熊殺し
白川津 中々
■
一目惚れだった。
「なぁ。なんで私を選んだんだ? パネル見たろ」
そう遠慮がちに聞くのは風俗店で指名した魔奴華である。
「決まってるだろ。お前が好みだからだ」
俺がそう言うと、魔奴華は乾いた笑いを響かせて卑屈な言葉を吐いた。
「馬鹿言うなよ。私なんざ生き試しにしか使えないような女だよ。筋肉ばかり鍛えていたせいで金の稼ぎ方も知らない。売女になったはいいものの、客も寄り付きやしないんだ。魅力なんざない」
「馬鹿を言うな。俺はお前みたいな女が好きなんだ」
「だから止めろよ……言われるだけ惨めになる」
「……お前、熊を殺した事あるか?」
「……一度だけ」
「十分だ」
俺はそう魔奴華に向かって言うと、ボーイ を呼び出して札束を渡した。
「これでこの女を買いたい」
交渉は成立。翌日には籍を入れ、魔奴華は俺の妻となった。
「なぁ……本当に私でいいのか?」
「何度も言わせるな。俺は強い女が好きなんだ」
「実は、騙していた事が一つある」
「……なんだ」
「熊を殺した回数だ……本当は、三頭仕留めた」
「……最高だ!」
俺達は幸せに暮らし、そして死んでいった。その間で熊を殺した回数は、恐らく、世界一だったと思う。
熊殺し 白川津 中々 @taka1212384
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