第54話 プロローグ【Reincarnation Thesis】

「逃げきれた……よな」


 両階段の踊り場で立ち尽くしたリザルチは呆然と目の前を見る。


 エントランスに残った天爵は軽く腰を上げると、剣を纏っていた無数の光が一斉に周りへ飛び散る。ただの武装となった剣を鞘に収める。


「もう良いぞ、姿を現せ」


 重く低い号令がエントランスに響く。


 そのとき、エントランスの両壁に黒い霧が立ち込めたかと思うとその内側から何者かが出現、中央に体を向けた状態で並び立っていた。


 突如現れた人影にリザルチはつい愕然とする。その形容に威厳ある佇まいは当然彼が知ってしかるべき者達であった。


「結果は見た通りである、もはや説明する必要もあるまい。機公隊師団長の諸君」


 異様な空気に包まれたエントランス。機人と人間が入り乱れる師団長らはみな何も言わずにいたつ。


「んでもよぉ、こんな盛大に送り出してやんねぇでも正式に会議で決めちまったらよかったんじゃねえの」

「それが出来ないからこうやって追い出したんでしょ、ちょっとは考えなさいよ」

「んだとこの赤バカ女ッ!」


 細身の黒色機人が隣の真赤な服に身を包んだ女性のほうに足を出して食い掛る。


「そういえば、天爵から受けていた依頼で一つご報告があるんスけど」

「魔研院の類か」

「はい。昨晩、案の定魔研院の奴らがあの少年の部屋に押し入ろうとしてたんで確保しときました。刻筆師の牢屋にも必要用途以上のモンがボロボロ出てきたんで押収しといたんスけど、どうすれば良いですかね?」

「御苦労、後で伺おう」


 了解ッス、と及び腰だった青色の背高い機人が頭だけを深々と会釈をして顔の横まで挙げていた片手を下げる。


「しかし本当によろしかったのですかな、刻筆師らを野放しにしてしまっても」


 腰の曲がってみえる灰色の機人は白く長い顎髭のようなものを片手で触れながら天爵に尋ねる。


「眩耀の剣は常にあの者らの首元に添えられている、あの者らもそれは重々承知であろう。魔研院共の手に渡るよりマシである。それに」


 天爵は陽の差す石門へと振り返る。


「暗き道を進むのなら、いずれは再び相対することとなるだろう」

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エイワズ・ナート ~異世界嫌者は手を伸べる~ 甜白 和叉 @AkabaMochi

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