間章 妖怪大全集現代考察編――お歯黒べったり――



 結婚直前に亡くなった女性の魂や結婚に憧れを抱きつつも叶わなかった女性の未練が歯黒べったりの起源であるとされている。



 その特徴はなんといってもお歯黒である。お歯黒とは文字通り歯を黒く染める風習のことを差しており、嫁入りをした女性が歯を黒く染めることで既婚であることを示すという意味合いもあったようだ。


 化粧の一種であるが虫歯予防という見地から見ても効果があったようである。日本古来から存在していたとする説と南方や大陸から伝わったとする説が存在している。



 いずれにしても、お歯黒べったりの本質は女性らの無念や結婚への憧れであると言っても過言ではない。



 一部の文献では複数の若者を草むらで一人ずつ相手したという記述も存在する。身体を差し出すことに抵抗がないのか。あるいはそうすることで男性との中を深めて婚約に結び付けようとしたのかもしれない。



 全てのお歯黒べったりがそういった感性を有しているのかは不明だが、結婚のためならばある種手段は選ばない。そして、非常に残念なことにその性質ゆえにおはぐろべったりは悪霊化しやすい。結婚できないことに業を煮やして理性を失いやすいのだ。それだけ結婚願望が強いとも言える。



 そして、ここで興味深い考察がある。



 結婚に憧れた女性の魂がお歯黒べったりになる。では、なぜそもそも既婚の証たるお歯黒を?



 筆者はこう考える。少しでもという意思が外見に現れたのではないだろうか。



 筆者の推測を裏付けるいくつかの事例がある。まず、全国的にお歯黒べったりは目撃証言が多いのだが大抵は着物姿だ。しかし、稀に花嫁姿のお歯黒べったりが目撃される。実は筆者も純白のウエディングドレス姿の披露してくれた個体を見たことがあり、さすがに驚いた記憶がある。さらには髪型もお団子の個体もいれば真っ直ぐに降ろしている個体も存在する。つまり、お歯黒べったりの見た目衣装は個体により異なるのだ。



 そこから、以下のような考察ができる。




 結婚を望む女性の霊魂が装いを変えることができるとしたら?


 その外見は時代に呼応して変遷していくのではないだろうか?





 着物よりも男性を魅了する装いがあると気づいたなら? 

 お歯黒よりも真っ白な歯の方が現代の男性に好まれると知ったなら?

 そもそも結婚したいのに嫁入りする女性が身に付けるお歯黒を施す必要があるのか?



 極端な話、流行りの服装と髪型で、お歯黒をしないお歯黒べったりが現れる可能性もあるのではないだろうか?


 お歯黒べったりが容姿を変えることができ、現代の男性に好かれるために装いを変えたいと願うのであれば、あり得ない話ではない。



 それをお歯黒べったりと呼称すべきかどうかは微妙なところだ。あるいは流行りの衣装と化粧などを取り入れても、お歯黒べったりという名前は継承されるのだろうか。


 ※筆者にお歯黒の文化を貶す意図がないことはご理解いただきたい。





 妖怪大全集百六十一頁――お歯黒べったり――より一部抜粋


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