第39話 バージニアの王女編 終

 宴が終わる。

 始まりがあれば終わりがあるのが必定。

 王女の誕生祭は大盛況のなか幕を閉じた。

 街では夜通し飲みあかし、騒ぎ続けた者達が屍のように眠りにつく。

 夢のような一日が終わり、また一日が始まろうとしていた。

 本当の一日が。

 日をまたごうとする深夜、城の方では動きがあった。

 静まり返った暗い廊下を、ゆっくりと歩く女性の姿。

 それはロゼだった。

 彼女は沈痛な面持ちで一人、誰も連れず歩いていた。

 コツコツ、と無駄に大きく響く足音がやがて止まる。

 目の前には部屋の扉があった。豪華な装飾が施された扉は、一目でその部屋にいる人物が高い位であることを表す。

 ロゼは二度、扉を軽く叩いた後、部屋の主の返事を待たず中へ入った。



 ドアノブにそっと手をかけ、ゆっくりと音を立てず入る。

 部屋の中は、大きな窓から差し込む月明かりによって照らされていた。

 中は広く、天井も見上げる程高い。備え付けられている衣装棚や、ソファー、床に敷かれている赤い絨毯は全て一級品。最も、目を奪うのは壁に立てかけてある大きな絵画であった。

 女性の絵が書かれており、それはロゼの母親である。

 室内にある天蓋付きのベッドに横たわるルリアン王。先程パーティーに現れた時とは別人のようにその顔色は明らかに悪く、寝たきりの状態であった。

 その横で、壁にもたれかかってルリアン王の側を片時も離れず護衛するアシュフォードの姿。彼は一言も発さず、ロゼの姿を目で確認した後、ルリアン王の方に視線を戻す。

 ロゼはゆっくりとルリアン王の方に側によると、しゃがみ込んでその手を握る。

 握った瞬間、以前よりもまた痩せている事がロゼには分かる。

 子供の頃、たくましく全てを包み込むような大きな手が、今では骨と皺だらけの皮になり果てた事にロゼの心に締め付けられるものがあった。



「申し訳ありません、お父様。体の具合が良くないというのに、私の無理を聞いたばかりに」



 本来、ロゼの誕生祭に出る予定の無かったルリアン王。

 しかし、思わぬ来客ランフォードが来る事を知り、その狙いがルリアン王の事を知りたがっていたのではないか、と察知したロゼ。

 そこで無理を承知であの場に出てくることを頼んだのであった。



「よい。お前の考えは正しかったのだ。私があの場に出てきた事で全て事は治まった。素晴らしい判断だった」

「ですが……」

「それよりも、ロゼ。お前に頼みたい事がある」

「……グラフォートの事ですね?」

「そうだ。お前の誕生日を終えた後、グラフォートの王が誕生日を迎える。前回同様、お前にその役目を頼みたい」

「分かっております。心配しないでください、お父様。ルリアン王の娘として恥ずかしくない振る舞いをしておきます」



 ロゼの真っすぐな瞳がルリアン王を見つめる。それを見たルリアン王は、何も言わず微かに頷いた。



「姫様、その事でお話が」



 二人の会話を傍聴していたアシュフォードが初めて口を開く。



「今回の遠征の件ですが、私は姫様の御供を遠慮させていただきます。理由はお分かりだとおもいますが」

「分かっております。貴方の穴を埋める事は難しいですが、仕方ありませんね」

「人選はどうされるおつもりで?」

「エミリアは連れて行きます。他は……」



 城内で働く幾らかの人物がロゼの頭に浮かぶが、アシュフォードの穴を埋める人材となると難しかった。

 信頼と実績。その両方を兼ね備える者は、アシュフォードとエミリアの両名ぐらい。イザベラもその候補には挙がるが、彼女には別の役割をロゼは考えていた。

 しばし考え込むロゼ。この場で答えを出すのは早急と判断し、残された日数はすくないが後日にすべきとの判断を下そうとした、その矢先。

 ふと、ある人物がロゼの脳裏をよぎった。



「お父様。今回の人選、お城の者以外を連れていくこともよろしいでしょうか?」

「構わん。お前に一存しよう」

「ありがとうございます。では、そうさせていただきます」

「姫様、どのような者を連れていくつもりですか?」

「信頼できる者、とだけは伝えておきます。ただ、少々癖が強い方がいるので、一緒に付いてきてくれるかはわかりません」

「姫様の願いを断る奴などいるのですか?」

「あの方はきっと断るでしょうね。それが例え、私のお父様であろうと」

「そんな輩をお連れになるおつもりですか?」

「できる事であれば。あのが来てくれるのであれば、それは千の軍勢にも匹敵する安心感がありますよ」

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超絶性悪師匠に、奴隷にされて弟子になる nekuro @ne-ku-ro

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