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その後、ナナキはサダさんこと眠りの暴君と、ショーゴ、レイネ、それと万が一暴君が目を覚ました時のためにマァヤを連れて、ドラゴンの姿で飛び立った。
レノアンネ号に彼らを送り届けてリズに事情を説明すると、リズもナナキと飛空艇で一緒に旅をしたいと言い、リズの身を案じていた飛空艇のクルーたちもそれに同意した。
とは言え、リズは今すぐ行くのではなく、自分のクルーは責任を持って最後まで送り届け、キッチリけじめをつけた上で退社してからナナキたちと合流すると決めたようだ。ジョーダルもいないし、社内でのリズの危険もかなり減るはずだ。
そんなわけで、サダさんには飛空艇に備え付けられた緊急用冬眠カプセルに入ってもらい、“ユディ号が事故で沈んだショックで昏睡している”ことにして会社に送り届けることにした。レイネはその間にサダさんに捏造の夢を反芻させた。
ショーゴはサダさんが冬眠から目を覚まし、記憶と意識が朦朧としてる隙に“サダさんにとって都合の良い真実”を刷り込むとのこと。ネコダルいわく、ショーゴは“情報操作のエキスパート”らしい。ますます映画みたいでカッコイイ。
……ところで、ナナキにはまだ、どうしても気になっていることがあった。
「なぁショーゴ、サダさんは会社に戻った後、どうなると思う?」
レイネがサダさんに夢の刷り込みをしてる間、ナナキはショーゴと二人きりになれるタイミングを見計らって訊いてみた。
「かなり厳しいだろうな。」
「任務成功したのに?しかも2回とも。」
「彼の立場は元々厳しかった。前回は戻ってきたチェンジリングが暗殺のことを一切匂わせなかったので、失敗以前の問題だと思われたようだ。そして今回は以前より厳しい条件が与えられ、それをクリアできなかった。」
「それな。なんでサダさん、今回は仲間がショーゴ一人で、しかも艦長じゃなかったんだ?」
「…上は成功以上を求めていたからだ。」
「成功以上?」
「お前も言っていた通り、会社の暗部を知る人間は少ないに限る。」
「……てことは、やっぱ自爆手段も…。」
「………。」
……上はわざと任務の難易度を上げて、サダさんをいろんな意味で追い詰めようとしていた…?俺の最初の違和感は、図らずも遠からずだったのか。
「無事帰ったら、やっぱ責任問題になるのかな。……ショーゴは大丈夫なのか?」
「問題ない。社員じゃないしな。」
「違うの!?」
「ああ。」
「…つまり、エージェントってこと?」
「………。」
すげー。マジ映画じゃん。
「あとさ、何で前回も今回もわざわざ黄泉沼まで行ったんだ?」
「黄泉沼は証拠隠滅の基本だ。」
この世界で言う“コンクリに詰めて海に捨てる”みたいなもんなんか。なるほど…。
「毒殺は?捨てるなら無駄手間じゃね?」
「下準備だ。また戻って来られては困るからな。」
…そしてその危惧通りに、二度目のアイル・ビー・バックが起きたわけだ。
「なんか、サダさんも災難だったなぁ。」
「…奴を憎んでないのか?未遂だが殺されただろう。」
「殺されたってか、殺されに行ったから、そこは俺の自己責任かな~。俺より他のみんなのが恨んでるかもね。……。」
ナナキは横目でチラッとショーゴの顔を覗き見た。ショーゴは
「……俺は、黄泉沼に落とされた時、すごく後悔したんだ。自分は何もできなかったって。でも、あの時みんなが俺の言うことを聞いて大人しく服従してたら、その結果後でみんな余計に苦しんだかもしれない。だってそれは自分の選択じゃないから。……だから、俺が死んだり後悔するのは俺の勝手だけど、大切な人には相手の為じゃなく、自分の為に行動や選択をしてほしいって思うんだよなぁ…。」
「…………。」
ショーゴとは別れ際に「次会う時は酒場で」と約束を交わした。ジョーダルがどんな奴だったのかは、その時にでも聞いてみよう。
ショーゴとサダさんを送り届け、ナナキはレイネとマァヤを乗せて元来た空路をドラゴン姿で引き返した。
そうしてアジャーノに辿り着く頃、ナナキの意識はこの世界に来た時と似たような感覚に陥り始めていた。レイネとマァヤを目的地に下ろすと、ナナキはジョーダンの姿に戻り、その場でバッタリと昏睡した。
ナナキはその状態から完全に回復するのに、たっぷり6日程かかった。どうやら、長いことダークリキッドに身を委ねていると、どこかの段階で急速に意識レベルが低下するようだ。……ということがわかったものの、身体感覚・思考・記憶・自己同一性等々、あらゆる物が段々と失われる中で、意識が肉体から遊離しつつ世界に溶け込んでいく感覚は、肉薄する恐怖もあるが、壮大な多幸感にフォーカスするとひたすら満たされるようで気持ちが良く、正直病みつきものだ。
しかし、今回はこれぐらいで済んだから良いものの、また同じことが起これば最悪の場合後遺症が残ったり、最悪そのまま死ぬそうだ。確かに、それは実感としてわかる。
ネコダルはこれを新発見だと言って喜び、レイネは回復までの間ボケボケ状態だったナナキの世話を楽しんでいたようだが、他にナナキを世話してくれた仲間はナナキが元に戻るか気が気じゃなかったようで、今後ドラゴンによる島渡りは緊急時以外控えることになった。
かくして、ナナキとその愉快な仲間たちは、生まれ変わった飛空艇の上に再び集い、まだ見ぬ空の冒険へと旅立った。
最初の旅には、新通信システムの様子見も兼ねて、ネコダルも同乗することになった。
後に、リズもケジメを付け終え、ナナキたちの冒険メンバーに加わることとなる。
ナナキは相変わらず成り行きのまま、行く先々で転送装置を設置する手伝いをしたり、人や物を運んだりと、無数の散り散りになった島々を巡り、一期一会の出逢いや経験を積み重ねる。
旅の中では、危険な場所に行ったり、事件や問題が起きたり、訪れた先で拒絶されたり、時には計画的な酷い妨害をされることもあった。
しかし、ナナキたちを理解し受け入れてくれる人、協力したいと申し出る人、志を同じくする人など、新しい仲間もたくさんできた。そんな人たちが集まり、コミュニティとなり、その輪はいつしか、新転送システムとともに世界各地に広がっていった。
そうやって新しいシステムや知識、自由な思想や活動が広がるとともに、その変化や多様化に反発する人々や組織からの攻撃や妨害も激しくなった。
それでも、みんなが互いに助け合い、それぞれに活躍することで情報は世界を駆け巡り、それに気付く人々も次第に増えていった。
風向きが変わり、人々の意識も変わり、ナナキを取り巻くあらゆるものが変化し、それと同様にナナキの考え方も少し変わった。……というより、以前よりたくさんいろんなことに気付くようになり、その分余裕を持てるようになったのかもしれない。
行く先々で増えたり減ったりするクルーも似たようなもので、何かと行く宛のない者を飛空艇に受け入れることが多いが、そんな仲間も旅の中で自分の気付きを得ると、自発的に自分の信念を胸に目的に向かって世界に飛び出していく。ずっとそばにいてくれる仲間もいるが、何であれそんな人々を眺めているのをナナキは何より気に入っていた。
そんなわけで、今もナナキは物事にこだわりなく流され、場合によってはそれを自分のものとし、成り行きに任せつつも何とか成ると信じて、あらゆる島をいろんな仲間とともに呑気に巡る。
そしていつしか、黒い竜旗は抑圧され孤立した人々を繋げ、自由で新しい流れと解放、そして羽ばたく勇気と希望を掲げる新時代のシンボルとして、世界中で知られることとなる。
―THE END―
場違いナナキの異世界人事 九黎 星犬 @Seiken-Kurei
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