16話 魔道人形スプイーは痛みを知らない判らない。でも良い娘っす。

 近衛さんに抱えられ、プリカに情けない姿を晒しているおいらはちと恥ずかしいけど、それ以前に早く放して欲しい。火傷凄くて、回復魔法はような状態なんよ。


「熱い、火傷してる、早く放してくれー」


 と叫びながらもがくと近衛さんは抱えてる手を放してくれた。

 甲冑兵達は歓声をあげ、テルルは横のおっさんと抱き合いながら涙を拭っている。


 プリカは運ばれてる時のおいらの痛みの感情を感じてたらしく、必死の表情で

 魔方陣付き機器っぽいものを持って走って来た。


 プリカがおいらを火傷を見たあと、鼻を引きつかせ、驚きの表情を浮かべ、すぐさま魔方陣付き機器を使って回復魔法を掛けてくれる。


 映画の魔法使いとは違い、機器を利用するのね。一気に痛みが引き楽になる。魔法凄ぇ。


 プリカはおいらの火傷のあった場所や状況を見ていぶかしむ表情になる。


「スプイー!」


 そんな中、王女も走って、おそらくは近衛さんの名前を叫んで近づいて来る。

 プリカがスプイーを名前と認識しているからわかりやすい。


 と、プリカが何かを判断し、王女を止めようと動いたようだが、間にあわなかった。


 そして王女は抱きついた後、悲鳴上げて離れていく。顔が火傷し、肉の焼ける匂いが辺りを満たした。侍従が慌てて彼女の廻りに群がり、回復魔法を掛けている。


 近衛さん、いやスプイーか。は、驚いたように後ろへ一歩下がり、自分の手を体を見つめ、そして火傷治療中のおいらを見た。

 彼女の体は、灼熱の空気に晒され、あちこちが赤熱し付着した埃が小さな煙を吐いている。


 煙も無い室内で見た彼女の顔は仮面ではなかった。


 良く見れば彼女の体も甲冑というよりは真鍮でできた人形。

 色々な機器が顔を髪を形づくっている。


 ……真鍮の人形。 


 それが近衛さん、いや彼女スプイーだった。 


 呆然とした感じの、真鍮の人形、スプイー。


 甲冑兵達の数人がテルルの指示で極めて弱めの魔法を放つ。冷却魔法だろうか、彼女の体がジュッという音とともにあっという間に霜に覆われる。

 

 「高温から冷却とかヤバいんじゃね」


おいらの言葉と思考にプリカは少し考えると、喋りながら思考を送ってくる。


 『多分大丈夫』『彼女の体は白真鍮製』


 それから意図したものでは無さそうな思考も来た。


 『初めて見た』『魔道人形』『翡翠に一体だけ』


 「へえ、どういう人なん?動きから見るに、中身は人とかわらんよね。」


 『魂はある』


 この世界魂の有無を認識できるのか! おいらの驚きをよそにプリカは更に言葉を重ねる。


 多少言いずらそうに、『昔、魔道人形達と戦争』『習った』

 

 冷却魔法を掛けられて魔道人形、スプイーは王女の方を心配そうに顔を向け、立ちつくしたまま極めて心ここにあらずな感で放心している。熱風で加熱された己の体がもたらした事態に動揺しているようだ。


 甲冑兵達も気まずげに遠巻きに見て、お互い囁きあっている。


 多分、体の痛みを感じないんだろうなぁ。人形だし。己の体の壊れた場所はわかるんだろうけど、知覚する要件を痛みにする必要性は皆無だもんな。


 そもそも人形に痛みって認識させるのは可能なのかという問題は置いといて。


 スプイーは王女とおいらを気づかなかったとはいえ、傷つけた。体の痛みは無いだろうけど、あの様子では心の痛みはある。魂だってあるんだろ。

 魔力こそ吸われたが、全力でおいらを助けてくれたのは事実だ。


 火傷も回復魔法で治ったおいらは、笑顔がキモいとか思わんでくれよと思いつつできる限りの笑顔で立ち上がりスプイーに近づく。

 

 手を差し出すおいらに、呆然としたスプイーが気づく。


 「ありがとう、助かったよ」


 一応、心の底から感謝してるんだぜ。

 無理やりスプイーの手を掴むと握手の体勢。


 (プリカ、おいらの発言の翻訳、翻訳。)


 おいらの心の催促に気づいたプリカは、皆に向けておいらの発言を翻訳し伝える。


 おいらはスプイーの手更に手を重ねて持ち上げ振る。もちろん笑顔は忘れねぇ。

 

 「スプイーのお陰で助かった!」


 甲冑兵達が顔を見合わせ、そういえばそうだよなな表情。もう一押し。

 王女が何かを叫ぶ。多分おいらと同じ言葉だろう。彼女が助けたと。


 一瞬の間の後、皆が沸く。


 スプイーを称えてるらしい言葉を皆言っている。おいらと王女に火傷をさせてしまったが正当な評価だ。


 呆然とした状態から復帰したスプイーがおいらに何か言うがおいらにはわからない。小さい呟きなのでプリカにも聞こえてないようだ。

おいらは握手を終え手を放そうとした。が、


 「あれ?」


 手が凍り付いて離れなねぇ。


 テルルが笑いながらおいらの手をスプイーの冷却魔法で凍りついた手から引っぺがした。悲鳴を上げるおいらに甲冑兵達が大笑い。


 プリカがあわあわと回復魔法。回復魔法あるからと適当すぎる。軍人はスプイーより色々酷いかもしれん。


 まぁ、妙な雰囲気が良くなったから良しとするか。


 手についたおいらの皮膚のかけらにドン引きして、おいらを心配してるっぽいスプイーだが、おいらが笑顔で気にすんなとの動作が通じたようで、スプイーはお辞儀っぽい動作をする。


 王女が、何時の間にか侍従連れてスプイーの横にいて、仁王立ち。何か言い始めた。


 プリカを見ると翻訳して意味を伝えてくれた。


『礼を言う』『好きなもの』『いずれ』『褒美』


 おいらからすれば、スプイーが無事だった事が褒美だがそんな事言ったら恥ずいな。と思考した後、止める間もなくプリカが翻訳。


 思考を纏めてないし、故に大雑把な翻訳だろうからそこまで意味は伝わらんはずだが……


 王女が仁王立ちのまま大笑いで何かを言う

 多分、『その通りだな』的な発言だろう。


 おいらを見る目が優しい。甲冑兵連中も大笑いで、背中を皆から叩かれ捲くった。

 プリカはニコニコ笑顔。スプイーは頭を左右に揺らす謎の動作。

……格好つけたようで恥ずい。






 まぁそんなこんなで帰還する訳だが。


 突撃艦の狭い艦内、すし詰めである。死ななければ問題無いとばかりに詰め込まれた人々は上下左右に押し合いへし合いだ。王女はプリカの座っていた席に座らされ問題無さそうではあるが、大人数の吐息交わる船内に鼻をひくひくさせきつそうだ。


 僅かに触れたプリカの記憶からするに、翡翠は田舎な感じだったもんな。


 おいらは電池役なので来た時と同じ席についているがなんとなく申し訳なくなる。

 通訳なプリカはお尻をおいらの顔に押し付けるような形になりながら、なんとかおいらの席の中に押し込まれて真っ赤になりながらの本日二度目のおいらの膝の上だ。


 押し合いへし合いで、顔やその他に他の救出組の肘鉄や脚を喰らってるので、余計な事考えなくて良いのはありがたい。プリカにそれらが当たらないように体を動かすのが大変だけども。


 反重力魔法なんだろうか、突撃艦は突入した体勢そのままに、ゆっくりと後退し、艦尾から上昇していく。

 皆さん小さな悲鳴。流石に今回は丁寧な発進だ。


 結構な時間を掛け上昇、膝上で小さくなるプリカの後ろから、船窓を見ると、そろそろ、空けた穴の近くっぽい。乱流が船体を揺らし始める。


 何かが近づく感覚。金属がぶつかる音とともに、強く引っ張られる感覚。


 なんか判るし、目を凝らせば見えるんだよなぁ。視界が二つある感じだが、混乱する事もない。


 飛竜に乗ったカーナ達、竜騎士だったかが五騎それぞれから強靭な紐のようなものを鞍から放出、暴風をものともせず、その紐は突撃艦の突起と結合し牽引し始めている。


 突撃艦が穴の外へ出ると同時に、暴風が船体を弾くように吹き飛ばす。


「うおっ!」


 おいらもプリカも救出組も流石に今回は皆大きな悲鳴を上げる。


 物凄い衝撃に皆が壁に叩きつけられる。何人か骨が折れてても不思議はない。

 突撃艦の操船も頑張ってはいるのだろうが、咆哮する乱流に振り回され、船内は阿鼻叫喚である。


 先ほどみたいに、感覚を伸ばしてみる。五騎の飛竜も灼熱の乱流の地獄に揉みくちゃにされながら飛翔している。墜落してないのが不思議なくらいだ。


 だが、一騎だけ、ほぼ安定して飛翔している飛竜がいる。


 カーナだ。


 ほぼ一騎で天空に向け突撃艦をぶら下げ飛翔して行く。


「うぉぉ、凄ぇぇぇ!」


 乱流に振り回される突撃艦の船窓からたまに、カーナの騎乗した飛竜の姿が見える。ぐんぐん上昇していくその姿は力強さに溢れ、絶対の安心感をおいらに与える。


 障壁が強く輝き、超乱流の中に混じる、音速に迫る砂塵や、岩石蒸気の奔流の暴虐ともいえる殴打を防いでるのがわかる。

 目を凝らせば、カーナの困難を楽しむ口元とおいら達、全てを背負う背中が見える。


 天に逝った兄貴が、こいつに付いて行けとカーナに会わせたに違いない。

 おいらはそう思った。


 膝上でプリカは怪訝な目でこちらを見ていたが、おいら別に間違ってないよな。


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