18話 繋がってる時に凶悪な記憶を思い出しては不味いっすよね
おいらの意図に気づいたカーナが、適当に翻訳したらしく、おっさん上級士官は納得したらしい。
胡散臭い笑顔のおいらに鼻を鳴らすと部下達を連れて反転して歩き始めた。
おいらの検査の結果でも確認したいのかね。
カーナがこちらを見てにかっと笑い、プリカに声を掛け一緒に来るか確認している感じの会話の後、おいらの肩を叩き、おいら達とともにおっさんの後を追う。
プリカはお腹空いてるけど、ついて来るそうだ。流れてくる感情からみるに責任感よりも知的好奇心の割合がかな~り大きい。おいらがここに居る時点で異常事態だもんな。
検査で何が判るか、わくわく感半端ない感じのプリカは学者肌なのね。
おっさんは部下達においらの周りで警戒させたかったみたいだが、カーナの一声で部下諸共黙る。
『私』『居る』『問題起きても』『対処可能』
との意味がカーナから伝わって来る。
ま、そりゃそうか。カーナなら多分この部下達が束になっても敵わないと思う。
動きも隙無いしな。
仮においらが敵対的行動してもカーナが居ればおいら如きは十分だ。敵対的行動なんかしないけどさ。
広い樹を削り出したような甲板の中央、ビル並みの高さに樹々が絡み合ったような壁に、ぽっかりと大きめの穴のような通路の入り口があり、其処においら達は入っていく。
うねうねと曲がる通路は秘密基地的な楽しさがある。少し奥まった場所に標識みたいなものがありその奥に大きめの空間が見える。
「おー、凄げぇー」
目の前に大病院くらいの広大な楕円球の形の広大な空間が広がる。
その中央に太い樹の幹のようなものがあり、天井を突き抜ける感じで沢山の太い枝が生え、葉が生い茂っている。
光源は楕円球の上部辺りから何処からとも無く降り注いでおり、沢山の樹の枝と葉をすり抜けて床面に落ちる感じが森の中を連想させる。
まぁ、
空気吸えたら新緑の良い匂いを嗅げたろうことは想像に難くない。
枝には沢山の人が入れる大きさの米のような形の楕円形の大きな房が沢山付いており、太い枝に付けられた道のようなものでそこへ到達出来るような感じになっている。
なんだろな、あれ。
中央にある太い樹の幹のようなものには出入り口や窓のようなものが沢山ある。
幹の周りや小道には草花が咲き誇り、庭園のようにも見える美しさだ。
おっさん達を先頭に楕円球の場所に入ると、斜め前を歩くカーナが言葉とともに意思を送ってくる。
『上の階』『精密』『莢』
ついでにおいらを指差し、
『喋る言葉』『真似』『しろ』
あ、忘れてた的な顔のプリカ。
状況が状況だっただけに意思疎通というか、翻訳の方を優先してたらしい。
この魔法の機能みるに翻訳魔法というか言語習得魔法の意味合いのが強いのか。
肯定の意思がカーナとプリカから来る。
おいらはカーナの言葉を真似る。
二人は笑ってもう一度発音し直す。次の真似は上手く行った。意味も頭に入った。
……ん?
普通に彼女達の言葉が馴染み始めてるような……
『言語魔法』『記憶力増強効果』『強烈』『凄いだろ』
カーナの言葉と説明においらは頷くと、その言葉を真似して繰り返す。
ついでに言えば言葉の意味の深い所まで把握出来る訳で、かなり洒落にならん。
『到着だ』『上の階だな』
庭というか森の中のような空間は美しく、草花の中を蛍のような光も飛び交っている。
樹の枝から沢山ぶら下がっている人ぐらいの大きさの莢が、通路というか道の脇に一部降ろされており、カーナが中を見ろと言いながら指差す。
莢は上部が半透明になっており、中を見ると半裸の人が入っている。
「うげっ。何これ!」
『重度怪我』『回復魔法後の微調整』『莢入る』
プリカの説明。
「まじかー、おいらとプリカの怪我はあれ重度じゃ無かったのかよ」
マジで死ぬ一歩手前だった気がするんだが。
「まじかー」「ましかー」
プリカとカーナがおいらの言葉を真似してみている。
おもろい。カーナの方が確実に真似してくるのが不思議だ。雑なのに。
伝わってしまったのかカーナがおいらの肩を小突く。避けないように意識して受ける。
今度はかなーり弱めだ。
『復唱しとけよー』
カーナの言葉においらはプリカの喋った説明の言葉の復唱をする。
染みるように意味と言葉が記憶される。
そうこうしてるうちに中央の太い幹に辿り着く。中央の太い幹の内部をくり抜いて医療施設にしているようだ。扉は開放されており、広い室内が見える
楽しげに言葉の教えあいをしているおいら達を横目に、おっさん士官が部下に待機するように命令をだしているようだ。おいら達も扉の前で少し立ち止まる。
救助を成功させ、少し気持ちが上向いたカーナとプリカは、ともすれば陰鬱になる気持ちを気づかせまいと明るく振舞っていのが判る。翻訳魔法でかなり思考が繋がってるからさ。
プリカは救助前に、仲間と泣いたので多少気持ちの整理もついたのかもしれない。
滅入って動けなくなっても、何も始まらないしな。
兄貴が殺された後、仲間達と大泣きしながら無理やり笑って会話したのを思い出すぜ。
おいらの思考が昔の記憶へと誘われていく。カーナがそれに気づいたのか、聞いてきた。
『兄貴』『何』『どういう存在?』
前々から思考の端に乗るので、プリカも疑問だったらしい。こちらを覗き込むように見てくる。
印象は通訳魔法である程度伝わっているんだろうけど、おいらも辛いから思い出さないようにしてたから……な。
……兄貴? 兄貴はなぁ……凄い人なんだよ。
弱い奴には手を差し伸べ、弱い者を食い物にする放漫な強者には喰らい付きぶちのめす。
しかもぶちのめした後は結構仲間になったりするんだぜ。
陽気でお馬鹿な切れ者。矛盾するようだが矛盾しない。それが兄貴だ。
皆に糞味噌に苛められ、家族には虐げられていた、弱虫で糞な性格のおいらに手を差し伸べ、子分にしてくれた。まぁおいらが押しかけ子分したんだけどな。
三下になるべく、沢山本も読んで……
麻薬、強盗上等の糞みたいに荒れていた地域の高校を次々配下に収め、のんびりした雰囲気にした。
何をした訳でもない。ただ兄貴が居るだけで皆の気が安らぐのさ。
そしてそれが気に入らない極上の糞の連中に目を付けられた兄貴は……
おいらの思考は兄貴の思い出に耽溺し、兄貴を殺した連中への暗い闇夜のような思いがふつふつと湧き出し、おいらを蝕む。復讐は兄貴の流儀じゃねぇから絶対しないけど……しないけど……
暗い哀しい思い出……
プリカが急においらの横で呻き膝を付くと耳を両手で押さえ苦悶の表情で嗚咽し始め、気絶。
苦悶の表情を浮かべているカーナに抱きかかえられている。
何事かとおいら達の方を見るおっさんの驚愕の表情と指示で、武器らしい金属製の棒を抜き駆け寄りおいらを制圧しようと殴り掛かりに来る部下達。
止めようとするカーナだが、プリカを抱えているので、一人脚を払って転ばしたくらいで残りの三人はおいらの元に武器を振り上げ殺到する。
そういえば兄貴殺したのも軍人さんだったなぁ。兄貴を殺し、それを笑いながら見下ろしていた強化服と銃器を持った軍人達が三人に重なる。
おいらは振り上げられた三人の金属製の棒を全て避ける。遅いんだよ。
三人の後ろでおっさんが気を溜めてるのが判る。魔法って奴をなにかしらする気だな。させるかよ。
おっさんに飛びかかろうとした所でカーナの腕がおいらの首に廻る。
なんで止めるんだよ、カーナの兄貴! という思いとおいらが背後取られるとはという驚愕の中カーナの腕が締まり、カーナの双丘を背に感じ、カーナが女であり兄貴ではないという絶望を感じながらおいらは締め落された。
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