11話 灼熱の地獄と化した惑星への救・出・作・戦!


 甲冑娘に船内へ連行されるおいら。

中はほぼがらんどうであり、船体のかなりの部分を占めそうなあれほどの推進力を生み出す推進機関も見えない。どうやって飛んでたんだろうなぁ。


 飛竜の数倍はある大きさ、肉厚の壁でかなり狭まるが内部には家屋二軒分くらいの大きさの空間でかなり広い。


 皆もどやどやと後を付いて入って来る。ちらっと見た甲冑の背中に引っ掛けるような場所があり、船内を前後に貫く鉄柱にある巻き取り機と足場で大体どんな風に甲冑兵が敵突貫時に収容されてるのか判った。



 最後尾の円筒の底の壁に、黒鉄と木で出来た導管が沢山付いた球状の籠の中に

 立って腰を支える感じの椅子と、導管の付いた取っ手が前方に二つある。


 導管は円筒の底の壁にある大きめの水晶と魔方陣、さらにそれを取り巻くように

 沢山ある小さな水晶付き魔方陣へ繋がっている。


「気を貯めたり出来るのかなぁ。この場所の雰囲気だと魔力ってやつか」


 おいらに魔力とか笑うけど気と同じものなら、ありなのか。


 いやー特訓して使えてるとは言われたけど気って実は良くわからんかったりする。

 くるくる体内を巡らせ……てるかな? な感じだし。あ、体はぽかぽかするので

 冬に便利だ。


 球状の籠のひとつに座らせられると手を取っ手に置かれ握れという動作をされる

 カーナと横に何時の間にか真面目ちゃんが居て、カーナとともにくるくると

 自分へ向けて手を廻すしぐさをしている。


 甲冑娘もしているので、三人同じ仕草に噴出しそうになったが耐える。

 気の短い奴甲冑娘と喧嘩になりそうだし。


 おいらは昔の特訓を思い出しながら気を廻らせた。


 すると導管が僅かに発光し、カラカラ音を出すと魔方陣の水晶達が青白くなり始め輝き始める。皆がわっと沸く。


 カーナと甲冑娘がおいらの背中を叩きニカッと笑う

 おいらが取っ手から手を離そうとすると、おいらの手を取ってもう一度握らせると船外へ出て甲冑兵達に鋭く指示を与え始める。


二人とも馬鹿力なので叩かれた背中マジ痛い。


 大喜びで出て行った甲冑娘も親分格なのか甲冑兵に指示をだしている。


 連中が全員船外へ出たが、真面目ちゃんは残りおいらの事を驚いた顔で見てる。

 なにか言いながらおいらに指を当てるとピリッと来るので、気というか魔力を

 流して色々調べてるっぽい。


 好奇心旺盛なのか、ある意味子供っぽいのか、なにかしらの検証をしてる。

 真剣な顔で我を忘れた感じというか廻りが見えなくなってる感じ。

 学者系なのかもな。真面目だし。


 とりあえず、好きなように調べさせつつ、扉から垣間見える船外の作業は大事に

 なってるようだ。


 ガンガン打ち付ける音が船内に響く。運んできた鉄板を外壁に取り付けてるらしい。


 更に水晶のついた、大小さまざまな魔方陣や模様の描き込まれた、甲冑兵の倍はある大きさの鉄製の長方形の箱を船内に持ち込み、固定、船底の水晶へ繋いでる。


 物凄く作業が早い。


 甲冑娘が入って来てなにか言っている。

 おいらを調べてる真面目ちゃんが邪魔そうだが、真面目ちゃんは調査に夢中で気がつかない。


 甲冑娘はため息をつくと少し後ろで手をぐるぐる回す。


 気を入れろってことか。


 しかし、彼らは軍だろうけどなんか緩い。

 おいらが話で聞いた軍と比べると緩すぎてあくびが出るが、こんだけ緩ければ

 溶け込めそうな感じもあり少し安心だ。



 おいらは気というか魔力を込める。

 運び込まれた鉄製の箱の水晶も青白く輝き始める。歓声が上がり大騒ぎだ。


「水晶を青白く光らせる事の何が凄いの?」


 真面目ちゃんに問い、判ったのか何かしら説明をしてくれてるようだが、言葉が判らないのでお互い顔を見合わせ、困った顔。



 そんなこんなでカーナが命令を発し甲冑娘が何人か見繕って船内に乗りこんできた。


 カーナが来いみたいな仕草をしたので席を離れようとすると、甲冑娘が怒鳴って

おいらを席に着かせ、カーナと睨み合いになる。


 廻りの甲冑兵がおろおろして取り成してるようだが口論は終わらない



 カーナが何か言ったあと命令を出し、しばらくすると白い服の医者っぽいほっそりした娘が妙な筒を持って来た。儚い感じの綺麗な人だ。


 それなりに待たされたから余り使われないものだろうか?

医者っぽいの来るとかちょと怖いんですけど。


 円筒形の筒みたいなものの先に魔方陣みたいな模様が描かれている。

 船の魔方陣とはまた違った模様だ。


 医者っぽい人とちょと揉めてる。ヤバいものなのだろうか。

議論は終わり、使用が決まったっぽい。


 カーナはちょいと怯えるおいらに、円筒を押すような動作をしたあとその円筒を握らせカーナは腰をかがめ、髪を掻き揚げおいらへ向けうなじを晒し、後頭部辺りを指差した。


 カーナの色っぽい仕草においらはちょと赤面するが、コレなんかヤバそうな筒なんですけど押し付けて大丈夫なのか?


 くるくる廻すしぐさに魔力(もうこう呼ぶことにした)を込めることを理解し

早くしろとも促され仕方なく、カーナのうなじへ魔力流しながら円筒を押し込むと

 小さな唸り音とともに円筒が振動し、カーナの後頭部へ円筒の魔方陣が転写される。


「ハンコかよ!」


 おいらはちょと気が抜ける。

 促され円筒を渡すと今度はカーナがおいらの許可を得る感じで何か言う。


 言葉のはわからんが意味は判る。なんにしろカーナは兄貴と似ている。

 無条件で信頼しているおいらは、怯えながらも頷く。

 ビビッてるのは……バレてーら。カーナが笑ってる。


 おいらの頭を掴み後頭部を晒すと医者と真面目ちゃんがちょと驚いた顔したのが

 横目で見える。何かあるのか指さしてる。脳みそはみ出てるとかじゃないよな


 カーナは何故か声出して笑いながら円筒を押し込む、押された場所はカーナより

 少し上の位置だ。



 真面目ちゃんが決意した表情でカーナに何か言っている。

 カーナは暫く思考すると、裁可だろう声。


 真面目ちゃんは緊張した顔しながらもニッコリ笑うと魔女帽を脱ぎ髪を掻き揚げ

 おいらの前に座る。押せってことか。カーナを見上げると頷きを返された。


 恥ずかしいのかほんのり紅色に染まった白い肌白い肌が目に入り……


「おうっ」


 おいらは余りの光景に仰け反るが、カーナに頭を叩かれ落ち着きを取り戻す。


 今のはヤバかったと思いつつ円筒を彼女に押し込んだ。


 促され、円筒を渡すと真面目ちゃんはおいらの頭の上に円筒を押し込む。

 魔方陣押す位置は重複は駄目とみた。



 甲冑服の連中は大丈夫かよ的な目で見てるのが気になる。


 カーナが天というか惑星の方を指差しなにか言った。

 少し集中してるようだ。


「おxごfmmdヴぇ」


 相変わらず何言ってるかわから……ん!?


 脳内に記憶が伝わってくる。いや、意味か。

 豊かに広がるコウモウの畑、学校、家、大きな城のような建物、巨大な山脈の

 ような竜。

 故郷、そう故郷だ、彼らの惑星。翡翠の海。宝石のような惑星。故郷!


 おいらは発音を真似する。


「みxごfんmdあぇ」


 発音が変らしく、皆が笑い、正しい発音で言葉を紡ぐ。場は和んでいる。



 発音は無理だからおいらの脳内で考える場合は彼らの故郷の惑星の名は『翡翠』

そう呼ぶことにした。

 単語の意味というか概念が伝わってくる。これは洒落にならん技術だなと思う。


 文章で『惑星』と書くのでは伝わる情報はそれだけだが、魔方陣で『惑星』の言葉を発音とともに、惑星にまつわる記憶、意味、感情が個人の記憶レベルで伝達される。


 文字や映像だけの情報とは情報量の桁が違う。正確性の桁が違う。


 おいらの脳には滅びた惑星の名とともにカーナの滅びた故郷への悲しい思いも

 奔流のように入ってくる


 おいらの目から涙が溢れて来る。慟哭に近い嗚咽でおいらは泣きはじめた

 故郷『翡翠』をの方を向いて。


 廻りの連中も急に慟哭し始めたおいらに驚きとまどう。甲冑娘は医者のような人に詰め寄っている。


 医者が何か話すとその意味を理解したらしい。


『翡翠』


 カーナの話した言葉には、含まれる思いもおいらに伝わっていると。


 故郷『翡翠』の死。その感情や思いを流し込まれ、異邦人なのに泣くおいらに甲冑服の連中は仲間を見るような目でおいらを見る。


 作業で気が紛れてはいたが故郷の惑星が滅びたことを今更ながら思い出し彼らも慟哭する。おいらとともに。


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