17話 堅物司令、ジンブルム! 首に子竜巻きつけてるのがちとぷりちー



 五騎の飛竜達は突撃艦を牽引し大気圏を無事離脱、牽引索を外すと先に竜へ帰還していく。突撃艦の皆は押し合いへし合いの厳しい体勢ながらも手を振り感謝の意を伝える。


 聖樹竜ユグドラシルドラゴン、錬へ救助者達とともに帰還する突撃艦。

 さすがにこの押し合いへし合いの状況では緩やかな操船である。


「おー、突撃艦が優しい操船とかまじか」


 おいらの言葉にプリカが噴出す。

 そして、ちょと真面目な顔になると、言葉と意味を伝えてくる。


『本当に』『良かった』『危険』『魔力供給感謝』


 横で聞いてたテルルも同じ言葉を発言する、まぁ彼女はがなり立てるように言う訳で周りの甲冑兵達も感謝の言葉を言って来る。


 照れくさいので、彼らの言葉でオウム返しで喋る。

 発音も良くない真似言葉は予想以上に受けた。皆おいらの妙な発音の返しに大笑いである。

 ウケてちょと嬉しい。


 プリカは翻訳の魔方陣のお陰でおいらの意図を理解出来る。ちょと苦笑いを浮かべている。


『発音。上手い。』






 障壁を超え、眼下の広い縦長の甲板を見ると、竜の乗員全てが来てるのかのような大群集が物凄い歓声とともにおいら達を迎えている。


 全滅と思われた惑星上の住民が僅かとは言え救出できたのだ。しかも王女付きで。悲しみに沈んでいた皆が発奮するのは理解出来るよなぁ。


 着艦し、扉が開くと、甲冑を脱いだ甲冑兵らしい筋骨隆々の兵士達と、魔法を使うっぽい感じの兵隊が、無理やり詰め込まれた脱出組が突撃艦から、転げ落ちるように溢れ出るのを浮遊魔法も使い受け止めている。


 後方では医療部隊っぽい連中が医療用の魔法器具を持って来て待機しており、すし詰めで怪我を負った人に即治療を始めている。


 突撃艦が反重力っぽい動きだし、艦内には重力があるから驚かないけど浮遊魔法

 かぁ。


「魔法はほんと何でもありだな」


『そうでもない』


 おいらの膝上から降りながら、プリカはそう言うけど、おいらからしたらなぁ。

 おいらから伝わる心像にプリカは怪訝な顔。


『貴方の文明』宇宙』『進出』『まだだったの?』


「月へは行った。あとは火星へ行ったくらいかなぁ。恒星間なんて夢物語だ」


 なるべく思考を固めてから喋ると、プリカは驚いた表情。

 おいらは宇宙へ行ったことは無いと言ったが、それは単純に行ったことが無いと理解してたらしい。

 プリカの思考の切れ端に『未開文明!』とかあったけど気にしない。


 王女が、スプイーや侍従を連れ船の扉のところに立つと外の歓声は爆発したかのように大きくなる。

 王女は手を振り降りていく。群集がその周りを囲み、医療班がそれを押しのけ診療しようと四苦八苦している。


 外へ出た突撃艦の甲冑兵達も、救助へ行けなかった仲間に囲まれ、祝福の背中打ちの嵐を浴びている。嬉しそうだが苦悶の表情浮かべてる奴も居る。やはり脳筋どもは加減が下手だ。


 予想通りだ。あんなもん浴びたら小柄なおいら死ねる自信がある。船の扉の向こうに見える甲冑兵のお出迎えを見たおいらが、プリカにそれを指を差すと青い顔で頷いている。


おいらとプリカはそっと船を降りる。


 降りると、おいら達は軍服なので目立たなくなる。王女の廻りで盛り上がっている群衆を掻き分け、先に帰還したカーナが数名の部下を連れ、大股で歩きながら、おいら達の方向へ迷うことなくやって来た。

 歩いてるだけでもカーナの力強さに俊敏感は凄い。しかも綺麗というか美しい歩き方だ。

 機能美に近いのだろうか、虎が近づいて来る感覚なんかな。虎に近づいたことは動物園しかないけどさ。



 部下の竜騎士達も強者感が凄い。強靭そうな筋肉の鎧が軍服の上からでも判る。

 選抜兵だっけ。当然といえば当然か、

 が、そいつらの肩くらいの背しかないカーナに片手で捻り潰される気がするのは何故だろうか。

 まぁカーナはおいらの顔面片手で掴んで吊り下げることが出来る化け物だから当然か。


『カーナ』『内在魔力』『桁違う』


 おいらの疑問にプリカの返答。


 カーナはおいら達に近づくとにかっと笑いながら群集の居ない方向を指差す。話がしたいんだろう。

 おいら達が頷くと、カーナは人気の少ない突撃艦の裏側へ移動する。


 突撃艦の使い込まれた古い頑健そうな黒鉄と樹の船壁の横でカーナが額に拳を当て、頭を少し下げると話かけてきた。


『魔力援助』『助かった』『大いなる感謝!』


 そして、祝福の背中への平手打ち。


「ぐえっっ!」


 結構な音とともに息が詰まる衝撃に息が詰まる。


 しまった。カーナも脳筋系だった。


 おいらは目も反応も結構良いので、不意打ちは本能的に回避してしまうし、回避しそこねることも記憶に無いくらいなのだが……


 おいらが回避出来ない不意打ち。さすがカーナ、半端ねぇ。


 魔女連中はノリが違うのだろう、プリカがドン引きしている。部下の竜騎士達は苦笑いだ。


 カーナは情けねぇなあ的な顔でこちらを見て、何かを言い、意味も翻訳魔法で伝えてくる。


『医療検査』『来てくれ』


 検査かぁ……余り医者好きじゃないんだよな。

 と考えてるとおいらの腹が鳴る。釣られたようにプリカの腹も鳴る。

 プリカが真っ赤になっている。


『回復魔法』『空腹になる』


 と、プリカの弁にカーナが笑う。が、すまなそうに指を額に当てて微かに頭を下げると


『食事』『前』『検査』『必要』


 回復が終わった周りの救助された者達は乗組員達とともに移動し始めている。

 食事に行くのだろうか。おいらも行きてぇ。


「飯先に喰いたいんだけど」


 カーナは悩んでいる。もう一押し。


 と、そこへ太く低い声が響いた。常に威圧的な命令してるっぽい壮年の男の燻し銀の声。


 カーナの斜め後ろから、小さな竜を肩に乗せた、黒地に金の線のある年季の入った軍服と、これまた渋い年季を感じさせるこげ茶の外套を着た少し背の高い筋骨隆々の壮年の男が、複数の部下らしき男達を連れ、大股で歩いて来た。ほころびの入った長靴が歴戦を感じさせる。


 少し日に焼けた肌と目つきの鋭さは頑固そうな感じ。


 長めの黒金の髪は荒々しい感じだが綺麗に整えられ、結構な地位の軍人の雰囲気を漂わせている。

 肩に乗ってる小さな竜はその太い首に巻きついてこちらを見ている。


 ……あれ首苦しくないんかな?

 おいらの思考を読んだのか小さな竜が口を開けおいらを威嚇する


 ……可愛い蜥蜴ちゃんは良いけど、おいらこの手の頑固そうなおっさんとは相性悪いんだよなぁ。

 いわゆる愛の拳というか鉄拳制裁を本能的に回避した後、関係がものっ凄く悪くなるんだ。


 おいらは思考を固めてプリカに思った事を送る。カーナも面白そうな顔に変化したので

 カーナにも伝わったっぽい。


 おっさんが何か言うと手下達がおいらを取り囲む。医療班っぽいのも居る。

 カーナが何か反論している。抑えられてた闘気が微妙に沸いて来ているのは頭に気つつあるからか。


 怖ぇ。


 プリカ的には上級士官の争いに巻き込まれた、二等兵な立ち位置なので動揺しきりのようだが、

 きっちり翻訳して来るのは真面目ちゃんゆえか。意味だけでなく小声で喋る事もわすれない。


『防疫』『猿さんの隔離主張』


 ん~。言ってる事は間違ってはないのか。おっさん。おいら突然この世界に現れたのか呼ばれたのか判らんが異物だもんな。おいらの体の細菌がこの人達にとって問題起こす可能性もなくはない。


『軍服』『危険検知機能がある』『それに検知されていないから問題無いはず』


 プリカは結構怒っているようである。


 あ~、用心しすぎる感じの軍人か。しかし軍服の機能凄いな。


 カーナが闘気を放ちながら大きめの声を出す。おっさん軍人の手下が怯むがおっさんは受け流す。


 カーナがおいらに向けて手をかざすとおいらの軍服の機能が何か働いたのか空気の動きが止まった気がする。


『悪い』『外用機能発動』『竜内の綺麗な空気吸えない』


 ん、綺麗な空気吸えないのがちょと悪い事扱いなんか。


 聖樹竜ユグドラシルドラゴンだもんなぁ。そういえば竜の中の空気は澄んでいて清浄かつ、緑の匂いに溢れてる。森の中に居る気分だったが竜の中なんだよな此処。

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