15話 灼熱の地獄の中で真鍮色のドレス風甲冑の娘と出合ったっす


 プリカの深い思考。判断。が伝わって来る。が、救助ならばそれを待つ暇は無ない。


「おいらが助けに行く行く」


『私が行きます』


 同時に言うおいらとプリカ。


 プリカは灼熱の外へ助けに行く恐怖から少し涙目で震えているが、怒ったように言う。

 

『駄目、貴方は訓練 無い』


『私は魔力』『多い』


『勇者かもしれない。 失う駄目』『私、家族居ない。行く、問題無い』


 おいらを指差し上下に揺らしながら主張する。人を指差すのは止めなさい。

 最後勇者とか、変な言葉と意味が混じっていたが、まぁどうでも良い。

 おいらは彼女が家族いないことに驚いたが、


「家族はもう皆……」


しまった、余計な事言った!

だが、おいらの発言の意味は伝わったらしく、黙り、他の皆を見るプリカ。

惑星が崩壊し、生存者は此処だけ。つまりはそういうことだ。


しかしながら今まで天涯孤独だった人に掛ける言葉としては酷過ぎるとおいらは反省。


「すまん。他人なのに余計な……」


速攻で頭を下げ謝罪するが、プリカは慌てて手を振り自分の失言を気づかせてくれたことへの感謝が来た。笑顔付きで。なんかもにょる。


 地味に伝えてくる意味も短時間で単語の羅列から文章になりかけてる。おいらより遥かに優秀なこの娘の方が失っては駄目だろ。マジで。


 論争してても意味ないからとっとと行くかと思った時、テルルを怒っていた年配の古参兵的なおっさん甲冑兵がおいらの肩をがっしりと持ち止める。動けねぇ。


 そして部下に何か言い先ほど、魔力を計測した円盤を持って越させ、プリカと話始める。


 話が付いたらしい。


 プリカが円盤においらの手を置かせ、魔力計測、次に自分のを計測。

 おっさんが何か言うと、テルルが慌てたように甲冑服で何かやっている。

 その結果


『軍服の性能』『必要な魔力を計算』『私は足りない。猿さんは問題ない』


 軍服の魔力障壁は自動で効くが装着者の魔力を使用する。

 おいらは十分だがプリカは無理との判定。がっくりしながらおいらに報告するプリカ。


「んじゃ、行くぜ」


 大丈夫との判定が出たのでおいらも多少気が楽だ。


 テルルに小型の鞘付き短刀を渡される。無茶切れ味良いから気をつけろとプリカの翻訳。


 甲冑兵のおっさんとテルルに、大丈夫なのはあくまでも、ある程度の時間、障壁外の熱気に耐えられるというだけで、その他の状況は保障の限りではないと念押しされた。


 時間が惜しい。おいらは頷く《うなづく》と即、走り出し、瓦礫の隙間に向かう。


 甲冑兵達の見送りのドスの効いた応援の声に、プリカとテルルの声も混じる。

 王女も仁王立ちになって何か言っている。


 視界の端に入る。プリカは不安そう。ついでに言えばテルルもだ。


 王女も自分が言い出したにしろ死地においらを送り込むことを諭されたらしく、侍従の服を掴み不安そうにおいらを送り出す。


 兄貴の居ない世界においらが生きる意味は無い……けど。


「絶対生きてかえらねぇと駄目か。あの娘達に精神的後遺症残してしまうし。」


 素早く瓦礫の隙間まで到達し、潜り込んだおいらに、軍服に仕込まれた通信の魔法の何かから甲冑兵達が驚きのざわめきが聞こえる。おいらの敏捷さはここでも通用するみたいだ。


 部屋の障壁を抜けると、軍服からじわじわと熱気が染みこんで来る。

 轟々という暴風が吹き込む音が聞こえて煩い。 

 遮光のときのように一定以上の音響が来たら遮断はするんだろうけど、この音は不安になるな。


 崩れ落ちた聖樹竜ユグドラシルドラゴンの骸の大きな残骸はおいらの体より高く塞ぐように崩れ落ち、通路に溢れている。が、おいらは伊達に仲間内で猿と呼ばれていた訳じゃない。


 飛び上がり、残骸を掴みさらに奥へ体を持っていき、まさにましらの如く飛び跳ねるように大量の残骸の中をすり抜けていく。 


 勿論帰還時のために小刀で印をつけておく。硬い聖樹竜ユグドラシルドラゴンの骸にもほんのちょとだけ傷が付く。切れ味凄い……んだよな。多分。


 できる限り残骸は押しのけ、道を軽く広げつつ進む。


 教室二つ分くらいの距離を進んだ頃、残骸の場所を抜け、クソ広い廊下に出る。

 煙や塵が舞い散り視界は極めて悪い。


 風が骸の内部を吹き抜ける魔物の咆哮のような音が彼方此方から聞こえる。

 あちこちの壁に飾られていた額に入った絵は、高温でなのか燃えて炭化している。


 とりあえず軍服のどこかにある通信魔法陣からプリカに報告を入れてみる。


 プリカの声は風の音で良く聞こえないが、脳内に地図と到達すべき地点を指し示した指の映像が浮かび上がる。とても分かり易い。


 もう少し先に大きな扉があり、そこで別れたようだ。


「了解!」


 おいらは其処へ急ぐ。何処から入り込むのか熱風が凄い。稀に吹き飛ばされそうになる。


 熱風と塵、煙、それら渦巻く向こう。丁字路の交わる場所にある扉に彼女は居た。


 王女に見せられた映像ではよく見えなかったが、頑丈そうな扉は三階建ての家くらいはある無茶大きい扉だ。


 更に驚くべきは頑丈そうな巨大な両開きの扉の前に、扉を塞ぐほどの量の瓦礫が、うず高く詰まれ、暴風や熱が扉を破って入り込まないようにされている。


 おいら達が救助に来るまでの数時間の間に三階建ての家ほどの量の瓦礫を積み上げるとか近衛さんどんだけだよ。


 その瓦礫の高みの上に、くすんだ金色というか真鍮色のドレス風甲冑としか言いようのない服をを着た少女らしき姿が力尽きたように座っている。頭に付いた二つのお団子風の髪型が印象的だ。


 ……あの娘だよな。近衛は変わった鎧着てるんだな。


 少し体が動いた。顔がすこしだけこちらを向き、おいらを見た……生きてる、まじか!

 通路を吹き抜ける暴風に煙や塵で良く顔は見えないが、とにかく生きてる。


「いたぞ。生きてる!」


 プリカから了解の声と意思が来る。


 素早く近づこうとすると、彼女は、逃げるように体を後ろへ逸らし、手を顔の前で振る。


 近衛だし、無理させて二重遭難より死を選ぶって感じかな。まぁ、嫌でも無理やり助けるけどな。兄貴なら……って奴だ。


 無視して瓦礫の山を素早く登り、近づいて顔を見る。白銀の仮面に多少ごつめの装飾らしきものが付いたそれは、兜にしては妙に小さい。


 彼女はおいらを押して、おいらの救助の手から逃れようとするがそうはいかねぇぞ。


 おいらは、スカート状の鎧下部が邪魔で抱え上げるのは難しそうなので、両脇に腕を廻し彼女を抱え上げ……


「なんぞこれ超重い!」


『服』『魔力を廻す!』


 プリカの忠告の言葉と思考に、良くわからんがやってみると、彼女を抱え上げることに成功……ん?


 体から力が無茶吸い取られていく。


 近衛の娘のドレス風甲冑の胸にある水晶が真っ黒から次第に輝きつつある。


「え、これ魔力吸われてるん?」


 おいらが、力を失うとともに、彼女の水晶の輝きが増す。

 異常を感じたのか、プリカが通信で叫んでいる。


 ああ、ドレス風甲冑の自動機能なんかな。近衛さんがおいらを遠ざけようとしていた理由か……

 気合で瓦礫の山から彼女を転がり落さないようにゆっくり降ろすことに何とか成功したものの、おいらは膝をつく。


 ……なさけねぇなぁと思いつつも彼女の胸に倒れ込んだ。

 おいらの服の障壁が消えつつあるのか無茶熱い。

 これが二重遭難って奴か。兄貴の背を追って頑張ってもおいらではこんなもんか。


 力なく座っていた、ドレス風甲冑の近衛さんの体に力が満ち始めてるように感じる。機械のような動作音が高まって行く。


 通信から叫んでるプリカの声にドレス風甲冑の娘の声が応える。綺麗ながらも地味に可愛らしい声だ。


 彼女の体から発せられる機械のような音が更に高まる、彼女がおいらを抱える。

 轟音とともに、半円形の障壁が彼女とおいらの廻りに発生、轟音とともに近くの瓦礫を吹き飛ばす。凄ぇ。


 軍服無し、障壁無しの王女達に広めの障壁を提供して此処まで来て、瓦礫積み上げて確実に扉を塞ぐと魔力尽きたんだろうな。近衛の鏡や。


 彼女は力強く立ち上がり、おいらをお姫様抱っこすると高々と飛び上がり着地する。靴まで金属なのか床を踏む音に重量感がある。


 彼女がおいらに何かを怒ったように話す。それはそれは怒っている。

 まぁ二重遭難の愚を怒られてるのは確定だ。

 助けに来たのが助けられって。魔力吸われたから、彼女を助けたことにはある意味なってることにしてくれ。


 彼女はおいらを横抱きに抱えなおすと。瓦礫を掴み、放り投げ始めた。

 大きな瓦礫も障壁と腕力を上手く使い放り投げる。鬼神の如きだ。


 彼女の体は無茶熱く、横抱きにされたおいらの体が焼けていく。

 そういえば彼女の体は最初、障壁発生させる淡い輝きがなかったな。


 回復魔法あるからその辺割りと適当なんかな。熱いし痛いし涙出そう、いや出てる。


 おいらが自分が付けた瓦礫の傷を指差すと理解したのか、二人分通れそうにない場所は腕力で瓦礫を吹き飛ばし、飛び散る瓦礫は障壁で防ぎながらおいらの通って来た所を通り抜けていく。


 障壁の隙間から、防空壕のある大部屋が見える位置に辿り着くと、ゆっくりと障壁を融合させ一気においらを抱えて、皆が居る大部屋の中へ彼女は飛び降りる。結構な轟音が響き渡る。


 一瞬皆が驚いたが、すぐに喜びの歓声が上がった。

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