14話 救・出・作・戦! 可憐で小生意気な長耳族のクーリンテル王女

 対竜用破砕槌。瓦礫を片付け設置された。目の前にあるのがこれだ。

 魔方陣に覆われた、年季の入った鉄製のごっつい筒から覗く鈍く光る槌が剣呑な雰囲気を湛える。


 プリカの教えてくれる単語の羅列から考えるに突撃艦で竜の頭部に取り付き、このごっつい破砕槌をぶち込むらしい。


 当然の如く突撃兵であり成功率も生存率も低いんだろうなぁ。荒っぽいはずだ。

 そういう奴を集めないと成立しない兵科だし。


 小さな扉の前を覆う巨大な瓦礫を吹き飛ばして道を作るようだ……けど。


「威力を相当落して使うようだけんど、対竜用とか無茶過ぎない?」


 プリカは考え込むような仕草を見せる。単語だけなら意味を伝えるのは楽だけど、文章になると難易度撥ね上がるっぽい。


『竜は』『魔法が余り』『効かない』


 あとは、狭い場所で火炎、爆発系の魔法は使えないとの事。


 服の中に仕込まれてるらしい通信の魔法陣から、何がしか甲冑娘、テルルが叫んでいるのが聞こえる。小さい扉の方を向いているから、内部の生存者に扉から離れろと言っているのだろう。


 甲冑服達がしゃがみ込み、口を開けて耳をふさぐ、テルルがおいら達の方を向き、同じ動作をしてしゃがむように指示して来た。動きが激しいのは癖なのか。ちと笑える。


 盾を持った甲冑兵が盾を床に突き刺し壁を作り、テルルの掛け声とともに、瓦礫に破砕槌が打ち込まれた。


 激しい音とともに、小さな扉の前の大きな瓦礫が粉砕。


 爆音とともに瓦礫が飛び散り、細かい破片と粉塵が激しく舞い散る。目の前が破砕の塵でみえねぇ。とりあえず、こいつらは基本、無茶苦茶だ。理解した。


 自動で服の障壁が作動したのか、粉塵が肺に入ることは無い。


『違う』『軍服の防護障壁』『戦時だから常時』『作動』 と言葉と情報が来た。


「普段は魔力節約で作動はさせてないのか?」


 音響系は通すのかと考えたが設定が色々あるんかね。プリカが肯定の言葉とともに頷く。


 小さい扉への道が開ける。


 甲冑兵の一人が杖のようなごつい何かを掲げると、渦を巻く物凄い風が通路を貫き、かなり奥まである小さな扉への空いた道に残った細かい瓦礫を吹き飛ばす。


「魔法って奴かぁこれ。凄いな」


 甲冑兵達が歩けるくらいには瓦礫の片付いた道に何かしら設置すると、小さな扉と船へ繋がった円筒状の防護壁の通路が接続され、安全な道ができる。


 テルルが何か向こうに語りかけると豪華な模様のある扉がゆっくりと横へ滑るように開いた。


 怯えきった一団が、甲冑兵達に見守られ出てくる。金持ちや王族みたいな奴らばかりと思ったがそうでもない。

 どちらかと言えば学者っぽい身なりの人が多い。あとは作業要員のような実用服っぽい感じの連中。

 近くにたまたま居たから避難した感じ。

 この場所は聖樹竜ユグドラシルドラゴンの中、深い場所にあるし、運の良い連中という感じか。



 金持ち連中は緒戦から殲滅戦を仕掛けられるとは思わず、避難はしなかったのだろうなぁ。


 甲冑兵の誘導で障壁で守られた通路を通り突撃艦の船内へ不安そうに入って来る。

 入りきれるのかどうか結構な人数が居る。ていうかすし詰めやん。

 かなーり無理な体勢で結構な人数が詰め込まれている。乱流の中を帰る時の振動と衝撃まずくね?


『大丈夫』『怪我』『回復魔法ある』


 まじかよ、今さらだけども豪胆な救出作戦だな。


 と、最後に割りと金時豪華な服を着た五人ほどの集団が出て来た。真ん中には十歳くらいの少女。後ろの連中の制止を振り切り飛び出して来ると、甲冑兵達に何か叫んでいる。


 テルルが慌てた様子で障壁通路に留まらせる。が、騒いでいるので担ぎ上げ船内へ。


 金髪金目で長髪で容姿端麗、薄緑の綺麗な中世風のドレス服を着ている。あ、耳が長い。


『長耳族』『王女』『クーリンテル様』


 中世風世界だろうと思ってはいたけど、王族やはり居るのかぁ。周りの豪華な服は侍従って奴なんだろうな。初めて見た。王女は用心の為に一応避難させておいたのか。正解だったな。


 王女は外を指差し無茶騒いでいる。


親を助けろと言っているのだろうか……なんとなく違うっぽい。

 外に誰か居るのか。障壁の外は灼熱の空気が入り込んで地獄のはず。


 カーナ達飛竜騎士達はその灼熱の中でも飛んでいたが……『貴重』とかいってたから近衛兵的な実力が半端なく抜きん出た選抜兵ってところか。カーナなら納得だ。


 近衛兵なら通常時も軍服着用してるかもだし、王女を守った近衛が怪我でもして外で動けなくなっているのだろうか。


 テルルや甲冑服が王女に無理だと言ってるっぽい動き。


 兎竜に乗ってたときみたいに何か分かるかなぁと、あの時の感覚を思い出しながら感覚を広げてみる。


 ……あ、居た。


 瓦礫を越え、壁の大分向こうの大きい通路に誰かいる。何で分かるのかわからんがいるのは分かる。着させられた軍服の機能なんかね。


 目を凝らすと二重の映像という感じで目で見てる船内の状況の上に瓦礫の奥の

 映像が見える。なーんとなく距離さえも感じる。軍服の機能凄ぇ。


 おいらは視界を思考をしっかり固めてプリカに言う。


「誰か向こうにいるんじゃね?」


「!」


 プリカがおいらの言葉と思考を受け取り、驚いたようにおいらを見る。


 なんでそんな驚いてるん?


 プリカが喋りつつ、意味を送ってくる。


『軍服』『そこまでの機能』『ない』


 ん? どういう事だ?


 と、そこでプリカの言葉を聞いていたらしい王女が、テルルに肩口へ抱えられたままプリカに何か問う。後、おいらの顔が見たことない感じらしく、いぶかしんでいる。


 プリカの回答に王女はテルルにおいらの方に行けと指示したっぽい。テルルがおいらに近づき、抱えられた王女が、おいらの頭を両手で掴み、何か言うと、王女の首元の襟の複雑な模様が淡く光る。


 魔方陣? なんぞされるのか。

 可愛らしいが、お転婆そうな顔の王女の顔が近い。吐息がかかって。ちょとイヤんだ。


 回避しようとも思ったが少女のお痛くらいは喰らうかなぁ。と思い頭掴まれたままそのまま立っていると、いきなり頭突きをしてきた。


 いや、頭を付けただけか。結構痛かったけど。


 王女の襟元が淡く光り魔方陣が稼動してると思われる。

 が、プリカも慌ててるだけで危険そうな顔つきでもないので、まぁ受けてやるかな、魔法。と、余裕ぶっこいていたら、頭に映像が入って来た。


 何かが、崩壊する凄い装飾の大きな通路を背に扉の前で手を振って別れを告げた侍女メイド風の人型の姿。彼女が大きな扉を閉めると、すぐに、扉の向こうで構築物が崩壊する大轟音。


 叫んでいる王女の手を握って無理やり避難所へ逃げる王女視点の近習達の顔。


 王女は集中した顔になると、そこまでの道順がおいらの脳内に流れ込む。


 ……『彼女』 『助けて』 王女の真剣な目がおいらを見つめる。


 おいらが彼女の教えてくれた方向を見ると、そこには崩落した聖樹竜ユグドラシルドラゴンの骸が空間を塞いでいる。


 だが隙間がある。甲冑服では無理だが、小柄なおいらなら通れそうな隙間が。


 障壁外の通路に残された者は居る。が、助けに行くにしても、そこは灼熱の空気が入り込んでいる地獄だ。おいら行けるのか。


『駄目』『無理』『超高熱』


その後のプリカの言葉と送られてきた思考から纏めるに、

 超高熱でも耐えられるカーナ達飛竜の騎士達は特別製の軍服の上に魔力豊富、かつ騎士は魔力操作に長けている。


 甲冑兵達が内側で着ている軍服は、そこまで高度ではないし、そもそも本人達の魔力自体足りない。魔女も以下同文。


 甲冑服着用のままでは大きすぎて崩落した瓦礫を進むとか無理だし、甲冑兵達の兵装は聖樹竜ユグドラシルドラゴンの骸の瓦礫には余り効果無い。破砕槌は斜め上に使用とか無理。


 となると、おいらが瓦礫の隙間からもぐりこんで引っ張り込むしかない。


 何かに気がついたかテルルがおいらの服をじっと見ると、何か叫ぶ。


『騎士の軍服』『こいつ』『魔力豊富』


 プリカからテルルの発言の意味が伝わって来たが意図したものではないっぽい。

そういやカーナに変な通路で着せられたんだよなこの服。あそこ騎士用の場所だったのか。


『魔力かなり使った』『救助』『素人』『過剰に危険』


プリカはわちゃわちゃと動揺した動き。助けたいけど、理屈で考えれば厳しい。それをおいらに強要するのもいけないと混乱状態な感じだ。


 言われたテルルや王女、甲冑兵達もそれを強く感じたか黙り込む。テルルは年上の甲冑兵に無茶怒られている。


 侍従になにかしら言われ王女が下唇を噛み、くやしそうな顔。


「兄貴だったら、どうするかなぁ」


 まぁ答えは一つだ。そしておいらの答えも。


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