熊殺し

白川津 中々

 一目惚れだった。


「なぁ。なんで私を選んだんだ? パネル見たろ」


 そう遠慮がちに聞くのは風俗店で指名した魔奴華である。


「決まってるだろ。お前が好みだからだ」


 俺がそう言うと、魔奴華は乾いた笑いを響かせて卑屈な言葉を吐いた。


「馬鹿言うなよ。私なんざ生き試しにしか使えないような女だよ。筋肉ばかり鍛えていたせいで金の稼ぎ方も知らない。売女になったはいいものの、客も寄り付きやしないんだ。魅力なんざない」


「馬鹿を言うな。俺はお前みたいな女が好きなんだ」


「だから止めろよ……言われるだけ惨めになる」


「……お前、熊を殺した事あるか?」


「……一度だけ」


「十分だ」


 俺はそう魔奴華に向かって言うと、ボーイ を呼び出して札束を渡した。


「これでこの女を買いたい」


 交渉は成立。翌日には籍を入れ、魔奴華は俺の妻となった。


「なぁ……本当に私でいいのか?」


「何度も言わせるな。俺は強い女が好きなんだ」


「実は、騙していた事が一つある」


「……なんだ」


「熊を殺した回数だ……本当は、三頭仕留めた」


「……最高だ!」


 


 

 俺達は幸せに暮らし、そして死んでいった。その間で熊を殺した回数は、恐らく、世界一だったと思う。

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熊殺し 白川津 中々 @taka1212384

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