第26話 質問と答え合わせ
僕が意識をなくしていた時間は6時間程度だったらしい。
草原で意識を無くした僕とは対照的に、ビコエさんの対症治療魔法で熱を下げてもらい、カガリさんはとりあえずは歩ける程度になったという。
その後、僕たちは輸送されてルーコの警護隊病院に収容されたそうだ。
そうは言っても僕については治療は行われなかったらしい。
一瞬、よぎるものがあったけど、その予想が当たってるかどうかはさておき、判断としては正解だったと思う。診療目的だったとしても、僕に意識がない状態で下手なことをすればみんな跳ね返しちゃう上に、場合によっては変なモードが起動するかもしれない。
ともあれ、カガリさんは病院で診察を受け、お医者さんにめでたく1カ月の安静を言い渡されていた。
ただ、ルーコの警護隊病院はディスナの山を一つ越えた向こうにあって、ティニとはちょっと離れている。
カガリさんが自分で対症療法の魔法を使えるということもあって、自宅療養でも大丈夫だろうというお医者さんの判断をもらった。
でもカガリさんには、僕が自宅できっちり見張って、諸々の数値がよくなるまではお仕事をさせない、と宣言した。でないと絶対なんか……仕事とかしようとするから。そんなことしてたら、治るものも治らなくなってしまう。
そんなこんなで、警護隊の諸手続についてはキオアさんがわざわざ病院にやってきて終わらせてくれたし、その後ティニの自宅へは軍用の馬車|(乗り心地はよかった)で送ってもらって、僕らは無事に帰宅することができた。
帰宅後。
諸々の支度を済ませた僕は、カガリさんをベッドに押し込んだ。
ものすごく不満そうではあったけれど、そこはお医者さんが言ったとおりちゃんと休ませなければいけない。
対症療法でとりあえず熱を下げてると普通に動けちゃうから、とにかく安静にさせておかなきゃいけない。ほっとくとなんかする。
いや、間違いなく仕事する。
「僕がやれることはみんなやりますから、とにかく余計なことはしないでください。本を読むくらいはいいけど、書類仕事とかダメですからね」
「……でも」
「でも、じゃないです!」
そんなやりとりがあったりしつつごちゃごちゃやってたら、午後になってからお見舞いと称してビコエさんが家に来た。
ビコエさんも実はティニ出身だったりする。
「どうだよ、調子は?」
「今は熱を抑えてるからなんともないけど、熱を抑えていないとあっという間に高熱になるよ。1カ月もこうだったら、さすがにイヤだな」
「ま、働き過ぎだから少し大人しくしてろってことだなあ。いいじゃねえか、レギ君いるんだからちゃんと休みな」
「君まで言うのか」
「当たりめえだ、バカ。病人は寝てろ」
口悪く言いつつカラカラと笑うビコエさん。
「で、見舞いって名目で来たけど、本当は別の用があってきたんだろう?」
カガリさんの問いに彼は肯く。
「まあな。いや、レギ君に聞きてえことあってさ」
「えっ、僕にご用なんですか?」
「うん、今日はそう」
ベッドサイドには椅子が2脚置いてあるので、カガリさんに近い方をビコエさんに勧め、僕も座る。
座ったところで早速ビコエさんは口を開いた。
「カガリ、一応基本的なことを聞くぞ。あんたは音が視えるよな」
その問いにカガリさんは少々驚いた顔をする。
「なにを当たり前なことを」
「だよな。じゃあ聞くが……この間のレギ君の“魔法”、あんたには視えたか?」
「いや。音としては視えたけど、音を操るような動きは視えなかった」
「もう一つ。この世界の“魔法”はどういうものだ」
「音を操って世界に干渉する」
「そうだな、それ以外では竜が使う“粒子の魔法”だけだよな」
何やら学校の先生みたいな物言いで、ビコエさんはカガリさんに確認するように質問する。
「世界に存在している“魔法”と呼ばれるものは、今から約200年前の前文明末期に現れた『旋律の主』を開祖とした魔法使いが使う“音の魔法”と、現存する3頭の竜のみが扱う“粒子の魔法”の2種のみだ。粒子の魔法については、俺たちのような音の魔法使いの目なら、彼らの使う粒子の魔法も視認することはできる。そうだよな?」
「そうだね」
真っ黒い瞳がカガリさんと僕を交互に見る。視線の配り方もまさに先生。
さながら、魔法の基礎授業でも受けているような気分になる。
「じゃあ、……レギ君のあの魔法はなんだ? まず、スクリーンを空中に投影するアレ。『空からの目』も同じ系統みてえだが……どっちも展開される際に音が視えなかった」
え、あ……これは。
動揺する僕をチラリと見て、ビコエさんは続ける。
「さらに、レギ君の声の魔法だ。アレに至っては現象がいきなり引き起こされた。光と言ったら光が現れた。言葉が持つ意味が、そのまま世界に現象として引き起こされる。俺たちが使う音の魔法は音の波が世界に干渉することで現象を引き起こすから、原理としてはまったく別物だ」
「さすがによく見てるね」
「趣味レベルだがなあ。……驚かねえとこ見ると、あんたも気付いてたか」
「あんな奇妙な魔法に気付かないわけがないよ。でも、レギは隠したがってたみたいだから黙ってただけだ」
例によって全然隠せてないけど、とカガリさんは付け加えた。
……ええぇ……。
「私たち程度の知識でも予想がつく程度の筒抜けっぷりだし、レギの口ぶりから、どうやら何らかのかたちで過去に警護隊に関わっていた……たぶん、所属してたんだろうけど、そういうこともあったみたいだし、警護隊もレギについては存在自体把握してると思う。病院に収容されたときにレギは診察もなにもされなかったのがその証拠だよ」
「だよなあ」
僕は冷や汗だらだらで固まっているけど、その様子をいかにも面白そうにカガリさんたちは見ている。
「本当に嘘がつけないというか……、面白いね」
「まったくだぜ。で、本題なんだが、俺が聞くのもなんか悪い気がするから、カガリが聞いてくれよ」
カガリさんは頷いた。
「レギ。君は前文明末期の遺物、戦地用従属型バイオノイドだろう。そして、かの『旋律の主』の傍らで彼と共に世界を守った『小さな守護者』、セロだね」
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