプリカと勉強。もふもふもあるよ

 結局隔離区画ごと隔離となった。

 他の部屋もたまり場にしてたらしく密林化してたからだ。


 ついでに使い魔の小動物達も隔離。鉱山のカナリア的な役目なのかもな。あの医者なかなかえぐい。


 カーナは密林化した多くの部屋に頭を抱え、れんはそ知らぬ顔で横を向いていた。ある意味自分の体内どうしようと勝手やんなノリもあるようだ。



 数日後、最初に案内された隔離室の机でおいらは机に突っ伏し、唸っていた。

 ぶっ続けの学習である。へばるのは当然っす。


 横に居るプリカが呆れた顔で片手で本を開きつつおいらを見ている。


 隔離初日は異邦人であるおいらが珍しくて沢山魔女が覗きに来たが、水晶による知覚共有もあるせいなのか、すぐに来るのは使い魔に会いに来る魔女くらいになった。


 なんにしろ話題になってるらしい。

 皆、余り格好良い男でもないので残念そうな顔するが、しゃあないやん。おいらは雑魚三下だーし。


 窓の向こうには、小型の民生箒に乗った数人の隔離された使い魔の主人達が使い魔達を覗きに来ており、窓越しに使い魔と戯れている。使い魔と言うより半分ペット枠なんだろうな。

 彼女達はプリカやおいらとも結構会話してる。


 窓にいる魔女の内二人、おさげと短髪の魔女はプリカと三人一組の戦隊単位らしく仲が良く、特に遠慮が無い。


「ねえねえ、同じ部屋で間違いとか起きないの?」


 いやらしい笑いのおさげの質問にプリカが噴出し、真っ赤になっている。

 判ってるのにこの質問、絶対プリカをからかってる。


「いや、寝てるのは別の部屋だからな、お前らの使い魔はおいらの上で寝てるけど」


 実際、朝にもふもふに覆われていて、死ぬかと思った。

 横にいたれんの分体がにやりと笑うと、おいらの視界内から、ふわふわとやって来て抱きつくと耳に息を吹き込み、窓外の魔女達を見る。


「え、もしかして竜と……」


 窓外の魔女達ドン引きである。ちなみにプリカも目を見開いている。


「いや、そんな訳ないから!」


 おいらは小悪魔のような性格のれんを引き剥がそうとするがれんは分体とはいえ竜。さらに抱きついて来る。物凄い力だ。骨折れるわ。


「きゃー、いやー」


 と言いつつ大喜びの窓枠の魔女達、おいらを見る目は完全にヘンタイを見る目だ。


「プリカさん、違うからね」


 れんの分体の抱きつきに苦悶の表情のおいらにプリカは頷く。


 学習の先生は同じ隔離組のプリカが行っている。多分区画纏めての隔離はこれも理由なんだろうな。


 プリカはぶっ続けでおいらに教育を施してる訳だが、割りと平気のようで、真面目ちゃんの

 面目躍如である。集中時間が長い。途切れない。凄いぜ。


 優秀なんだろう、カーナも一目置いてる気がする。

 窓外の魔女達に聞いた所によると、かなーり優秀らしい。本人は真っ赤になって否定してるが。


 密林のような部屋は妖精も多数居るせいか清浄さが抜群で地味に居心地が良い。

 部屋は沢山あるが結局この部屋を主に使う感じになっている。


 机の前は広い窓で広大な甲板も見渡せ、開放感も抜群である。


 今回はカーナは参加してないようだが、敵の破壊された船の破片の回収作業や、小惑星の奥深くで生き延びたの採掘屋家族等を救助に行く飛竜や魔女達による準備作業も見える。おいらも参加してぇなぁ。


 ちなみに、妖精達や使い魔の小動物達がおいらに群がって遊んでいる。


「お前らも隔離されて大変なのに楽しそうだな」


 うりうりと指先でリスのような小動物(ケリンと言う動物らしい)つつくと大喜びで甘噛みして来る。


「妙に懐かれますねー。」


 プリカが胸元の小さな首飾りを触りつつ言ってきた。


「おいら魔力が桁はずれに多いらしいからなー。居心地良いんじゃね」


 翻訳魔法は続けて使用しているものの、長時間使用は避けて、学習時間だけになっている。もう会話は基本、こちらの言語だ。


「うーん、頭が沸騰しそうだよぉ」


 おいらは頭を抱え本に向き合っている。勉強がわからないというよりはわかり過ぎて頭が沸騰しそうな感じなんだよな~。


 プリカが本を読むのを、翻訳されながら、復唱しているだけで、発音や意味、更に感覚的な代物までみっちり入って来る。しかもほぼ一発で頭に入って来る。本を一冊読むだけで膨大な知識だ。

 発音を間違えても意識して記憶すれば修正し、合格貰った発音を刷り込み可能だ。


 これでも学習水晶と比べれば、全然らしいから、カーナ達がおいらへの使用を禁止した理由がわかる気がする。下手すれば人格の根元に干渉しかねないっすね。


 横の樹の上ではれんの分体が果実を食べてながらこちらを見ている。


「分体は、本体の延長ではあるけど独立してる、けど、れんの意識は乗ってるとか知らなかったですよ。私」


 プリカが手元のナッツのような果実を持ってれんの分体の口元に持って行くと、臭いを嗅いでから上手にそれを手から食べる。


 ドカドカと言うカーナの足音が聞こえて来た。防音はしっかりしてるので、軍服の通話機能を通して、わざと足音を響かせてると思われる。


 窓の外の魔女達にも足音が行ってるらしく、魔女達はきゃーと悲鳴を上げると、おいらとプリカに挨拶するとそそくさと離れて行く。きゃいきゃいと姦しい。


 窓枠に引っ付いての飛行は禁止までは言わないが小言は言われるくらいの行為らしいから、怒られる可能性大だしな。


「飯、持って来たぞ」


 食事を載せたトレイを乗せた宙に浮かぶカートを押してカーナが部屋に入って来た。ちらりと窓の方を見たから、魔女達には気がついてるようだ。ちょと笑っている。


 カートは結構装飾が施されていて、中世感が凄い。

 カーナは軍服で高度障壁を展開してあるので、隔離対策も万全である。

 喰う時には口元だけ一部解除するけど、まぁそこまで厳格な隔離処置でもないらしい。


「待ってましたっ!」


 毎日の検査も受け、問題ないとの判定が出たので、今回はまともな料理らしい。


「あの白い羊羹とはおさらばだ」


 おいらは席を立ち喜びを体で表すように手をあげ叫び軽く踊る。


「あれも魔法があれば、美味しいんですよ。作業しながらでも食べられますし」


 プリカは喜ぶおいらに微笑みながら本を伏せる。

 プリカは通常の料理より、手軽な軍食の方が好みらしい。


 彼らのようにおいらに魔方陣を体に描き込むのは、耳長族のファナ緑葉艦長が止めたらしい。何でだろうな。彼らも後天的に描き込むらしいから問題はないはずなのだが。


 料理は色々手の込んでそうな肉の塊に野菜の盛り合わせ。焼いたパンらしき代物もある。いい匂いだ。


 中央のにあるテーブルにカーナが料理を運ぶ。プリカも急いで手伝いを始める。

 おいらも急いで手伝う。


「カーナさんは上級士官なのに、割りと自分で動くですね」


 おいらが言うと、カーナはおいらの背中を軽く叩き、


「『カーナ』だぞ~」


「むしろカーナ様とかカーナの兄貴(これは女の人には失礼か)と呼ばせてくだ……」


「まだ言うかな~」


 カーナが片手でおいらの顔を掴み、微妙に持ち上げる。手加減してくれてるのが微妙に嬉しい。


 カーナは隔離室にはちょくちょく顔を出しており、呼び方も呼び捨てにしろとは言われてるのだが心情的に色々厳しい……が、やはり呼び捨てでないと許してくれないようだ。

 元々この軍では私生活では余り階級呼びしないらしい。


「わ、わかったから下ろしてくれ、カー……ナ」


「よろしい」


 にかっと笑うと、可愛い女の子の顔だ。


「楽しそーだねー。私も混ぜて」


「!」


 おいらは後ろを振り向きながら、跳ねるように声と距離を置く。


「いやー。驚かせたかなー」


 何時の間にか後ろにファナ緑葉艦長が立っていた。

 のんびりした言葉に穏やかな雰囲気と高貴さが同居する長耳族だ。

 両手に緑色の軍食を持っている。


「いや~、驚いたっすよまじ」


 過剰なほどの回避はおいらの本能みたいなもんなので制御は難しい訳で……

 過剰反応に笑うカーナと驚いた顔のプリカ。ちょと恥ずい。


 おいらが気配も感じなかった。結構強いの? この人。

 というおいらの視線に気づいたカーナが頷く。


 体に仕込まれた魔法陣によって女性でも馬鹿力の奴居るもんな。この世界。


 学習の合間に窓から見えた甲板の風景の中、甲冑娘のテルルが巨大な鉄板を軽々と片手で運んでた。甲冑着てない状態で。


 勿論、そんな持ち方は危ないので古参兵らしいおっさんに怒られていたが。


「軍食不味いって言ってた報告入ってたから、特別製の美味しいの作ってきたよー」


 ファナ緑葉艦長は両手の緑色の軍食を振る。威厳も糞もない。


 ……と艦長が何かに気づき、その視線の先にはカーナが運んできたトレイの上の割りと豪勢な食事がある。


 にっこり笑うと


「食べれる種類増えたらしいし、特別製の軍食持ってきたよー」


 と、おいらに差し出す。折角作ったので意地でも食べさせる気らしい。二つも!


「ありがとうございます。頂きます」


 この世界の敬語も使えるようになったおいらは早速使ってみた。

 もちろん両手で受け取り頭も下げる。軍の偉いさんとか面倒の塊だからな。


「硬くならなくて良いよー」


 最初に会った、ちょい混乱した状況ならともかく、もうそうはいかんでしょ。

 無礼講は無礼講でないのはおいらは昔の仲間に叩き込まれた。文字通り拳で。

 そんな言葉を真に受けるほど純真ではなくなってるのさ。


 おいらは更に深く頭を下げる。


 頭を上げるとファナ艦長の少し残念そうな顔。カーナは艦長と目を合わせ、少し笑うと仕切る。


「おーし、食べるか、プリカ、艦長の分も取り分けて」


 小皿の数に余裕あったので、プリカは急いで取り分ける。ガチガチに緊張している。カーナやれんの分体にはもう普通に話してるんだけどな。


 カンカンという皿を叩く音がしてそちらを見ると、れんの分体が座って自分への配分も催促していた。椅子の上に座ってる姿はまるで竜のぬいぐるみだ。


「皿を叩いて食事を催促する高位種族とは一体……」


 地獄耳のれんがおいらの首筋に電撃、なかなかの一撃においらはれんの分体と睨み合う。


れんー」


 ファナ艦長が優しい声で咎める。


 するとれんがびくっとすると、正面を向き姿勢を正す。

 おいらも感じた。なんか怖い! 優しい声だけど怖い!……ので直立不動の体勢。


 真面目に挨拶しといて良かった!竜もびびらすファナ艦長、恐ろしい!

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