13話 救・出・作・戦! 巨竜の骸の中にて

 突入するとともに、突撃艦の艦内の温度もどんどん上がって行き、暑くてきっつい。

激しい振動と突風による横殴りの衝撃に何度も振り回されつつ物凄い速度で降下している。


 生存者は樹の巨竜、『静煉』の中に居る。居るのだが……

 ……突撃艦は着陸の減速をしない、しないんだ。


『静煉』『体内』『深い』『生存』『区画』


 プリカが教えてくれるが、彼女も顔が引きつって居る。


「やっぱ突っ込むのかよ!」


 救助に突撃艦。そんな気はしてた。激突の衝撃とか魔法でなんとかするんだろう。実際戦場で見たし。


 甲冑兵連中が翻訳無しでおいらの言葉の意味を察したか、にっと笑い片手の拳を握っておいらを見る。テルルが何か言っている。


『舌噛む』『口閉じる』


 それ以前の問題な気もするが、噛まないように口をつぐむ。

 船内を覆うように描かれていた模様のような魔方陣が赤く光り船内が赤く染まる。


 山脈のような静煉の崩壊した体がぐんぐん迫る。

 体表にあった森は燃え尽き、吹き飛ばされ、生き物というより樹な質感の巨大な鱗が迫ってくる。


 通信から聞こえて来るカーナ達と甲冑兵達とプリカが同じ言葉を放つ。

 少ししてプリカの翻訳が来る。


『静煉』『感謝』『救命』   


『遺骸』『壊す』『陳謝』


 おいらも、その身で人々を守った静煉を称える。

 救助船が、突撃艦一隻だけということはおそらく助けられる数は少ないだろうけども。


 通信から煉の吼え声が聞こえて来る。了承の声だろうか。


 小窓から見える飛竜達が乱流にもまれながらも火球を吐く。暴風ものともせず火球は遥か下方の骸のほぼ同じ箇所に一直線に着弾。巨大な竜の骸に大きな深い穴を穿つ。崩壊した部分はめくれ上がり、強烈な嵐に巻き込まれ吹き飛んでいく。


 範囲が大きすぎてその崩壊はゆったり行われているように見えるのが逆に恐ろしい。実感できないが崩壊してる範囲をみるに凄まじい威力だ。


船体の軋む音とともに突撃艦は強烈な嵐の中を貫くように落ちていく。

 甲冑兵達の掛け声が船内に満ちる。そろそろ突入か。


『突入!』『来る!』

プリカの言葉と思考が飛んで来ると同時に飛竜の開けた穴に突撃艦は突入する。


「ぐええええ」


高速で突っ込む突撃艦が開いた穴の中の空気を圧縮する。超凄い衝撃が船を襲いおいらは保護ベルトに圧迫され息が詰まる。


 飛竜の開けた穴を抜け、更に深く聖樹竜ユグドラシルドラゴンの骸を砕きながら突撃艦は貫く。小窓からは粉砕されて千切れ飛ぶ骸が見え、瞬時に後ろへ消えていく。


 轟音と衝撃はいつ果てるという間もなく続く。

 樹の巨竜の骸を砕く音が凄まじく煩く、鼓膜を叩き続ける。破砕する振動が体を休みなく振り回す。船体が軋む音が超怖い。


 地獄の嵐と灼熱の大気。生存者が居る場所というのは竜の骸のかなり深い場所でないと駄目なのだろう。


 永遠とも思える間の中ついに雰囲気が変わった。


 少し速度が緩まったか? 船内の魔方陣の赤い光が輝きに変わり、出力が増したっぽい。


 甲冑娘、テルルが何か叫ぶ。


「最後の突撃来るのか!」


 突撃艦のは敵艦に体当たりしていた。多分今回もそれで停止するのだろう事は予想できる。あれ本当に大丈夫なんかなぁという不安はあるが……あれを行った甲冑兵生きてるもんな。大丈夫……なはず。


 おいらは衝撃に備え体を縮こまらせ、それに備える。歯も無茶食いしばった。

 保護ベルトに死ぬほど体を叩き付けられるのを覚悟した。


 かなりの衝撃が来た……が思ったほどでもない。


「あれ?」


 衝撃はあった……が、割とあっさりした物だった。最後の大衝撃は魔方で何かしらしたっぽい。


 プリカも思ったのと違うと感じたっぽく、必死に取っ手を握り締め耐える体勢だったが辺りを見回し、似たような体勢のおいらと目が合うと困ったようにお互い笑った。


 甲冑兵はそんなおいら達を尻目に、テルルの号令の元船壁を蹴り開き、すぐに船外へ出て作業を始めている。地味に錬度高いな。下手に手伝いに行くと邪魔にになりそうだなぁ。


 テルルが作業の指示を終えこちらを向くと驚き、大声で、船底の水晶の入った魔方陣を激しく指差す。それはもうとてつもなく。


 プリカがそれを見て水晶の魔方陣の方を見ると口が兎のごとくになる。超ヤバいって事か。


 青白い輝きが失せ、暗く、黒っぽい感じになってる。


 プリカもおいらの方を見て激しく魔方陣を指さす。

 二人の動きが面白いが、そんな場合じゃねーっぽい。おいらは急いで握っていた取っ手から、おいら的には気合な、魔力って奴を流す。


 ……あえ、なんかごっそり持ってかれた気がする。


 船に最初に入れた時は真っ黒でもなかったもんなぁ。残量結構あった。

 今回は使い果たす寸前で満たすまで入れたからこうなったのか。


 青白い輝きに戻った水晶を見て二人は安堵している。


「おいらが居たから助かったんだぜ」


 と体力を持っていかれへばったおいらは自慢げに言ってみた。

 プリカが大雑把な意味をテルルに伝え、二人がおいらに笑いかけ、何か言う。


 そして『ありがとう』謝意がプリカから来た。テルルも拳を額に付けて敬礼っぽい何か。


 いや、そこは、調子乗ったおいらを、からかっても良いのよ、いやからかって下さい。





 体力持っていかれたとはいえ、まだ動ける。外へでて手伝おうみたいな事を言ってみるが、やはり 『邪魔』 とのこと。


 まぁそりゃそうか。おとなしく蓄電池役に徹するか。

 待つのも暇なので、席を立ち開放された船扉から外を覗く。プリカもあとに続く。


 障壁の淡い輝きの向こう、開けられた船扉の外は倒木のような樹の欠片が散乱し、脚の踏み場もない。


 半球状の天井の防護障壁を貫通した巨木の骸があちこちから床へ突き刺さっている。

 天井の障壁は隙間から輝きが見え、それでも効果を完全には失っていないようだ。凄ぇ。


 二重構造の避難所なのだろうか、中央に防空壕だろうか半円形の突撃艦くらいの構築物が沢山の竜の骸に埋もれながら 垣間見え、落ちた骸の影から見える小さな扉に、甲冑兵がなんとか辿りつこうと苦労しているようだが、巨大な樹の破片に四苦八苦している。


 部屋も全て全般的に樹めいた質感なのは、聖樹竜ユグドラシルドラゴンの体から作られているのだろうな。


 天井に描かれた魔方陣がかなり強く輝いており、装飾品の如くはめ込まれた水晶群はかなり暗くなって居る。つまり魔力切れまで余り時間の余裕が無い。圧壊するのか熱でやられるのか。両方な気がする。


 突撃艦は突っ込み天井をぶち破り、天井から半分突き抜けて半分外に船体が出てる状態。灼熱の外気は入って来ないのが不思議だ。


 忙しそうに何かしらの機器の設営している甲冑兵を横目に、船体と天井のつなぎ目を見上げているとプリカが説明してくれる。


『障壁同士』『繋がる』


 竜への着艦みるに、障壁同士は繋がって障壁を維持する故に大丈夫っぽい。何気に超技術。味方同士なら接触できたしな……と柔らかかったプリカの体の感触を思い出す。


 プリカが、指をむにむにさせて手の平を見るおいらを、ちょと赤くなった顔で、ちらりと見た後、おいらの方をみないように余所を見ている。


 ……あ、ヤバい。言語習得の魔方陣が体に貼り付けてあるんだった。


 プリカは


『良くある』『授業』『習った』『仕方ない』


 と教えてくれた。良くあることらしい。役に立つ授業ってあるんだな~。


 設営が終わったらしい雰囲気。

 船の開け放たれた扉から防空壕へ続く円筒状の防護壁が完成している。


「うおっ。何か凄い物持ちだしてんなぁ」


 甲冑兵が船内から持ち出していた電柱より少し短いごつい棒状の兵器っぽいものが床に装着され、瓦礫の奥の小さな扉へ向けられており、周りに甲冑兵が待機している。


『対竜用』『威力』『下げて』『使用』


 おいらの中で何か繋がった。雷撃数発耐えるとか言ってたし。こいつら、対竜用の強襲陸戦兵か。


 プリカがこちらを見てこくんと頷く。可愛い。あ、しまった。プリカの首筋が赤い。


 もうしゃあない。馴れるしか無いやろー。


『馴れる』『ない』


『制御』『方法』『教える』


 制御方法あったのかよ。おいらは思わずプリカに突っ込みを入れた。



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