19話 医療鞘にてファナ艦長と出会う。喋りがゆったりだが妙~に圧があるっす

 意識がゆっくり覚醒していく。


「うおっ、なんぞ」


 なんか寝かされ閉じ込められている。眼前には透明な膜のようなものがある。

 重傷者入れる莢だっけ? あれに入れられているようだ。しかも裸だ。

 莢の中を蛍のようなものが飛び交っている。


 おっさんと喧嘩になる前にカーナに締め落されたんだっけ。


 結構切れてた気もするけど、ちょかい程度の喧嘩にしておく気だったんだが、切れてたという部分しか伝わらなかったようでカーナに締め落され、制圧されたようだ。ちょと過剰な気もするが。



 翻訳魔法は思考固めて送らないと曖昧なものしか伝わらんから仕方ないか。


 武器も出せるか思考した気もするからそのせいかもしれん。

 武器っても細めの皮紐なんだけどな。引っ掛けたり、ぺしぺし叩く程度のやつ。

 どうしようもない奴はそれ使って締め落すけどさ。


 おいら仲間と修行みたいなことしてかなーり喧嘩は強くなってるはずなんだが、カーナは更に上の高みにいる。本当に兄貴を見るようで口元が緩む。


 透明な膜から見える風景は部屋の中だ。樹をくり抜いたような大きめの部屋で、色々機械めいたものや、妙な小道具も沢山置いてある。


 部屋の中央付近に垂直の水晶のような円柱にある映像をカーナやおっさん、眠そうな目をした耳長、金髪金目女司令官が見ている。


 白服の医者っぽいほっそりした娘がそれを指差し説明しては説明し、お互いに議論を交わしている。

 プリカはいないようだ。まぁ指揮官連中勢揃いな感あるし、席でも外してるのかね。


 映像はおいらが儀式の時にふいに現れた時の物のようだ。

 誰かの視界の情報を記録して再生しているような映像には、床に描かれた魔方陣と周りで儀式的に何かを言っている神官っぽい人達。


 魔法を発動しようという感じよりも儀式的に何かしてるだけな動きに見える。まぁどうだか知らんけど。


 突然魔方陣の中に白い霧が立ち込め、次第に濃くなり少し光りも発している。神官は悲鳴を上げ腰を抜かし魔方陣から逃げるように後ずさっている。


 映像の視点が動き、祭壇に座っていた幼い少女を見るが、柔らかな笑顔のまま微動だにしていない。

 偉い感じの婆神官も腰を抜かし、濃くなって人型を取りつつある、白い霧の方を指差している。


 カーナの指示で数人の兵士達が体で壁を作り祭壇を守る体勢になっている。


 白い霧は次第に人の形を取り始めたと思うと、一気に収束する。


 ……そこに現れたのはおいらだった。濃紺学ラン風ブレザーを着たおいら。


 映像の視点はあちらこちらに移動し、整列していた竜騎士や魔女達、その他の連中の動揺を映し、祭壇近くの指揮官、神官達からは悲鳴と怒号が飛び交う姿を映す。


 皆、一体何が起きたか判らず混乱しているようだ。


 皆が中世風燻し銀の服を着用している中、学ラン風ブレザーの短髪猿顔の男の出現。


 怪しい、怪しすぎる。


 召還魔法とか映画で見たことあるけど、あり得ないと否定したいが、おいらの現状肯定するしかない。

 しっかし、何でタダの三下なおいらを召還した? 事故か失敗か、とにかく映像みる限りでは想定外って奴のようだ。


 そうこうしてるうちにカーナがおいらが意識を取り戻したのに気づく。

 おっさん士官に長耳女司令、細身の医者達もそれに気づきおいらの方を向く。


 カーナが耳に手を当てると、カーナの意識が流れこんでくる。


 翻訳魔法切ってたようだが、なんでだろ。


 ちょと真面目な顔になったカーナの発言と意味が来る。


『起きたか』


『謝罪する』『寝てる間に』『体調べた』


 寝ているうちに検査終わったのなら別に問題ないな。


 最初のときのように何かがおいらの周りを飛び回ると軍服が装着され、莢の透明な膜が横に消えたので、おいらはあらよっとばかりに外へ飛び出る。

 おっさんが嫌な顔してる。出かたに品格がないという感じなんかな。



「まさか、締め落されるとは思わなかったっすよ。喧嘩とはいえやろうとした事はこんな感じ」


 おいらは思考を纏め喋りながらカーナに送る。

 おっさんの周りを素早く、マジ素早く動き回って頬を指でつんつんするおいら流攻撃って奴だ。


 カーナは目を白黒させると大笑い、息が苦しそうだ。ツボに入ったっぽい。

 理由を聞く女司令に苦しそうに説明している。

 おっさんは苦虫を潰したような顔しておいらを睨む。


 いやそこまで笑わんでも。指じゃなくて、刃物だったらどうするって相手に言うと大抵大人しくなる地味に効果的な奴なんよ。脳筋相手だと意味を理解してくれん時もあったけどさ。


 指揮官連中勢揃いだけど、大丈夫なん? 撤退してしてる途中での、れん竜撃ドラゴンブレスで壊滅状態で再攻撃も無さそうではあるけど。


『警戒してる』『問題無い』 『次来たら』『全て』『叩き潰す』


 恐ろしい顔をしたカーナの発言におっさんが頷き、長耳女司令は謎の笑みを浮かべたまま意図を察しさせない。



 長耳女司令が手をあげ、指揮官連中が胸に拳を当て揃って発言する。

 カーナも真面目な顔になるとおいらに言った。


『兄貴という名の神』『喪失に哀悼の意』『捧げる』 


「ん? どゆこと兄貴は人間だぞ」


 カーナが一歩前に出て右手を挙げ喋り、その意味が伝わって来た。


『説明する』




 カーナ曰く『神格』が滅び、失った人間は果てしない喪失感に苛まれ、生き残る者は殆ど居ない。

 その喪失感を持ちつつ生き延びる事の出来る人は敬意を持って接するもの……らしい。


 失った者の記憶、感情を写し取った水晶があり、士官はそれを見る地獄の修練がある。


 見るというよりはその者になり感情を追体験するものらしい。


 兄貴の記憶は奔流の如く、虚無と喪失感の煉獄を追体験させ、その感覚は『神格』を失った人の記憶に勝るとも劣らない生き地獄だったそうだ。


『神格』は多様なので人型をとってる存在もいる。故に兄貴を『神格』と思ったらしい。





……とまぁそんな感じの説明受けたんだが、『神格』かぁ。兄貴はおいらにとっての神だったという意味では間違ってないか。


「兄貴は絶対間違ったことは言わないし、どんな時でも皆を守る……けど人間だぜ」


 カーナは納得いかないという表情。


『記憶、断片。人外の能力』


 そう言われると、兄貴がなにかしらの神格な可能性も否定できない事実。

 兄貴が神様であってもそうかと思うだけだな。色々別格だったし。

 少なくともおいらには祈っても助けてくれない神よりも兄貴の方が遥かに……


 神格かどうかはともかく、指揮官連中が哀悼の意を手向けてくれた事に感謝が湧き上がる。


 涙が零れてきて止まらない。


 カーナが落ち着いた表情と言葉で伝えてくる。病人に語りかけるように。


『翻訳魔法使用時』『兄貴』『深く思い出す』『相手危険』『お願い』


『プリカ』『感情の奔流』『耐えられない』『気絶』


 マジか。プリカにはあの兄貴の思い出はちょと刺激が強すぎたんか。後で謝らねぇとな。


 おいらが頷くとカーナが復唱しろ的な動作をし、おいらは言葉を真似る。

 言語習得も兼ねるのね。 確かに復唱すると深く意味が脳に染み入る。


 耳長女司令が右手を軽く上げると、カーナが一歩下がり、すらりと姿勢を正した耳長が発言する。


 カーナが翻訳するようだ。


『艦長、ファナ緑葉』『召還された者』『歓迎する』


 ……


「あ、どうも」


 いきなりの真面目な挨拶に、どう反応してよいかわからず、軽いノリで返すおいらにカーナは大笑い。


しゃあないじゃん。今どういう状況なのか細かい説明もまだだし理解しきれてないし……


 耳長女司令(……ファナ緑葉さん……ファナ艦長で良いのかな。カーナもそんな感じで呼んでた気がするし)も驚いた顔したが、まぁそんなもんかな穏やかな笑顔。おっさんは……権威主義なんだろうなな憮然とした反応。


 悪い。朝礼みたいなノリは苦手なんだよ。


 と、そこへプリカが部屋に入って来た。

 おいらの感情の波に晒され気絶して莢に入れられてたんだよな。

 ……という事ははだ……

 カーナがおいらをちらりと見て全く男って奴は的なため息と微妙な笑い。


 ……しまった! おいらは直ぐに思考を無にする。

 昔、強くなるための修行で座禅組んだこともあったから余裕だ。

 ちょとカーナが驚いた顔をする。瞑想は西欧には無かったらしいから、ここでもそうなのかしら。


 プリカは翻訳魔法は切ってるらしく、何か上官連中に挨拶しているが判らない。


 カーナに促され、耳に手を当て、おっかなびっくり翻訳魔法を再起動。

おいらの記憶が精神的外傷って奴になってなければ良いけど。


 プリカも姿勢を正すと神妙な顔で、


『神格を失い』『お悔やみ申し上げる』


 おいらも今度は真面目に返す……と思ったら、プリカのお腹が物凄い音を立てて鳴った。


 プリカは耳まで真っ赤だ。ぷるぷる震えて可愛い。


 回復魔法は腹減るらしいから、莢に入れられて更に激空腹なんだろう。


 カーナがにやりと笑うと歩き出した。


『食う』『飯!』


 その言葉にファナ艦長を見るが、行けとの表情。

 おっさんが一歩前出て何か強く言う。引く気は無いらしい。


 カーナは少し不機嫌な顔になるが、何かおっさんに言うとおいらについて来いとの事。


 プリカが何かに気づいたらしく、すまなそうに言う。


『異星生命検査終了まで』『隔離』『十日ほど』『規則』


 …… ……


 おう、いきなり隔離部屋かよ! 

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