第6話 それは武器か

 朝、うちに来ていたキオアさんが、ホールに集まっていた狩人に説明を行っている。


 大雑把にいうと、これからの行動についての話だった。

 編成だとかその辺については、警護隊と合流してから詳しく説明がある、っていうくらいの話だったので短時間で終わった。


 僕は狩人として招集されるというのは初めてなんだけど、カガリさんはもう何度もこういうことは経験してるんだそうだ。

 だからこのあとどういう動きになるのかはだいたい把握している。彼だけじゃなくて、今回参加している狩人の大半がそうみたいだった。ランクカラーが下の方の初参加みたいな人は2,3人くらいだ。

 まあ、内容的に考えればやむを得ないんだろう。


 これから早速現地へ移動になるそうだ。

 大型の騎獣が牽く車に3つくらいに分乗してディスナに向かうという。

 警護隊の車か。……ああ、なんか懐かしいかも。

 懐かしいんだけど……なあ。


 *


 ガッタンゴットン、車が揺れる。

 

 輸送のための車に設しつらえられている椅子には、そんなご丁寧なクッションなどはない。

 車輪が石を踏む度にゴトゴトと跳ねるので、決して乗り心地の良いものではなかった。

 いかに脂肪が多めの僕のお尻でも、これは慣れないから痛くなってしまう。やっぱり苦手だ。

 

 ときどき体勢を変えつつ車に揺られながら、僕はこれからの行動についてカガリさんにたずねた。


「カガリさん。僕はどういうふうにしていたらいいですか?」

「そうだね……、まずはできる限り私のそばを離れない。私たちは第3中隊に編入される狩人の小隊として動くから、一応上の指示に従うこと」

「一応?」

 僕がたずねると、カガリさんは軽く頷く。

「一部権限がこちらに与えられているから。状態次第でこちらが単独で動くこともありうる」

「そういうものですか」


 現在の警護隊がどのような体制で動いているか、僕にはわからない。

 さしあたり、カガリさんのそばを離れなければいいわけだ。


 僕はカガリさんにぴったりとくっついて座り直した。


「そういう意味じゃないんだけどな」

「守ってください、おもに天敵から」

「ちょっと、それどういう意味?」


 カガリさんとは反対側、隣に腰掛けていたトズミさんが、僕にギュウッと体を押し付けてくる。

 わざわざお胸を。

 周囲の人の視線が、急に僕に集中する。

 羨ましそうな視線がチクチクと突き刺さる。


 いや、皆さん。あのね。このおっきいやつは柔らかくない。


 そこはやはり狩人なので、軽装かつ露出度高いトズミさんも胸当ては付けてる。もちろん防具だから固い。

 

 これは立派な攻撃だ。

 胸当てグリグリ攻撃痛い。嬉しくない。

 

 車内の健全なる男性諸氏には非常に申し訳ないのだけれど、この人のお胸は今、僕にとってはただの凶器だ。


 お胸の攻撃が痛いのを知っているビコエさんが、僕を同情するみたいに見た。


「……トズちゃん、余計にレギ君に嫌われるよ」

「ん? レギちゃんは私のこと好きだよね?」


 すごい圧を感じるトズミさんの発言に、僕は必死に頷く。

 すると。


「よし、じゃあ、優しいおねえさんが君を抱っこしてあげよう。……お尻痛いんでしょ?」

「ふえっ」


 言うが早いか、彼女は僕を抱きあげ、膝の上に乗せた。

 どうやら、お尻が痛いのに気付いていたらしい。


「そうそう、この感触、この感触」


 僕のお尻を撫でつつ、彼女は笑う。


「小さいから衝撃もダイレクトだもんね。最初から言えばいいのに。ユーニティも気が利かないねえ」

「君はレギを抱っこしたいだけだろう」

「それもそうだけど、子供は車が跳ねるとポンポン跳ねちゃうから」


 カガリさんがややあきれ顔で答えるが、彼女は動じない。

 ねー、と彼女は僕に同意を求めた。

 僕が肯くと、ほらね?とちょっとドヤ顔をして見せた。


 ワディズからディスナまでは車で凡そ2時間ほど。

 トズミさんのおかげで、僕はこれ以上お尻が痛くならずにすみそうだ。

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