「嘘」
嘘はよそう。そろそろ疲れた頃だろう。私は嘘ばかりついてきた。くだらぬ見栄と痩せっぽっちの自意識に餌をこれでもかとやってきた。そのせいで、私は人を信じられなくなった。どれもこれも見え透いた嘘に感じて仕方がない。そのくせ誰か自分の嘘をいとも簡単に看破して、私を抱きしめてほしいと思っている。身勝手だ。
だから、小説を書いたはずだった。塗り固めた仮面に嫌気がさしたから、少しでもありのままの自分を出そうと思って書き殴ったはずだった。自分を出して死ぬのならばそれも本望だろうと思ったはずだった。
事実、最初は楽しかった。溢れ出る感情を言葉に記す。幾万の会話よりもより会話らしいものができたと思った。完結した時のあの感覚はどこか恋に似ていて、気恥ずかしくも熱いものがある。
しかしそれも、三作目を書き上げたあたりから変わっていった。なまじ評価を貰って、人目を気にするようになった。エゴがなくなった。流行を探した。体のいいストーリーを描いた。嘘を、ついた。
しかし読み直すと、どうも駄作だ。自分の作品を貶めてはいけないと言うけれど、やはり駄作。駄作でも愛してはいるが、駄作は駄作だ。入ってくる感情がない。感情が文字のうえで踊っている。技術ばかり気になっている。眺めると浅ましい商人の顔が薄っすらと見える。いや、乞食の顔かもしれない。若しくは木乃伊———
だから、SNSでも昔の作品ばかり宣伝する。周りからは阿呆に見えて仕方ないだろう。自作を良いと一言言えない意気地なし。
しかし私には小説以外のどこにも場所がない。友人もいれば、居場所もあるけれど、心の安寧は小説。それだけ。
そうだ、エゴイストになろう。所詮は小説、所詮はweb。とびっきりの感情を込めよう。込めたらわかるさ。どだいわからなかったって構わないけれど。私は正しい人間じゃない。今後もとやかく嘘をつく。媚びをへつらう。しかし、小説だけは、嘘をつかずに生きよう。嘘は大罪だよ、君。
或るゴミの一生 五味千里 @chiri53
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