20話 隔離室……そこは獣の集うジャングルだった。いや何でやねん

 今更な気もするがおっさんの強硬な主張によりおいらは検査結果出るまで隔離となった。

 プリカも接触が多かったので隔離だそうだ。カーナは大丈夫らしい。



 食事は持って来させるとカーナが言い、おいら達は、おいら達は適当な会話とおいらの復唱を繰り返しながら隔離室を目指す。


 疫病とか流行ったときに使う部屋だそうだが余り使われた時はないらしい。


 プリカはすぐに気絶したので兄貴の記憶ダメージも少なく、莢に入ったので精神的な安定も復活したそうだ。莢げぇ。プリカにおいらが謝罪したら逆に恐縮された。


 次は即、翻訳魔法遮断するけど、耐えられないので申し訳ないと言われ今度はおいらが恐縮した。


 おいらもまだトラウマ克服できてるとは言い難いのであれを他人に味わわせるのはちょと駄目だと思うので了承した。実は兄貴の姿をもっと知って欲しいのは秘密だ。


 カーナは追憶に取り付かれたおいらの気持ちを半分受け持ってやると言った。男前すぎる。


 翻訳魔法は強力な言語習得魔法でもあるので、驚くべきことに簡単な挨拶や会話ならもう可能だ。

 数回も繰り返せば意味と喋り方覚えるからな。細かい会話や議論はまだ無理だけどさ。


「これ、他の学習にも使えるよね」


 カーナがにやりと笑い、答えてくれる。


『使える。が、危険』


「え、危険なの!」


 そ、そんな気はしてたんだよな~。少し繋がり過ぎだよねこれ。

 プリカが判り易く説明してくれる。


『思念交流深度、高』『人格融合の可能性、大』


「お互いの思考が混じり過ぎる可能性か。……もしかして……洗脳に使える?」


 おいらの言葉の意味を掴むまで少し時間が掛かったが、カーナが複雑そうな顔で

返答。


『使える』


 カーナ思念の端にちょと怖い映像。

 そ、そういえば最初使用で軽く揉めてたもんな~。


『注意、使う、有用』『解釈の齟齬、減少大』


 と、プリカの説明。プリカは怖い使用方法の知識はないらしく、そこまで忌避感はない感じ。

 むしろ有用だからもっと使うべきな感じである。


 翻訳魔法による人格融合の危険より、異文化同士での相互理解の齟齬の危険性を回避したのか。長時間継続はヤバそうだけども。




 辿り着いた隔離区画は医療施設より少し上にあって、結構広い。

 船内はどこでもそうだけども、使い込まれたような渋い感じがなかなか趣がある。


 弓状の廊下の先に扉が沢山あり、その中でも真ん中の部屋に案内された。


 景色が良いらしい。船内で景色って……と言いたいが聖樹竜ユグドラシルドラゴンはくそでかいし、居住区画は樹林の如くな訳で景色にはちょと期待。


 カーナが手を翳すと引き戸の扉が右へ引き込まれ、障壁の淡い輝き。

 カーナに続いて、中に入ろうとしたその時、


「何これ、きもっ!」


 おいらはゼリー状の何かに手が触れ思わず、廊下の端まで飛び下がる。


 プリカはおいらの反応を見て面白そうにしながら、そのゼリー状のもので満たされた小部屋に入り振り返ると手を振り説明。


『消毒と洗浄』


 へ、へぇ~。その中でも呼吸出来るのね。かなり粘度高そうだけども。


 カーナが笑いを堪えながら、おいらを手招きしている。


 おそるおそる入るおいらカーナが痺れを切らし、強引に中に引き入れる。


「あ、あ~れ~」


 時代劇の小娘のような悲鳴を上げおいらはゼリーの中。

 口の中にもゼリーが入って来るが何故か息はできる。不思議。


「お、溺れ……ないだと?」


 カーナとプリカが当然だろう的に笑顔でおいらを見ている。びびったおいらは、ちょと恥ずかしい。


 仄かな緑色の光の中、数秒経つと廊下と変わらない色の光になり向こうの部屋に続く扉が横滑りして開く。


 隔離室と聞いて独房のようなものかと思っていたが、


「こ、これはなかなか」



 ……そこはジャングルだった。もっそジャングルだった。

 部屋の中に樹々が生い茂っている。

 聖樹竜ユグドラシルドラゴン内は、室内でも天井から光りが降り注いでいるゆえに、木漏れ日が美しい……室内だけど!


 中を動く小動物や小鳥、蛍のように光る何かが沢山居て樹の枝の影に隠れこちらを伺っている。


「ま、魔法世界の隔離部屋って凄いっすね~」


 見るとカーナとプリカは固まっている。どうやら放置部屋が埃だらけになるの、この世界版らしい。


 元は開放的な大きな窓付きの綺麗な部屋だったっぽい。奥に大きな窓と、備え付けの机が見え、樹の葉の間から見える床には綺麗な模様が描き込まれており、造りつけの本棚には沢山の本が見える。


 カーナが何か叫ぶと、樹に隠れていた十匹くらいの数の小動物と蛍のように光る飛び回る何かが出て来た。

 種類は様々、光っているのは……


「……妖精!……か!」


 驚くおいらにプリカが驚きながら頷く。いや、妖精なんか初めて見るし。


 いや、なんか光って飛び回ってるのがいるなとは思ってたんだが。特に大きめの個体らしくはっきり姿が判った。雀の半分くらいの大きさで実体感がない感じの妖精だ。


 竜も見たし今更驚くのも何だけどさ。でも驚くわー。竜とかと違って半実体な感じだからかな。


 カーナが小動物や妖精達を叱っている。しゅんとする小動物達が愛らしい。


 動揺して固まっていた姿勢から戻って来たプリカがおいらに説明する。


『使い魔』『秘密の集会所にしてた』


 キーキーと言い訳めいた声を出す小動物達と議論めいた会話をしているカーナ。

 部屋の樹々は妖精たちが落ち着くからと、観葉植物を魔法で茂らせたらしいい。


 部屋を良く見ると机やベッドは綺麗にされており掃除されてるのが判る。一応は気を使ってるようだ。

 空き教室をたまり場にして、ゴミ部屋と化した記憶が蘇る。


「ま、まぁ良いじゃん、これはこれでおつなもんだ」


 おいらが部屋を見回しながら言うと、

 カーナ達も部屋を見回し、必要最低限の場所は掃除されてるのに気づく。


 と、窓側からガタガタという音が聞こえ、窓が開けられる。

 なんぞと思って見てみると何かしらの食料を抱えた子供くらいの大きさの竜が前脚で窓を跳ね上げ入って来た。


 何匹かの小動物達が物音に窓側へ向かって振り向くと、腕で×印を作って来るなと言ってるらしき動き。可愛い。そういえばプリカも×印が駄目という意で使ってたな。


 勿論カーナがその動きを見逃すはずもなく、窓側を見ると呆れたように声を出す。


れん


 驚いた小竜が開けた窓からずり落ち、床に落ちる。


 プリカが驚いた表情で言った。


『煉《れん』『何故此処に?』


 急な状況でもおいらに翻訳を流してくるのを忘れない辺りさすが

 真面目ちゃん。ありがたい。



 れんだぁ……れんといえば聖樹竜ユグドラシルドラゴン……おいら達が乗ってる小悪魔竜だが……


「この小竜は何ぞ」


れん』『分体』


 床にずり落ちた小竜は、すかした態度で落した食材らしきものを拾い集めている。

 が、すでに小動物達がその場に集まり、宴のような感じで食べ初めている。


 れんの分体の動きは落ち込んだ感じで元気がない。

……獄炎だっけ。樹の巨竜。母親だよなぁ多分。


 カーナがれんと何かしら会話してるようだが……


『念話』


 プリカが説明してくれる。が、プリカはちょと緊張している、雰囲気から察するに、竜は高い知性を持った高位種族な感じの扱いのようだ。


 ……高位種族ねぇ。しかも分体なんてわけわからんな。


 おいらのちょと小馬鹿にした感情に気づいたか、こちらをちらりと見るとれんは小さな電撃をおいらに食らわしてきた。


 軽い電撃によろめくおいらにプリカが驚く、いやプリカが驚いたのは絶妙に調整された電撃魔法の行使のようだ。凄いらしい。


 確かにこの電撃はれんだ。この後頭部を叩くような絶妙さ、兎竜とりゅうの中で味わったあれだ。


 れんと使い魔の小動物達がここを根城にしてだべっていたらしい。


 プリカの感情から見るにれんは竜だし結構敬われてるらしいが、窮屈なのかもしれんなー。


 おいらには割りとちょっかい掛けて来るし、偉いさんと言うよりは、小娘っぽい性格な気がする。樹の巨竜の最後を看取り、気晴らしに使い魔達と宴会でも開きに来たんだろう。


「宴会でも開くのも良いんじゃね。食い物も持って来てるしさ」


 とおいらが言うと、おいらの意図を察したカーナが、少し考え、落ち込んでいる感じのれんの分体を見た後笑顔

 で賛同する。


『良い案』『食事、持ってくる増やす』


 カーナの発言に小動物達が騒ぐ……こいつら結構言葉理解するのね。

使い魔らしいし、当然と言えば当然か。


れんと宴会……』


 プリカが動揺している。竜は兵卒というか魔法使いのプリカとは格がかなり違うみたいで引く感じのようだ。


 まぁおいらに関係ないけどね。



















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