牡丹鬼

北大路 美葉

牡丹鬼《ぼたんをに》

 鬼の子に、優婉なる娘あり。花の名前をとり牡丹ぼたんと呼ぶ。

 髪ながく、肌しろく、頬あかく、かひなに力あり。人、これを怪ならむといへり。

 幼き頃、腹の中に大きな石を呑み、物食ふごとに鈍き音の響きたることあり。

 十八の夏、せみこゑを聴き、庭に咲く向日葵ひまわりを眺めつつ、汗にまみれて素麺さふめんを啜る鬼の娘、そのたび腹の石くだくだと鳴るなり。食い終わり横になりしが、石の音鳴り止まず。

 鬼の娘、みずから何をか食はじと泣きて物食ふことをてども栓なく、飢えを抱へて泣くこと六晩。つひには頬に涙の筋を垂らし、拭わぬまま死にて居たり。

 朝、庭の向日葵のふとぶとき茎、鬼の妹の口よりりてなほ、腹の石には届かず。

 石、ただ牡丹鬼の腹の奥に在りてくだくだと鳴るなり。


(その音あまりにかまびすしく、また腹部にぬしぬしと響き、吐瀉をもたらしけり。)

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牡丹鬼 北大路 美葉 @s_bergman

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