10話 戦の終わりと甲冑娘テルルとの出会い。陸戦隊だ、荒っぽいぜ。



 敵の姿も消え、竜の背中にある明るい細長いドームみたいな所へ魔女達が続々着艦していく。


 障壁をするりと通り抜け、適当な感じであちこちから樹の中にある各自の場所へ帰還。


「樹に帰る雀みたいだなー」


 飛竜は警戒飛行しつつ魔女達の後に、兎竜は飛竜の前に帰還か

 戦闘力順だろうな。


 着艦すると甲板のような場所で沢山の魔女や男達が崩壊した惑星を見あげ泣いている。魔女の女の子達は抱き合い、男達は仁王立ちで見上げ、男泣きに泣いている。


 兎竜は壁際にある少しうねった根の洞のような場所へ戻る。

 膝上の子の友人かな、二人ほど魔女の子がいる。連絡が行ったのだろう。

 仲間ってよいよな。


 座席の障壁が消えると、魔女の女の子達が泣きながら抱きついて来た。

 もちろん膝上の彼女へだ。


 座席の位置的に抱きついた子の膝がガシガシとおいらに入るが、それを咎めるほどおいらは空気読めなくない。兄貴に会う前はヤバかったけどな。


 友人の脚がおいらの頭に当たっている事に気づいた女の子が真っ赤になり謝ってくる。

言葉はわからんけど多分そんな感じ。生真面目な子だったのか。


 兎竜の中では中身わかる会話のある状況でもなかったからなぁ。


「気にすんな」


 脚が頭に当たって身動きとれないがおいらは笑って返す。多分意味は通じる。

 真面目ちゃんもちょと笑顔。


 おいら真面目な子は好きだぜ。女と付き合ったこと無いけどな(涙)


 友人の子もおいらに謝ると(言葉はわからんけど)膝上にいることをからかってるようで、更に真っ赤になる膝上の真面目ちゃんは、なんとか席を出ておいらにお辞儀をする。


 出て行くときおいらの太腿を強く踏んで体勢崩した。結構ドジ属性もあるようだ。

 踏まれた脚が痛いがおいらは笑顔を崩さないように頑張った。男だからな。


 降り立った真面目ちゃんにおいらが手を振ると、真面目ちゃんはまた友人に

 からかわれてる。怒ると可愛いのな。

 彼女達はおいらにお辞儀をすると、急に泣き出しながらお互い体を支えあい

 甲板の方へ歩いて行った……


 崩壊した故郷を仲間達と見上げるために。


 真面目ちゃんはおいらを置いてくのが気になるのかちらちらこちらを見ていた。が、故郷の壊滅という状況に異邦人のおいらが居ても気まずいだけ。放置で問題ない。


 おいらは座席で頭の後ろで手を組み考える。

 洒落にならん悲劇を見た訳だが、映画を見ているようで妙に実感が無い。


「そもそもおいらは何でこんな所に居るんだ?」


 声を出して考えを纏める。


 さて、どうするか。


 飛竜達が障壁を越え降りてくるのが見える。

 その中でひときわ大きな飛竜はカーナだ。無傷だ。嬉しさがこみ上げ気合の声が出る。


「うっしゃぁぁ」


 まずは兄貴だ! 兄貴の元へ行こう。いや兄貴じゃなくてカーナか。

 三下の心がうずく。カーナなら何かしら指示してくれるはず!



 と、その時、荒々しい音とともに広めの隙間から、砲弾型の船が入って来た

 ちょとした騒ぎになって居る。


 余り大きい船ではなかったんだな。鉄骨と木で出来た船は飛竜よりふた廻り程大きいくらいか。


 甲板に着陸するとバラバラと甲冑を着た骨の化け物達が下りて来る。

 それを見たカーナが巣へ戻る飛竜から飛び降り彼らの方へ歩きだす。


「ビル五階分くらいの高さがあったなっと」


 おいらは兎竜から飛び降りると兎竜を軽く叩く。


「ありがとよ、また頼むな」


 軽く頭を下げるおいらを鼻を鳴らし、ちらりと見ると兎竜は体を崩し寝始める。

 ツンデレさんめ。


 甲冑を着た骨の化け物達はやはり人が入ってたらしく面頬を上げ会話している。

 軍属だろうけど大きさや装備、甲冑に至るまでてんでばらばらの中世風。

 使い込まれた感じが渋い。


 軍隊で使ってる強化服みたいなもんか。甲冑服とでも呼んでおくか。


 そういえばカーナや魔女達の服装も使い込まれた歴戦って感じの渋さがあるな。


 なにやらカーナと揉めてるようだが、飛竜の騎乗者達も集まりなにか話ている。喧嘩という感じではない。言葉がわかればなぁ。


 嘆くのを止めた一部の魔女やその他の乗員は彼らを取り巻いてそれを見ている。


 小さめの甲冑服着た短めの金髪をした少年?少女かな?

 が、おいらおいらを指差し何か叫んでいる。

 カーナもおいらの方を見た。


 カーナの元に走っていくおいら。兄貴の元に走っていく感覚を思いだし涙が出そうになる。


「お呼びですか、カーナの兄貴」


 カーナの元に参上してカーナを顔を見て指示を待つおいらを見て、金髪の甲冑服は地団太踏んで怒っている。指差したのは自分なのにおいらが反応せずカーナの指示待ちなのにムカついたのだろうが、おいらはカーナの命令しか聞く気はない。


 カーナは何か思考している。


 すらりとした体に先端がうねった感じの銀桃の綺麗な長髪が映え、思考する姿も格好良い!


 金髪甲冑服何か言っているがカーナはそれを手で制すると指示を出す。


 誰かが木製の古びた小さな円盤を持って来た。見ると緻密な魔方陣っぽいものが描かれている。


 何するねんと戸惑っていると金髪の甲冑服が乱暴においらの手を掴みその円盤に

 さわらせる。かなり気が短いようだ。喧嘩もいずれあるかもしれん。


 喧嘩には情報が必要。おいらみたいな速さしか取り柄がない奴は特にだ

 ゆえに観察だ。


 八重歯が牙だなこの子は……匂いが、女の子の匂いだ。甲冑服からのぞく胸元にもちいさな谷間がある。となると逃げの一手かぁ、怪我はさせられねぇし。


 おいらの視線の先に気づいた甲冑娘は凶暴な笑みを浮かべると拳をおいらの頭に

 おとす。


「ちょ、おまっ駄目だろそれ」


 受けようかとも逡巡したが強化服だろう甲冑服で殴られるのはヤバいだろ。

 本能的においらはそれを回避。


 避けられた甲冑娘は少しあっけに取られた顔の後、怒りの顔になる。

 殴ろうとする奴って何で避けると怒るんだろうなと思いつつ少し距離をとる。


 何か喋りながら甲冑娘が拳を胸の前で当て言ってくる。


 訳(避けやがって舐めでんのか)とか定番言ってるのが言葉がわからんでも判る。

 ある意味、この竜の中の連中がおいら達と変わりないとわかって嬉しいやら

 悲しいやら。


 おいら達に気ずいた廻りが囃子立てる。装甲服着た奴らは大喜び、魔女達はドン引きである。カーナを見ると、顎を軽く上げやってみろ的な感じだ。


 おいらが此処に突然来た時、多少やりあうような感もある流れだったからおいらの事が多少判るのだろう。


「おもしれぇ。来なよ。殴ってんかいぃ」


 激怒した甲冑娘が何か言いながら殴りかかってきた。

 訳(後悔すんなよ!) おそらくこんな感じ。


「遅い、遅い遅いぃ!」


 兄貴に素早さだけなら、日本一だなと言われたおいらには掠りもしない。

 上下左右に避け捲くる。甲板上で広いのもこちらに利がある。


 囃し立ててた声が驚きのどよめきに変わる。


 甲冑娘の甲冑に描かれた沢山の魔方陣が淡く光りだす。

 兵器としての能力を使用する気らしい。


「へぇ、屑の方の軍人さんかぃ」


 血溜まりに沈む兄貴を思い出す。地面に伏す兄貴を取り囲む重火器を持ち強化服を着た奴らを……

 後から聞くと、この時おいらの目から光りが消えたらしい。


 飛竜達が次々に吼え、樹の広間の中に喧騒が溢れる。皆少し動揺し辺りを見す。

 兎竜がゆらりとこちらへやってくるのが目の端に見える。


 喧嘩の喧騒に真面目ちゃんも驚いた顔でこちらの方を見て走って来る。


 カーナの気の抜けた制止の声とともにいつの間にか前方へ廻り込んだカーナに、甲冑娘はむき出しの顔を掴まれ、ぎえええと悲鳴。


 何故かおいらも顔を掴まれ締め上げれれる。喧嘩両成敗ってやつか。

 売られた喧嘩買っただけなのに……理不尽だ。


喧嘩を止められ文句を言う甲冑娘や兵達をカーナは笑いながら流すと、甲冑娘になにかしら言いながら目を合わせると甲冑娘は力を抜きふて腐れた顔になるが闘志が消える。


おいらはカーナが止めたのならそれに従うだけっすね。


カーナはおいらの手を、もう一度、古びた小さな木製の円盤の上に置く。

 円盤から出た光の玉の内部が山のようにうねっている。

 何故か皆驚いた顔だ。


 しばらくするとなにかしらの鉄の缶みたいなものを持たされ、カーナを見ると体に向けて手をぐるぐる廻している。


 何をすればよく判らんでまごついてると、真面目ちゃんがやって来て缶を持つ

 おいらの両手に手を合わせる。

 真面目ちゃんは、ちょと顔が赤らめているが、缶を持つおいらの手に手を重ねたまま目を閉じる。おぅ、可愛い。


 女の子に手を重ねられ動揺するおいらを甲冑服連中が笑うが、真面目ちゃんが目を開け睨むと黙る。


 おぅ。結構気が強い。


気をとりなおした真面目ちゃんはまた目を閉じると何かをしてるようだ。

 右手が熱くなり左手へ熱さが移る。それを何度か繰り返す。


 良くわからんが気でも廻せってことなのか。


 仲間から習った武術のとき気を体内で廻せ云々があった。おいらは上手いらしい。

 あれのお陰で、素早さに磨きが掛かった。文字通りの血みどろの特訓だったが、兄貴の軍団に付いていく為に頑張ったなぁ。


 とりあえず気を廻してみる。缶に付いている小さな水晶球が真っ黒から青白い色

 へ変化した。


 またどよめきが起こり、真面目ちゃんは驚き、何故か甲冑娘が得意げだ。わけわからん。


 甲冑娘がおいらの腕を掴むと船内に連れ込む。喧嘩の後腐れは無いタイプらしい

 おいらは残る方なのでちょと尊敬してしまう。

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