間章 妖怪大全集現代考察編――雪女――



 青系統の着物を着た絶世の美女。



 雪女の目撃証言を統括すると、その一言に尽きる。その美貌は目撃者の美意識を根底から覆すらしい。


 一説によると、雪女の妖気には相対した者を魅了する作用があるらしい。いずれにしても自他共に認める美貌を誇る雪女だが、その思考は残忍かつ利己的だ。



 雪女は、基本的に雪国か雪山にのみ現れるが、雪山で遭難した人間を騙してその魂を喰らう凶悪な妖怪とされてきた。とはいえ、人里では大した力を発揮できないため危険度は高くないとされてきた。それが従来の雪女に対する認識だった。



 現代の雪女はどうか?



 それを語るうえで重要な要素の一つが『どうぞくらい』だ。意味は読んで字の如く同族たる妖怪――雪女の場合は雪女を――捕食するというもの。妖怪には元々同族を捕食するといった嗜好は――過去文献を参照したかぎりにおいても――備わっていなかった。しかし、現代の妖怪は良くも悪くも現代社会に影響を受けやすい。



 『同族喰らい』は昨今顕著に見られるようになった傾向の一つだ。その要因の一つに人肉カニバ嗜食リズムが普及したことが挙げられる。


 筆者は人肉嗜食をおぞましい嗜好だと考えている。しかし、人肉嗜食を取り扱った空想や物語が人気を博して、それらに感化された妖怪が興味を持ったのが火付になったらしいのだ。



 霊能力者たちもさすがに日本のアニメや漫画が妖怪に影響を与えることは想定していない。同族喰らいは好奇心旺盛な妖怪から別の妖怪に伝わり、知れ渡った。しかし、同族を喰ったところで妖怪に真新しい変化や発見はなくその風潮は下火になっていった。




 同族喰らいにより妖気が増大する、




 同族喰らいで恩恵を受ける、妖怪。恩恵の有無が妖怪によって異なる理由は証明されていないが恩恵を得られる妖怪の代表格が雪女だ。これまで雪女は雪山や吹雪の中では圧倒的な強さを誇るものの人里では強力な妖術を使えないため、前述したようにそれほど危険視されてこなかった。


 しかし、同族喰らいによって妖力が増幅することがわかりその危険度が跳ね上がった。



 雪女は浮遊霊を見つけては半ば強制的に自らの眷属とする。雪女へと変貌させるのだ。そうして、眷属の妖力が増えたところで自らの糧とする。同族喰らいを重ねた雪女は人里でも十分すぎる脅威となる。人を惑わし、殺し、魂を喰らうのだ。除霊を請け負った霊能力者が返り討ちに遭うケースも少なくない。



 眷属を発見したら、本命を必ず潰せ。

 可及的速やかに、決着を付けるのだ。



 現代の雪女を除霊するにあたっては、それが常識となっている。







 妖怪大全集現代考察編763貢『雪女』より一部抜粋

 

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