3話 カーナは格好よいぜ!  あと、とっても可愛くない目付きの悪い黒兎さんに出会った


 甲板のような広大な樹の床の場所の端にあるウネウネと太い根が絡み合うような大樹の根元めいた場所においらを片手でぶら下げたままカーナは着地する。


 おいらに対する衝撃も上手く和らげてグエッと呻くだけで済んだ

 兄貴並みの化けものだ。ちびりそう。


 カーナは紐を外し服に戻し、おいらを立たせ、樹の洞のような窪みを指差した。


 少し先の巣のような窪みにそれは居た。


 そこには黒っぽい鱗のような毛皮を持ち、カジキまぐろのような長い一本角を持ったゾウくらいの大きさの兎と竜の合いの子のようなものがうずくまっている

 長い耳は大きく体の横に広がり飛行機の翼の如くだ。


 面倒なので兎竜とりゅうと勝手に渾名をつける。


 リンゴほどの大きさの虹彩の無いあおい宝石のような目が睨むようにこちらを見る。


 怖えーーと思いつつ。

 睨まれて尻尾巻くのは癪だっつー事でおいらは睨み返す。


「かかか、可愛い兎さんですねー」



 隣に兄貴並みに強いと思われるカーナが居るからメンチ切れてる訳じゃないぜ

 おいらの気合だ! 脚震えてるけどな。


 メンチ切り合うおいら達をカーナは面白そうに見ていたが、一本角の兎の方を見る。

 兎は鼻を鳴らすような動きをすると頭の後ろ辺りの鱗毛を座席があるよ的な感じでざわざわと立ち上げ開く。


 ……え、そこ座るの? もしかして俺も出撃?


 カーナが掛け声とともにおいらの両脇を抱え兎竜とりゅうに駆け上がると座席っぽい何かに放り込む。


「うほっ」


 微妙に暖かくて毛の感触も気持ちよく、座った状態のおいらの体を包みこむように支える。兎竜には雑に扱われると思ったが丁寧じゃん。


「お前、気が荒いようで可愛いところもあるっすね」


 笑いながら問いかけたせいか兎竜はちらりとこちらを見た後鼻を鳴らす。

 知能は高いようだ……性格はちと面倒そうだけど。


 後ろに廻ったカーナに手をつかまれ目の前にある二つの半透明な球の中にある持ち手を持てと指示される。


 頭の後ろに当たるカーナの双丘は結構な大きさだ。惜しむらくは厚めの生地のせいで何の意味も無い。


 と、その時、唸り声とともに頭上に影を感じる。

 極太の低い唸り声にびびって見上げるとのそりとき大な飛竜が斜め横の視界を占める。


「うおっ、でけぇー」


 多分、先に飛翔していった飛竜達よりふた回りはでかい飛竜がいた。黒っぽい濃緑の傷だらけの筋肉も盛り上がった歴戦っぽい奴だ。

 頭の位置なんか三階くらいの高さにある。正直物凄い圧力感。


 家が動いてる感じ。対立校の番長より遥かにこえー。

 吐く息は臭いかと思ったら、それほどでも無い不思議。もしかしてブレスケアしてる?


 背中にごっつい金属と皮で出来た鞍のようなものがある。

 カーナの飛竜か。出撃に来ないカーナを待てないのか向こうから来たっぽい。

 こんなヤバそうな獣も割りと自由に動けるとか、ある意味すげーなここの連中。


 カーナが大声で飛竜に何か言うとおいらの背中を大きく叩き


 握った拳自分の額につけると放しなにかおいらに言った。

 言ってる言葉はわからないが意味はわかる。健闘を祈る……ってことだよな。


 飛竜達の飛び立つ咆哮の喧騒の中、


「あのっ、おいら、操縦方法も何も教わってないんすけどっ」


 カーナは立ち上がると笑い、外の星空を指差し何か言うと、物凄い勢いで飛び上がり自分の飛竜の上に乗り、騎乗する。


 二階くらいの高さに飛び上がるとかまじか、でかい兎竜が衝撃で体勢崩すほどの蹴り足凄すぎ。


 淡い光が飛竜の鞍に座ったカーナと鞍部分を包み込み、防護障壁? っぽいのが展開されているのがわかる。


 カーナが鞍の上からこちらを向いて何かを叫んでから前を向くと、カーナの飛竜はその大きな翼を広げる。


 淡く輝く魔方陣が戦いの隈取のごとく飛竜の体表に浮かび上がり、その巨躯がふわりと浮かぶ。


 飛竜がつんざくような咆哮をあげると、弾かれるように飛翔し樹壁の間の隙間を抜け星空へ飛び出していった。


 カーナのこの雑な感じ……なついな。

 兄貴を思いだす……


 頭を振り、先を見る。

 助けを求められたら行くんだぜ! 兄貴の背中の記憶が脳を占める。

 ここは何処だよとか、何故こんな場所に居るとか魔法があるっぽいとか考えるのは後回しや。


「よし、いくぜ!」


 ……


 うん。動かないね。まぁ操縦どうすんだろね。


 あきれたように兎竜がこちらを見る。

 おいらもどーすんだべという表情で愛想笑い。

 放置していったから勝手に動くのかと思ったが違うのか。


 兎竜が体を震わすとおいらの体の回りと座席の上部に淡く輝く膜が展開され、手首の入った半透明な球から何か熱いものが腕から体へそして頭へ到達してくる。


「うおっ、なんぞコレ、きもっ」


 なんぞ兎竜と繋がったような感覚がある。

 兎竜の体表面に魔方陣っぽい文様が浮かび上がり、おいらが身構える間もなく弾丸のように発進する。


「ぶつかるぅぅぅ!」


 すぐ目の前の樹々の壁においらは悲鳴を上げるがお構い無しに兎竜は突っ込む


「ぎぃゃぁぁぁ」


 凄まじい加速、加速、加速。




 おいらは樹々と淡く輝く障壁を抜け星空へ弾丸のごとく飛び出した。




 すぐ横を先に飛び立ったごっつい箒に乗った淡く輝く膜に守られた多数の魔女が

 後ろへ飛ぶように去っていく。


「加速やめめめめ」


 魔女や飛竜達より圧倒的に速い。しかもコントロールできない。

 おいらは何で一頭しかコイツがいなかったのか理解した。

 無茶扱いづらいからだだだ。


 左右飛行に横回転と無茶な機動。いや吐くかと思ったわ。

 耐えたおいらに自分で賛辞を送るわ。


 太陽の日差しがかなりきつい。兎竜に落ちる陰影もかなり濃い。


 これなんか昔映像で観た感じの影のつき方だな、おいらを包むように広がる、宝石をぶちまけたような満天の星空も一切またたいて居ない。


 おいらは焦って辺りを見回す。体は固定されているが頭は動かせる


「! えげっ?」


 眼下には惑星があった。


 地球とは似ても似つかない惑星が!


 黄土色の大陸と翡翠色の海が半々くらいあり、菱形をした大陸の赤道付近の海沿いに大きな湾があり、上に山脈を中心に円状の緑の広大な大地がある。


ぽつぽつとその周りにも緑の場所が広がっている。


 山脈を囲い緩やかに雲を纏った円状の緑の植物に溢れた大地は、巨大なオアシスとうか、穏やかで暮らしやすそうだ。


 幾つか都市らしき人工的な構造物も見える。


 翡翠色に輝く海を持つ、眼下に見える荒々しくも穏やかで美しい惑星。


宇宙の闇とコントラストを描くように美しく輝き心に安らぎさえ与える。

 余りの美しさに放心するおいら。初めて宇宙へ行ったおっさんもこんな心境だったんかな。


 と、まあ感動は横に置いて、おいらは叫んだ。


「ここ宇宙かよ!それにあの惑星は何やねん!」


「マジ何処だよここは」


 一瞬呆けていたがそんな場合じゃないことを思いだす。おそらくはカーナ達の母星に近づく銀色の鏃型の宇宙船達。


 カーナ達の対応見るにどうみても非常事態。


「え、おいら宇宙戦争に巻き込まれたの? 兄貴の三下に過ぎないおいらが?」


 カ、カーナさん雑すぎ……戦争参加にしても、ついさっき兎竜に放り込まれたばかりなんですが……せめて操作方法だけでも教えて欲しかった。

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