9話 亜光速弾。究極の殲滅兵器。

 亜光速弾。究極の殲滅兵器。



 大陸を吹き飛ばす着弾の衝撃波は地上のありとあらゆるものを吹き飛ばし、

 山脈を越える高さの地殻の、大地の津波が全てを飲み込んでいく。


 眼下の惑星が亜光速弾によって、一瞬で死の惑星へ姿を変えていく。


 着弾による莫大な衝撃のエネルギーは大地を吹き飛ばし、大陸に巨大な穴を開ける。


 と同時にその余剰エネルギーは数万度の超高温となり大地を灼熱の溶岩の海に

 変え、さらに岩石を蒸発させ岩石蒸気として大気に撒き散らす。


 衝撃波とともに数万度の岩石蒸気は大気の中に撒き散らされ、地上の生きとし生けるものを灼熱で焼き尽くしていく。


 それをおいらは兎竜とりゅうの中から見ていた。緑を湛えていた惑星はもはや無い。


 黒い噴煙に覆われつつある大地に、魔物の目のようなマグマが眼球のように産まれ、死を振りまいている。


 竜も飛竜の搭乗者も箒の魔女達もそれを凍りついたように眺めている

 今、此処に攻撃を喰らったら壊滅だったろう。


 膝上の女の子の体はとてつもなく震え、両手で口を押さえている。


 あれ一発で惑星のありとあらゆる生命が滅び、絶命した。






 小悪魔竜の樹状居住区画内の中、故郷の惑星が吹き飛ばされたことに神官の皆が

 絶望の叫びを上げる。彼らが祭る祭壇に人形のように座る幼い少女からつっと涙がこぼれだす。


 一人の神官がそれに気づく。幼い少女のような姿をした何か。

 少女は『神格』であり、今まで柔らかな笑顔以外の表情を浮かべることはなかった。

 神官が生まれる前から祭壇に座っていたし、今も姿を変えず同じ姿勢で座っている。


 ……いや、座っていた。


『神格』が立ち上がり樹の間から見える死んでいく惑星に顔を向ける。

『神格』である自分の大好きな愛してた数千万の人間達がその命を奪われる悲鳴が

 全てその耳に入る。


『神格』絶叫した。悲しみの、慈しみの、愛した子らが声を上げる無く絶命した

 悲しみの悲鳴を聞いて……


 悲しみ、慈愛、悲しみ、激怒、激怒。


『神格』の奔流のような情動が宇宙を満たした。





 おいらは感じた。衝撃波のような情動の嵐を。悲しみ、慈愛、悲しみ、激怒を。

 おいらは絶叫する。膝上の少女も悲しみに叫んでいる。

 通信からも飛竜の搭乗者も魔女達も絶叫しているのが聞こえる。


 真横の小悪魔竜も咆哮しているのが聞こえる。通信から聞こえる声は低く唸る激怒の咆哮、竜の怒り。


 竜の体の魔方陣が先ほどの雷撃の時の比ではない輝きを放ち始める。


 のんびり声の指令が切迫した声で命令を叫んでいる。情動の衝撃波に皆動揺し誰も反応していない。


 と、その時カーナの怒号の命令口調の言葉が皆の精神に切り込んできた。


 おいらも、兎竜も、膝上の少女も思わず背筋がピンとなる。


 兄貴を思い出させるその一喝においら達は平静さを取り戻す。

 情動の衝撃波に取り乱すことも無く、さらには人を従わせる命令の声を放つカーナ。


「やっぱ兄貴だよなぁ。カーナは」


 カーナと兄貴は同格なのをおいらは追認する。まじ凄い。


 カーナとのんびり声の指令の指示らしい声が通信を満たす。


 切迫した声に冷静になったおいらが兎竜側面の竜から青白い光を感じそちらを見る。


 竜の口元に途轍もない圧力の青白い雷炎が集まりつつあるのを感じる。

 雷が体表から発する幾百の雷が竜の体を撥ね捲くりながら口元へ収束しつつある。


 兎竜がそれを見ると体をビクンと震わすと急加速、竜から文字通り脱兎のごとく距離をとり始める。おいらと女の子は座席内で悲鳴を上げ振り回される。


 廻りを見ると飛竜や魔女達も脱兎のごとく竜から離れつつある。


 地上に居た樹のような巨竜のあれを小悪魔竜も撃とうとしてるらしい。

 あの莫大な破壊の奔流は近くにいればその余波だけで死ねるのは容易に予測できる。


「距離が近いとそりゃ洒落にならんよな」


 樹のような巨竜から打ち出された雷炎とこいつの撃とうとしている雷炎は似ている


 あの樹のような巨竜ってこいつの母親だったのかもな。

 母親と断言するのはあれかもしれながおそらく多分……


 竜の視線の先には逃げる敵大艦隊の噴射炎が見える。そしておそらくはおいらの目を通して見た、あの黒銀の潰れた卵のような禍々しい巨艦が竜の視界の先に居る。


 竜の胸元から喉元へ青白い光がせり上がり口元へ登っていく。


 通信に制止しているっぽいカーナとのんびり声の指令の声が交錯する。

 だが竜は力の収束を止めない。口元に纏わり付く雷炎はどんどん巨大化していく。


 竜の巨大な体表が口元に集まるまばゆく輝く青白い光で強烈に照らされ、影は漆黒の闇と化す。小悪魔竜が咆哮する。怒りの咆哮だとわかる


 と同時に怒号の咆哮とともに巨大な青白い奔流を吐き出した。


 宇宙を旅する竜の吐息ドラゴンブレス


 激烈な奔流は退避した廻りの友軍も嵐の中の船のように翻弄する。

 障壁により遮蔽された漆黒の視界の中でも一直線に撤退している敵大艦隊を奔流が貫くのが見える。


 そして敵大艦隊を抉るように左右に振られたそれは、艦隊を蹂躙し殲滅していくのも兎竜からの感覚で判る。凄ぇ。

 数千にも及ぶ敵艦は、竜の吐息ドラゴンブレスに触れるだけで粉砕、蒸発させられ星の海にまばゆく輝く爆発の光が花火の川の如く生み出される。


 圧倒的な破壊の力。宇宙を飛翔する竜の力においらは恐れさえ抱く。


 竜の吐息を初っ端から使用していれば、艦隊だけは片は即ついただろうが、

 おそらくそれは緒戦から核を使うようなものなのだろう。それが裏目に出た

 相手はこちらと対話する気は端から無かった。無かったのだ……


 竜の吐息は敵艦隊を蹂躙、粉砕し更に突き進む。


 宇宙の深遠を数分かけて超え、竜の吐息おいらの見た黒銀の潰れた卵のような禍々しい巨艦の横を雷炎の柱が突き抜ける。

雷炎はほぼ光速と考えれば、観測と着弾はほぼ時間差が無い。ゆえに数分掛かる距離とはいえ回避は不可能。


 直撃こそ逃した。が、巨艦の端に命中した雷炎は雷を撒き散らし、

 怒涛の勢いで艦隊を一瞬で殲滅した破壊の力の一部を巨艦へ撒き散らす。


 猛烈な光に禍々しい黒銀の巨艦の半身が包まれ、構造材が雷炎を浴び千切れ飛んでいく。


「沈めたかっ!?」


 障壁の黒化が溶け、視界が戻ったおいらが、横を肉眼で見ると竜の吐息ドラゴンブレスの光芒が弱まり、口元で蝋燭が消えるようにその破壊の雷炎がきえていくのが見えた。

 少し苦しそうに見える。本気の竜の一撃は結構体力を消費するようだ。


 おいらが遥か遠くの巨艦の方を見ると千切れとんだ破片の雲海の中から黒銀の巨艦はゆっくりと姿を現す。半壊している。が、動いている!


「まだ動けるのか!」


 あれほどの破壊の一撃を直撃では無いにしろ喰らい内部の損壊も半端ないだろうに動ける事に驚くおいら。


 その時、感覚に何か歪みのようなものを感じた。歪んでいる? 何が?

 敵巨艦の前方の星が歪んで見える。


 慌てて敵残存艦隊を見る。二割ほど残っていたそれの前方の星も歪んで見えた。


「!」


 急激な加速を敵艦隊は始めた。加速なんてもんじゃない。

 おいらなら超々と超が更に十個はつけるような急激な加速。

 中に生物が乗っているならば生きてるのは無理ではなかろうかな加速だ。


 黒銀の巨艦は巨大さゆえに何かしらの高速航行技術使用の充填が終わっていないのか、まだ急激な加速は行っていない。


 竜がギロリと肉眼では見えない遠方に居る黒銀の巨艦を睨みつける。

 惑星を、母を殺した艦隊の旗艦だろうそれは絶対に沈める。そんな意思。


 竜は再び雷炎を身に纏い始める、先ほどよりはかなり弱めだが半壊したあれを沈めるには十分だろう。口元に雷炎が青白い光を放ちながら収束する。


 だが、同時に敵巨艦が加速し始めた。


 咆哮し、竜が雷炎を放つ。


 雷炎の柱は遥かな距離を越え数分後、敵艦のいた位置を貫く。が、もう巨艦は

 そこに居ない。


 敵を逃がした事を知り、竜の激怒の咆哮が響き渡る。いつまでも、いつまでも……


 その咆哮の中、おいらは驚愕していた。

 敵艦の加速度は凄まじく、竜の雷炎が伸びる速度よりも遥かに速く移動していたのだ。操縦桿を握る手に汗がにじむ。


 嫌な事に気づいてしまったおいら。


「光の速さ超えてるんじゃねぇか? 敵さんは!」

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