Hero Not Never Die
日向寺皐月
異世界転生と言えばトラックだよね
女神Side
異世界転生。それは素晴らしいものです。人間界の人間を適度に捕まえて、異世界転生させる。そしてその様子を物語として紡ぐ事で、女神として名を馳せる……そんな希望の光の様なものなのです。
あ、自己紹介が遅れました。私は女神。名前はまだありません。まだ女神としての格は低く、しかも名を馳せる程の異世界転生をさせた事は無いので……
でも、私は遂に手に入れたのです! 異世界転生初心者の女神の為の、最高の友を!
「ゴッディスプライムのお届けもので〜す!」
「はいは〜い」
来ました来ました。その名も「異世界転生初心者キット」。名前はチープですが、これを使えば簡単に異世界転生が行えるのです。今女神界の最大手通販サイト、ゴッディスプライムで大人気商品であり、これで名を馳せた女神達も数多くいます。中々手に入り難い上に、一級指定悪魔のテン・バ・イヤー達に買い取られたりして……兎に角、手に入れるのに一苦労しました。
早速キットを開封……おぉ、凄い。専用のタブレットに解説書、そしてゴッディスプライム限定のカバーが入っています。解説書の表紙には「ゼロから作る異世界転生-イチバンの女神になるには-」と書かれており、嫌でもワクワクを加速させてくれます。
ではでは……
−女神熟読中……−
読み終えました。内容はその内レビューしますが、兎に角早速作業に掛かりましょう。
タブレットを起動し、ガイドに従って舞台となる異世界を作ります。まぁ、今回はあまりカスタムせずにプリセットの異世界を使いましょうか。次は、主人公の選択です。
まずは、タブレットで人間界へアクセス。おー、いっぱい居ますねぇ。一人くらい減っても問題ないでしょう。
このタブレット、凄いのは人の頭の上に主人公適正が表示される事。最大値は100なので、まぁそれに近い人を探しましょう。どれどれ……?
あ、居た居た。適正値98……? うっそ高くない? もしかして激レア引いたとか? んじゃ、この平凡そうな高校生の前に女の子とトラックを配置して……スタート!
主人公Side
えっと……どうも。平凡な高校生です。特にこれと言った特技がある訳じゃない……そんな高校生です。
高校生が午前中で終わり、暇なお昼時。他のクラスメイトは友達と遊びに出かけたりしてますが……まぁ、僕は平凡なので一人でブラブラと歩いています。
しかし特に目的も無く歩くと言うのも中々に暇です。そろそろファミレスか何かでご飯でも……そう思いながら、交差点に立った時でした。
「あ、ママ!」
道路を挟んで反対側。お祖母さんに連れられた幼稚園位の女の子が、僕の横の女性を見て笑顔を咲かせました。幼稚園の帰りでしょうか。何処にでもある、微笑ましい日常の―
「あ!ミカ!」
突然、その女の子:ミカちゃんが走り出しました。多分お母さんを見て喜んでしまったのでしょう。しかし、信号は生憎の赤。そしてトラックがかなりの速度で走って来ます。
それを見た瞬間、僕の身体は動いていました。
ドンッ
「キャァァァァァァァっ!」
女神Side
はい、主人公ゲット!
いや〜、異世界転生と言えばトラックですね。やっぱ。使い古された手ではありますが……まぁ、確実にキル出来るのが売りですね。それに、誰かを助けると言う意思が確認出来るので、主人公に相応しいかどうかも見分けられます。
しかし流石は適正値90オーバー。あの女の子を救けるのになんの躊躇も無かったですねぇ。これならさぞかし、異世界でも八面六臂の活躍を―あれ?
おかしいな……殺せた主人公はちゃんと確認出来るのに……反映されてないのかな……?
え? 生きてる……?
主人公Side
「大丈夫かい?」
僕は泣き続けるミカちゃんにそう声を掛け、ゆっくりと立ち上がりました。少し脇腹と背中が痛いですが……許容範囲です。
「ミカ!ミカ!」
「大丈夫です。お母さん。ミカちゃんに怪我はありませんよ」
まぁ、僕も本職のお医者さんでは無いので、恐らくではありますが。
「ありがとうございます……!ありがとうございます!」
そう何度も頭を下げられ、僕は困惑しました。そんなに感謝される事はしていないからです。当たり前の様に、救える生命を救った。それだけの事ですから。
「お、おい!君!」
「あ、はい」
立ち去ろうとした時、さっきのトラックの運転手さんに呼び止められました。一体どうしたのでしょうか。
「えっと……跳ねておいて言うのはアレだけどさ……どうして君は生きてるんだい……?」
そう言って指を指した先には、フロントが大きく凹んだトラックが。何だか申し訳ない事をした気もするけど、取り敢えず質問に答えてあげましょう。
「あぁ、それは簡単ですよ。僕はわざと《跳ねられた》んです」
この言葉に嘘はありません。トラック事故の死因は、九割方トラックの下に巻き込まれてしまう事。跳ねられてしまえば、巻き込まれる確率が減るので逆に生存率が高いのです。
なので僕は、ミカちゃんを抱き上げてトラックに背中からタックル。そして空中で体勢を整えて、地面に前周り受け身を取った訳です。お陰で背中と脇腹が痛いですが……ミカちゃんの生命に比べれば安いものです。
「では、僕はお腹が空いたので失礼しますね」
「ま、待って下さい!お礼を―」
「お礼が欲しくてやった訳ではないので辞退します」
生命を助ける事に、対価は必要ありません。僕がそう言うと、ミカちゃんのお母さんはこう聞いて来ました。
「せめて、名前だけでも……」
そう聞かれたら、答えない訳にはいかない。でも……その瞬間、僕の脳裏に昔好きだったヒーローの決め台詞が浮かんでしまったのです。
「僕の名前は……久賀秋人。通りすがりの、平凡な高校生です」
女神Side
「久賀……秋人……」
う〜ん、なんて主人公に相応しい名前だろうか。まるで日曜日の朝早くに聞こえて来そうな名前である。
しかし異世界召喚トラックを回避出来るなんて……凄い人間だ。そりゃ主人公適正が高い訳である。
……なんとしても、彼を手に入れたい……私はそう誓い、ゴッディスプライムで新たなモッドを探し初めました。
Hero Not Never Die 日向寺皐月 @S_Hyugaji
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