第8話 索敵能力と共有
一通り説明を聞き、作戦伝達が完了したため、各分隊はそれぞれの分担地域に向かって移動を開始している。
行動開始は夜になってからだから、先にそれぞれの場所に向かい、そこで作戦開始までしばらく休息を取るそうだ。
通信用の石を組み込んだ装置がカガリさんに渡され、僕らは大型のテントを出る。
テントを少し離れたところでカガリさんがふと足を止め、僕を見た。
「索敵はどの程度の範囲をカバーできる?」
「結構広範囲ですよ、キロ単位です」
「そうか、じゃあ例の研究のが使えるかな」
ふむ。
周りを見回す。
テントからは離れたものの、周辺には警護隊員や他の分隊の人の姿が見える。
分隊メンバーだけなら見せられるんだけど。
「休息場所についたら、お見せできます」
そう答えると、カガリさんは肯いて再び指示された方向に向けて進み出す。
程なく、目的地についた。
とはいえ、なんのことはないただの山の中だ。特に道があるわけでもなく、鬱蒼と茂る木々がざわざわと葉音をたてているだけ。
いまは周りにはほかに誰もいないが、もう少しすると衛生班が2、3人来るはずだという。彼らは僕たちよりあとからついて来て、万が一のときには退避させ治療をしてくれる。
目的地についたら休息ということなんだけど、ここしばらく時間があって暇だったので、時間つぶしに作ってたものを使ってみることにする。
カガリさんたちが地図を見ながら何か話してるので、その間に適当な木の幹に、幅5センチくらい、長さは2メートルくらいのリボン状のものの端っこをぺたりと貼りつけた。
「皆さん、中にどうぞ」
僕が声をかけると3人はこちらを向いて、それぞれ首を傾げた。
「なか?」
そう訊ねたカガリさんは、ほんの少し期待の眼差しだ。
そのご期待に応えましょう。
僕は自称・最強の魔法使いだから。自称までが自称だけど。
そもそも、カガリさんと周辺の人たち以外は僕が魔法使いだってこと自体ほぼ知らない。
僕はうなずき、くっついてるのとは反対側の端っこについたタブを、ビーッと上に引き上げる。
みな驚いた。
リボン状のそれは、狩人が持っている鞄と同じ仕組みのものだ。
ただ、中に部屋がある。
「名付けてポータブルルームです。いつでもどこでもお部屋でくつろげちゃいます!」
「えっ、なに? 部屋なのっ?」
早速バタバタと中に入っていくトズミさん。
ビコエさんとカガリさんも続く。
「ここしばらく何か作ってるなと思ったら、これだったんだね」
「はい。こんなところで役に立つとは思いませんでしたが」
部屋に適当に置いた安っぽいテーブルセットの椅子にそれぞれ腰かけながら、一様に感心している。
広さはさほどでもないけれど、拡張はできるからそのうちにやるつもりだ。
今は20平方メートル程度の床板を張っただけの部屋1つで、奥に簡素なミニキッチンを設置してある。
でも、僕は別に部屋を自慢したかったわけではない。
入り口を閉めて、僕も空いた椅子に座る。
「さっき、カガリさんが僕に、索敵はどのくらいできる?と聞いたんで、それをお見せしますね」
意識を切り替える。
脳内のスクリーンに浮かぶ文字列。
──command?
モード移行。
>set mode : security();
>set view : Visualization();
ぶん、と、空中にスクリーンが出現する。
実はこれ、脳内のスクリーンを現実世界に投影するものだ。
続けてコマンドを打ち込む。
>get environment : ScanningAllAround( 2000 );
約2キロメートル程の範囲を『空からの目』で走査し、その結果をスクリーンに映し出す。
以前、ある人の警護をした時に、索敵ができないことにあせってその時に急ごしらえで作った
ただし、これはあくまで可視光で取得できる情報のみだ。まだわからないけど、もしケガレが霊体型で不可視の状態だと、これには映らない。つまり、僕の『空からの目』には見えないものだってことだ。
中央付近の赤い点が僕たちの現在地で、周辺の地形情報などが薄い青で描画されている。所々にある黄色や緑の点はケモノや普通の野生動物を示している。
カガリさんはスクリーン自体を見たことがあるから反応はないが、トズミさんとビコエさんは椅子から落ちそうになっていた。
「な……なにこれぇ?!」
「魔法か?!」
「魔法だと思います」
ビコエさんは引きつった顔で何かブツブツ言っているし、トズミさんは立ち上がってスクリーンの前後をウロウロし、真横に立っては「厚みがない!」とか言っている。
でも僕はスクリーンを見せたかったわけじゃなくて、その内容を見てもらいたい。
困ってる僕に、カガリさんが助け船を出してくれた。
「ふたりとも落ち着いてくれないか。確かに珍しいから驚くのも無理ないけど、話が進まないよ」
「あ……すまん、ついつい興奮しちまって。ははは」
興奮してたのか、ビコエさん。
トズミさんも椅子に座り直してスクリーンを見る。
「これスゲェな。この赤いのが現在地? これでケモノの位置は把握できるってことか」
リアルタイムに変化する情報を見ながら、ビコエさんは茫然と呟く。
「索敵した情報を共有する方法がなかったので、表示させられるようなものを組みました」
「組む?」
「はい。命令文を組み合わせて、新しい機能を作りました」
カガリさんは少し首を傾げたが、隣のビコエさんはなにか理解したように頷く。
「へえ、既存の魔法やなにかを組み合わせて新しい魔法を作ったってことだな? ……スゲェなあ」
カガリさんよりビコエさんのほうがこの辺の話はすんなり理解してくれるのはなぜだろう。
トズミさんに至っては、仕組みに殆ど興味がないのか、スクリーンにしきりに触ろうとしてるだけだ。
「まあ、そういうわけなんだ。索敵なら私も可能なんだけど、レギはこういうことができる」
「便利だなあ。……おっと、話が逸れてるなあ。で、どうする? カガリ」
スクリーンに小隊長から先ほど説明されたルートを反映する。
カガリさんはそれを眺め、しばし黙った。
「……まずは六脚を始末したいところだね」
「敢えて呼び込んでみよっか」
「俺もそれ賛成」
トズミさんは昨日小隊が壊滅した位置付近を指さした。
同じ場所に来るかはわかんないけどさ、といいながら指をワキワキさせている。
彼女の専門は魔法を絡めたトラップだそうだ。それを仕掛けるつもりなんだろう。
ビコエさんはそういえば何を得意にしてるのか。カガリさんはわかってるらしく、軽く頷く。
「分散して情報共有しながらの同時攻撃、だな」
そして彼は僕にまたたずねる。
「レギ、このスクリーンの画は……」
「この間の実験のとおりです。複数人対象でも大丈夫ですよ」
「やってみせてくれる?」
「わかりました」
カガリさんの指示に、僕は再び脳内の別スクリーンに意識を向けた。
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