第2話 ゴウとマモノ
「やだ……よ……」
頭が思考を拒否している。
信じたくない。そんなこと。
でも、記憶は復元した。
カガリさん、亡くなったんだ。
1カ月前に急に。
僕の目の前で。
ショック過ぎて、記憶が消えて。
記憶は復元し、またショックで消える……というのを、この一月で既に数回繰り返してるらしい。
「よく聞けよ。カガリは死んだが、ティニに戻った。意味がわかるか?」
「わか……ん、ない……」
えんは僕をきつく抱きしめる。
「カガリが、帰ってきたんだよ、レギ」
「カエッテきた……? カエ……、帰って?」
「帰ってきた」
ぼやけてなにも見えていないように感じていた視界が、突然焦点があったみたいにはっきりと見えた。
「帰ってきた、って、どういうこと!?」
えんは僕を抱きしめていた腕を緩め、変わりに両手を握った。僕の顔をまっすぐに見る。
「生まれ変わった。マモノに」
「──!?」
マモノ?
マモノ!?
驚き過ぎて、言葉が出ない。
生まれ変わっ……た?
「そうだ。ティニを守るマモノとして」
「えっ……、ま……?」
想像していなかったことに混乱する。
それはどう感じるべきなの?
僕の混乱を理解してるのか、えんはゆっくりと、言葉を選びながら言う。
「考えたことはなかったか? マモノはなぜ、人の言葉を話せるのか」
「親から……」
「いや。多くの場合、マモノはケモノと同じくウロから生まれる。稀に子を
「う、うん」
つまりは。
だから彼らは理性的で、人の言葉を話す。
「人間がゴウを重ね、生命力がある程度に強まると、それらを持ってマモノに生まれ変わる。そして、意思が強い奴は、人の頃の記憶を持ってくることが多い」
マモノの強靱さや生命力の強さはそういう理由があったからなのか。
そっか……。
カガリさんはランク透明。条件は満たしている。
もう一度、確かめる。
「ティニに……いるの?」
「いる」
「そっか……!」
えんが頷き、握った手をそっと離した。
「行くんだな?」
「うん」
立ち上がり、それだけは身に付けていた首輪に触れ、新しい服を生成する。
ピタッと肌に添う布の、久しぶりの感触。
心地よい。
頭にかかっていた靄が晴れたように、意識がはっきりとする。
「僕、文句いいに行ってくるっ!」
「文句?」
「うん、文句!」
少し複雑な顔で、えんは僕をもう一度ギュッと抱きしめる。
それから、ひとつ頷いて僕の背中を叩いた。
「よし。頑張れよ」
「うん、頑張る!」
「あまり困らせるなよ」
誰を?
……聞くのは野暮だろうな。
カツンと踵が鳴る。
「それじゃ、行ってきます」
身体そのものに位置コントロールの魔法を使う。
つま先が床を離れた。
「行っておいで」
えんはヒラヒラと手を振る。
僕もそれに倣い、そして窓から飛び出した。
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