第4話 プレゼント

 あらかた朝食を食べ終えたレギは、満足そうにごちそうさまでしたをした。

 その直後、あ、と小さく声を上げると、食器をキッチンに持っていったあとそのままパタパタと自室に走って行き、程なくして戻って来たときには、後ろ手になにかを隠していた。


「どうしたの?」


 私がたずねると、レギはなにやらもったい付けた表情をして首をかしげてみせる。

 そして再びぽすんと椅子に腰掛けると、ようやく後ろ手に隠していたものをテーブルに載せた。


「これ、なんだと思います?」


 少し神妙に聞くレギ。

 テーブルの上に置かれたのは、美しい細工が施された護符宝珠タリスマン。よく見れば中央に配置された青い宝珠の内側に、どのようにやったのかわからない文様が刻まれているのがわかる。


「どこからどう見ても護符宝珠だね。もしかしてこれ、昨日の爆発と何か関係があるの?」


 レギはこっくりと肯いた。

 うふふ、じつはですね、と、またもったいぶる。


「これ、実は出力上げてあるんです」


 えっへん、と胸を反らせたその顔には褒めて褒めて、と書いてある。

 そして、出力を上げたと唐突に言われた私はしばし言葉をなくした。

 そもそも、だ。

 宝珠の出力を上げる、というのはどういうことか。言わんとすることは分かるのだが。


「あ、わからないって顔ですね。実はですね、宝珠の中にエネルギーの経路を通してやればそういうのが可能だっていうのがわかったんです」


 今度こそは驚いた。


「そんなことが可能なの?」

「実験してわかったんです」


 宝珠は溶けながらエネルギーを発する。

 石のようだが、宝珠は通常の宝石と違い力を放出しながら溶けてなくなる。


「内側から溶けるので、内側に溶け出す道を刻んでやったら溶け出しやすくなるかなあ、と思って昨日試してたんです」


 その結果がアレです、とレギは苦笑いする。


「宝珠も一応結晶する際に年輪みたいなものが付くんですけど、そこに沿って経路を刻むんです。そうすると、溶け出しやすくなって、多少質の悪い宝珠でも出力を上げられるんです。まあ、大雑把に言ったら純度の高い結晶みたいな効果を発揮できるようになるってことです」

「爆発は?」

「……経路作るのに失敗すると、いっぺんに溶けたりして爆発したりなんか出てきたりするんですよ。線の太い細いとか、線を作る位置で違っちゃうので加工が難しかったです」


 理屈から言えばなるほど、納得だ。

 ……いや、ちょっと待て。


「なんか出てきたり、っていうのはなに?」

「よくわかんない疑似生命みたいなやつがポンって出てきます。場合によっては複数」


 ……昨日、部屋でバタバタやっていたのはそれか。


 爆発したり謎の物体が飛び回ったりしていたら、それは室内を見せられないわけだ。

 変なところで納得している私にレギは言う。


「まだ出力がちょっと不安定なので、期待するほど働くかどうかわからないんですが、一応もともと純度が高い石で作った守りの護符宝珠ですから、いざっていうときに役に立つかもと思って。最大出力は最高級品の数倍と見ていいかと思います」


 レギは作ったのか買ってきたのか、小さな布の袋を取り出して護符宝珠を中に入れた。


「これ、カガリさんにプレゼントです。狩人ですし、似たようなものは持ってるとは思いますけど、よかったら」


 細工も頑張ったので、と胸を張る。

 そこは確かに威張っていいところだ。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 レギが差し出した小さな布袋を受け取った私は、レギの頭をよしよしと撫でた。

 そういえば、レギからなにか形の残るものをプレゼントされたのは初めてだ。それがたまたま観察記録を付けている日に重なるとは。

 次の仕事の際には、ありがたく使わせてもらおう。

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