駅員の話

海月 信天翁

「駅員の話」

「この度はすみませんでした。

 ――ええ、はい。

 お気遣いありがとうございます――

 ――ええ。 ……え? 申し送り?

 あ、はい……聞いてました。

 あの駅には“出る”って話ですよね――?

 なんでも、失恋を苦に飛び降りた女子高生が……

 ――はい。はい。聞いてました。

 受けてました。申し送り。

 ただその……“出る”って話を聞くのは割とよくあることだったので――

 ……はい。そうですね。正直、話半分でした。

 そもそも失恋を苦にってどうやって知ったんだって……

 ――え? 遺書が? 駅のベンチに? そ……そうだったんですか……

 ――ええ。はい。あと、そうですね。聞きました。

 その女子高生の恋人がトイレで、首を吊ってた、とか……?

 ――ええ!? 遺書に名指しされてたんですね……

 でも、取り殺されたって大袈裟じゃ……

 ――はい。はい。見ましたけど……確かに見ちゃいましたけど……

 いや、トイレには注意してたんですよ。夜間は施錠するって。

 あの時はうっかり忘れてたことに気付いて。慌てて確認に行って。

 ――はい……確かに軽率でした。

 でも、その話からしたら、現場は男子トイレだって思うじゃないですか……!

 ……はい? はい……偏見……確かに、そうですけど……

 まさかだとは……

 ……一応そちらも確認と思って……油断してまして……

 ………………

 ……まさか、を見るなんて……

 ……………………

 ――はい。

 ――あ、大丈夫です。

 熱は下がったので、明日には出社できます。

 ――霊障? いや、たぶん一晩気絶して床に転がってたせいかと――

 ――一応、お祓いに? ――あ、はい。わかりました。

 じゃあ、今度の連休にでも行きます。

 ――はい。はい。ではまた明日ということで――失礼します」

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駅員の話 海月 信天翁 @kaigetsu_shin

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