番外編 ハロウィンパーティーをしましょう!前編
ハロウィン。元は収穫を祝い悪霊を祓うイベントらしいけど、日本ナイズされた今はただの菓子ねだりコスプレパーティーになってしまっていると思う。
でも、それでいい。むしろそれがいい。
だって、そのイベントを口実にすれば、あの檜山さんのコスプレが見られるかもしれないからだ!
背はオレよりちょっと高いぐらいなんだけど、実は足が長くてスタイルが良かったりする。それに顔も整ってるし、どんな仮装をしても絶対サマになると思うのだ。
……吸血鬼とか、いいんじゃないかなぁ。マント羽織ってる檜山さんは絶対かっこいいと思う。あ、でも警察官とかもいいな。そうだ、いっそアニメのキャラとかにするってのも──。
そんな野望を抱きつつ、現世堂への家路を急いでいた時である。
「やーい、フランケンシュタインー!」
僕の思考は、賑やかで幼い声に遮られた。
「おばけ男、出てこいーっ!」
「オレら全然怖くないぞー!」
「おらー!」
……小学校低学年ぐらいの子たちが、現世堂の前で囃し立てている。多分檜山さんをからかっているのだろう。
んもー、良くないなぁ。そう思ったオレが注意しようとすると……。
「がーおー」
「ぎゃああああああフランケンシュタイン出たああああ! ヤベェ、逃げろ!!」
「あびゃあああああ怖ええええぇ!!」
「わあーっ! あーっ!」
「がおがおー」
──案外ノリノリの檜山さんが、店から出てきた。腕とか前にして。キョンシーみたいにして。
蜘蛛の子を散らすように子供たちは逃げていく。彼らが角を曲がるまで見届けて、檜山さんは「ふう」と腕を下ろした。
「……檜山さん」
「え!? し、慎太郎君!?」
やっぱり、オレには気づいていなかったようである。しばらくあたふたとしていた彼だったが、やがてほんのり赤らんだ顔で言った。
「……その……み、見てた?」
「がおー」
「わーっ!」
「がおがおー」
恥ずかしがって店内に逃げる檜山さんを、がおがお追いかける。数秒後、キレた檜山さんに存分にくすぐられ大後悔するなんて、この時のオレは知る由もなかったのだった。
「え、ハロウィン? 僕が仮装? なんで?」
くすぐられて息も絶え絶えなオレは、檜山さんに純粋な疑問を向けられていた。なんで……? なんでって、吸血鬼の仮装をした檜山さんはとってもかっこいいだろうなと思うからです。
素直にそう伝えると、困った顔をされた。
「別に普通だと思うけどな」
「普通じゃないです! 特別です!」
「う、ううん……特別と言ってもらえるのは嬉しいけど、恥ずかしいし、僕がするのはパスかな。パーティー開くのはいいけど」
「そんなぁ!」
「あ、慎太郎君が仮装したかったら全然いいよ? 懐かしいなぁ、君が幼かった頃はでっかいカブになってたことがあったよね」
「でっかいカブ!?」
「あれ、カブはお遊戯だっけ。ハロウィンはカボチャだったっけな?」
「オレ食べ物の仮装しかしたことないんですか?」
我ながら食い意地の張った幼少期である。とにかく、このままだと檜山さんの吸血鬼姿を見逃してしまいかねない。オレは慌ててスマートフォンを取り出した。
「? 何をして……」
「丹波さん、お疲れ様です!」
「え、電話? 莉子さんに?」
「……はい……ええ、オレ家に帰ったんで、今から例のを試せないかなって。……はい! ありがとうございます!」
「慎太郎君、何を……」
訝しげにする檜山さんに、オレはドヤ顔でスマートフォンの画面を向ける。途端に、彼はものすごく嫌そうな顔をした。
「……えーと……なんで、帆沼君が映ってるのかな……?」
『や、檜山さん。お疲れ様です』
「まずは質問に答えてくれ」
「オレがお答えします!」
二人の間に、オレは元気いっぱい割り込んだ。
「これ、丹波さんと帆沼さんとオレの任意のタイミングでビデオ通話ができるアプリなんです! 実は今、帆沼さんとの共同捜査計画が警察内部で進行中なんですが」
「僕に話してよかったの?」
「はい! 檜山さんには伝えるよう丹波さんに言われてましたから!」
「あの人も直接伝えてくれればいいものを……」
「檜山さん、スマホ持ってるのにあんまり持ちませんからね。とにかく、このビデオ通話はその一環でして。随時帆沼さんと話すことができれば、円滑な捜査ができるようになるんじゃないかという期待があって開発されたそうなんです。あ、一応面会の一つなので、今後時間や回数など細かく決められていくと思うんですが……」
「なるほどなぁ。まあ事情はわかったけど、それって今使ってもよかったの?」
「ええ、まだ試用期間中で接続とか挙動が不安定でして。丹波さんから、今日明日中に何度か起動するよう指示されてたんです」
「はあ……」
「だったら、せっかくパーティーをするんだし帆沼さんも誘おうと思って」
「一気に話が飛躍したなぁ」
『ふふ、ありがとう慎太郎。俺を気遣ってくれて』
薄く笑う帆沼さんだけど、相変わらずの分厚い前髪のせいで目の表情は見えない。そんな彼に、オレは改めて現在の状況について説明した。
画面の向こうの帆沼さんは、うんうんと嬉しそうに頷いて聴いてくれた。
『いいね。二人と丹波刑事が許してくれるなら、ぜひ俺も参加したいな』
「ありがとうございます!」
『……だけど、いいのかな』
でも、ふとその顔に影が差した。
『俺は罪を償う身だ。それなのに、パーティーなんて楽しいこと俺がしてもいいんだろうか』
「だ、大丈夫ですよ!」
すかさず俺は反論する。
「反省するのと楽しむのって、一緒にできることだと思います! あ、でも忘れてもいいってわけじゃなくて、なんていうか、心には持っておくみたいな……! その、オレの勝手な考えですけど……」
『……そうか。ありがとう。なかなか興味深い論だな』
「う……檜山さんは、どう思います?」
「僕?」
オレと帆沼さんの視線が、揃って檜山さんに向けられる。彼は少し難しい顔で腕組みをしていたけど、やがてぷいとそっぽを向いた。
「……まあ、いいんじゃないか? 僕も概ね慎太郎君と同意見だよ。君も普段は真面目にやっているようだし、莉子さんが許してくれるなら何も言うことは無い」
「ありがとうございます、檜山さん!」
『……ありがとうございます』
その言葉に、心なしか帆沼さんもホッとしていた。
「でも、参加するのはリモートとして、刑務所にいる君がどうやって仮装するんだ?」
『流石にそれは難しいので、会話のみでの参加にしてくれると助かりますね。檜山サンは何の仮装をするんですか?』
「いや、僕はするつもりは……」
「吸血鬼です!」
「ちょ」
『へぇ、吸血鬼。似合うと思いますよ。檜山サン雰囲気ありますから』
「……ど、どうも」
『慎太郎は?』
「オレですか? オレは……そうですね、シーツを頭からかぶってオバケになるとかどうですか?」
「僕と比べて雑じゃないか?」
「オレは添え物ですから!」
「むしろメインだと思うけど」
『んー……だったら、檜山サンが慎太郎の仮装を考えるってことでどうです?』
帆沼が手を打って発した言葉に、また檜山は顔をしかめた。
「僕の考えた仮装?」
『ええ。着せたい服は脱がせたい服って話で』
「よし、今日の面会はここまでだ。さようなら帆沼君」
『すいませんごめんなさい切らないでください。……冗談はさておき、檜山サンだって慎太郎に着る服を考えてもらったんでしょ? だったら檜山サンも慎太郎の服を考えるべきだと思いますよ』
「ううーん……ほぼ屁理屈だと思うけど、慎太郎君はどう思う?」
「オレもそれがいいです! 檜山さんに選んでもらった服着たいです!」
『だそうですよ』
「んんんん……」
そこから帆沼さんと二人がかりで押しまくった結果、なんとか檜山さんを頷かせることに成功した。やったぜ、オレの作戦勝ちだ。
「……慎太郎君に着てもらいたい服? え……えええー……?」
ちなみに檜山さんは、通話が終わった後もしばらく頭を抱えていた。
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